ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第85話:お別れ

片付けもスノウマンとの協力もあり、すぐに終わった。

 

「サンキューな。また今度も、よろしく」

「ノウ!」

「小さなお前らも、ありがとうな?またなんかあったら、次の演奏も、期待してるぜ?」

「ノーウ!」

 

指を鳴らした音とともに、無数の光が空へと昇る。

残されたのは、中庭の壁に一列に並んだ雪だるまと、リィナの出した光のみ。

 

「なあラスト、この光ってのは、時間がたてば消えるもんなのか?」

「俺に聞くなよ。そこらへんはどうなんだ?リィナ」

「うん。朝になったら消えると思うよ」

「そ、そうか。それじゃあ、帰ろうか。んじゃルドルフ。コメット乗せて先に帰っててくれ」

「ギエエエアアアアア!」

 

中庭から飛びあがるルドルフとコメットを見送って、僕たちも帰ろうとする。

 

「よし、僕たちも帰ろうか。戸締りとかはいいんだよな?」

「はい、まだ起きてるはずですから、大丈夫だと思いますよ」

「おっけ。んじゃ、僕は最後に確認して声かけて帰るから、外で待っててくれ」

「おう、よろしくな」

 

3人の背中を見送って中庭を見渡す。

雪はそのうち溶けるし、光も朝になったら消える。

荷物は全部袋に詰めた。

木も、雪がなくなったら同じように枯れるだろう。

 

「大丈夫そうだな。僕もそろそろ…」

「サンタ君」

「あ、ユウリッドさん」

 

背後から声をかけられ振り向くと、ユウリッドさんが中庭の入り口に立っていた。

 

「もう深夜の1時ですよ?早く寝ないと、明日も朝起きられないんじゃないですか?」

 

ラストいわく、朝は弱いらしいユウリッドさんは、ただ寝るのが遅いだけなのかもしれないようにも思える。

 

「ふふ、大丈夫よ。あの子たちはしっかりしてるから」

「いや、そういう問題じゃないと思うんですけど。あ、後」

 

立ち止まって、ふと思い出したように言う。

 

「なんか聞いてたらしいじゃないですか。僕がいなくてもなんたらかんとか」

 

冗談で言ったつもりだったのにな。

 

「…ごめんなさいね。あの子たちのためにもいいんじゃないかと思って」

「まあ、確かに子どもには兄貴的な存在はいた方がいいですよね。親もいないし」

 

でも。

 

「でも、すいません。あいつらには恩も感じてますから。それに、たった3人の、僕の家族なんで」

 

短い時間の中で積み上げられた思い出が頭に浮かぶ。

リィナとの思い出も、ユーエン街での温泉旅行も、ルウシェルとの決闘も。

そして、初めてマイに会って、拾ってもらった時のことも。

 

対したことでもないと思っていたのに、思い返した途端に涙が込み上げそうになる。

僕から何かを感じたのか、ユウリッドさんは優しく声をかける。

 

「そう。わかったわ。でも、そのうちまた、来て頂戴ね」

「ええ、必ず。ユウリッドさんも、うちの店をご贔屓に」

「…ラスト、マイ。いい友達を持ったわね」

 

帽子を外して頭を下げてから、3人が待つ孤児院の外へと向かった。

 

 

 

 

 

「お待たせ」

「おう、遅かったじゃねえか」

「まあ、ちょっとね。ユウリッドさんと世間話してたら、遅くなったよ」

 

ラストが一瞬何故か気難しそうな顔をしたように見えたが、すぐに取り戻していつもの笑顔で手を叩く。

 

「…そうか。まあいい、それより、飲みに行くぞ!」

「はあ、この時間から?」

「他にいつ行くってんだよ、今だろ?」

 

いや、そんな聞いたことある名言言われても。

 

「いいじゃんいいじゃん。サンタ、お腹減ってるでしょ?」

「まあ、減ってるけど」

「じゃあ行きましょうよ!今日は私たちがおごりますから、好きなだけ飲んで食べてください!」

 

ぐいぐいと二人に背中を押されて、ラストが先頭で叫ぶ。

 

「今日は飲むぞお!」

「今日も、の間違いだろ。もう一人で歩けるから、そんな押すなよ!」

「えへへ、いいじゃないですか~」

「サンタ、今夜は寝かせないよ!」

「はいはい、お手柔らかに頼むよ」

 

夜は更ける中、騒がしい僕たちの声だけが街灯もない暗い路地を響かせる。

これから始まるのは、僕たち4人だけの、にぎやかなパーティ。

手に持っていた帽子をかぶり直して、空を見上げると、雲一つない、満天の星空が、僕たちを見守っていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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