とある少年の逃亡生活   作:狼少年

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Chapter1.It begins and escapes.
episode1『皐月叶人』


1

 

 

「今日も平和だ」

 

 

と、皐月叶人(さつきかなと)は窓の外の景色を眺めながら呟いた。机の上に肘を置き、頬を手に乗せながらいかにも授業がつまらなさそうな顔をしている。

 

 

「おーい皐月!また外ばっか見やがって!ちゃんと授業に集中しろ!」

 

 

「はぁーい。すいませーん」

 

 

さすがにボーッとし過ぎたみたいだ。先生に注意を受けた皐月は、前方の黒板に視線を移す。

 

 

(この授業終わったら放課後……。とっとと帰って『アイワズ』の動画でも見よ)

 

 

『アイワズ』とは、皐月が絶賛ドハマり中の動画配信者の事である。毎回毎回下らない動画を上げ、そこそこ再生回数を稼いでいるまだまだ新人といったところだ。

 

 

と、そんな配信者のことはぶっちゃけどうでもいい。まずは、彼の詳しいプロフィールからだ。

皐月叶人、15歳。身長は170cmで体型は痩せ型。運動経験は皆無だが、簡単な筋トレをするのが日課な為、筋肉は引き締まっている。黒髪天然パーマが特徴的で、肌は雪のように真っ白。顔はシュッとしていて、目は細い。わりとイケメンと評される事が多いが、本人は認めていない。趣味は好きな配信者の動画を見ること。

 

 

そんなこんなで、授業が終わり、皐月が荷物をまとめ始めた頃だった。

 

 

「叶人!!今日寄り道して帰ろうぜっ!」

 

 

クラスメイトで、唯一の友達とも言っていい仲宮優久(なかみやゆうひ)に寄り道を誘われた。

 

 

「美味しいコーヒーが飲めるって噂の店見つけたんだよ!一緒に行こうぜ!」

 

 

「ごめん。今日はまっすぐ帰るよ」

 

 

そんなお誘いを皐月はあっさりと断った。

 

 

「えぇー!!なんだよ付き合い悪いなぁ〜」

 

 

「ほんとにごめん。今月ちょっとお金厳しくて……」

 

 

「マジかよ〜。そんなんじゃ明日から始まる夏休みを乗り切れないぞ!まぁいいや仕方ない!また今度誘う!!」

 

 

「うん、よろしく」

 

 

じゃあな!と言って手を振って教室を出ていった仲宮を見送った後、皐月も教室をあとにした。

 

 

 

 

2

 

 

そういえばそうだった。

明日から何もしなくていい夏休みが始まるではないか。

 

 

明日から夏休みが始まるというのに、それに気付かないほどに『今日の日付』に興味が無い皐月。

 

 

「とすると、明日は七月二十日か。あと十日、この持ち金で戦うしかないというのか……」

 

 

帰り道。彼は財布の中身を見ながらトボトボ歩く。今、皐月は第七学区に存在する寮で生活をしている。生活費は親が毎月振り込んでくれる為、アルバイト等はとくにせずに済んでいた。

 

 

と、顔を地面へ向けていた時だった。

 

 

バン!!と。

 

 

急に後頭部を硬いモノで殴られた。

 

 

「いったぁぁっ!!」

 

 

「なあに下向いて歩いてんのよ、アンタは」

 

 

突如として、自分の目の前に茶髪の少女が現れた。常盤台中学というお嬢様学校の制服を身にまとった可憐な少女は呆れた顔をして皐月の方を見ていた。

 

 

「……なんだよ美琴かよ」

 

 

「なんだよってなんなのよ!アンタが下向いて歩いてて危なかったから鞄で叩いて上を向かせて上げたっていうのに!」

 

 

「なぜ鞄で叩く必要がある!?一言言ってくれればそれで済んだだろ!!」

 

 

「あーもーはいはい分かりました!」

 

 

御坂美琴(みさかみこと)

学園都市最強のlevel5の一人。学園都市第三位で、最強の電撃使い(エレクトロマスター)。そして、その能力を使用する姿から付けられた異名は、『超電磁砲(レールガン)』。

まぁ、簡単に言えばちょっとヤバイ中学二年生(笑)といった所だろう。皐月は、この中学生と親繋がりで知り合いであった。その為、二人の中では『幼馴染み』という関係で落ち着いている。

 

 

「アンタ、最近勉強はどうなの?ちゃんと宿題とかやってる?」

 

 

「何でお前に心配されなきゃなんないわけー」

 

 

「まーた動画ばっか見てるんじゃないでしょうね!?もう、そんなんだからカナ兄は成績がいつもいつも……」

 

 

「お前は僕の親か何か?」

 

 

「うん?私はカナ兄の保護者だよ?」

 

 

「そんな真面目な顔をして答えるな」

 

 

御坂とはこうしてたまに会ってはたわいもない会話をして別れる、という事が多かった。いや、皐月の下校ルートを御坂は把握しているため、御坂が暇な時にちょっかいを出しにきている、というのが正しいかもしれない。

 

 

「そういえば明日から夏休みだね」

 

 

「確かに。今日学校で初めて気づいたよ」

 

 

「はぁ。カナ兄、ほんと学校に興味無いのね……アンタ」

 

 

「うるせぇ」

 

 

第七学区にある寮の近くまで来たところで、御坂とは別れた。最近よく会うなぁ、と思いつつ寮の中の自室の鍵を開ける。

 

 

制服を脱ぎ、寝巻きに着替えるとすぐにベッドへ飛び込んだ。そして、携帯端末を操作し動画配信アプリを開き、動画を見始める。

 

 

 

 

これが日課。

日常。

だが、彼どこかで思っていた。心の奥底では考えていた。

 

『非日常』が欲しい。

 

逸脱した毎日が欲しい、と。

 

 

そんな彼の願いは、『ただの願い』では済まなかった。

 

 

まさか。

本当の『非日常』が訪れるとは、この時はまだ知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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