ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

7 / 93
第6話:我が店に贈り物を!

「んじゃ、いっちょやりますか」

 

やってきたのは冒険者ギルド。

相変わらず人でにぎわっていて、もう毎日パーティでもしてるんじゃないの?といいたくなるほどの賑わいだ。

 

そして今、なぜここに来たかというと、ラスト特製ポーションたちがどの程度のものなのか確かめるためと、それが良いものだった場合、宣伝でもして客引きをしようという考えである。

 

冒険者ギルドに入ると正面に受付があり、そこで依頼を受けたりできる感じがするが、今回はその左にある、冒険者ギルドが経営するギルドショップの店員に声をかける。

 

「いらっしゃいませ。何かお買い求めですか?」

 

そういって営業スマイル。接客が完璧だ。

 

「あの、今日は買い物とかじゃなくて。アイテムの鑑定って、できますかね?」

「ええ、大丈夫ですよ。鑑定したいアイテムはどちらですか?」

 

できるみたいだ。よかった。

 

「これで」

 

3色のポーションを渡す。

 

「では、少々お待ちください」

 

少しの間ルドルフの頭をなでて待っていると、奥で「えー!」っと声がしたかと思うと、再び戻ってきて、店員がこちらに戻ってくる。

 

「お客様!失礼ですが、このポーションはどちらで手に入れたのでしょうか!?」

 

慌てた反応。それを見るに、ただのポーションではないことが分かる。

結構な大声だったので、建物内にいる冒険者がみなこちらをみる。

店員さん。ナイスです。

 

「じ、実は今日からうちの店がこの街にオープンするんですよ!でもポーションってやっぱり質が大事じゃないですか!だからわかる方に見てもらおうと思ってましてね!それが何か?」

 

少しだけ大きな声で、しかし普通の会話に聞こえるように話す。

どうせ客が来てないんだし、今日からオープンってことにしといていいだろ。

 

「このポーション、素材が下級のモンスターからとれるものなのにすごい性能です!しかもこの緑色のポーションは、王立研究所で作られている最高級のポーションと並ぶほどの性能!いったいどうやったら、これくらいのものが作れるのですか!?」

「ええ、そうなんですか!?」

 

冒険者たちがざわつく。当然僕もその中の一人。

王立研究所というのは知らないが、そこまですごいのなんて聞いてないぞラスト。

そこそこの中級ポーションくらいだと思ってたぞ!

 

いかん、平静を保たなくては…

 

「い、いやー、知らなかったなあ!まさかそこまでの性能とは!ごめんなさい!それ試作品なんで、よかったら上げます!今日のところは失礼しますね!」

 

よし、ここまで言えば大丈夫だろう。後はギルドの外で店員さんにばれないように、宣伝するだけ…

ポーションをおいて、ギルドから出ようとする。

しかし出口付近で、いかにもヤバそうな、怖いおじさん2人組が出口をふさぐ。

 

「おい、兄ちゃん、ちょっといいか?」

「うわ、は、はい!」

 

え、何、カツアゲ?お金持ってないよ?

ルドルフは本気でビビっている。

 

「ちょっと小耳にはさんだんだが、兄ちゃんの店、今日からオープンらしいな」

「え、ええ、まあ。在庫は少ないですが、あそこの店員さんがもってるのと同じやつを取り扱ってますよ?」

「そうか…」

 

目の前の男どもは黙り込む。

もしかして客なのか?

だとしたら、こいつは使えるかもしれない。

 

「よかったら、試しに使ってみます?」

 

2本だけ残っていた、ラスト特製イカすポーションブルーを目の前でちらつかせる。

 

「!?いいのか…兄ちゃん!?」

「その代わり、ちょっとだけ手伝ってもらえますか?」

 

ニヤリと笑って手伝いの内容を告げると、男どもも同じように笑った。

 

 

 

ギルドをでて、冒険者たちの中心に立つと、大きく深呼吸して、大声で叫ぶ。

 

 

「みなさん、おはようございます!」

「ん?」

「なんだなんだ?」

 

ざわざわと、こちらに注目しだす。

よし、つかみはばっちりだ。

 

「今日から、うちの店はオープンします!名前はファミリア!そこで本日皆さんには、うちの自慢の一品を紹介しに来ました!」

 

テレビの宣伝番組の名手のもの真似をして、少しだけ高い声でオーバーに叫ぶ。

 

「本日紹介いたしますのは、こちら!ラスト特製!イカすポーションブルー!」

 

そういって小瓶を高らかに掲げる。

 

「なんだって?イカすポーション?へへっ!」

「だっせえネーミング!」

「「「はははははは!」」」

 

ラスト、やっぱり名前変えた方がいいぞ。

思いっきりディスられてる。

周囲に指をさされて馬鹿にされ、本気で帰りたくなってきた。

しかしここで、観衆に混ざっていた先ほどの怖いおじさん1号が動き出す。

 

「おうおう兄ちゃん!何抜かしてやがる!お外のスライムに頭でも殴られて、おかしくなっちまったんじゃねえかあ!?」

 

再び起こる笑い声。

いいねえ、名演技。

 

「そこまで言うなら、ギルドで鑑定してきてください!きっとわかってもらえるでしょう!」

 

ここで青いポーションを渡す。

 

「おもしれえ!ちょっと待ってな!今すぐそのだせえ名前のポーションが、ただのジュースだってことを証明してきてやるよ!」

 

おじさんがギルドの内部に駆け出す。

まあ、後はおじさんが戻ってくるまで、ちょっとだけ宣伝しとくか。

 

もう一本を取り出して、説明を始める。

 

「本日はこの一品しか持ってきていませんが、店にはこちらより性能のいい、赤色、緑色のポーションも用意しています!」

 

「赤と緑はどんな名前なんだあ?」

「どうせヤバいポーションとか、オシャレなポーションとか、まただせえ名前なんだろ?」

 

「「「はははははは!」」」

 

ラスト、ばれてる。ださい名前。まじで変えさせよう。

その時、ギルドからおじさんが、血相を変えて出てくる。

 

「どうでしたか?」

「はあ、はあ…おい、お前ら!これ、本物だあ!鑑定した姉ちゃんが、普通の店じゃ扱ってねえ、とんでもない代物だって言ってたぞ!」

「なんだって?」

「本当か?」

「ダサい名前なのに…」

 

嗤い声は止み、周囲はざわめきだす。

相変わらず名前はディスられてるが。

 

「わかっていただけましたか?このポーションの性能!これでわかってもらえたら、後の赤と緑のポーションも、わかりますよね?」

 

「おお」

「そんなにすごいなら…」

「見た目と名前で判断したらダメだよな…」

 

よーし、乗ってきた!

さて、ここから先は、ビジネスの時間だぜ?

 

ここで、ポーションのすごさがわかってもらえたところで、おじさん2号が叫びだす。

 

「でも、そんなにすごいんじゃあ、ここで売ってるポーションの、何倍もするんじゃないのか!?」

 

いいぞ、二人とも名演技だ。

 

「ご安心を!私たちはここと同じ値段で、このポーションを販売するつもりです!」

「なんだって!?それじゃあ、300ユインで売ってくれるのか!?」

 

ここで初めて、ここの通貨の名前を知る。

ユインって言うんだね。

 

「はい!また、赤は400ユイン、緑は500ユインです!」

 

「「「おおおおおおおお!」」」

 

ここまで来れば大丈夫だ。

後は最後のひと押し。

 

「しかも!今回はオープン記念ということで!特別にすべて100ユイン引きで売らせていただきます!」

 

「「「おおおおおおおおお!」」」

 

大声で、かつ高い声で叫んだせいで喉がかすれる。

もう高い声でない。あの人は地であれくらい出してるからすごいと思う。

 

「それでは今日はこの辺で!うちの店は、広場から西への道を、右に曲がり続けるとある古い家です!気になる方はこの赤い帽子を目印に!これからファミリアを、よろしくお願いしまああああす!」

 

ターンッ!っと心の中でエンターキーを押す。

決まった。

 

店に戻ろうと、来た道を戻る。

赤い帽子を先頭にして、わらわらと、冒険者が列をなしてついてくる。

 

少しして、僕の両隣にさっきのおじさんたちが並ぶ。

 

「いやあ、ありがとう。助かったよ」

 

そういって、残りの青いポーションを二人に1本ずつ渡す。

 

「いいってことよ。にしても、ずいぶんな度胸じゃねえか」

「前にいた国に、腕利きの宣伝のプロがいてね。それをまねたんすよ」

 

日本はやはり素晴らしい国だったんだな。

横にいたルドルフも嬉しそうに鈴をならして喜んでいる。

 

「そういや、あんた、名前は?」

 

もう一人のおじさんに聞かれる。

 

「…サンタクロース。この世界に、夢と希望を与えることを生業としています」

 

赤い帽子を指さして、自己紹介。

じいさん、こういうやり方も、ありだろう?

柄にもなく、得意げにスキップをして、店への道を歩むお客様を先導した。

 

 

 

そして数分後。

 

「ただいまー。」

「おう、おかえり」

「おかえりなさい!どこ行ってたんですか?」

「ちょっと僕からささやかなプレゼントをね。ラスト、ポーションはできた?」

「おう、この通りだ!」

 

さすがは職人。棚にはきれいにポーションが敷き詰められていて、100以上はある。

 

「やるじゃん。流石は王立研究所と並ぶだけのことはあるな」

「王立?まあ、いいや。んで、そのプレゼントってのは?」

 

ラストは首をかしげる。

 

「ああ、これだよ」

 

ドアを開けると、冒険者たちが我先にとなだれ込んでくる。

 

「な、なんですか!?」

「うわあ、冒険者!?」

「お客という名のプレゼントだ。お前らしっかり働けよお!」

 

入り口の脇に逃げて、サンタクロースらしく、高らかに叫ぶ。

 

 

「メリー、クリスマース!!」

 

 

僕が帰ってきてから、店が空になるまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

そして夜。

 

「かんぱーいっ!」

「かんぱーい!」

「乾杯!」

 

オープン初日(嘘)の売り上げ最高を祝って、僕たちはまた飲みに来ていた。

 

「サンタクロース、お前には参ったよ。まさか、あれだけの客をつれてくるとは」

「まあな。ちょっとポーションで釣ったら、協力してくれた人がいてね。思ったより人が集まった。それより、ラストのポーション、すごいらしいな。王立研究所級とか言われてたぞ」

「へへ、まあな。ポーションも料理とおんなじよ。ちょっと工夫すれば、うまくなる」

 

その理屈が通るのはお前だけだと思う。

 

「まあ、しばらくはポーションを売って稼ごうと考えてたんだが、マイはどうしようか。なんかとってきた方がいいか?」

「うーん、しばらくはいいです。とりあえず広告だけ貼って、オーダーメイド形式で行きましょうかね。たぶんポーション売るのに苦労するので…」

「なんかごめん」

 

派手にやりすぎたな。そのうちなんかおごってやろう。まあ、お金ないんだけど。

 

「いえいえ、いいんですよっ!店に活気がついて、私、うれしいですっ!」

 

純粋な笑顔を向けてくる。

 

「そ、そうか?ならいいけど…なんかあったら言ってくれたらなんでもするからな?」

「はい、ありがとうございます!」

「それより、今日ポーションすっからかんになっちまったけど、明日からはどうするんだ?」

「ああ、それなんだが。失礼、お手を拝借」

 

ラストの手をつかんで足元の袋に入れる。そして、大量のゼリーを念じると、ラストの手がビクゥっと一瞬はねる。

 

「すごい数じゃねえか、、お前、どうやって…」

 

まあ、3週間もスライム殴ってたらね、そりゃたまるよね。休まなかったし。

 

「このゼリーおいしくて集めてたらたまっちゃってね。いっぱいあってよかったよ」

「お前、一体何もんだ…?」

 

「サンタクロース。まあ遅めのクリスマスプレゼントとでも思ってくれ」

「あの、そのクリスマスって何ですか?」

 

横にいたマイが初めて聞いたように尋ねる。

 

「え、クリスマスってあのクリスマスだけど?」

「どのクリスマスですか?」

 

 

――――――ちょっと待て。まさかこの世界には。

 

 

「ちょっと聞きたいんだけど、12月25日って何の日?」

「普通の日ですけど、、、もしかして、サンタさんの誕生日か何かですか?」

 

 

サンタのジジイ、クリスマスの無い世界に僕を送りつけやがったな…

 

 

ラストとマイは僕に疑問の眼差しを、僕はこのサンタの仕事が、一筋縄ではいかないことを今になって理解して、頭を抱えてしまっていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。