とある少年の逃亡生活   作:狼少年

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やっとこ更新出来た。
約1ヶ月ぶり。。。


episode10『vs一方通行』

1

 

 

八月二十一日、午後八時三十分。

場所、操作場。

 

 

「おいおい。どーゆーことだよ。部外者はこの実験のこと知らねェんじゃねェのかよ」

 

 

そこでは、茶髪ゴーグル少女と白髪赤眼の少年が対峙していた。だが、ここにいるのは二人だけ(・・・・)ではない。黒髪天然パーマのいたって普通(・・・・・・)の少年も参上している。

 

 

「見つけたぞ、一方通行(アクセラレータ)

 

 

「あァン?てめェ、どっかで見たような……」

 

一方通行は頭をボリボリとかいて記憶を巡る。目を細め、立ち塞がる標的の顔をまじまじと見据え、一つの答えに辿り着く。

 

 

「あァ、お前。確か何日か前に追いかけっこした野郎か……。何でここにいやがンだ?また邪魔しに来たってか?あァン?」

 

 

「そうだよ……。僕はお前を倒しに来た。この非情な実験を終わらせるために」

 

 

「へっ。随分と威勢がいいじゃねェか。この前までケツを降って逃げてた負け犬と同じヤツだとは考えられねェなァ」

 

 

ゴミを見るかのような視線を皐月に向ける一方通行。

 

 

「この場合、実験ってのはどうなっちまうンだ?……いや、考えるまでもないか。とりあえず目の前のゴミを片付けてから始めるとするか」

 

 

ザリザリ、と。地面の砂利を踏みつけ、彼はニタリと笑う。

 

 

「せめてウォーミングアップ程度の役割は果たしてくれよ、三下ァァァァ!!!!」

 

 

2

 

 

数時間前。

 

 

「本日の実験日程によると、一方通行は今日の午後八時三十分にこの場所へとやってくる。その時間に合わせてお前はそこへ向かえばいい。それだけでヤツと戦える」

 

 

無機質な少女の声がそう彼に告げた。

 

 

「ありがと、エトロス」

 

 

少年は黒い半袖Tシャツと黒い長ジャージに着替えながらお礼を言う。

 

 

「自分が相手にする男の能力は分かっているよな?」

 

 

「もちろん。ありとあらゆるベクトルを操る能力だろ。聞いた話だけど、核を打たれても死なない、とか」

 

 

「そうだ。お前が今から戦おうとしているのはそれぐらいヤバいバケモノだ。忘れるなよ。学園都市第一位ということは、学園都市の中で一番頭が良いということでもある。ただ闇雲に右手の力を振るうだけでは絶対に勝てない。それを肝に命じておけ」

 

 

キツめの言い方だが、エトロスにとってはこれが優しさであった。甘い事を言ってはかえって死ぬ確率を上げてしまう。ならばいっそのこと厳しい事を最初から突き付けた方がいい。

エトロスは何も考えず、思うがままに皐月の背中をポン、と押す。

 

 

「覚悟を決めろ。その『絶対破壊の右手』をコントロールさえ出来れば、必ず勝機は訪れる。お前の右手は、一方通行の能力に負けていない。だが、それだけ(・・・・)だ。お前が振るえる異能はそれだけなんだ。その点、一方通行の能力は全身に行き渡っている。右手どころじゃない。対してお前は右手だけ(・・)。ここをキッチリと抑えておけ。いいか、分かったな?」

 

 

白い少女の真剣な眼差しを受け止める。普段から堅い表情が、いつにも増して堅く見えた。

 

 

「あぁ。任せて。というか、そんな真面目に意見をくれるとは思わなかったから……ちょっとびっくり」

 

 

「……死なれたら……困るからな」

 

 

「必ず帰ってくる」

 

 

「あぁ、必ずだぞ」

 

 

そう言って、エトロスに背中を向け、皐月は病院を出ていった。

 

 

 

 

「さあて。面白いモノを見せてくれよ……我が半身」

 

 

 

 

3

 

 

そして時は戻り。

 

 

鉄骨や鉄パイプ、そこらに落ちている小石などが弾丸のごとく皐月へと襲いかかる。とにかく、皐月は走った。一方通行がいる方へと全力で駆ける。牙を向き出しにして襲い来る弾丸達は身体に触れる寸前で右手を突き出すことによって、なんとかしていた。

もうこれしか方法がない。とりあえず一方通行に近付かなければ何も始まらない。

凄まじい音をたてながら迫り来るモノを片っ端から右手の力で壊していく。そして、徐々に徐々に、目標へ歩を進める。

 

 

「ほォう。物質を分解する系統の能力か。おもしれェ!!じゃあこンなのはどォだァ!!??」

 

 

今度は近くにあった輸送用のコンテナに手をかける。そして、それを皐月目掛けて射出した。まるで、大砲のように。鈍い音を響かせながら飛んでいくコンテナ。しかし、やはりそれも右手を使って簡単に壊していく。

 

 

そこまで、想定済みだった。

 

 

ブァッ、と。皐月の周りを白い粉が舞う。壊したコンテナの中に入っていたモノが散らばったのだろう。そこまでの判断は出来た。しかし、ここからのワンステップにこの時点では気づけない。

 

 

「……これは……小麦粉!?」

 

 

「なァ。粉塵爆発、って知ってるかァ?」

 

 

チラつく火花。

 

 

「……っ!!??」

 

 

次の瞬間。

皐月の周りが勢いよく爆発した。特撮ヒーローでよく見るような光景が操作場に広がっていく。

 

 

「あひゃひゃひゃっ!!愉快愉快!!さすがに爆発や爆風まではぶっ壊せねェだろ!?綺麗な焼死体の出来上がりィ!!」

 

 

の、はずだった。

爆煙のの中から一方通行へと向かっていく影が一つ。

 

 

「こんなんで死ぬかよぉぉぉぉ!!!!」

 

 

「あァっ!?」

 

 

一方通行は突如として現れた少年に対応できず、咄嗟に左腕を前に出す。

 

 

そして、その右手(・・・・)に触れた。

 

 

ガッ。

 

 

「あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!????」

 

 

絶対に聞くことのできない、学園都市第一位の悲痛な叫び声。彼の左腕は身体から外れると、宙をクルクルと舞って地面へと落ちた。

段々と爆煙も晴れていき、爆発をモロで受けたはずの場所が見えてくる。そこには、人が一人分入れる程度の丸くて少し深めの穴があった。

 

 

「くっそがァァァァァ!!爆発の直前で地面の中に隠れやがったのかァ!?というよりか、本当に(・・・)反射(・・)が効かねぇのかよコイツ(・・・・・・・・・・・)!?」

 

 

体勢を立て直すために距離をあける一方通行。残った右手を、左肩の切断面に当てベクトル操作を駆使し応急手当をしていく。

 

 

「……仕留め損ねたか。なんとか左腕は奪った。これで少しは戦いやすくなったかな」

 

 

呼吸を整え、彼は再び走り出す。真っ先に。目標を狩るために。

 

 

「この学園都市第一位の俺が劣勢だと……?そんなことは……そんなことは許されねェんだよォォォォォォ!!!!」

 

 

今度は、一方通行も突撃を始める。

 

 

二人の拳が拮抗する。

 

 

一方通行は右拳で皐月の顔面を捉えることよりもまず先に、彼の右拳を避けること(・・・・・・・・・・)に専念した。

結果、皐月の拳は一方通行に当たることなく、一方通行の拳は皐月の身体にヒットする。そこへ、ベクトルを上乗せし、吹き飛ばす力を増加させた。

肉がエグれる酷い音を撒き散らし、彼の身体は何回も地面をバウンドし、コンテナへ激突した。

 

 

皐月の口から噴き出す、大量の赤黒い液体。骨は何本逝っただろう。内蔵はいくつダメになっただろう。身体中から溢れる液体で辺りを染めていく。

 

 

「はァ……はァ……。種が分かれば簡単だ……。その右手(・・・・)に触れなきゃいいンだろ……。殴り合いになった場合、そしたら自然とカウンターなんて決まっちまう。残念だったな……。だけど褒めてやンよ。お前は、この一方通行様をここまで追い詰めた。それに敬意を表して……」

 

 

一方通行はゆったりとした足取りで鉄骨や鉄パイプが置いてある場所へと歩く。

 

 

「徹底的にぶっ殺してやる!!!!!!」

 

 

その塊達に触れ、最早肉片同然の人間に向かって放つ。一本や二本じゃない。数十本単位だ。グジュリグジュリと、皐月の身体に突き刺さっていく。彼の身体の何もかもを、その金属で貫いていく。

まるで、彼の身体を幹として、そこから鉄骨や鉄パイプの枝が生えているようだった。

例え意識があったとしても、彼の右手は一つしかないため、この全方位攻撃には耐えられなかっただろう。

 

 

勝負は、決した。

 

 

「めちゃくちゃ手こずっちまった……。というか、あの助言(・・・・)が無かったら今頃俺は……どうなっていたンだ……」

 

 

鉄の華に背中を向け、自身の左腕だったモノを拾い上げる。

 

 

「『反射』ごとぶっ壊された……。こンな経験は初めてだ……。てか、この左腕くっ付くのか……?まァ、学園都市の技術なら何とかなるか」

 

 

トボトボと歩く一方通行。それを見つめる茶髪の少女が一人。その少女を睨みつけ、一方通行は、

 

 

「今日の実験は中止だ。こンなンじゃ実験どころじゃねェだろ」

 

 

と、吐き捨て操作場を後にしようした。

 

 

だが。

まだ、戦いは終わっていなかった。

 

 

ギギギギィ、ガゴォン。

謎の金属音が一方通行の耳に届く。一瞬だが、彼は身震いした。まさか、まさかとは思うが。

 

 

「おいおい……冗談だろ……?」

 

 

金属が地面に落ちる音と、肉が引き裂かれる音。耳にしたくない音。そして、彼の赤い瞳の中に映る、これまた真っ赤な光景。

 

 

「おぉい……まだ終わってねぇーぞ」

 

 

口が裂けるんじゃないかと思うくらいに上がった口角。その形相は、まるで鬼のよう。

 

 

「血ぃたくさん出したからかな。凄い冷静だ凄い落ち着いてる。落ち着いてるからこそ、冷静だからこそ、今になって疑問に思う点が浮かび上がるなぁ」

 

 

身体に突き刺さっている最後の鉄パイプを引き抜くと、ぬるりとその場に立ち上がった。

 

 

「なぁ、何でだろうなぁ。何でお前は僕の奇襲に対して咄嗟に左腕でガードをしたんだろうな。まぁ、普通の人ならそれは正しい判断だ。だけどさぁ、一方通行。君はそんなことをする必要ないんだよ。だって、『反射』があるから。ガードしなくたって、無防備だって、その『反射』があれば奇襲なんて意味がないもの。ガードの必要がないんだよ」

 

 

ズズズ、と。

無意識下のうちに、一方通行は後退りする。

 

 

「それでも君はガードを行った。まるで、僕の右手がその『反射(・・)ごと(・・)君の身体をぶっ壊せることを知っていたかのように、ね?」

 

 

驚愕した。

 

 

「そしてその力が右手にしかないことも、知っていた。だから、右手にさえ触れなければいい、その簡単な思考で僕をここまで追い詰めた。種さえ分かってしまえば誰でも勝てるような、そんな状況で、僕を痛めつけた」

 

 

恐怖した。

 

 

「今度は僕が君のことを痛めつける番だ、一方通行」

 

 

色んな負の感情が彼の心を包み込む。それを振り払うかのように、一方通行は雄叫びをあげた。

 

 

「があァァァァァァァァ!!!!!!もう一回ぶっ殺してやるよォォォォォォ!!!!!!」

 

 

ガッ、と地面を蹴ると、銃口から放たれた銃弾のようなスピードで前方へ飛んでいく。

そんな一方通行なんて見向きもせず、皐月が取った行動は簡単だった。

 

 

右腕を水平に振った。地面を叩くように。拳を握りながら。ドン、と。

 

 

すると、パキパキパキという亀裂音がその右拳から放たれる。いや、正確には空中からであった。空中に綺麗なヒビが入っていき、終いには直径30cm程度の真っ黒な穴が空いた。

 

 

その穴へ、皐月は迷わず拳を突っ込む。

 

 

刹那。

 

 

「ゴボォァっ……!!??」

 

 

一方通行の動きが止まった。

彼はゆっくりと視線を下へ落としていく。すると、胸の中心から異様なモノが生えていた。

 

 

「……腕?」

 

 

真っ赤に染まった細い腕。それが、背中から肉を引き裂き、まるで花のように咲いている。

 

 

それが、彼が目にした最後の光景だった。

 

 

大量の血を出しながら、一方通行はゆっくりと倒れた。

 

 

「こんな使い方も……出来るんだぜ」

 

 

スッ、と穴の中から腕を引く。抜いたと同時に、穴は静かに閉じていき、また何も無いただの宙へと戻った。

 

 

「に、しても……さすがに血を……出し過ぎた……し……ぬ……」

 

 

フラフラと、彼もまたそのまま倒れていく。だが、地面に身体を埋めることは無かった。

 

 

「さすが、私の半分。学園都市第一位を本当に倒してしまうとはな」

 

 

真っ白な少女が、少年の肩を抱いていた。

 

 

「……しかも、違和感に気づくとは……侮れない半身だよ、お前」

 

 

勝負は決した。

level0の少年が、level5の少年を倒すという形で。

あの物語にあまり支障はない。

ただ、人が違うだけ。

倒した人間が、違うだけ。

最初の前提条件は覆していない。

 

 

こうして、今回の話は幕を閉じる。


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