「んじゃ、いっちょやりますか」
やってきたのは冒険者ギルド。
相変わらず人でにぎわっていて、もう毎日パーティでもしてるんじゃないの?といいたくなるほどの賑わいだ。
そして今、なぜここに来たかというと、ラスト特製ポーションたちがどの程度のものなのか確かめるためと、それが良いものだった場合、宣伝でもして客引きをしようという考えである。
冒険者ギルドに入ると正面に受付があり、そこで依頼を受けたりできる感じがするが、今回はその左にある、冒険者ギルドが経営するギルドショップの店員に声をかける。
「いらっしゃいませ。何かお買い求めですか?」
そういって営業スマイル。接客が完璧だ。
「あの、今日は買い物とかじゃなくて。アイテムの鑑定って、できますかね?」
「ええ、大丈夫ですよ。鑑定したいアイテムはどちらですか?」
できるみたいだ。よかった。
「これで」
3色のポーションを渡す。
「では、少々お待ちください」
少しの間ルドルフの頭をなでて待っていると、奥で「えー!」っと声がしたかと思うと、再び戻ってきて、店員がこちらに戻ってくる。
「お客様!失礼ですが、このポーションはどちらで手に入れたのでしょうか!?」
慌てた反応。それを見るに、ただのポーションではないことが分かる。
結構な大声だったので、建物内にいる冒険者がみなこちらをみる。
店員さん。ナイスです。
「じ、実は今日からうちの店がこの街にオープンするんですよ!でもポーションってやっぱり質が大事じゃないですか!だからわかる方に見てもらおうと思ってましてね!それが何か?」
少しだけ大きな声で、しかし普通の会話に聞こえるように話す。
どうせ客が来てないんだし、今日からオープンってことにしといていいだろ。
「このポーション、素材が下級のモンスターからとれるものなのにすごい性能です!しかもこの緑色のポーションは、王立研究所で作られている最高級のポーションと並ぶほどの性能!いったいどうやったら、これくらいのものが作れるのですか!?」
「ええ、そうなんですか!?」
冒険者たちがざわつく。当然僕もその中の一人。
王立研究所というのは知らないが、そこまですごいのなんて聞いてないぞラスト。
そこそこの中級ポーションくらいだと思ってたぞ!
いかん、平静を保たなくては…
「い、いやー、知らなかったなあ!まさかそこまでの性能とは!ごめんなさい!それ試作品なんで、よかったら上げます!今日のところは失礼しますね!」
よし、ここまで言えば大丈夫だろう。後はギルドの外で店員さんにばれないように、宣伝するだけ…
ポーションをおいて、ギルドから出ようとする。
しかし出口付近で、いかにもヤバそうな、怖いおじさん2人組が出口をふさぐ。
「おい、兄ちゃん、ちょっといいか?」
「うわ、は、はい!」
え、何、カツアゲ?お金持ってないよ?
ルドルフは本気でビビっている。
「ちょっと小耳にはさんだんだが、兄ちゃんの店、今日からオープンらしいな」
「え、ええ、まあ。在庫は少ないですが、あそこの店員さんがもってるのと同じやつを取り扱ってますよ?」
「そうか…」
目の前の男どもは黙り込む。
もしかして客なのか?
だとしたら、こいつは使えるかもしれない。
「よかったら、試しに使ってみます?」
2本だけ残っていた、ラスト特製イカすポーションブルーを目の前でちらつかせる。
「!?いいのか…兄ちゃん!?」
「その代わり、ちょっとだけ手伝ってもらえますか?」
ニヤリと笑って手伝いの内容を告げると、男どもも同じように笑った。
ギルドをでて、冒険者たちの中心に立つと、大きく深呼吸して、大声で叫ぶ。
「みなさん、おはようございます!」
「ん?」
「なんだなんだ?」
ざわざわと、こちらに注目しだす。
よし、つかみはばっちりだ。
「今日から、うちの店はオープンします!名前はファミリア!そこで本日皆さんには、うちの自慢の一品を紹介しに来ました!」
テレビの宣伝番組の名手のもの真似をして、少しだけ高い声でオーバーに叫ぶ。
「本日紹介いたしますのは、こちら!ラスト特製!イカすポーションブルー!」
そういって小瓶を高らかに掲げる。
「なんだって?イカすポーション?へへっ!」
「だっせえネーミング!」
「「「はははははは!」」」
ラスト、やっぱり名前変えた方がいいぞ。
思いっきりディスられてる。
周囲に指をさされて馬鹿にされ、本気で帰りたくなってきた。
しかしここで、観衆に混ざっていた先ほどの怖いおじさん1号が動き出す。
「おうおう兄ちゃん!何抜かしてやがる!お外のスライムに頭でも殴られて、おかしくなっちまったんじゃねえかあ!?」
再び起こる笑い声。
いいねえ、名演技。
「そこまで言うなら、ギルドで鑑定してきてください!きっとわかってもらえるでしょう!」
ここで青いポーションを渡す。
「おもしれえ!ちょっと待ってな!今すぐそのだせえ名前のポーションが、ただのジュースだってことを証明してきてやるよ!」
おじさんがギルドの内部に駆け出す。
まあ、後はおじさんが戻ってくるまで、ちょっとだけ宣伝しとくか。
もう一本を取り出して、説明を始める。
「本日はこの一品しか持ってきていませんが、店にはこちらより性能のいい、赤色、緑色のポーションも用意しています!」
「赤と緑はどんな名前なんだあ?」
「どうせヤバいポーションとか、オシャレなポーションとか、まただせえ名前なんだろ?」
「「「はははははは!」」」
ラスト、ばれてる。ださい名前。まじで変えさせよう。
その時、ギルドからおじさんが、血相を変えて出てくる。
「どうでしたか?」
「はあ、はあ…おい、お前ら!これ、本物だあ!鑑定した姉ちゃんが、普通の店じゃ扱ってねえ、とんでもない代物だって言ってたぞ!」
「なんだって?」
「本当か?」
「ダサい名前なのに…」
嗤い声は止み、周囲はざわめきだす。
相変わらず名前はディスられてるが。
「わかっていただけましたか?このポーションの性能!これでわかってもらえたら、後の赤と緑のポーションも、わかりますよね?」
「おお」
「そんなにすごいなら…」
「見た目と名前で判断したらダメだよな…」
よーし、乗ってきた!
さて、ここから先は、ビジネスの時間だぜ?
ここで、ポーションのすごさがわかってもらえたところで、おじさん2号が叫びだす。
「でも、そんなにすごいんじゃあ、ここで売ってるポーションの、何倍もするんじゃないのか!?」
いいぞ、二人とも名演技だ。
「ご安心を!私たちはここと同じ値段で、このポーションを販売するつもりです!」
「なんだって!?それじゃあ、300ユインで売ってくれるのか!?」
ここで初めて、ここの通貨の名前を知る。
ユインって言うんだね。
「はい!また、赤は400ユイン、緑は500ユインです!」
「「「おおおおおおおお!」」」
ここまで来れば大丈夫だ。
後は最後のひと押し。
「しかも!今回はオープン記念ということで!特別にすべて100ユイン引きで売らせていただきます!」
「「「おおおおおおおおお!」」」
大声で、かつ高い声で叫んだせいで喉がかすれる。
もう高い声でない。あの人は地であれくらい出してるからすごいと思う。
「それでは今日はこの辺で!うちの店は、広場から西への道を、右に曲がり続けるとある古い家です!気になる方はこの赤い帽子を目印に!これからファミリアを、よろしくお願いしまああああす!」
ターンッ!っと心の中でエンターキーを押す。
決まった。
店に戻ろうと、来た道を戻る。
赤い帽子を先頭にして、わらわらと、冒険者が列をなしてついてくる。
少しして、僕の両隣にさっきのおじさんたちが並ぶ。
「いやあ、ありがとう。助かったよ」
そういって、残りの青いポーションを二人に1本ずつ渡す。
「いいってことよ。にしても、ずいぶんな度胸じゃねえか」
「前にいた国に、腕利きの宣伝のプロがいてね。それをまねたんすよ」
日本はやはり素晴らしい国だったんだな。
横にいたルドルフも嬉しそうに鈴をならして喜んでいる。
「そういや、あんた、名前は?」
もう一人のおじさんに聞かれる。
「…サンタクロース。この世界に、夢と希望を与えることを生業としています」
赤い帽子を指さして、自己紹介。
じいさん、こういうやり方も、ありだろう?
柄にもなく、得意げにスキップをして、店への道を歩むお客様を先導した。
そして数分後。
「ただいまー。」
「おう、おかえり」
「おかえりなさい!どこ行ってたんですか?」
「ちょっと僕からささやかなプレゼントをね。ラスト、ポーションはできた?」
「おう、この通りだ!」
さすがは職人。棚にはきれいにポーションが敷き詰められていて、100以上はある。
「やるじゃん。流石は王立研究所と並ぶだけのことはあるな」
「王立?まあ、いいや。んで、そのプレゼントってのは?」
ラストは首をかしげる。
「ああ、これだよ」
ドアを開けると、冒険者たちが我先にとなだれ込んでくる。
「な、なんですか!?」
「うわあ、冒険者!?」
「お客という名のプレゼントだ。お前らしっかり働けよお!」
入り口の脇に逃げて、サンタクロースらしく、高らかに叫ぶ。
「メリー、クリスマース!!」
僕が帰ってきてから、店が空になるまで、そう時間はかからなかった。
そして夜。
「かんぱーいっ!」
「かんぱーい!」
「乾杯!」
オープン初日(嘘)の売り上げ最高を祝って、僕たちはまた飲みに来ていた。
「サンタクロース、お前には参ったよ。まさか、あれだけの客をつれてくるとは」
「まあな。ちょっとポーションで釣ったら、協力してくれた人がいてね。思ったより人が集まった。それより、ラストのポーション、すごいらしいな。王立研究所級とか言われてたぞ」
「へへ、まあな。ポーションも料理とおんなじよ。ちょっと工夫すれば、うまくなる」
その理屈が通るのはお前だけだと思う。
「まあ、しばらくはポーションを売って稼ごうと考えてたんだが、マイはどうしようか。なんかとってきた方がいいか?」
「うーん、しばらくはいいです。とりあえず広告だけ貼って、オーダーメイド形式で行きましょうかね。たぶんポーション売るのに苦労するので…」
「なんかごめん」
派手にやりすぎたな。そのうちなんかおごってやろう。まあ、お金ないんだけど。
「いえいえ、いいんですよっ!店に活気がついて、私、うれしいですっ!」
純粋な笑顔を向けてくる。
「そ、そうか?ならいいけど…なんかあったら言ってくれたらなんでもするからな?」
「はい、ありがとうございます!」
「それより、今日ポーションすっからかんになっちまったけど、明日からはどうするんだ?」
「ああ、それなんだが。失礼、お手を拝借」
ラストの手をつかんで足元の袋に入れる。そして、大量のゼリーを念じると、ラストの手がビクゥっと一瞬はねる。
「すごい数じゃねえか、、お前、どうやって…」
まあ、3週間もスライム殴ってたらね、そりゃたまるよね。休まなかったし。
「このゼリーおいしくて集めてたらたまっちゃってね。いっぱいあってよかったよ」
「お前、一体何もんだ…?」
「サンタクロース。まあ遅めのクリスマスプレゼントとでも思ってくれ」
「あの、そのクリスマスって何ですか?」
横にいたマイが初めて聞いたように尋ねる。
「え、クリスマスってあのクリスマスだけど?」
「どのクリスマスですか?」
――――――ちょっと待て。まさかこの世界には。
「ちょっと聞きたいんだけど、12月25日って何の日?」
「普通の日ですけど、、、もしかして、サンタさんの誕生日か何かですか?」
サンタのジジイ、クリスマスの無い世界に僕を送りつけやがったな…
ラストとマイは僕に疑問の眼差しを、僕はこのサンタの仕事が、一筋縄ではいかないことを今になって理解して、頭を抱えてしまっていた。