「サンタのやつ、最近どうしたんだかなあ」
「最近はずっとあんな感じだもんね。サンタ、どうしたんだろう」
ラストもリィナも、不満そうに料理を口に運ぶ。
「そんなに仕事もしてないはずだから、疲れてるっていうのはないはずなんだけどなあ」
「ちょっと、サンタさんはしっかりやってくれてますから、そんな言い方しないでくださいよっ」
ラストの愚痴に注意をしつつも、確かに疲れてあんな風に脱力してるとは思えないし。
いつ仕事してるのかっていうくらい暇そうにしてますけど…
「何かサンタも楽しみが見つけられれば、ちょっとは変わるのかなあ」
本当に、どうしちゃったんですかね。
このところのサンタさん、明日やる気が無いように見えるというか、なんだか1人だけ浮いているような…
でも、仕事はしっかりしてくれているし…ああ、わからない!
「とりあえず、戻りましょう!今日は夕飯の買い物もしないといけないし、そろそろ出ないと昼休みも終わっちゃいますからっ!」
みんなで席を立って、お会計を済ませようとする。
「ごちそうさまでした。お会計お願いします」
「いつもありがとうございます。お会計の方はもうお済みですので。またいらしてください」
「え…?」
お会計はお済み?
ということは、まさかまた…
「いつもの赤い帽子の方ですよ。良い方ですね」
「え、えへへ…そうですね」
店員さんの笑顔に、苦笑いをしながら店を出る。
「気は利かせてくれてるんだけどなあ。あいつ」
「いい加減、自分のことにもお金、使えばいいのに」
2人も言うとおり、サンタさんは私たちに過剰に気も使ってくれるし、最近は自分のためにお金を使わない。
本当に、サンタさん。
私には、あなたのことが分からないです…
全く、ユーエン街から帰ってきてからというもの、なぜだか僕の堕落に拍車がかかっているような気がする。何故か日中ずっと、気分が乗らない。
餌をコメットとルドルフにあげて、午後もおじいさんのように椅子に座ってきーこきーこと揺れているうちに、空が暗くなり、営業終わりの看板をラストが持って出てくる。
「サンタ、今日も終わったぞ」
「そうか、お疲れ」
椅子をもって店の中に入って鍵をかける。
そして夕食。
普段の夕食は女2人が作っている。
ラストは三ツ星レベルまで達しているが、リィナとマイの料理も負けてはいない。
マイはいつも作っているだけあってやはり手慣れている。
料理の段取りが完璧なことがその証拠だ。
リィナも旅をしていたおかげで自炊の経験から料理がうまい。
僕はあまり料理をしないので、カップラーメン及びチャーハン、頑張っても卵焼きだ。
なので料理は任せている。
料理も、の間違いか。
朝からここまでの僕を見れば誰でもひもかニートとでも思われて当然だろう。
「いただきます」
並べられた料理に手を合わせ、食材というよりは作ってくれた2人への感謝も込めて、挨拶。
「サンタ、おいしい?」
毎日この時間、リィナの作ったものを口に運ぶたびにリィナに聞かれるお決まりの言葉。
「…毎回僕に聞くけどさ、ラストに聞いてくれよ。こいつの方がためになる」
「だって、ラストは自分よりうまく作らない限り、褒めてくれなそうだから…」
「…」
ラストは気まずそうにコップで顔を隠すようにして水を飲む。
まあ、一流のシェフに晩飯の感想なんて、聞いてるだけで毎日ストレスが溜まりそうだ。
「それで、どうなの?おいしい?」
「ああ、いつものことだけどうまい。一生作ってほしいくらい」
「んな!」
何気ない気返事レベルの返しだったがリィナの顔を赤くしてしまう。
それを聞いてマイが口をはさんでくる。
「ちょっと!私も作ったんですけどっ!」
「おう、こっちもうまいよ。マイはもうなんか手慣れてて、お母さんって感じだな。リィナのはなんか歳の近い子が作ったってか、なんかすごくドキッとする」
「お母さん…!?」
フォークを落としてがっくりと肩を落とすマイ。
まあ年頃の女の子がお母さんなんて、普通萎えるよな。
「お前リィナ好きすぎだろ…」
「まあ、妹みたいなもんだし。僕は家族いないけど、妹がいたらシスコンになってたかもな」
これは僕の本音だ。
年下の子には気軽に接することができるし、何より可愛いから。
妹か弟が、本当に欲しかった。
「妹かあ…」
何故か遠い目をしている。
そんな嫌だったか?
「歳だって一番下だしな」
「まあ、そうだけど…でも、3つ上のお兄ちゃんかあ」
「あ、でもお兄ちゃんとか呼ばれんのはすげー嫌だ」
「いやなの!?」
「サンタ、さっきから意味わかんねえよ…」
あきれたようにラストが僕を見る。
血族でもない子にお兄ちゃんなんて呼ばせてたら、僕が変態になるだろうが。
「ま、誰も血はつながってないじゃん?」
「それなんだよなあ。本当に俺たちって不思議だよな。そろいもそろってみなしごなんだしよお」
孤児院出身のラストとマイに、親も兄弟もいないリィナ。
まあ僕の場合はみなしごとかのそんなレベルじゃなく世界からの絶縁なんだが。
あのじじい。くそ。
「まあ、これから誰かが結婚すれば、新しい家族の方を優先して家でも建てていなくなるんだろうけどな。最後に僕がこの店継いで、孤独死だろうな」
「なんで最後にサンタさんが残ること前提なんですか…」
「恋愛なんて、くそくらえだ」
「お前には何があったんだよ…」
ラストよ、イケメンのお前にはわからない世界もあるんだ。
というか生まれたときからこの世界スタートだったら、僕もそうは思わなかったんだろうけどな。
「まあ、僕が残る理由は、簡単に言うと、お前らのスペックが最高だから。全員美男美女、おまけに全員料理もできるし、ラストに至っては店を開けるレベルだ。マイは普通になんでも作れる腕があるから仕事もできるし、リィナだって魔法使いだから人生だけじゃなく戦場のパートナーとしても一生付き添ってくれそうだし、結婚できないわけがない」
「サンタさんだって、強いんだからリィナと一緒で戦場のパートナーとしてっていうの当てはまるじゃないですか」
「ちょっと、マイ…」
リィナが焦って顔を赤らめる。
そんなに嫌そうな対応するな。悲しいだろ。
「世の中強けりゃいいってもんじゃないんだよ。それに僕のような冴えない人間のために独身貴族という素晴らしい言葉があってな。だから一人でも、大丈夫。ルドルフもコメットもいるしな」
リィナの気を害さないように否定して見せると、いつの間にか視線が僕の方に集中していた。
「その歳でそこまで悟れるって、本当に何があったの…?」
全員が不憫そうに僕を見る。
やめろ。そんな顔をするな。
「ま、4人でいるうちは、お前に寂しい思いはさせないからよ!俺も家庭を持つ気はないから、老後は二人で、仲良くしようぜ?」
そういって肩を掴んでくるラスト。
きっと励ますために言ってくれたのだろうが、嘘だったとしても少しうれしくなる。
「やっぱり持つべきものは、親友だよな。パトラッシュ」
「パトラッシュ?なんだそいつは。俺はラストだ」
「なんか、私たち…」
「ええ、仲間外れにされた気分ですね…。それより、また今日も私たちの分の会計勝手にしたみたいじゃないですか!」
「なんだよ。いいじゃん。困ることはないだろ」
「いい加減、自分のことにも使ってくださいよ…!」
こんな感じでまた、何気ない話題で食卓がにぎわいだす。
最近の僕はこの夕食の時間あたりから、口数が増える。
ラストが昼に最近僕と話してないと言っていたのは、話す機会がこの時間に集中しすぎて日中に話していないから、そう思ってしまうのだろう。
そしてこの夕食の時間が終わってからから、僕の一日が本格的に始まる。
日中何もしないのは悪いと思うが、生憎、サンタクロースは夜行性なんだ。許してくれ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。