片付けもスノウマンとの協力もあり、すぐに終わった。
「サンキューな。また今度も、よろしく」
「ノウ!」
「小さなお前らも、ありがとうな?またなんかあったら、次の演奏も、期待してるぜ?」
「ノーウ!」
指を鳴らした音とともに、無数の光が空へと昇る。
残されたのは、中庭の壁に一列に並んだ雪だるまと、リィナの出した光のみ。
「なあラスト、この光ってのは、時間がたてば消えるもんなのか?」
「俺に聞くなよ。そこらへんはどうなんだ?リィナ」
「うん。朝になったら消えると思うよ」
「そ、そうか。それじゃあ、帰ろうか。んじゃルドルフ。コメット乗せて先に帰っててくれ」
「ギエエエアアアアア!」
中庭から飛びあがるルドルフとコメットを見送って、僕たちも帰ろうとする。
「よし、僕たちも帰ろうか。戸締りとかはいいんだよな?」
「はい、まだ起きてるはずですから、大丈夫だと思いますよ」
「おっけ。んじゃ、僕は最後に確認して声かけて帰るから、外で待っててくれ」
「おう、よろしくな」
3人の背中を見送って中庭を見渡す。
雪はそのうち溶けるし、光も朝になったら消える。
荷物は全部袋に詰めた。
木も、雪がなくなったら同じように枯れるだろう。
「大丈夫そうだな。僕もそろそろ…」
「サンタ君」
「あ、ユウリッドさん」
背後から声をかけられ振り向くと、ユウリッドさんが中庭の入り口に立っていた。
「もう深夜の1時ですよ?早く寝ないと、明日も朝起きられないんじゃないですか?」
ラストいわく、朝は弱いらしいユウリッドさんは、ただ寝るのが遅いだけなのかもしれないようにも思える。
「ふふ、大丈夫よ。あの子たちはしっかりしてるから」
「いや、そういう問題じゃないと思うんですけど。あ、後」
立ち止まって、ふと思い出したように言う。
「なんか聞いてたらしいじゃないですか。僕がいなくてもなんたらかんとか」
冗談で言ったつもりだったのにな。
「…ごめんなさいね。あの子たちのためにもいいんじゃないかと思って」
「まあ、確かに子どもには兄貴的な存在はいた方がいいですよね。親もいないし」
でも。
「でも、すいません。あいつらには恩も感じてますから。それに、たった3人の、僕の家族なんで」
短い時間の中で積み上げられた思い出が頭に浮かぶ。
リィナとの思い出も、ユーエン街での温泉旅行も、ルウシェルとの決闘も。
そして、初めてマイに会って、拾ってもらった時のことも。
対したことでもないと思っていたのに、思い返した途端に涙が込み上げそうになる。
僕から何かを感じたのか、ユウリッドさんは優しく声をかける。
「そう。わかったわ。でも、そのうちまた、来て頂戴ね」
「ええ、必ず。ユウリッドさんも、うちの店をご贔屓に」
「…ラスト、マイ。いい友達を持ったわね」
帽子を外して頭を下げてから、3人が待つ孤児院の外へと向かった。
「お待たせ」
「おう、遅かったじゃねえか」
「まあ、ちょっとね。ユウリッドさんと世間話してたら、遅くなったよ」
ラストが一瞬何故か気難しそうな顔をしたように見えたが、すぐに取り戻していつもの笑顔で手を叩く。
「…そうか。まあいい、それより、飲みに行くぞ!」
「はあ、この時間から?」
「他にいつ行くってんだよ、今だろ?」
いや、そんな聞いたことある名言言われても。
「いいじゃんいいじゃん。サンタ、お腹減ってるでしょ?」
「まあ、減ってるけど」
「じゃあ行きましょうよ!今日は私たちがおごりますから、好きなだけ飲んで食べてください!」
ぐいぐいと二人に背中を押されて、ラストが先頭で叫ぶ。
「今日は飲むぞお!」
「今日も、の間違いだろ。もう一人で歩けるから、そんな押すなよ!」
「えへへ、いいじゃないですか~」
「サンタ、今夜は寝かせないよ!」
「はいはい、お手柔らかに頼むよ」
夜は更ける中、騒がしい僕たちの声だけが街灯もない暗い路地を響かせる。
これから始まるのは、僕たち4人だけの、にぎやかなパーティ。
手に持っていた帽子をかぶり直して、空を見上げると、雲一つない、満天の星空が、僕たちを見守っていた。
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