「おーい、何してるんだ!?そろそろだぞー!!」
しばらくの間、リィナと上から下の様子を眺めていると、下から聞き覚えのある声が僕たちを呼ぶ。
「お、ラストか。おお、今行く!」
隣のリィナを見ると、笑みを浮かべて頷いたので、ゆっくり下へ降りる。
「よう、そっちはどうだ?」
「おう、いい感じに、盛り上がってるぜ!」
両手の指を突き立てて、謎のポーズをとっているが、わからないのでスルー。
「へえ、それじゃあ、こっちは準備できてるから、いつでもいいぞ」
「おう!それにしても、こりゃあすげえな…」
ラストがたくさんの光で飾り付けられた木を見上げて感嘆する。
「ああ。やっぱ魔法って、いいよなあ。僕もなんか一つでもいいから使えるようになりたいよ」
「…私からしたら、サンタの方がすごいと思うんだけど」
ツリーの下でぬいぐるみのように静かに座る大きな雪だるまを見ながらリィナがいう。
言っとくけど、めっちゃ疲れるんだからな?
「はっはっは!でもまあ、リィナ、よかったじゃねえか」
「う、うん!…ぅ」
ラストに言われて、一人感極まるリィナの頭を三度ガシガシとかき回す。
「ああ、さいっこうだ!まじ、さんきゅーな!」
「うああ!いたい!いたい!」
涙もろすぎるんだよ。
卒業式とか最後の大会とか、なんで女ってのはこうも涙もろいんだ。
いや、僕に感受性がないだけか。
あれ、なんか目頭が熱い。
「んん?まあいいや。それじゃああいつら連れてくるわ。サンタ、お前、裏方ばっかりだったし、最後くらいはしっかり楽しめよ!」
「…ああ」
ラストは足早に孤児院の中へ駆けていった。
「リィナ、僕たちは上でスタンバってるから、出番になったら呼んでくれ。ルドルフ、頼んだ」
「うん、サンタ、頑張ってね?」
「おう、任せとけ」
再び高く上がり、孤児院の屋上で待機する。
「悪いな。お前にはエレベーターみたいなことさせちゃったな」
しばらく何も食べさせていないルドルフにゼリーを与え、頭をなでてやると、嬉しそうに首を揺らして鈴を鳴らす。
「…集まりだしたみたいだな」
下の中庭から、子どもたちの甲高い声が上がっている。
ケーキかツリーか。それとも、夜のテンションか。
子どものころは、何でも新鮮で、無限のスタミナでどこまでも行けた。
そんな様子がうらやましくて、戻りたいと思うと同時に、こういうイベントに対しても何も感じなくなったのはいつ頃からだったか、慣れというのは怖いものだと改めて思う。
小さいころはサンタクロースとかも、本気で信じてたのになあ。
「あ、サンタのじいさんは本当にいるから、一応合ってるのか」
くだらない自問自答も、下が静かになり始めたことで、そんな時間も終わりであることを知らされる。
「さてと、そろそろ出番かな。っと、ん、こいつは…」
ポケットに手を突っ込むと、何かが手に触れる。
取り出すと、先ほど使った光の詰まった小瓶だった。
ツリーを飾るために大分使ったというのに、それでもまだ、瓶の中は輝き続けている。
「お、こいつは使えるかもな」
一瞬、思いついたことがあり、勢いよく指を鳴らす。
その場で積もった雪からスノウマンを呼び出して、円陣を組んで作戦会議を始める。
それから少しして。
下の方では、ラストが何やら話をしているところ。
少し離れていて何を言っているかはわからないが、少しだけざわついて、そして一呼吸おいて、ひときわ一層、僕を呼ぶ大きな声がする。
「おーい、サンタ!出て来いよ!おいってば!!」
なんて必死な呼びかけだろう。その呼び声に応えるようにルドルフが鈴を鳴らす。
「行こうぜお前ら、ファンタジー世界流のクリスマス、見せてやろうぜ」
こっから先は、僕のターン。
聖なる夜に、幻想的な演出を。
「ホッホーウ!メリークリスマス!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。いよいよ終盤です。