「ええっと、私の聞き間違いだったかしらね…今度来るって言ってたと思うんだけど…」
扉に体を預けてユウリッドさんが言った。
「そうですね。昨日はそういったと思います」
「そうよね。でも、じゃあなんで、昨日の今日なの…?」
「孝行しに来たぜ、姉ちゃん」
僕たちは今日馬鹿みたいに早起きをしてこうしてユウリッドさんの孤児院に押しかけている。
スマホのホームボタンを押すと時間は朝の6時30分。
迷惑もいいところだ。
「もう…とりあえず上がって。みんなも起きてるから」
「あ、ユウリッドさんの手伝いとかもあったらしますよ?」
「サンタ、いいんだ」
気を利かせて名乗りあげると、肩の上に手をのせられる。
「いつも寝起きのテンションが低いんですよ。だから基本的に二度寝をするんです」
あんたそれでよくあの子どもたちまとめられるな。
すげえよ。
「そういうことだから、寝かせてやってくれ」
「悪いわね…ふあぁ、それじゃあ、後は好きにやってちょうだい」
そういうとユウリッドさんは自室へと消えていった。
「それで、どうする?」
「まあ、基本的にパーティは夜にやるもんだからな。暇といえば暇だよね」
「だよな。それじゃあそれまでは」
「あ、ラスト兄ちゃんとマイお姉ちゃんだ!」
玄関に入ると僕たちを見つけた子どもたちがわらわらと集まってくる。
朝っぱらだというのに元気なことだ。
「こいつらと遊ぶか!」
「私もー!」
そして二人は子どもたちのところへかけていった。
子どもたちはみんなあの二人とともに中庭に出ていってしまったので、静けさが漂う玄関前の小さな広場で、僕とリィナは立ち尽くす。
「暇だな」
「うん。なんでこんな時間に来ちゃったんだろうね」
「あの二人のテンションが高かったからな」
「まあ、一応家族がいるって、そういうものなのかな…」
「家族ねえ。ちょっと来いよ」
うつむくリィナの手を引いて、屋内の遊び場へと連れ出す。
ラストとマイのおかげか、子どもたちの姿は見えない。
「サンタ。ここは遊び場?どうしたの?」
屋内だが足元だけに雪を積もらせて、ひときわ大きいのと、少し背の低いスノウマンを呼び出す。
「家族にあこがれてんなら、ままごとでもしようぜ」
「そんないい歳して…ふふ、でも面白そう。しよっか」
近くにあった丸テーブルを食卓に見立てて、仲良く円になって座る。
「んじゃ、始めようか」
「えっと、配役は?もしかして、サンタがお父さんで、私が…お母さん?」
リィナの顔が少し紅潮しているが、そんな怒らせるようなことはしない。
「いや。父親と母親は、このスノウマンたちだ。んで、リィナが姉貴で、僕が弟だ。文句ないだろ」
生まれたばかりの雪だるまに年長者の役をやらせ、一番年を食っている僕が一番下になっている。
どうだ、なかなか洒落てんだろ。
「…私たち、姉弟なの?」
「おう、設定は、そうだな。姉貴は炎が操れて、弟は雪を操れる。でも、姉貴の炎には太刀打ちできないから、基本的になすがまま、って感じでいこうか」
おままごとの設定も異世界流だ。
「姉弟かあ。ま、それでも、いいか」
「んじゃ、アクション、スタート!」
こうして歳に合わないままごとが始まった。
しかし、対して面白くもなかったので、10分もしないうちに終わった。
「なんか、つまんないね」
「いや、両親がノーしかしゃべれないって、ままごとどころじゃねえよ…」
黙って見守るのが親っていう意見もあるけど、これはいくらなんでも話さなすぎ。
もはやコミュ障レベル。
「みんなのとこ、行こっか」
「うん」
床に散らばった雪を片付けて、僕たちも中庭へと出向くことにした。
「私たちも混ぜて―」
「お、来たか。お前がいないと始まらねえよ。さっさと雪、出してくれよ」
「みんなで雪合戦、しましょうっ♪」
どうやら僕を待っていたらしい。
「はいはい、っと」
昨日と同じように中庭を雪で埋める。
子どもたちはきゃっきゃとはしゃぎ、季節外れに近い雪を喜んでいる。
子どものころは僕も雪にはしゃいだなあ。
学校行くときとか自転車こげないって高校時代は思ったけどな。
「んじゃあ、早速チームを決めようか」
「それは決まってる。俺ら孤児院組と、お前ら赤組」
「え、サンタと二人だけ!?」
初心者であるリィナは本当に驚いているようだ。
確かに、相手は子どもといえど、15対2じゃ、リンチ確定だもんな。
「いやいや、忘れんなよ。僕たちにはこいつらがいるんだからさ」
手慣れた動作で呼び出すと雪から出てきた子どもより小さい雪だるまたち。
いつものように僕に飛びつく。
「寒い!おら、雪合戦だ。準備するぞ!」
「ノー!」
雪合戦のプロである彼らは猛スピードで戦いの場を作り始める。
数分後、すぐに雪の壁ができた。
「よし、できたぞ。じゃあ、2分後に開始だからな」
「おう、よっしゃ、お前ら、勝つぞ!」
「おー!」
「ラストー。子どもと雪だるまはリーダー禁止だからなー」
そびえ立つ壁にそれぞれが隠れ、お互いが戦闘配置につく。
リィナが不安そうに僕に尋ねる。
「ねえ、サンタ。大丈夫なの?この子たちいつもより小さいけど」
「当たり前だろ。本気で作ったら、子どもたち殺しかねないんだぞ」
実際3桁越えの僕のレベル依存のステータスで戦ったら、それこそ死人が出ることもありうるから、今回はいつもよりもさらに小さく作った。
「なにそれ、雪合戦って、遊びであってるよね…?」
「あってるぞ。さて、とりあえずリーダーを先に倒した方が勝つというルールだ。リーダーどうする?やりたい?」
「やってもいいけど、リーダーって、何するの?」
「特に決まってないけど、まあ負けたら覚醒させるためにあの薬を飲まされるくらいかな」
そう言うとリィナは一瞬で青ざめ、ものすごい目力で僕を見つめる。
「サンタ、リーダーお願い」
「はいはい」
ものすごい速さでリーダーを任されたので、リーダーは僕になった。
「それじゃあ、作戦は特にないから、この壁から出ない程度になら、好きにやっていいぞ。当然、魔法は無しね」
「うん、わかった」
ちょうど、2分後を告げるタイマーがなり響く。
「よーし、行くぞー!」
「おおー!」
「こっちも行くぞー。お前ら、作戦通りに、頼むぞ!」
「ノー!」
「え、作戦!?ないんじゃないの!?」
んなもん、はったりに決まってんだろ。
「雪だるまは頭を飛ばせば動けなくなる!さっさとやっつけちまえ!」
戦況はまだ互角、強いて言うなら顔面に雪を浴びて泣いている子と頭の飛んだ雪だるまが一人ずつといったところか。
さて、ここで誰にというわけではないが、僕の戦い方について説明しよう。
以前は雪だるまが敵だったこともあり、戦法を変えたが、今回は違うので、普段の戦い方をしようと思う。
やり方はいたって簡単。
「ノー!」
「うわあ、やられる~!…あれ?」
「お、おい、まさかこれは…俺を狙って…」
周りを無視して、リーダーと思われるやつを一人ずつつぶすだけだ。
「12体全員の猛攻、食らえ、ラスト!」
活発な子どもたちはほとんどが似たようにこちらに攻め込んでおり、お互いが12人に攻められているという構図が出来上がる。
「やれ」
「ノ―――――!!」
「ぐあああああああ!」
僕の合図とともに放たれる無数の雪の弾丸。
それらを全身に浴びて、冬将軍たるラストはあっさりと倒れた。
しかしまだ子どもたちが止まらないことから、リーダーではないことが分かる。
「リーダーはマイか」
「みんなー、やっつけちゃってくださいっ!」
「くらええ!」
「サンタ!」
いつの間にか壁の中に全員がきていて、13人に囲まれる。
リィナが僕の名を呼ぶが、彼らの視線の先を見ると、狙われているのはきっとリィナの方だ。
雪玉が投げられると同時に、リィナと子どもたちの間に入り、盾になる形で立ちはだかる。
「っ!」
冷たい雪が全身に降り注ぐ。
ここの子どもは腕がいいな。
なかなか威力がある。
思わず倒れてしまいそうなくらい…
「まずは一人ですね!後はリーダーっ、あ…」
力なく倒れるマイ。
「ノー!」
うしろからやってきた雪だるまが、マイに不意打ちを仕掛けたらしく、マイも気絶する。
「リィナ、大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう…」
「よかった。はい、リーダー気絶で終わり。僕たちの勝ちだな」
「ああー、また負けちゃったあ!」
「お兄ちゃん強すぎるよお~!」
昨日のように今回も手加減はしなかったから、子どもたちも勝てないことに悔しさを感じているようだ。
「へ、そんなゆるい玉じゃ、まだまだだな。せめて鉛玉でも仕込まねえとやられねーぞ」
「…冗談に聞こえないんだけど」
こうして一回戦は、あまり時間をかけることなく、幕を閉じた。
最強まで読んでいただきありがとうございます。