ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第7話:飲み会の乱入者

クリスマス。

それは年に一度だけ訪れる、聖なる夜。

もともとはイエス・キリストの生誕を祝う日なのだが、ほとんどキリスト教徒でない僕たちは彼を祝うことはせずに、一つのイベントとして賑わい、光り輝くイルミネーションで街を彩る。

そしてその賑わいは主に、男女のカップルで形成される。

この日彼らは2人だけの特別な時間を過ごし、この聖なる夜の下で愛を誓う。

 

しかし反対に、独り者、童貞どもには苦行の夜。

ある童貞(友人)はかつて僕に言った。

「やつらは聖夜、もとい性夜を満喫しているというのに、俺は一人でシングルベル。サンタは嫌がらせのように毎年俺に孤独をプレゼントしやがる。くそ、リア充め、爆発しろ!」

 

こんな理不尽は間違っている。

クリスマスは、すべての人が平等に幸せを感じなきゃいけないんだ。

 

くそ、リア充爆発しろ!

 

「サンタさん、聞いてますか!」

「ん、ああ、ごめん。聞いてない」

 

素直に言うと、マイは頬を膨らませて怒る。

実にあざといが、素でやっているんだからこいつはすごい。

 

「もうっ。それで、クリスマスってなんですか?」

 

そうだ。クリスマスの説明をしなきゃいけないんだったな。

ん、待てよ?ここの世界にはかつての常識がない。

つまり、まだこの世界にはカップルだけがおいしい蜜をすすり童貞どもが血の涙を流すなんていう悲しい悲劇は起こらない。

 

「ああ、クリスマスって言うのは――――」

 

ここから先は僕のターン。

同じ過去は二度と繰り返してはならない。

うまいことご都合主義なクリスマスを作ってやるよ!

 

「その赤い帽子、貴様が昼間ギルド前で騒いでいた輩か」

 

僕のターン!って思ったばかりなのに、それはすぐに遮られた。

ふと目をやると、いつの間にこちらのテーブルまで来ていたのか、一人の男が立っていた。

緑色の整った髪をオールバックで決めていて、夜だというのに銀色の高そうな鎧と、青いマントを身にまとい、立派な騎士様のようだ。

彼は僕の赤い帽子を大層不快そうに見ている。

 

「ん?えっとな。クリスマスって言うのは――――」

 

ガシャアアアン!

 

「サンタさん!」

「無視するな」

 

頭に衝撃が走り、椅子ごと飛ばされる。

飛ばされた数秒後、それがその男によって起こされたものだと気づく。

マイとルドルフがこちらに駆け寄ってくる。

見ると男は、右手には鞘に収まったままの剣を構えている。

剣で殴ったのかよ。物騒なやつだな。

 

「いつつ…」

「サンタ!?てめえ、何しやがる!」

 

ラストが男に殴りかかろうとするが、軽々と頭を押さえられて無理矢理席につかされる。

弱すぎだろ。

 

「立て。貴様には聞きたいことがある」

「へえ。見るからに立派な騎士様が、一般人のこの僕に何の用ですかい?」

 

今にでも殴り返したいが、平静を装って椅子に座りなおす。

非常識なやつだ。プライド高い系コミュ障だな。

剣を再び腰にさすと、彼はこちらを見下すように見ながら話を始める。

 

「早速本題に入る。このポーションをそこのギルド内の店で鑑定に出したそうだな」

 

そういって男は3色の小瓶を見せる。

 

「ああ、昼間出したやつだな。鑑定に出した後店員さんに上げたと思ったんだけど、万引きでもしたんすか?見た目はご立派なのに、やってることは小さいんですねえ」

 

先ほどの仕返しにと、影のあるにやけ顔をしながら、かみついた返答をした。

不快そうな表情がさらに不快さを増し、眉間にしわを寄せている。

 

「チッ!それで、これを作ったやつは誰だ?」

 

ラストの方をちらりと見ると、不機嫌そうな顔をしながらも頷いたので、正直に答えることにする。

 

「それはそこにいるラストが作ったものだよ」

「そうか、それではこいつはこちらで預かる」

「え、ちょっ!」

 

そういうと男はラストの腕をつかんで連れていこうとする。

反射的にラストをつかむ男の腕をおさえ、それを阻止する。

 

「何だ?」

「それはこっちのセリフっすよ騎士さん。こっちは楽しく飲んでるのに、今日の主役の一人をいきなり連れていくというのは、さすがにこっちとしても許せないっす」

「こいつは調薬の才能がある。そのため王立研究所に連れていくことにした。明日からは王国のために働けるんだ。こんな都市から離れた田舎街よりも、こいつにとってもいいことだろう。光栄に思うことだ」

「ちょ、勝手に決めるなよ!俺そんなところで働きたくねえよ!今のホワイトな環境だからこそやる気が出るってのに!」

 

理由はひどいが、ラストのいうことに賛成だ。

こいつがいなくなったら、明日からどうやって仕事をすればいいんだ。

そもそも、今日からオープンとか言っちゃったのに、一日で店じまいとか客の冒険者に殺されてしまう。

 

「いくらなんでもそんな勝手な理屈は通らねえよ。どこのどいつか知らないが、流石に見ず知らずの男に、はいそうですかなんていって簡単に納得できるわけない」

「いいぞ!もっと言ってやれ!サンタ!」

 

お前もうちょっと男らしくあれよ。

なんで顔はいいのにそんな弱いんだよ。

 

「そうですよ!すぐにラストを離して帰ってください!」

 

なぜだろう。マイのほうが男らしいな。

マイ姐さん、マジかっけーっすね。

 

「そうか、やはり話だけでどうにかなるものではないか」

「一方的すぎるんだよ。鎧みたいに、頭も固いんだな」

「ぷっ」

 

お、今のうまかったな。いや、そんなうまくもないか。

すぐ隣を見ると、マイが口をおさえて笑っているから、ちょっとだけ嬉しくなった。

ルドルフは、鈴を鳴らして男を挑発でもしているのだろうか。

馬鹿にされている男はさらに険しい顔をする。

しかし、眉を顰めたまま笑うと、男はラストを離し、剣をこちらに突き付けてきた。

 

「面白い。それなら、貴様、俺と決闘をしろ!それでお前が勝ったら、俺は素直に引き下がろう。しかし、俺が勝ったら、こいつは俺が連れていく」

「断る」

「・・・何?」

 

鎧の男は理解できない顔をしている。

僕は椅子に座ると、何事もなかったかのように飲み物を飲む。

 

「話ても通じないってわかったなら帰れよ。決闘なんてする意味ないし、勝った時のこっちのメリットゼロじゃん。わかる?メリットゼロ!やらないよそんなの。さあ2人とも、飲もうぜ」

 

僕は落ち着いて席に着くと、見たことのない食べ物に再び手を伸ばす。

 

「え、ええと、そうですね。じゃあ、飲みなおしましょうかっ!」

「あ、おう、そうだよな。飲もうぜ!」

 

ラストとマイも僕の考えが読めたのか、椅子に座って飲み食いを始める。

2人も座って再びにぎやかに会話を始める。

さてこの男はどうでるか。

 

「それでさ、クリスマスって言うのはな――――」

「ふざけるな!!」

 

横に立っていた男が怒鳴る。

いい加減にクリスマスの話させてよ。

いきなりでなかなかの声量だったので、耳鳴りが起こる。

 

「貴様!それでも冒険者の端くれか!?剣を持つ者ならば、決闘は剣士にとって使命だ!それを受けないとは、貴様、剣士として恥ずかしくないのか!?」

「僕剣士じゃないし。ついでに言うと冒険者ギルドにも登録していないから冒険者でもない。そんな一般人に剣を向けるとは、剣士として礼儀がなっていないな。貴様、剣士として恥ずかしくないのか!?てことで、はい、論破」

 

後半で、髪を逆立ててオールバックの真似をして、馬鹿にしてやる。

再び鞘に納めた剣で殴りかかってくるが、今度は右手がそれを阻む。

 

「やれやれ、騎士のくせに、躾けがなっていないな」

 

剣をつかんだまま立ち上がって、僕より背の低いその男を嘲笑うと、耳元で静かにささやく。

 

「お前な、どんな身分だか知らないけど、あんま調子くれてんじゃねえぞ」

「!貴様、いったい何様ぐべあああぁぁ!」

 

耳元から顔をすぐに離したと同時に、僕の顔で隠れていた死角から右ストレートが飛んでいき、オールバックの男の顔面に突き刺さる。

 

モンスター(スライムだけど)だってワンパンの拳だ、生身で受けたら痛いだろう。

 

数メートル先に飛んだ男は、誰もいない向かいのテーブルに頭を打ち付ける。

近寄ると、鼻を押さえながら恨めしそうに僕を見上げる。

 

「サンタクロースからのプレゼントだ。やっぱりプレゼントは、サプライズに限るよな。サプライズの代金として、こいつはいただくよ」

 

剣を無理矢理引きはがして、白い袋に突っこむ。

剣は袋に飲み込まれ、その場から姿を消す。

 

「なっ!貴様、なんてことを!返せ!」

「まだ吠えるか。噛ませ犬としては一流だな。でもさ、それってつまり――――」

 

笑っていた表情から、後ろの2人に見せられないような顔してオールバックに一言。

 

「まだまだ、プレゼントが足りないってことだよな?」

 

男が青ざめる。

 

「っ!今日のところは、これくらいにしておいてやる!だが、お前らは後悔することになるだろう!よく聞け、俺の名は―――」

 

勢いよく立ち上がり、ポーズをとる。

鼻血が出ていて残念ながら様にはなっていない。

 

「王国剣技会の覇者、ルウシェルだ!」

 

マントを翻して、その場から立ち去る。

一発受けてもあの威勢とは。

山よりも高いプライドを持っているんだろうな。

後ろを振り返ると、マイとラストがこちらをじっと見ている。

 

「とんだ茶番だったね。さあ、飲みなおそう」

 

席に座って普通にふるまうが、ラストが口を開く。

 

「お前、剣士相手に、よく素手で挑めたな…」

「しかも、相手はあの王国剣技会の覇者ですよ…」

「ん?あの人、有名なの?」

「いや、名前は知らないが、王国剣技会の覇者って言ったら飛んでもない実力の持ち主だろきっと。おそらく相当な腕前だろうに、殴り飛ばして、剣を奪うなんて…」

 

空気が凍り付いていく。まずい、せっかくの飲み会を台無しにしたくない。何より、飯はうまくなければならない。

 

「まあ、飯時に邪魔するやつは、視界から消えるか殺すまで追い詰めろっていうのが僕の中のルールだからな。さあ、もうあんなのは忘れて、飲もうぜ!」

 

勢いよく赤い液体を飲み干す。

 

「こいつが食ってるときは、いたずらとかしないようにしよう」

「はい。絶対に、怒らせないようにしましょう」

2人が何やらぼそぼそ話をしているが気にしない。

 

―――――それから2回目の乾杯の音頭とともに第2ラウンドが始まると、先ほどのことはもう記憶から遠ざかり、3人はにぎやかな雰囲気に酔いしれたのであった。


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