新学期になってあたふた中です汗
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九月五日、夜。
「つ、疲れた……」
気が付いた時にはもう夕日が沈み、いくつもの街灯が辺りを照らしていた。ふと周りを見渡せば、コンテナや鉄骨等が散々に散りばめられている。皐月は深いため息をつきながら、近くの廃工場の入口扉へ背中を預け座り込んだ。
「むむむぅ。まさかこんな時間までかかってしまうとは。皐月さんすいません!」
「いやぁまぁいいんだいいんだ。候補がたくさんあるんだから仕方ない。他をあたってる『妹達』の進捗は?」
「まだ何もきてないの……」
捜索続行かぁ……、と頭をガクッと下げながら呟く。
「少し休憩しよっ!ずーっと歩きっぱなしな訳だったし!あ、私飲み物でも買ってくるね!」
気を利かしてくれたのか皐月を一人残し、ナナシは背中を向けて走っていった。
「苦労しているみたいだな」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「エトロスか。朝ぶり、か」
ふわりとした優しい風が吹いたと共に現れた真っ白な少女。相も変わらず真っ赤な瞳はギラギラ光り、その表情からは何も感じ取れなかった。
「美琴が行方不明らしくてさ、ナナシっていう『妹達』の一人と一緒に探してたんだよ」
「行方不明、か」
「エトロス、何かお前知ってるか?」
「いや、お前が知らないことは私も知らないというパターンが多い」
「つまり、知らないってことですか……」
「それよりも、そのナナシとかいう奴はどこにいるんだ?」
「あぁ、今飲み物買いに行ってくれてるよ」
「ほぉ。そうか」
いつにもまして何かを含ませたような返しだった。何だ。今何を考えてるんだ、こいつ。
「お前、『未元物質』って知ってるか?」
「『未元物質』?なんかの能力かなんかか?」
「その様子だと知らないようだな。じゃあ、垣根帝督という人物に聞き覚えは?」
「いやいや全然知らない知らない。なに、その能力とそいつが美琴に関係してんのか?」
数十秒の沈黙が続いた。真っ赤な瞳は真っ直ぐに皐月の瞳を貫いている。ずっと見続けていたら石になりそうな、そんな感覚に襲われた。
そんな張り詰めた空気を先に壊したのは、皐月でもエトロスでもなかった。
「おいおい、なんか邪魔なヤツが一人混じってるけど、どういう状況なのこれ」
第三者の声が響く。暗い夜空の下で、砂利を踏みしめながら、こちらに向かって少年がやって来るのが見えた。
「誰だ、お前」
「人に名前を聞く時はまず自分から、って習わなかった礼儀知らず」
「……(まさか、もう出てきたか)」
茶髪の髪に安っぽいホストみたいな格好をした長身の少年の姿が露わになる。月の光に照らされた彼の顔は、悪魔のように口角が上がっていた。
「僕の名前は皐月叶人だ……!」
「ふっ。俺の名前は垣根帝督。さぁ、ギャラリー席ゼロの、悲しい悲しいパーティを始めようぜ。あ、エクストラキャラがいるからゼロって訳では無いか」
「……おい、逃げるぞ」
「さっき言ってた奴ってあいつのことか?」
「いいから逃げるぞ!!」
エトロスの強い声を初めて耳にした。
「白い女、てめぇ俺の邪魔したらてめぇも巻き込んでやるからな覚悟しろよ!!」
思いもよらぬ敵との戦いが、始まった。