episode12『第一〇七七四号』
1
九月五日、朝。
一方通行との戦いで負った傷が完治した皐月はこの日、ようやく病院とおさらばすることができた。
そして今、約三週間ぶりに寮の自室へと帰宅した。
「ただいまっと。もう帰れないと思ってたよ……」
部屋に入るやいなや両手を広げ、大きく深呼吸をする。あの事件があって以来一度も帰宅していないため、本棚やテーブルの上に少し埃が溜まっていた。
「まずは掃除でも始めるか」
と、掃除機を取り出そうと押入れの扉を開けた時だった。
「おかえりなさい、我が半身」
「うおおおおおおおおおお!!??」
その中では、上から下まで真っ白な少女がじっとこちらを見つめながら体育座りをしていた。あまりの衝撃に皐月は尻餅をつく。
「な、なな、なんでお前がここにいるんだよ!?つか何で僕の部屋知ってるんだよ!?」
「それは勿論、お前は私の……」
そう言いかけた所で、
「……なぁ。このくだりもう飽きたんだけど」
「は?」
「だって、言わなくても分かるでしょ?そろそろ分かるでしょ?分かっててもらわないと面倒なんだけど」
「いや待て。おかしいだろ!?なんで僕が面倒なヤツみたいな雰囲気になってるの!?おかしくない!?」
「あーあーもー分かったから。とりあえずオレンジジュース頂戴。喉乾いちゃった」
「いきなり出てきたと思ったら質問にも答えずさらには図々しいとは……」
「なんか文句あんの?」
「……ないですぅ」
冷たい視線と冷たい態度をとられ完全にペースを持っていかれた皐月は渋々冷蔵庫から缶ジュースを取り出し、エトロスへと差し出す。
彼女は渡された缶ジュースをゴクゴクと飲んでいく。よほど喉が乾いていたのだろう。500mlの缶の中身が一瞬にしてなくなってしまった。
「ご馳走様」
飲んでる姿は子供らしくて可愛いのになぁ、と切に思う皐月だった。
「で、あの茶髪少女には会ったのか?」
「それが全く連絡がつかなくて……。携帯が壊れてるのかなぁ」
「どこかに監禁されてるのかもな」
「そんなまさか!学園都市で三番目に強いんだぞ!?あの美琴が誰かに捕まるだなんて可能性は限りなくゼロに近いよ」
「でも、
「……確かにそうだけど」
エトロスの鋭い言葉に返す言葉が弱くなる。
「しかしまぁそのうち会えるだろ。お前が待ち続けていれば」
「そうだよね!学校帰りとかにあの公園に行けば会えそうな気がするし!」
「それはそうとお前、学校は?」
「ん……?あれ、確か今日って……」
「九月五日」
「入院してて気づかなかった……ッ!!今日学校あるじゃん!!??」
「行ってらっしゃい」
「くっそぉなんでもっと早く気が付かなかったんだ僕!?遅刻は確定だけど欠席はしたくないぃぃッ!!!!」
ものの五分で支度を整えると、突風のように部屋を出ていった。
「ふっ。やっぱり面白いヤツだよ」
2
放課後。
浮かない顔をした少年が夕陽に照らされながらトボトボと歩いていた。
「そういえば夏休みの課題に全く手をつけてなかった……。手をつける暇がなかった…… …。あんな事になるなら八月入ったあたりに終わらせておけば良かった」
学校に行ったはいいものの、提出課題に一ページも手をつけていなかった皐月は、追加の課題をもらってきてしまったのだ。夏休みの課題+追加課題。いくら入院していたからといっても、先生も学校も甘くはなかった。
「はぁ……。とりあえずあの公園に行ってみるか」
あの公園……全てのことの始まり。夏休み後半の
でも仕方ない。あの公園に行けば、会える気がしたから。大事な大事な幼馴染みに。
そして皐月は
柵で覆われた公園の外から中を覗いてみる。すると、ベンチに座る茶髪の少女が見えた。
「あ、ミコ……ッ!?」
声を出そうとした瞬間、皐月は気付く。
その少女の頭部に、見覚えのある
(あれは『
まさしく、『妹達』が付けているゴーグルであった。御坂美琴はあんなゴーグルを付けていない。
すぐさま皐月は木の後ろへ身を隠す。あの事件以来、一回も『妹達』とは会っていないが、今会ってしまったらどうなるか。彼女達にとって、今の自分がどういうポジションにいるのか分からない。
だが、もう遅かった。
「声がしたと思ったら、そーんなとこに隠れていたんですね!」
背後から、聞いたことのある声がした。
ゾゾゾ!と身の毛がよだつ。
彼女達と戦闘した記憶が走馬灯のように流れる。
そして皐月は、ゆっくりと振り返る。
「久しぶり?って言った方がいいのかな。いやでも、私が会うのは初めて……。でも他の個体は色々お世話になってたし……うーん」
様子がおかしい。というか、喋り方が妙に人間くさい。これは正しい表現、良い表現ではないかもしれない。だが、皐月の知る『妹達』は言葉に感情が感じられなかった。そう、まるでエトロスのように。だけど、目の前の個体はとっても自然だ。妙な語尾(?)もついていないし。
「んー、まぁ細かいことはいっか。とりあえず、自己紹介から!私はミサカ一〇七七四号!親しみを込めて、