「おーい、追加だ追加!どんどん売れえ!」
「ノーウ!」
店番をする雪だるまのカウンターであるそりにポーションを積み上げるとますます活気が増して、ポーションの山に飛びつく。
それにしても、流石はポーションだ。
毎日毎日、同じ数を売ってても、売れ残ることはない。
というかこの街の冒険者どもダメージ受けすぎじゃねえの?
本気で魔王討伐をしてるということなのだろうか。
「うわあー、すごい!姉ちゃん!雪だるまが動いてるよ!」
「遊んで遊んで―!」
「ノ―!?」
数人の子どもたちがやってきて、雪だるまに群がる。
「ああ、ダメだよ君たち。こいつは今お仕事してるんだから」
あやすように子どもを止めにかかる。
「えー、一緒に遊びたかったのにー」
「ごめんな。僕の友達を呼ぶから、そいつと遊んでてくれよ」
いつものように手をつくと、いつもより大きな雪だるまが雪の中から現れる。
僕よりも大きく、丸くて抱き心地がよさそうなその雪だるまは、子どもの前にかがんで手を差し出した。
「わあ、すごい!おっきいやあ!」
子どもたちはその大きな雪だるまに集まる。
雪だるまは大きな体を活かして遊具のように子どもたちを楽しませる。
「…ちょっと、頼んだぜ。僕は休む」
そりに座り込んで、息を吐く。
この雪だるまの召喚は、大きいものを出すほど疲れがたまる。
だから大きいのを一体出すより、小さいのを数匹出した方がコスパがいいのだが、子ども相手にはやはり大きい方が良いだろう。
前では売り子の雪だるまがポーションを売り、左では大きな雪だるまが子どもと戯れる。
うん、これ、結局のところ…
「僕、何もしてねえなあ」
溜息交じりにそう漏らす。
「あの、あなたはこの店の方ですか?」
「ん?ああ、そうですけど」
声をかけられて左を向くと、派手ではない服の、長い茶髪をきれいにまとめた女の人が、小さな女の子と手をつなぎながら、僕を不審そうに見ている。
「それじゃあ、あなたはあの子たちの…」
「ん、あの子?」
その時、勢いよく店の扉が開かれ、我が店の職人達が外へ出てくる。
「うわあ、お客さん、外の方で溜まってるじゃないですかあ!」
「雪だるまで商売とか…流石サンタ、やるじゃねえか!」
マイとラストが目を丸くしながら僕の方へ駆け寄ってくる。
「なんだよサンター、こんな楽しそうなことやるなら俺たちにも…」
ラストがそばにいた子連れの女の人を見て固まる。
ついてきたマイも同じように、その人を見てさらに目を見開く。
「久しぶりね。二人とも」
「ね、姉ちゃん!」
「ユウ姉さん…!」
「え?姉ちゃん?」
驚いて女の人を見ると、その人は優しく微笑んで言う。
「自己紹介がまだでしたね。二人の育ての親の、ユウリッドといいます」
「どうぞ、粗ポーションですが」
「ありがとう」
外で雪だるまに売り子を任せて、僕たちは二階のリビングに5人でいる。
テーブルは4人分の椅子しかないので、僕は一人だけ近くのソファに座る。
「えっと、リィナです。一緒に働きながら暮らしています」
リィナが緊張しながら自己紹介をする。
僕もそれに便乗して、名乗る。
「あ、僕はサンタクロース。この世界に帽子一つで野放しにされてきたところを、マイに拾ってもらって、一緒に働かせてもらってます」
「ふふ、面白いわね。リィナさんと、サンタクロースさんね。いつもこの子たちが、お世話になってます」
母性を感じる優しい笑みを浮かべながら、小瓶に口をつける。
「あら、おいしい」
「姉ちゃん。久しぶりじゃん…今日は、どうしたんだよ?」
当のポーションの生みの親であるラストはいつもみたいに口がよく回らない様子。
育ての親というからには、やはり頭が上がらないのだろうか。
「どうしたって、孤児院から飛び出して、店を始めた二人が、ちゃんと生活できてるかを、見に来ただけよ」
攻撃的な物言いに、2人が縮こまって肩を竦める。
「孤児院…」
そういえば、だいぶ前に、孤児院で育ったような話を聞いた気がする。
育ての親ということは、この人が二人を育ててたのか。
でも、それにしても…
「育ての親なのに…若いなあ」
「ふふ、ありがとう。私、育ての親といっても、まだ20歳とちょっとなのよ」
20とちょっと?
いくらなんでも若すぎだろ。
孤児院は親が経営してたのか?
「じゃあ、歳の離れた姉ちゃんみたいなもんですかね」
「そうね。そう思ってくれて構わないわ。外の子たちには、流石にもうお姉ちゃんなんて呼ばれるには、離れすぎてるかもしれないけれどね」
ふふふっと、楽しそうに笑う。
外で遊んでるのは、孤児院の子どもたちだったのか。
「なるほどー」
そこで会話が途切れて、しばらくの間沈黙が流れる。
久しぶりの再会のはずなのに、二人はとても気まずそうに下を向いている。
どうしてそんな顔してんだよお前ら。
なんかしゃべれよ。
ユウリッドさんの隣に座るリィナはもう耐えられないといったような顔で、口をパクパクさせながら、
た す け て
と、SOSのサインを送ってくる。
「え、ええと、ああ、そうだ。せっかくなんだし3人でゆっくり話したらどうですかね。家族水いらずって感じで。な、リィナ、僕たちは外で飯でも食って来ようぜ?」
「そ、そうね!それじゃあ、後はごゆっくりどうぞ!」
「お、おい、サンタ!」
青ざめるラスト。
「店のことと外の子どもたちの面倒はうちの雪だるまが全部やっといてくれるから、気にすることは無いよ!そんじゃ、ごゆっくり!」
「サンタさん!」
ごめん、二人とも。
リィナだけじゃなくて、僕もこの空気、耐えられないんだ。
リィナの手を引いて、僕は窓へと手をかける。
「そういうことだから…って、サンタ!?なんで窓!?」
「しっかりつかまってろよ」
早いとここの空気から逃げ出したい僕は、階段を下る余裕すらなく、リィナを抱きかかえて、逃げるように窓から飛び降りた。
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