あけましておめでとうございます!
今年もどうか暖かい目で見てくださると嬉しいです!
1
八月二十一日、昼。
「ほらそろそろ起きろよ」
頭に急な衝撃が走ると同時に、少年は目を覚ます。
「ってぇ……なんだなんだ……?」
「寝すぎだ。いつまで寝てるつもりなんだこのド腐れ野郎」
「寝起き早々罵倒を浴びせるか普通……」
皐月は身体をゆっくりと起こし、未だ眠い目をこする。すぐ横には赤い目をした真っ白な少女……と、白衣を身に纏うカエルみたいな顔をしたおじさんがいた。冗談とかではなく、本当にカエルみたいな顔なのだからこれ以上の表現のしようがない。
「あれ……ここは……病院?」
「そうだ。お前は大量の『妹達』に殺されかけた。そこに私が颯爽登場。もう少し遅かったら死んでたかもな」
ブワッ、と。こんな状況になった経緯をエトロスから聞き、頭の底からその出来事を思い出していく。
みるみる思い出す。
あの惨状を。あの光景を。
たくさんの銃口がこちらへ向けられるあの恐怖を。
「……あぁぁぁうわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」
絶叫する。
痛みが記憶となって蘇る。
あの、銃弾を何発も何発も体中にぶち込まれる感覚。表情一つ変えることなく、一切の躊躇いも持たないまま打ち続ける少女達。
そのビジョンが、彼の脳裏にびっちりと焼き付いていた。
「落ち着け」
優しい声が耳に届く。
まるで聖母のような。心の底から安心できる、安らぎの声が。
はっ、とした時には既に白い少女が皐月に抱き寄せていた。そして、その細くて小さな手で彼の頭をそっと撫でる。
「大丈夫。落ち着いて。怖かった……よね?ごめんね。私がもう少し早く……行っていれば。お前にトラウマを焼き付けることは無かったかもしれない」
白く、白く、白い。
白い匂いがした。
スーッと。嫌なモノが消えていく。そんな感覚が皐月を飲み込む。頭の中が真っ白に……白紙に。自然と震えが止まる。自身さえ震えていたことに気づかないでいた。
彼女の手は、身体は、意外にも暖かった。全てが真っ白だからどこかひんやりとした冷たいイメージを持っていたが、ただのイメージにしか過ぎなかった。暖かい。このまま、また眠ってしまいそうだ。そんな安心感に包まれる。
「……ありが……とう」
「もう、大丈夫なのか?」
「うん。なんか、君のおかげかな。スッ、て。嫌なことが消えていった!」
「それは良かった」
エトロスは少し口角を上げると、皐月の身体から離れ、ベッドのすぐ側に置いてある椅子へと腰をかける。
「お茶でも用意するよ」
と言ってカエル顔のおじさんは部屋から出ていった。
「さて。何から聞きたいかな?」
「山ほど聞きたいことはあるけど……とりあえず、あの美琴と同じ顔をしたたくさんの少女達の説明が欲しい」
「いいだろう」
「……分かるの?」
聞いてはみたものの、エトロスが知っているなんて考えてもいなかった。彼女が明らかに学園都市の人間ではないことは分かる。そんな彼女が学園都市の『闇』であろう部分のことを知っているのだろうか?
「あぁ。私はなんでも知っている」
ふとした疑問に駆られるも、『私が全部答えてあげますよ』といった雰囲気を醸し出しているので、信用することにした。
「
「……、」
「そして現在行われているのが、
「……ぁ」
「納得、したか?」
気付かぬ間に、下唇を強く噛んでいた。なんでだ、なんだろう、この気持ち。憎悪……怨み……違う。
「まぁ、いきなりこんなことを言われてすぐに『納得してくれ』とは言わないさ。ゆっくり受け止めてくれ。そして、次にお前が何をしたいのかを、何が出来るのか、考えるんだ。……お前なりの答えが導けたら、私にそれを聞かせてくれ」
エトロスは音もなく立ち上がり、部屋を去っていった。すれ違いに、カエルの顔をした医者がおぼんにお茶を乗せ部屋へと入ってくる。
「……浮かない顔をしているね。ということは、全部聞いたんだね」
「……はい」
「……、」
「今の話を聞いて、一番最初に思ったのが……『許せない』ってこと。確に、『妹達』は間違って生まれてしまった生命かもしれない。だからといって実験の道具にしていいのか?殺しても罪にならないのか?……偽善ですかね。僕だって殺しているのに、こんなこと」
「勝手に計画に巻き込まれたことには、もう怒りはないのかい?」
「……そうですね。もう、そこについては割り切りました。いくら嘆いても……変わらないことが分かりましたから。……最早、自分がこの計画に巻き込まれたのはきっと僕が何か出来ることがあるからなんじゃないか、って思い始めてます」
と、右手を持ち上げ拳をギュッと握る。
「また、
「戻ってる……?」
「はい。意識を失う前に『妹達』に腕ごと吹き飛ばされたのは覚えているんです。……目が覚めたら、元通りに戻ってた」
「エトロスが君を運んで来た時には何も異常はなかったよ」
「そうですか……前にもあったんですよ。一方通行に襲われて、右手が無くなったことが。その時も目が覚めたら治っていました。
「そうなのかい……」
渋い顔をしてお茶をすするカエル顔の医者。
「先生。すいません。エトロスの所に行ってもいいですか。もう、自分の力で立てます」
そう言うと皐月はベッドから降り、軽く背伸びをすると病衣のまま部屋を出ようとする。
「完治とまではいわないが大丈夫だよ。……最後に一つだけ」
「……?」
「他人のレールに乗る必要はないからね。自分のレールをしっかり見定め、そのレールの上をしっかり歩くんだ」
「……ありがとうございます」
カエル顔の医者に笑顔を向け、皐月は病室を出ていった。
2
病院、屋上。
「……よくここが分かったな」
「君風に言うと、『僕は君の半分だから』かな」
「お前も言うようになったもんだ」
屋上で対峙する、白い少女と黒髪天パの少年。
「答えは出たのか?」
「あぁ、もちろん」
その顔は、どこか自信に満ちた表情だった。
「僕は……一方通行と戦う」
その一言が、どれだけのことを意味しているのか、きっと彼はあまりよく理解出来ていない。だが、出した結論はそれだ。彼なりの答えが、その行動だった。
「何で?何で彼を倒すことになるんだい?悪いのは全部、
「違う。そこじゃない」
強く言って。
「そんなんはもうどうでもいいんだ。巻き込まれた巻き込まれないの話はもう辞めだ。僕は今、僕が出来ることをするって決めた。だから、一方通行を倒す。倒して、絶対能力進化計画を終わらせる!!そうすれば、残りの『妹達』を救うことが出来るはずだ!!」
「いいのか?『妹達』はお前を殺そうとしたんだぞ?そんなやつらを助けるんなんて気がしれない。それでも、お前は一方通行を倒すのか?」
「あぁ。彼女達にとってもあれは仕方がなくやったんだろ。命令だったんだろ。だったらもう、僕に言えることはない。そんな命令が下っちまうのが悪い。だから根本的な所を潰さなきゃいけないんだ」
「……なるほど、全ての根源であるその右手を怨む……とかいう子供じみた考えはもう辞めたんだな。そしてその右手を
「君は僕の親かよ」
「この容姿ではあるが、少なくとも姉以上の存在だとは思っているよ」
くすす……と、口を手に当て笑うエトロス。
「よし、いい答えが聞けた。私はお前の半分だ。お前の意思に従い、協力しよう」
「本当か!?ありがとう!」
「そうと決まれば、行動は早い方がいいだろう。一方通行までの道のりは任せろ。お前はただ、ヤツをどう倒すかだけを考えていろ」
「うん……分かった!」
次の目標は決まった。今度は、その為になにをすればいいかだ。
前に一度、一方通行と出会ったが格が違った。次元が違った。破壊の右手がどうこう言っている場合ではなかった。だが、あの時はたまたま右手が発動しなかっただけかもしれない。完全にこの右手をコントロール出来れば、まだ勝機があるのではないか。そんな自信が今の彼を突き動かす。
「絶対倒す……そして『妹達』を助けるんだ」
そして今宵。
彼らは再び交わる。