銀河紙メンタル伝説   作:七色プリズム

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昼寝司令官の疑問、薔薇の連隊の襲撃

最近、自分の養子が鍛錬に熱心になっている。

その事に気が付いたのは、人間観察が得意というわけではないヤン・ウェンリーにもはっきりわかる程、ユリアン・ミンツが草臥れていたからである。

自分よりはるかに身体能力の優れているユリアンが草臥れるほどの鍛錬?

疑問に思ったが、ヤンは身体能力を鍛えるための労力など士官学校でしか使ったことがないのだ。

具体的な事はさっぱり分からない。

あれこれと疑惑を抱えるよりは本人に直接聞いた方が早いだろうと思い、ヤンはユリアンに尋ねることにした。

 

 

「ユリアン、最近頑張っているようだね」

 

「ええ。

ちょっとした目標ができたもので」

 

「目標か。

シェーンコップと同じローゼンリッター隊長になりたい、なんて言い出さないでくれよ?」

 

「それくらいは理解してますよ。

そもそも僕は同盟人なんですからローゼンリッターに入隊すら出来ませんしね」

 

「違うのか」

 

 

可笑しいな、目標と言うからにはてっきり指導者を目指すものだと思っていたのだが。

そうヤンが思い悩んでいるとユリアンが答えをあっさりと開示した。

 

 

「実はですね、とある女性の仕事ぶりに感動しまして。

僕も男ですから、どうにかしてああいう風になれないかと思って頑張ってるんです」

 

「仕事ぶりというと?」

 

「ええ。

MPの方なんですが、暴漢への対処の仕方がとても素晴らしかったんです。

ポプラン少佐も感動してましたよ」

 

「ポプラン少佐が感動したのはその女性の美貌なんじゃないのか?」

 

「もしかして見ていらしたんですか?

その通りです」

 

 

是非ともポプランの性格を見習わずに育って欲しい。

しかしまあ、女性がMPとは珍しい事だ。

MPというと実働部隊は体格の良い厳しい顔の男達が威圧感たっぷりに働くものだと思っていたが……。

暴漢、と言っていたな。

性的暴行加害者も暴漢であることは間違いない。

確かに女性のMPも必要になるな。

男性では被害者との対話が上手くいかない事もあるだろうし。

 

 

「でもシェーンコップ准将からはお前にも無理だって言われてますけれどね」

 

「え?

シェーンコップが本当にそう言ったのか?」

 

「はい。

確かに無理だという事は分かったので、今は対人戦のやり方を教えて貰ってます」

 

 

シェーンコップが無理だというような暴漢への対処のやり方?

性別、はこの際関係ないのか。

女という特性を使った対処ならユリアンが見習おうとは思わないだろうし。

それじゃあそのMPはいったい何をやったんだ?

 

 

「ちなみに聞いておきたいんだが、その女性はいったい何をやったんだい?」

 

「コンクリートを素手で粉砕してました」

 

「ジョークにしか聞こえないんだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

これはヤンとユリアンの会話より1ヶ月前の出来事である。

 

「うう……無理、やっぱり無理……」

 

「ほら、可愛い顔してるんだから勇気出しなさいよ!」

 

「無理だって、声かけれない、無理……」

 

 

姦しい騒ぎに気付いたのはワルター・フォン・シェーンコップが休日の時であった。

この日は珍しく1人で街を歩いており、その為注意が四方へと向いていたのである。

自分の方をちらちらと見ながら話している女性達を見逃すほど、シェーンコップは朴念仁ではなかった。

 

 

「俺がどうかしたのか」

 

 

シェーンコップは当然、女性達へ声をかけた。

シェーンコップの予想では、この中の1人が自分に何かしらの思惑を抱いている筈である。

 

 

「ほら、話しなさいよ!

折角声かけてくれたんだから!」

 

「うん……。

あっ、あのっ!」

 

「なんだ」

 

 

声をかけてきた女性を眺める。

褐色の髪に琥珀色の眼。

顔は整っており体型はやや細身だが標準体重だろう。

胸はふくよかそうだと見当をつけた。

 

 

「ワルター・フォン・シェーンコップ准将ですよね!」

 

「そうだが」

 

「1つ、お願いしたいことがあるんです」

 

「言ってみろ」

 

 

男に不慣れな女ということが丸出しの話し方である。

男女比が男に大きく偏ったイゼルローン要塞で、どう過ごしているのか……。

 

 

「私と、対人戦をして頂けませんか!」

 

「マリアエレナ、何を言っているの……?」

 

「え?

いや、このお願いのためにシェーンコップ准将を探してたんだけど……。

そっか、そう言えばまだキーリには言ってなかったわ」

 

 

シェーンコップは呆気にとられた。

自分に声をかけてくる女は基本的に男女の関係を求める者ばかりなのである。

それなのに対人戦の申し込みときた。

かのローゼンリッター隊長ということも理解しているのにわざわざ試合を申し込まれるような事は、例え男相手でも経験したことがなかった。

 

上から下まで鑑定するように眺める。

軍人なのだろう、ある程度の筋肉はついている。

しかし到底自分と対人戦が出来るとは思えない。

いくら技術を磨いても体格差というのは明確なハンディキャップであるのだ。

それに加えて身長、骨格。

これら全てがシェーンコップよりも劣っている。

つまり。

 

 

「指導、ということでよろしいのかなお嬢さん?」

 

「いいえ、徒手空拳の本気の試合をしたいのです」

 

「そりゃあ無茶ってもんだ。

強くなりたいのは分かるが、身の丈にあった事をしないとあっという間にヴァルハラ行きだぞ」

 

「でも……」

 

「やめておけ、御自分の身体を大切にするんだな」

 

「そうよマリアエレナ!

いくらMPでもシェーンコップ准将に勝てるわけないでしょう?」

 

 

 

 

 

「――――勝てます。いえ、勝ちます」

「見ておいてください、1ヶ月以内にローゼンリッターに襲撃をかけてみせます。そして勝ちます」

「そうしたら、私と試合していただけますよね?」

 

 

 

 

 

シェーンコップは後にユリアンに語った。

「ローゼンリッターの入隊資格がマリアエレナに無いのが残念で仕方がない」

と。




煽り耐性があまりない主人公。

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