「んん。そ、それじゃあ、今日一日、いろいろとね、お疲れ様でした。乾杯」
「か、かんぱーい…」
「おお、かんぱい」
「…」
夜。
杯を握ったまま、誰も何も言いださないので、今回は僕が乾杯の音頭をとる。
いつもの飲み会より豪華な食事を用意して、乾杯したのに雰囲気が完全にお通夜だ。
「え、ええっと、今日は好きなもの頼めよ。なんでもおごってやるからさ!」
「そ、そうだよ!今日は私とサンタが、全部おごっちゃうから!」
リィナも気を回してやけくそ気味に言う。
ラストがそれをきいて、
「お、まじで?」
とつぶやいたので、こいつは大分立ち直ってるのかもしれない。
「…」
問題はこいつ、マイだ。
いつまで魂抜けたみたいに呆けてるんだよ。
まるでマネキンだ。
連れてくるときもわざわざ担いでルドルフにそりまで引かせたんだぞ。
外で留守番食らってるルドルフの気持ちにもなってやれよ。
まあ、飯のゼリーを大量に詰んだら、大喜びだったのは秘密だが。
とりあえず、まずはラストを回復させよう。
「おい、ラスト。これをお前にやる」
「ん?」
袋から今日リィナにもらった5万ユインをラストの前に置く。
「今日ちょっとギルドのクエストをこなしてな。その報酬だ。使い道がないから、お前にやる」
「ええ、まじで!?」
「ああ、後、今日は本当に何頼んでもいいぞ。なんなら帰りに夜の店でも漁ったっていいぜ?」
ニヤリ、ここ最近で割と汚い部類に入る笑みを浮かべる。
「お、お…」
どうだ!?
「俺、ふっか――っつ!ようしサンタ、今日は飲むぞ!」
「うわあ、現金…」
「…狙ってやったけど、これは、引くな…」
まあこれがいつものラストなんだろうが。
「なにいってるんだよ!俺はいつもと同じだぜ?さあ、飲もうぜ飲もうぜ。乾杯!」
一気に炭酸も入っていないジュースを飲み干す。
まあ、回復したならいい。
「さて、次は…」
「マイ!ほら、前に食べたいって言ってたスイーツ!これ、結構おいしいよ?どんどん食べてよ!」
「…」
返事がない。ただの屍のようだ。
でもまだリィナは諦めない。
「ま、まだまだ!これ、私の新作の魔力ポーション!これを飲めば、お気に入りのあのチェーンソーも、すごい勢いで回りだすよ!上げるから、今度飲んでみて!」
「…」
返事がない。ただの屍のようだ。
しかしリィナは諦めようとはしない。
「う、うう、まだ…まだあ…ぐすっ!うあああぁぁんさんたあああああ!どうにかしてえええ!」
泣いた。
リィナが飛びついてくる。
何も反応なしとか、もうこれ死んでるんじゃねえの?
「マイ、お前、そろそろ戻って来いよ…」
「…」
「おい、おい…」
「…」
ダメだ。返事がない。やはりただの屍のようだ。
「リィナ、これはお手上げだ」
「うう、サンタまで…」
「マイは死んだんだ」
こちらはもうあきらめて座り込む。
グラスの飲み物を口に運んだその時だった。
「うへへ、いやあ、さいこうの気分だなあ、やっぱうめえもんはうめえよお~」
ラストがふらついている。
なんだか様子がおかしいな。
ふと、持っているグラスが目に留まる。
「おい、ラスト、それ…」
いつ頼んだのか、ラストがもつグラスには見覚えのない桃色の液体が。
「んああ?なんだあ?お前もこれ飲むかあ?はっはっは!」
「おい、これ、酒じゃねえか!何飲んでんだよ」
「さけえ?そんなのはいってたかなあ~?」
大して面白くもないのに、ゲラゲラと笑うラスト。
「ねえ、サンタ」
「ああ、これは、もうどうにもならねえな」
お手上げだ。
僕とリィナは、ただ二人肩を寄せ合って、この喧噪と静寂の終わるのを待つほかなかった。
と、思ってたのだが。
「んん?おおい、マイぃ。お前いつまでそうしてんだよお!さんたあ、ちょっとよこせ!」
「あ、おい」
酔ったラストに袋を奪われる。
そして、あの濃い緑色のポーションを隣に座る放心状態のマイの口に突っこむ。
「おら、飲め。どんな死にかけだろうが、どんな酔ってようが、飲めば一発で全快、俺の自慢のポーションをなあ!」
「うええ、ちょっと!?」
「…」
それでも反応がない。
と思っていた矢先。半分を飲んだあたりで、異変を感じたマイの目に光が宿る。
「…ん!?はっ!!うえええええぇぇぇぇ!!」
「…それ、もうポーションの用途の範囲超えてるだろ」
これなら不治の病も直せるんじゃないだろうか。
そしてマイがようやく目が覚めた。
「まっず、またこれですか!?あれ、でもなんでこんなに豪華な料理が!?」
「あ、ああ、これ、今日の慰労会。僕とリィナのおごりだから、じゃんじゃん食ってくれよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!今日は昼間から意識がありませんけど、ありがたくいただきますねっ!それじゃあ、かんぱーいっ!」
「ういい、いいじゃねえかあ!かんぱーあい!」
こうして二人が復活した。
僕たちの努力は、すべて小さなポーション一本にかっさらわれた。
「リィナ、今日の教訓をひらめいたんだが」
「サンタ。たぶん私も、同じこと考えてる」
ラストに捨てられた袋を拾って、二つの瓶を取り出す。
「そうか、それじゃあご一緒に。せーの」
「困ったらとりあえず、こいつ(これ)を飲ませること」
「へっ。おい、ラスト!」
ラストの肩を掴んで、口を開けさせる。
「んん?なんだあ?」
「飲め!そして覚醒しろ!」
「ええい!」
二人で二本の瓶を、口に突っ込む。
「んん!…うがあああああああ!にっげえええええ!」
のたうちまわるラストをよそに、3人でグラスを掲げる。
「よし、飲むぞ!」
「うん!せーの」
「かんぱーい!!」
「ぐうあああああああ…!」
こうして再度、僕たちの宴会は始まった。
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