「よっと」
「グア!」
ほぼ突撃に近い攻撃を躱して頭をつかんで他のゴブリンに向かって投げ、躱しきれない部分は拳で迎え撃つ。
後ろからの攻撃は、ほとんど飛んでこないから、正面だけを相手にする。
「全部、食らいなさい!」
「シャアアアァァァ…」
僕の後ろでは、リィナが呼び出した炎の大蛇が、あたりのゴブリンを食い散らかして無双する。
あれか、ラストが覗きをした時に出てきたあの蛇か。
「なんだよそれ。僕要らねえじゃねえか」
「そんなことないよ。サンタのおかげで私の周りには敵が来ないし、おかげで自分のことは考えなくても戦えてるし、ね!」
「まったく、どっちが援護なんだかね。っと!」
「ガッ!」
リィナを狙った攻撃を腕を伸ばして防ぎ、ラリアットのように振り抜いて吹き飛ばす。
「シャアアアア!」
「ん?」
ゴブリンを殴っているところへ、僕が大蛇の目に留まる。
燃えるような、いや、文字どおり燃えている目は僕を捉え、少なくともその鋭さは仲間を見る目ではない。
「おい、なんかこっち見てるぞ?」
「あ、あはは。この子、私以外に戦っている人は敵味方構わずに攻撃しちゃうんだ」
初めて明かされる新事実。
大きく口を開けた大蛇が、勢いよく僕にその口を近づけてくる。
「おいおい…それって」
「ごめん。我慢してね」
「シャアアアアアア!」
パク。
頭からすっぽりとかじられる。
口の中は熱く、息をしたら肺がやけどしそうだ。
これは、やべえな。
息が切れる寸前で、ようやく解放され、地面から落とされる。
「いてっ。うわあ、あっつ…深呼吸したらミディアムどころの焼き加減じゃねえぞ…!禿げてないよな?」
髪が燃えていないか、帽子の中まで手を突っ込む。
この年でハゲはごめんだ。
そして、いつもと変わらずに頭を覆ってくれている我が髪の毛に感謝。
「ごめんねサンタ。でも、私の最大級の魔法なのに…なんでそんなぴんぴんしてるの…?」
「いや、一応僕、火には慣れてるし」
大学生ともなれば、バーベキューでもなんでも、火起こしの一つや二つ、軽くやってしまうものさ。
なんならこの世界で一番僕が耐性がある属性だといっても、間違いはない。
「ま、これ飲んで、この調子でがんばれ」
「あ、ありがとう。ん…ぷはあ!」
ポーションを渡して、飲ませる。苦くないやつね。
大会の時にわかったことだが、こいつはスタミナがないからな。
もしものために温存してやらないと。
「ギシャアアアア!!!」
リィナの回復に呼応するかのように勢いを増した大蛇は渦のようにあたりにその長い体を巡らせてゴブリンたちを阻み、炎で形作られた牙で敵を食い荒らす。
そして、5分もしないうちに、ゴブリンたちは残さず全滅した。
「すげえな」
「でしょ。さあ、最後は、あいつを倒して、終わりね」
「ゲヘ、ゲヘヘへ…」
黙ってみていた巨体のゴブリンがついに腰を上げる。
「ギシャアアアア!」
それに向かって大蛇が飛びつき、ぐるぐる巻きにして燃やそうとする。
「ゲ?ゲッヘエア!」
しかし、その状態でも難なく両手を広げ、今まで大活躍だった大蛇は火の粉となって弾け、あたりに飛び散る。
「うそ!やられちゃった!」
「それじゃあここからは、 僕のターンかな?」
リィナの足元に袋を投げ捨てて、両手の関節を鳴らす。
「それじゃあ、僕もリィナみたいに、最大級の技を使ってみようかね」
「え、最大?雪がないのに、使えるの?」
「ああ、一個だけ、まだ使える技があったんだよ」
大きな棍棒を振り上げる巨人を目の前に、一人つぶやく。
「赤いサンタクロースは夢と希望を。そして良い子のみんなにプレゼントをおいて去っていく。そんな彼には対になる兄弟みたいなやつがいるんだ。その名も…」
「ゲッハアアア!!」
振りかぶった棍棒が僕の頭に垂直に振り下ろされる。
「…ブラックサンタ」
森の中、鳴り響く轟音。
大地を揺らすような攻撃が地面を揺らし、生じた風も木々を揺らす。
その中心で、僕はその棍棒を、片手で受け止めた。
「っつつ。しびれるねえ」
「サンタ!」
「それじゃあ、仕返しだな。袋を広げろ、リィナ!」
棍棒を両手でつかんで取り上げる。
そしてそれを、リィナに向かって投げる。
「ええ!?きゃああ!」
咄嗟に足元の袋を盾にして、リィナはしりもちをつく。
投げられた棍棒はリィナめがけて、リィナの持つ袋めがけてまっすぐに飛んでいく。
棍棒は袋に吸い込まれるようにして姿を消し、巨体のゴブリンは丸腰になる。
「ようし、これでお前は丸腰だ」
「あれ、サンタ…帽子が…!」
僕の頭上の、黒ずんだ帽子を指さされる。
「ああ、まあアレだ。サンタクロースは、シークレット枠として真っ黒バージョンもあるんだよ」
安心させてやろうと口元を引き延ばして二カッと笑う。
「それじゃあ、張り切って、お仕置きターイム!!」
数秒後、叫び声も上げずに地面に伏した大きな巨体は、何かの骨のようなものをゴロンと地面に転がして黒い灰と化し、跡形もなく崩れ落ちた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。