とある少年の逃亡生活   作:狼少年

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episode7『最初の死』

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なにが従姉妹だよ。

嘘つきやがってあの野郎。

お前には同じ顔をした従姉妹が何十、何百人いんだよ。

 

 

もう、必死だった。

 

 

必死になって逃げていた。だが、現実はそう上手くはいかない。身体中の至るところから血が噴き出していた。どんだけ血を流そうが、彼は生き抜くことに全力であった。

 

 

あれから、どれくらい時間が経ったのか。

最早頭も働かない。

 

 

なんとか右手を駆使してあの包囲網をくぐり抜けたはいいものを、迫り来る銃弾に百パーセント対応することは出来るわけがなかった。

 

 

歩みを止めたら死ぬ。

 

 

それはまるで呪いのように。皐月の脳に焼き付いている。

 

 

「ハァ……ハァハァ……っ!!」

 

 

だらんと垂れた左腕。あまりの激痛に動かせない左脚。今ではなんとか引きずって逃げている状態だ。

 

 

それでも、彼女達はやってくる。

同じ顔、同じ背丈、同じ声。

無数の悪魔はやってくる。

 

 

そして、とうとうその時が来た。

 

 

行き止まり。

 

 

先には道がない。後ろを振り返る。

 

 

押し寄せる無数の少女達が見えた。

 

 

一人一人が物騒な銃を構えている。

 

 

「へっ……へへ……」

 

 

そんな状況で彼は笑っていた。頬に雫が伝う。それが降り出した雨のせいか、はたまた目から溢れでたものか、分からない。

 

 

「何でだよ……おかしいだろこんなの……。何で僕なんだよ。何で僕がこんなんになってんだよ!?数日前まで普通の高校生だったんだぞ!?『どこにでもいる平凡な高校生』だったんだぞ!?それがなんだ!!今では人殺し扱いで!学園都市第一位やら幼なじみと同じ顔をしたたくさんの女の子に殺されかけるわもうなんなんだよ!!!!」

 

 

ただただ叫ぶ。

心の底からの思いを。

だがそれでも、少女達が銃を下ろす気配はない。皐月はゆっくりと、右手を上げた。

 

 

「どんなモノでも壊せるって話だったよな……。『神様の力』とか言ってるぐらいだからな。なんでもしてくれるよな……?」

 

 

ギュッ、と。

その拳を握りしめ。

 

 

 

 

「こんな世界なんてぶっ壊れちまえ!!!!」

 

 

 

 

一言。

そのたった一言の叫びが。

世界を揺るがした。

 

 

ピキ……ピキピキ……と。どこからかヒビの入っていくような音が鳴り始める。しかしどこを見渡してもそんなヒビなど見えない。

 

 

いや……違う。

 

 

その音が何かの物質(・・・・・)から放たれているものだと思い込んでいた。

 

 

違う。

 

 

その音は、皐月の右手付近から聞こえてくる。よく見ると、ゆっくりだが着々と一点から広い範囲にかけて亀裂が走っていた。

 

 

そう。空中に。

普段見かけることのない、空中に亀裂が入るという現象を目の当たりにしている。

 

 

と、次に。

亀裂音とは別に、乾いた音が耳を刺す。どうやら、少女達の中の一人が撃ったらしい。

 

 

「……ぁ」

 

 

天へと突き出した拳は、もうそこに無かった。多量の液体が飛び出て、そこら中に撒き散る。腕と手の感覚が一瞬にして消えた。

 

 

視界の中に写ったのは、自身の右腕だった。

 

 

「いっ……ぐぁァァァァァァがァァァァあああああああああぁぁぁぁァァァァァァァァ!!!!????」

 

 

またもや、右手が吹き飛ばされた。今度は肩の先からぶち抜かれている。最初からこうすれば良かった、と少女達はきっと思っていることだろう。そうすれば、こんなにも手こずることはなかったんだ、と。

 

 

彼は跪く。

そして、地面へうつ伏せに倒れる手前で左手を地面へ張り付け、なんとか身体を支えた。

 

 

「ぽんぽんぽんぽん……人の右手を玩具みたいに外しやがって……。許さねぇ……絶対に許さねぇぞォォォォ!!!!」

 

 

もう、ほとんどと言っていいほど彼に理性はなくなっていた。ただ、自分を守る為に自分を殺そうとする目の前の少女達を殺そうと必死だ。

 

 

一人の人間を間違いで殺めてしまった時とは違う。最早、今の彼は自分から殺しに行こうとしている。あの日(・・・)の出来事は皐月叶人という人間を大きく捻じ曲げてしまった。

 

 

ダダダダダダダダッッ!!!!!!!!

 

 

獣のように飛び出していった皐月を襲う、何百何千発もの弾丸。避ける術もなく、壊す術もない。身体中にその鉛を撃ち込まれていく。一体どれだけの血が流れただろう。蜂の巣状態。生きているのか死んでいるのかさえ定かではない。

 

 

何分かその一斉射撃が続いた。

そして、少女達が銃を下ろした時だった。

 

 

真っ赤なフィールドに、真っ白な少女が突如として現れた。なんの前触れもなく。ただ気付くと彼女はそこに存在していた。

 

 

「……おいおい。最早死んでいるじゃないか。世界にヒビが入ったから何事かと思ったらこのざまか。あっけない」

 

 

少女は感情のない無機質な声で肉片に語る。

 

 

「元凶は『妹達(シスターズ)』だったか。ふっ、クローン人間一人殺した程度なら罪も軽いだろう。だけど、実験の邪魔した害悪扱いになってしまった。全くついてない男だ」

 

 

淡々と語る白い少女の出現に、再び銃を構える『妹達』。

 

 

「やめておけ。お前ら全員死んだらまた面倒だろ?今は引いておけよ」

 

 

それでも、彼女達はピクリとも動かない。

 

 

「……はぁ。もういいよ」

 

 

エトロスは全身血だらけの少年を右手で軽々と抱き抱え、

 

 

「バイバイ」

 

 

直後、『妹達』全員が、その場で意識を失った。バタバタと、倒れていく。そのうち一人が、真っ白で美しい白い少女が細くてしなやかな左手を振るうのを見ていた。

 

 

そこから先は、分からない。

 

 

他の『妹達』と共に倒れていく。

 

 

 

 

 

 

雨は、止んでいた。


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