街に帰って、今僕たちはギルドで報酬をもらい、そして、帰路。
「結構もらえたな。あれ倒すだけで50万とか、うちの売り上げ何日分だよ」
「命がかかってるからね。そりゃあ高いよ。それに、パーティ組んでれば山分けしないといけないから、一人で50万ってわけじゃないからね」
そうか、一人50万ずつもらえるわけじゃないか。
強いやつを相手にするには結構な数を揃えないといけないから、あまりいい値段とも言えないな。
「なるほど。でも、1時間もかかってないし、毎日10回くらいずつやったら僕一人でこの街買えるくらいの金は稼げそうだな…なんて」
「…冗談に聞こえないからやめてよ。普通ああいうのは倒すのに、結構かかるものなんだから」
「ま、良かったじゃん。帰って二人に自慢してやろうぜ」
「うん。あ、後、これサンタの分ね」
そういって半分の25万ユインを僕に渡してくる。
「ん、いらね。給料はマイからもらってるし。後、これも仕事の内だ。全部もらっとぐえぇ!」
つっぱねて前を歩くと、フードを掴まれて、息が詰まる。
「それじゃあ私の気が済まないの!しかも倒したの、サンタ一人じゃん!いいからもらってよ!」
「げほ、げほ。仕方がねえな…んじゃ5万だけ」
5枚の硬貨を手からつまみ上げて、袋にいれる。
「本当は半分じゃないと気が済まないけど…まあいいや。今、マイたちはどうなってるんだろう」
「さあね、それはこの道を曲がればわかることさ」
道を曲がって、見慣れた古い我が家にたどり着く。
ポーションが売り切れたのか客の姿はないが、まだ子どもたちは遊んでいて、売り子の仕事が終わった雪だるまたちと雪合戦をしている。
「ああ、まだ終わってないっぽいね」
「うう、お腹が痛くなってきた」
こいつも不憫だな…
まあ、僕もだけど。
「今日はどこかの店で二人で慰労会でも開くか…」
入り口で僕を迎えるコメットに餌をあげて、僕たちは覚悟を決めて2階への階段を上がった。
「戻ったぞ」
「サンタ…」
げっそりとした二人を見て何があったのかを悟る。
今日の慰労会は4人でやるか。
「あら、おかえりなさい」
ユウリッドさんは相変わらず僕たちには優しく微笑む。
「どうも。やっぱり少し合わないだけでも、話すことは山ほどあるんですか?」
リィナをユウリッドさんの隣の席に座らせようと肩をつかむが、真っ青な顔で訴えるようにこちらを見るので、仕方なく僕が座る。
「そうね。まだまだ話足りないくらい」
にこりと笑ってユウリッドさんは向かいの席のマイとラストを見やる。
ラストは疲れた顔をしつつもまだ意識はあるが、マイに至ってはもう放心状態だ。
孤児院を飛び出してとか言ってたし、説教でもされたか?
「そういえば、孤児院はあなた一人で経営されてるんですか?」
自然な流れで、話題をそらす。
もうこれ以上は二人にダメージは負わせられない。
だってマイとか、もうやばそうだもん。
親指を立てて、任せろ。といった意思表示をラストにすると、感動からか声にならない声を上げ、両手で口元を覆って泣きそうな顔をする。
「ええ、そうね。元は私の両親が経営していたんだけど、どちらも私が10歳の時に亡くなっちゃって。それからは私一人で経営してるわね」
両親の死。
サンタクロース、二人を助けるとか言った手前、早速両親が死んだという地雷を踏んだ模様。
「…なんかごめんなさい」
「いいのよ、そんなの、知らなかったんだから。気にしないで、ね?」
フォローをされたが、僕のメンタルにも早速ひびが入る。
「…僕も親とかいないんで、もしここにくるのが後10年早かったら、こいつらの兄弟になってたかもしれないですね」
メンタルに傷がついてもここで沈黙してはいけないので小粋なブラックジョーク(?)を放つ。
「あら、あなたもなの?」
「あ、私もみなしごです」
「あらあら。ずいぶんと、不幸な人たちが集まったものね。ふふっ」
何がおかしいのか、ユウリッドさんはそう言って笑って見せた。
「孤児院のことは聞いてましたよ。ラストから。色々と迷惑をかけてたとかなんとか」
「そうねえ。面倒はいっぱいかけられたかな。いきなり店を始めちゃうんですものねえ?」
「いぎいっ!?」
冷ややかな視線が流れ弾となってラストへ投げられる。
これ以上はこいつも持たなそうだな…
「でも、だから孝行はしてやらないとなって言ってて、この店の売り上げから、ひそかに貯金も組んで、何かしようとしているみたいですよ?」
「え?そうなの、ラスト?」
もちろん嘘だ。
しかしこの辺でうまく収めてやらないと、こいつらの立場がなくなる。
「ええ、そうなんですよ。俺になんかあった時は頼むわなんて言っちゃって、僕にこんな大金を持たせてるんですよ?」
袋をひっくり返すと、じゃらじゃらと、大量の1万ユイン硬貨が音を立ててテーブルの上に積まれる。
「うそ、こんなに!?」
「なんでも孤児院の一人での経営は大変だとかなんだとかで、それで少しでも楽させてやりてえなってこの前飲んだときにマイと一緒に話し合ってて、それから少しずつこうやってお金を貯めてるんですよ」
「ラスト、マイ…!」
「そうだよな?ラスト?」
店の給料、使わないで持っておいてよかった。
ユウリッドさんに見えないように親指を立てて、ラストに、とりあえずこの話に乗っとけ、と意思表示をする。
親指万能だな。
「え、えーと、はは、まあ、そういうことなんだ。姉ちゃんには迷惑かけてたからな」
「さっきはそんなこと言ってなかったじゃない。もっと早く言ってくれれば少しは説教も抑えてあげたのに…」
あ、やっぱり説教されてたんですね。
1時間以上も。
「まあ、こんな感じで金もたまって、今度何かしでかしてやろうって考えてるんで!毎日それの準備もしてて、今日もこれからやろうと思ってるんですよ。できれば内容までは知られたくないので、今日のところはお引き取りいただけませんかね…?後日、準備ができたら、そちらに乗り込むんで!」
ハチャメチャな言い訳だ。
そして、しでかすだとか乗り込むだとか、悪いことでも企んでるぞと思わせるような言い回しだ。
「…そういうことなら、今日は帰ろうかしら?」
「そう長くは待たせないので、もう少しお待ちくださいね。後、御用があれば、僕に言ってくれれば、子守でも遠足でもどこでも連れていくんで、いつでもどうぞ!」
そしてにっこり。
バイトで学んだ営業スマイルを、ここで存分に発揮する。
ついにユウリッドさんの重い腰が上がった。
「ふふ、私一人でできることも限りがあるし、そのうちお願いしようかしらね。あなたも、手伝ってくれるのかしら?」
「は、はい!もちろん!」
突然振られたリィナがびくっと跳ねて返事をする。
「あ、外にいる雪だるまには、見送りをさせますね。帰ってから遊んでもいいですけど、明日の朝には動かなくなるんで、ちゃんと子どもたちにお別れをするようにして言ってあげてくださいね」
「わかったわ。ありがとう。じゃあ、また」
そして子どもたちと雪だるまをつれて、ユウリッドさんは帰った。
リィナと僕は、ほっと安堵の息を吐き、説教を受けていたらしい二人は、しばらくの間、放心状態で何もない空間をぼんやりと見つめていた。
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