「というわけで僕も売る側に回りたいんだが」
「どういうわけだよ」
翌朝の開店前に椅子に並んで座る3人の前で僕は今日売る側に回りたいということを伝えた。
「3人で売るより効率が断然良いから。僕も仕事しないで金もらうのもなんか申し訳ないし、なんでもいいから手伝いたいんだよ」
僕がどれだけ何もしてないからもらえないといっても、マイが聞かないでお金を持たせて来るのがある意味ストレスになってしまっている。
ニートがお母さんに金をもらうような気分の疑似体験、的な?
夜な夜な材料を集めているがあんなのは仕事ではない。
ただ夜中にスライムと遊んでるだけだ。
「まあ、アレだ。いい加減に仕事しないとテンションが夜になるまで下がりっぱなしなんだよ。3割くらいでいいから、手伝わせてくれよ」
「俺としてはお前にはいろいろしてもらってるし何もしなくてもいいと思ってたんだけどな」
「でも、働きたいっていうのなら、やってもらいましょうよっ!もしサンタさんの方で売れれば、売り上げも上がりますし!」
「まあ、やりたいならいいんじゃないかな」
女性陣は乗り気のようだ。
「仕方がねえな。それじゃあ半分、持ってけよ」
こうして全員の承諾が得られた。
「サンキュー。それじゃあ、なくなったらまた来るよ」
棚に並べてあったポーションの列の半分を豪快に袋に入れて、勢いよく扉を開けた。
久しぶりに見上げた空に上がる太陽の光がまぶしい。
「よし、やるか」
店の前はいつもよりもにぎわっている。
その人だかりの中で、僕は一人声を張り上げる。
「さあさ、お立会い。今日は赤い帽子の特別販売!季節外れの雪とともに、サンタクロースがやってきました!」
「なんだ?」
「久しぶりに赤帽子がなんかやらかすみたいだぞ」
人々は店に入らずに僕を取り囲む。
やはりそこそこの知名度はあるようで、赤帽子という声がところどころ聞こえてくる。
「本日の売り子はこの子たち!」
手をかざすと、雪から飛び出るスノウマン。
この街では見せていない雪だるまの登場に、驚きの声が上がる。
「はあ…彼らは僕たちの言葉を理解しています。そんな彼らが、今日は店番をしたいということで、お店の美男美女のお三方にたのんで、やらせていただくことになりました。ポーションは彼らがお売りしますので、付き合っていただける方はどうぞお立会いください!」
「ノオオオオ!」
「それでは、開店です!こっちはポーション専用なので、いつもの注文やら変わった魔法道具は、中の素敵なお嬢さん方にお声をおかけください!」
「ギエエエアアアアア」
店の向かいにみんなで陣取って、僕たちの営業が始まった。
「赤いの3つ!」
「いつもありがとう。また来てよ!」
「ノウ!」
僕の呼び出した雪だるま7体は、さぼりもせずに店番を遂行する。
意思を持つ雪だるまたちは人気で、たまに「この子を売ってくれないか」と僕に声をかけられたりするほどだった。
もちろん、売り物じゃないので断ったが。
そして売り子が多いのもあって、売り物のポーションは底を尽きかけていた。
「それじゃあ、追加のもらってくるから、それまでここにあるの売っといてくれ」
「ノーウ!」
そりの席に自分用のポーションを積み上げて、袋をもって店に入っていく。
扉を開けると、暇そうにした3人がそろって頬杖をつきながら、客の訪問を待っていた。
「いらっしゃ…!なんだ、お前か」
すごくがっかりされる。
なんかごめんね。
「今日はお客さん来ませんねえ…」
「暇だねー」
本当に暇そうにする二人。
まるでいつもの僕みたいだ。
「それで、サンタさんも暇で来たんですか?」
そんなマイがゆるい笑顔を浮かべながら、僕に質問を投げかける。
「いや、ポーション売れたから、追加でこれ全部持っていくよ」
「あー、はい。いいですよ」
「おう、サンキュ」
棚の残りのポーションをまたすべて突っ込んで、店を出る。
店を出るとき、はっとして顔を上げて、
「ええええええええええええ!?」
という叫びをきいて、扉を閉める瞬間びくっと跳ねてしまった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。