「ありがとうございました♪」
「これで全部売れたな。売れ行き好調じゃないっすか、ラストさん」
「ま、これが神のなせる業ってやつよ!」
先日の飲みから3日後、相変わらず店の売り上げはよく、噂になっているのか、客足は途絶えない。
一日に各色100個ずつを在庫として売り出しているが、売り始めてから毎日、11時頃には売り切れてしまう。
そうなると店はすっからかんになり営業どころじゃないが、営業時間は守らないといけないために閉店はせずに3人での談笑が始まる。
「いやー、それにしても、あのオールバック、今思い出しても笑いが止まらないぜ。ハッハッハ」
「素手のサンタさんにやられて、剣まで取られて、、ふふふっ」
そしてここ最近のトレンドは飲み会に来たあのオールバックの話題。
「そこらへんにしといてやれよ、よくわかんないけど推定覇者クラスの強者なんだから」
「でも聞いたことないぜ、るう、リュウチェルだったか?前回の王国剣技会優勝者はそんな名前じゃなかった気がするし」
なぜだろう。
その名前はなんか前の世界で聞いた気がする。
「確かに、あの時は信じちゃいましたけど、そんな二つ名があったら一目見てわかるほどの有名人のはずですし」
「んー。それにしても、この剣はどうしようか」
袋から剣を引っ張り出すと、カウンターに横たえる。
その剣の鞘は、何かの花の装飾がなされていて、素人の僕からみたら高価なものにしか見えない。
「マイは工業専門だったよな。剣もわかるのか?」
「はい!暇ですし、見てみましょうか」
マイは鞘から剣を抜いてそれらを静かに見つめる。
年頃の女の子に似合わない落ち着いた視線に、思わず本当に年下なのかと疑ってしまう。
少しして、鑑定が終わったらしいマイはふーっと息をはいて顔を上げると、剣についての解説を始める。
「この鞘は普通の人から見たら見た目こそはいいですけど、よく見ると細部まで細かく作りこまれていないし装飾は派手ですね。剣士が持つにしては少々落ち着きがないというか、作り手の自己顕示欲が垣間見えます。でも、剣自体はいい素材を使っていますし、なかなかの出来ですねっ!ただ使い手がアレだと、剣もかわいそうですね…」
解説ありがとうございます。
つまり、鞘はチャラいけど剣は高価っていうことね。
それと使い手ディスるのやめようね!本人聞いたら泣いちゃうよ!
「ほう、小娘、なかなか言ってくれるではないか」
「なんだ、もう今日の分は全部売り切れって、げ!」
見ると店の入り口にはむかつく緑のオールバックが立っていた。
なんともタイミングが良すぎる。
「お、噂をすればなんとやら。王国剣技会の覇者(笑)!りゅ、りゅうちぇるさん?じゃないっすか」
「ルウシェルだ!今日は貴様に用があってきた。赤帽子」
カウンターの前まで鎧を鳴らしながら歩いてきて僕を見下ろす。
「へえ、何の用っすか?」
「貴様に再び決闘を申し込む。俺が勝ったらその剣と、この男は俺がもらう」
「またかよー。だから僕にはメリットがないじゃんかー」
「前はそうだったな。しかし今回はメリットがある。貴様が勝ったら、その剣は貴様にくれてやろう」
カウンターにおかれた剣を指さして自信満々にいう。
それにしても、剣は騎士の命とか、そういう騎士道はこいつにはないのか?
「そーか。でも僕剣要らないからメリットにもならねえな。もう少しマシな賞品もってこいよ」
「なんだと!?貴様にはこの剣の価値がわからないのか!」
先ほどまでの自信はどこへ行ったのか、すぐに取り乱してこちらに詰め寄ってくる。
「いや、そこの子、マイが言う通り、鞘は無駄しかないが、剣はいいものらしいな」
「この鞘の魅力がわからないだと…!?しかし、剣は評価しているんだな。それなのになぜ要らないというのだ!?」
「僕非力だから剣みたいな重いもの持てないよー。しかも、どっかの知らない人が打ったのより、美少女とかに作ってもらう方が男としては最高の価値があるってもんだろ。そしてここにいる美少女は武器を作るのもプロ級らしいし、いつでも作ってもらえるからこんなもんただの屑鉄だ。剣は返してやるから帰れよ。ついでにラストのことも諦めな」
「美少女…」
横でマイが顔を赤くしている。
ごめんね、そんな怒らないで。からかってたわけじゃないよ?
「くっ!口の減らないやつだ!それなら、どうしたら決闘に応じる!?」
決闘決闘って、こいつどんだけ決闘したいんだよ、デュエリストか。剣士というやつは、どいつもこいつもこう気性が荒いのだろうか。
「そうだなあ。じゃあ、僕が勝ったらなんでもいうことを2つ聞くって言うならいいよ」
1つと言わないあたり、少し意地悪な気がするが、まあいいだろう。
「本当か!?良いだろう!聞いてやる!それならば、早速用意しろ!決闘は14時に、北の商店街を超えた先にある広場で行う!戦う前から怖気づいて、せいぜい逃げ出さないことだな!ハッハッハ!」
決闘が受け入れられたのがそんなにうれしかったのか、いきなり元気になり、大きく高笑いをすると、店から出ていった。
「嵐みたいなやつだったな」
「いや、ストーカーの間違いだろ」
「へっ、違いねえな!」
「ところで、勢いで決闘受けちゃいましたけど、大丈夫なんですか?」
マイは心配そうに僕を見てそう言う。
「ん、どうなんだろう。スライムとしか戦ったことないし、剣とか食らったら痛いよなあ。せめて防御ができるくらいの武器はほしいよね」
今まで素手だったので、剣と真正面からやりあったらどうなるかの検討がつかない。やっぱり刺さったら防御力とか関係なく痛いのかなあ。血とか嫌だよ。
スマホで自分のステータスを見ながら考えていると、マイが思いついたように手を合わせる。
「あ!じゃあ、買い物行きましょうよ!まだ2時間以上時間はありますし、装備を買いに行きましょうよ!」
「お、いいな!サンタ、お前には俺の人生がかかっているんだ。絶対に勝たなきゃいけないからな!最強の装備で向かおうぜ!」
まあ、こんななりで戦ったらそりゃ不安しかないよな。
ここはお言葉に甘えて、装備を見繕ってもらうとするか。
「まあないよりはあった方が良いよな。んじゃ、金ないんで、ごちになります」
「おう!散財するぞ!」
「散財はするなよ…」
「おかいもの♪おかいもの♪」
決闘前とは思えないほど、ほのぼのとした空気に、僕の緊張は正常に仕事をせず、むしろ僕も異世界の店というものを、少しばかり楽しみにしていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。