有り得べからざる俺ガイル。   作:貴葱

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原作を初めて読んだときに私が率直に思った感想を踏まえて原作1巻の冒頭を改変したもの。
平塚先生へのアンチを含みますのでお嫌いな方はご注意を。


奉仕の対象

訳も分からず平塚女史に連れていかれた奉仕部何某という部活で雪ノ下部員と舌戦を繰り広げていると、再度現れた女史が世迷言を宣いだした。

 

「それではこうしよう。これから君たちの下へ悩める子羊を導く。その子たちを君らなりの手段で救い、自身の正しさを証明してみたまえ。私はその結果を踏まえて独断と偏見でどちらの奉仕がより優れていたかを判定する。勝者には敗者になんでも1つ命令できる権利をやろう」

 

「「お断りします」」

 

俺と雪ノ下の返答が重なる。この場に来て初めて雪ノ下部員と意見が一致したが、当の雪ノ下は俺に嫌悪感を全く隠そうとしない視線を向けてくる。……俺と意見が一致するのがそんなに嫌か。

 

「この男になんでも命令できる権利を与えることに貞操の危機を感じます」

 

「ほう。それはつまり比企谷に勝つ自信がないということかね?」

 

煽るような表情で平塚女史が言うと、雪ノ下部員は視線を鋭くして平塚女史を睨む。

 

「まさか。私がこの男に劣っているところなんて1nmもありません。……いいでしょう。先生の安い挑発に乗るわけではありませんが、その勝負受けて立ちましょう」

 

雪ノ下部員の負けず嫌いを拗らせたような発言をしり目に、俺は平塚女史を冷めた目で見やる。

 

「盛り上がってるとこ悪いですけど、勝手に話を進めないでくれませんかね? 貞操の危機云々の雪ノ下の戯言は置いておいて、そもそも俺にまったくもってメリットが無い勝負を俺が受けるわけないでしょう」

 

俺の発言に雪ノ下部員はムッとした視線をよこす。平塚女史は若干眉を顰めながら口を開く。

 

「なんだ? メリットなら提示したじゃないか?」

 

「最初にここに来た時に先生もおっしゃった通り、俺はリスクリターンの計算が得意なんでメリットとして機能していない口約束のために先生の口車に乗るわけがないでしょう?」

 

「あら、それはやる前から負けを認めるということかしら? 確かにあなたが負けるのは覆しようのない事実でしょうけど、私を自由にできるメリットなんてあなたの勝率が微かなことを補って余りあるものだと思うけど?」

 

噛みついてくる雪ノ下を憐れに思いながら口を開く。

 

「別にお前に勝てないと思って勝負を蹴ってるんじゃない。正直お前相手なら小狡い手で出し抜くなり反則すれすれの手段を使えば勝てないことはないだろう。雪ノ下とは会って数十分ってとこだが直情型で邪道を嫌う性格なのはすぐわかったし、元のスペックを考えても5割は無いにしても4割くらいは出し抜ける可能性はあると思う」

 

俺の雪ノ下評論に本人はさらに視線を厳しくして睨みつけてくる。

 

「……言ってくれるわね」

 

「まあ待て。俺は別にお前を貶そうとしてるわけじゃない。ただ単純にお前が王道で俺が邪道だから場合によっては勝負になるかもしれないっていう話をしているだけだ。だがそれが平塚先生が俺をこの部活に入れたい理由でもあるんだろう」

 

「……どういう意味かしら?」

 

「雪ノ下の解決法は王道、要は正攻法だ。だが世の中正攻法だけじゃ立ち行かなくなる時だってある。その時の保険のために邪道、奇策に長けた俺を置いておきたい、ってところだろう。そして俺を奉仕部につなぎとめる鎖が、先生がさっき持ち掛けてきた勝負だ」

 

「王道を好むお前は不戦勝なんて中途半端は許さないだろう。だから俺が部活をサボるなり逃げるなりしても、お前は何らかの手段で俺との勝負を続けるために動く。そうなると平塚先生には俺を無理やり奉仕部に縛ることの大義名分ができることになる。そうなってしまうと俺が逃げるのは難しいだろう。……今にして思えば最初にお前に俺の更正を頼んだのも俺を縛る意味合いが強かったんだろうな」

 

平塚女史は顔を伏せて肩を震わせている。……あれ? てっきり怒鳴ったり殴ったりしてくるかと思ったんだけどな。してくれた方が今の俺の話の信憑性を雪ノ下に分かってもらえたのに。まあ殴られないならそれに越したことはないか。

 

 

「と長々と語ったが、俺の言いたいことの本質はそこじゃない。俺が言いたいのは―――」

 

そこで俺は間を取ってから平塚女史に視線を移す。

 

「平塚先生の下働きをするつもりは無いってことだ」

 

俺の言葉に顔を上げた平塚女史は目を見開いており、雪ノ下部員は意味が分からないのか首を少し傾けている。

 

「雪ノ下、さっきの平塚先生の言葉を思い出せ。平塚先生は『これから君たちの下へ悩める子羊を導く』って言ったんだ。要は平塚先生が奉仕部に依頼者を手引きするってことだ。じゃあその依頼者は最初から奉仕部に相談しようと平塚先生のもとを訪れるのか? 違うだろ。その依頼者は生徒指導の平塚先生に相談しようとして先生を尋ねるはずだ」

 

俺は奉仕部なんて部活動、今日この場に連れてこられるまで存在すら知らなかった。俺が知らなかっただけと言われればそれまでだが、雪ノ下雪乃と言うこの学校で1,2を争う有名人が所属している部活が噂にならないのは変だろう。最近できた部活動である可能性もあるが、それでもやはり大々的に依頼者を募集していたのならば話題には上るだろう。

 

「ということは、この奉仕部へやってくる生徒たちの相談事は、本来平塚先生が受け持つはずの仕事だってことだ。要するにこの部に入ってしまえば、平塚先生から面倒ごとを押し付けられることになっちまうってことだ。―――ですよね、先生?」

 

俺の問いに平塚女史はちいさく「……余計なことを」と呟いて返してくる。雪ノ下のような乗せやすい奴は騙せても、俺のような人を疑いまくっている奴を騙すのは簡単にはいかないんですよ。

 

「……まとめると、悩みを持った生徒が平塚先生に相談に来る。その生徒を平塚先生は依頼者として奉仕部に連れてくる。そして俺たちは本来ならば平塚先生が解決しなければならなかった依頼者の相談事を解決するために尽力する……さてここで問題です」

 

一呼吸おいて、平塚女史、雪ノ下部員両名に向かって問いを吐く。

 

「これは果たして依頼者に対しての奉仕なのか、それとも平塚先生への奉仕なのか。どっちなんでしょうか?」


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