ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第76話:二度目の決闘

「それでは、決闘、開始!」

 

決闘の開始宣言がされると、ルウシェルがこちらに話しかける。

 

「赤帽子よ、まずはお辞儀だったか?」

「…?」

 

そういっていつか僕がやらせたお辞儀を自分からしだした。

そのまま反応もせずに僕は何もしないでいると、ものすごい剣幕で睨んできたので、しぶしぶお辞儀をする。

 

「それでいい」

「はいはい、んじゃ始めようか」

 

いつものように広場を雪で埋める。

 

「これは、雪か?」

「そういえば見せてなかったな。僕も技の一つや二つは持ってるんだよ。それと、こいつらも」

「ノーウ!」

 

続けて雪だるまを4体ほど出して、僕の周りの陣を固める。

 

「さあさあ、みなさん。今回のメインイベントのお時間です!彼らは僕のお友達。雪を扱わせたら右に出るものはいません!百聞は一見に如かず、彼らの腕を、とくとご覧あれ!」

 

小さな二頭身たちは雪をかき集めて、芸術作品を生み出す。

数分して、広場の中心にできたのは、ユウリッドさんによく似た女の人の像。

いや、似てるとかじゃないわ、普通にユウリッドさんの像だこれ。

 

「おお!すげえ!」

「あんな短時間で…!」

「やっぱりあいつはやることがちげえや!楽しませてくれるぜ!」

 

歓声が上がる。

それを見たユウリッドさんは像の隣まで歩いていき、どこからか取り出した袋を広げて観客に叫ぶ。

 

 

 

 

 

「みなさん、チップはこちらですよ~」

 

 

 

 

 

「…」

 

いつかルウシェルとの決闘の時も、似たようなことがあったな。

 

マイが作った芸術品に対して、ラストが全身で金を集めたんだっけ。

本当にやることが似てるな。

ラストとこの人、本当は血つながってるんじゃねえの?

 

「ありがとうございます~」

 

拍手と硬貨がこちらに向かって投げられる。

さあ、客の期待には答えた。

深くお辞儀をして、帰ろうと歩き出すと、大きな声で呼び止められる。

 

「おい、待て!まだ決闘が残ってるぞ!」

 

ルウシェルだ。

くそ、適当にごまかして帰ろうと思ってたのに。

 

「やっぱばれたか。仕方がねえな。さっさと終わらせるぜ!くらええ!」

 

雪玉を作って、投げつける。

 

「ふん、当たるか!」

 

流石は騎士といったところか、軽い足取りで避けられる。

 

「まだまだあ!」

「何度やっても同じことだ。俺にはそんなものは当たらん!」

「ルウシェル!これで終わりだあ!」

「もらったあ!」

 

最後に勢いよく雪玉を投げる。

ルウシェルは避けずに剣を構え、絶妙のタイミングで剣を振りかざす。

雪玉は見事に二つに分かれ、ルウシェルの後ろに力なく落ちた。

 

「ふん、これで終わりか?なら、今度は俺の番だ。覚悟しろ!」

「よし、後は任せたぞ。お前ら」

「ノーウ!」

 

ルウシェルの背後から放たれる無数の雪玉。

 

「え?んぐばあ!!」

 

その奇襲に反応しきれなかったルウシェルはスノウマンたちの雪玉を背中いっぱいに受けて倒れる。

 

「くそ、あいつら、いつの間に…」

「ノーウ!」

「ぐあ、うぐぅ!がはっ!」

 

倒れたルウシェルの上を雪だるま4体がげしげしと足踏みをする。

この光景、まさしく集団リンチだな。

 

「こらこら、だめよ、いじめちゃ」

「ノーウ!」

 

ユウリッドさんが止めに入る。

そして雪だるまたちは頷くとルウシェルから離れて、僕の膝に抱き着く。

今のなんか浦島太郎みたいだったな。

騎士が子どもにいじめられてる図はおかしかったが。

 

「大丈夫?立てる?」

「あ、ああ、済まない」

 

剣をついて起き上がったルウシェルは僕と目が合うと悔しそうにつぶやく。

 

「俺の、負けだ。なぜ勝てないんだ…」

「まあ、気にすんなよ。じゃあもういいだろ。僕は行くよ」

「サンタ君。ちょっと待ちなさい」

「ぐえ」

 

決闘は終わったので帰ろうとすると、ユウリッドさんにパーカーのフードを引っ張られる。

 

「うう、げほげほ!なんすか一体…」

「サンタくんが勝ったんだから、何か一つお願いを聞いてもらわなくちゃ」

 

そういえば勝ったらなんでも言うこと聞くだとか、そんな話ししてたんだっけ。

 

「え、別にいいですよ」

「それなら、私がお願いしてもいい?」

「まあ、いいですよ」

 

それにしても、メリットなしじゃ本当に戦った意味がないな。

ルウシェルのお願い権をプレゼント。っつってな。

 

「ありがとう!それじゃあ、ルウシェル君?」

「な、なんだ…?」

 

ん?ちょっと待てよ。なんか忘れてるような。

穏やかな笑顔が一瞬だけ黒く染まる錯覚を覚える。

 

「有り金全部、おいていってね~」

「…」

 

あ、やっぱりこの人鬼だった。

この人本当に、いくら稼ぐ気なんだよ。

孤児院の子どもが一緒じゃなくて良かったと、今更だが思う。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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