ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第70話:鬼のクエスト制覇

翌日。

 

「飲みすぎた…」

「うう…」

 

昨夜久しぶりに暴飲暴食をした僕たちは胸やけと胃もたれのダブル攻撃を食らい、椅子を並べてカウンターで突っ伏している。

僕は客側のカウンターに椅子をもってきてリィナと向かい合う形で突っ伏している。

 

「店番がいて助かったぜ…」

 

今日は休み、ということにしたかったのだが、さすがに飲みすぎ(二日酔いではないが)で店を休んだなんてしれたらどんな仕打ちをされるかわからない。

だから、今日はスノウマンを外に配置させて店番をやらせている。

売り子の仕事だけで、今日は個別の注文は受け付けないが。

 

「それで…結局どうするんですか?」

 

頭だけを動かして、マイが言った。

 

「えー、何を?」

「準備ですよ。孤児院の子たちに、何かするんでしょう?」

「あー、そういえばそうだったなあ…」

 

そう。

その場しのぎの嘘によって僕たちはユウリッドさんの孤児院で何かしらの出し物のようなことをしないといけなくなってしまったのだ。

まあ、不覚にも僕の差し金なんだが。

 

「んで、どうするんだよ。サンタ」

「んー、知らね。ラストとマイで考えてくれ」

「はあ!?うう、腹が…!おい、どういうことだよ」

 

大声を出した拍子に、その反動で腹を抑えるラスト。

 

「いやあ、孤児院のことはよく知らないからそっちの二人で考えろよ。金は全部出すから、好きにやれ。まあ、あんまり高いと困るから、予算は、1000万ユインくらいで頼む」

「サンタさん、言い出しっぺなのに…」

 

こいつら、恩を忘れやがって。

僕とリィナがどれだけ苦労したと思ってるんだよ…

 

「あれはお前らを助けるために言ったんだ。説教が早く済んだだけ感謝してほしいものだ」

「…わかってますよ。それにしても、1000万なんて、どこから出てくるんですか…?」

 

マイが当然の疑問を僕に投げかける。

 

「ああ、最近いい金策を見つけてな。リィナと一緒に、この前盗賊のゴブリンを倒したんだが、それだけで50万だ。だから、一日10回も似たようなのをやれば、それだけで500万は稼げるらしいぞ」

 

常人ならかなり無理に近い、労働法なんてとっくに超越するだろう活動量だが、冒険者には法律なんて通用しないんだ、きっと。

 

「…本気で言ってるんですか?」

「ああ、割とまじで。口だけってのも悪いから、今から行ってくる。リィナ、行こうぜ」

 

向かいで突っ伏しているリィナの頭の上にポンと手をのせる。

 

「ええぇ、今お腹がとんでもないことになってるんだよ…今日は休もうよー」

「だってお前、僕だけじゃクエスト受けられねえじゃん」

 

「うーん、ちょっと待ってよ…昼、昼になったら、一緒に行ってあげるから。少しだけ、休ませて…」

「まあ、それなら。僕も、なんだかんだ普通に腹やばいからなあ…」

「よくそれで行こうと思ったね…」

 

リィナに言われて、袋の中から例の小瓶を対抗材料としてカウンターに乗せる。

 

「まあ、一応胃もたれも、このポーションの範囲内だろうからなあ…」

「…私は飲まないからね」

「どうしましょうねえ、ラストー」

「うう、やべ、吐き気が…わり、ちょっと席外す」

 

口を押さえたラストがトイレへと向かう。

不快感を詰め込んだ胃袋を抱えた4人はしばらくの間ろくに動くこともできず、たまにうなり声を上げるか、深くため息をつくだけで、午前中は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は巡ってPM1:00。

 

腹の調子が良くなってきた僕とリィナは、約束の金を稼ぐためにクエストを受けに来ていた。

早速クエスト募集板を前に、スマホを構える。

 

「何してるの?」

「今から受けるクエストの内容を記録しようと思って」

 

カシャッっと、一度だけクエスト全体を見れるように写真をとって、受付に向かう。

 

「こんにちは、クエストの申請ですか?」

「はい、あそこにあるやつ全部で」

「…え?」

 

少しの沈黙の後、目の前の営業スマイルが一瞬で崩れる。

横にいるリィナも、こいつ何言ってんだといわんばかりに眉をゆがめて僕を見ている。

 

「今日のうちに全部受けます。ほら、リィナカード出せよ」

 

持っていたカードをひったくって、受付に渡す。

 

「わ、わかりました。それでは、健闘を祈ります…」

「どうも。リィナ、いくぞ」

「ちょ、ちょっと!」

 

腕を引っ張って、外へ出る。

外で待っていたルドルフが引くそりに二人で乗り込むと、ルドルフが急上昇する。

 

「んじゃあまずは、一番近いところからやっていこうか」

「サンタ、自分がしたことわかってるの!?」

「え?ああ、わかってるよ。クエスト受けたんだろ?」

「そうだけど…あれ全部今日で終わらせるなんて無理だよ!なんで勝手にきめちゃうかなあ!」

 

子どもみたいにぽかぽかと殴ってくる赤髪の少女。

クエストの数はざっと見積もって20ほど。

そのすべてが討伐関連だ。

 

「ま、なんとかなるだろ。ルドルフ、まずは外の草原まで、頼むぜ」

 

鳴り響く鈴の音は、クエストの始まりを応援しているようだった。

 

 

 

 

 

「はい、まずはスライム討伐20匹!」

 

「次、ボウルドビーの群れ討伐!どこにいるんだ!?」

 

「てめえら邪魔だ!おとなしく森に帰れ!」

 

「でかい図体だからってバカにしやがって。異世界サンタを、舐めんじゃねえ!」

 

 

 

 

 

 

PM3:00。

 

「ようし、終わり。帰るぞ」

「本当に、わけわかんないよ…まさか全部終わらせるなんて…」

「いやー、冒険者っていいな。もしマイに会わなかったら、独身貴族っていう二つ名の冒険者になってた自信がある」

「それはなんかいやだな…」

 

僕たちはすべてのクエストを終わらせて、ギルドへと戻る。

敵は多かったが、大体は空からの攻撃と、雪だるまたちのリンチによって効率よく敵を倒すことができた。

 

 

 

 

 

「いやー、受付の人のあの顔、面白かったな」

「誰だって、あれだけの時間でクエスト全部終わらせて来たら、そりゃ驚くでしょ」

 

そして帰り道。

報酬の入った袋をこさえて、店へ戻る。

孤児院で何をやるか決まっただろうか。

 

「ただいまー」

「あ、おかえりなさい!」

「よう、サンタ。戻ったか」

 

いつものように明るい笑顔で迎えられる。

朝と比べて回復したその顔を見るに、どうやら何をやるかは決まったようだ。

 

「んで、何するか決まったのか?」

「おう、すげえいいのを思いついたぜ?」

「ほう、それはそれは。それじゃあ、ぜひ教えてもらおうか」

 

4人全員が椅子に座って、いざ家族会議の開幕。

マイが自信満々な顔で僕を見る。

 

「何をするか…それはずばり」

 

前から合わせていたかのように二人で声をそろえて、叫ぶ。

 

 

 

「クリスマスパーティです(だ)!」

 

 

「は?」

 

 

季節外れの演目に、僕はこんな抜けた声しか出なかった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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