ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第5話:飲みと、それから。

「それじゃあ、かんぱーいっ!」

「かんぱーい!」

「乾杯!」

 

冒険者ギルドの中にある酒屋で、僕たちの、僕の歓迎会が始まった。

僕だけでなく二人とも酒は嫌いなようで、なんかよくわからない、なぞの赤色の飲み物を飲んでいる。

僕も酒は死ぬまで飲まないと決めているので、気が合いそうだ。

この赤色の飲み物はアセロラに近い味がした。

 

「うちの店もここくらい活気が欲しいよなあ」

 

ラストが小言を言う。

 

「そういえば、店を始めてどれくらい経つんだ?」

「もうすぐ1か月だな。」

 

僕がここに飛ばされた時とほぼ同じ時期か。

 

「それで、客はくるの?」

「いや、一人も」

「だって土地が悪いんですもんっ。誰もきてくれませんよ!」

「へ、へえ…」

 

始めからいやなことを聞いたな。

一か月客ゼロって、、なんて店だ。

メンタルが持たないだろ。

 

「少しは蓄えがあったから食う分には困らなかったけどな。ま、今はいいだろ!今日はお前の歓迎会だからな、楽しんでくれよ!」

「すいませ〜ん、もう一杯お代わりお願いしま〜す!」

「ほら、こいつ見たく頼みまくれ!」

「…ああ」

 

その歓迎会は、今までの飲み会では体験できないほど、楽しい時間だった。

この世界で初めて、人とかかわったからだろうか。

 

この世界、ね。

サンタクロースの仕事もあるけどさ。

今くらいは、楽しませてくれよ。じいさん。

横で眠るルドルフを撫でながら、胸のなかで、サンタのじいさんに語り掛けた。

 

 

 

翌日。

 

「それじゃあ、ファミリア、開店です!」

 

初日は見ていてくれていいということで、カウンターにラスト、僕、マイの順番で座っていたが、客が来ないので、見ているというか何もしないに等しかった。

 

「なあ、本当に何もしなくていいのか?」

「いいって。いつもこんな感じだしな。」

「金はあるのかよ。生活費持たないんじゃないの?」

「ああ、昨日、全部使っちまった」

「まじかよ!」

「ああ、まあ。なんとかなるだろ。適当に時間つぶしてすごそうぜ」

 

計画性がなさすぎる。いや、僕のせいだが。

 

「そういえば、お前のその袋、なに入ってるんだ?」

 

足元においてある袋をみて、ラストがきく。

 

「ああ、これか?これにはね―――」

 

その時、店の扉が開かれる。

 

「お、いらっしゃ――ってなんだ、トナカイか」

「ルドルフだ。どうした?なにかあったか?」

「・・・」

 

すごく悲しそうな目で見てくる。そういえば、昨日、何も食わせてなかったな。

 

「あ!ごめんな!今飯用意するから!」

 

そういって、ルドルフに駆け寄り、袋の中から、青いゼリーを取り出す。

嬉しそうに、必死で食べるルドルフの頭を撫でていると、ラストが声をかけてきた。

 

「な、なあ。お前、それって」

「ん?これか?外のスライムのゼリーだけど」

「まじか!それまだもってるか?ちょっとくれよ!」

 

3つほど取り出して、ラストに渡す。少し裏の方に行ったかと思うと、すぐに戻ってきて、青い液体が入った小瓶を3つカウンターの上において、ドヤ顔をした。

 

「どうだ、これがラスト特製!イカすポーションブルーだ!」

 

なんという名前のセンス。

普通のポーションにしか見えないのだが、何が違うんだろうか。

 

「そんな疑わしい目で見るなよ。わかるやつから見れば、このポーションは、冒険者ギルドにあるどのポーションよりも、遥かに性能がいいんだぜ?」

 

まあよくわからないが、とにかくすごいんだろう。

とりあえず信じておくことにする。

 

「なあ、それって、赤とか緑とかでも、いいの作れるのか?」

 

それぞれ袋から取り出して、ラストに渡す。

 

「んな、これは…!」

 

再び裏にいって、戻ってくる。

緑の液体と、赤の液体が入った瓶をもって。

どんな速さで作ってるんだよ。

 

「こっちはヤバいポーションレッド!もう一つはオシャレポーショングリーンだ!」

 

本当に、そのネーミングはなんとかならねえのかよ。

 

「青、赤、緑の順番に、性能がどんどん良くなっていくぞ」

「へえー、すごいな」

「それにしても、よく持ってたな。これ、スライム倒さないと落ちないぜ?相当無茶しただろ?」

 

何言ってるんだこいつは。

スライムなんてゲームの最序盤のザコだろ…?

 

「スライムなんて攻撃される前にワンパンすればいいだろ。そんな苦労しないよ?」

「・・・お前、冒険者のセンスあるな」

 

いや、スライム倒せないやつの方がすごいだろ。

あ、そうだ。

 

「なあラスト。ちょっとこれ借りるよ」

「いいけど、どうするんだ?」

 

ラストの許可を得たのでポーションをポケットにしまう。

 

「まあ、ちょっとね。それより、僕が戻るまでにこれで、もっと作っといてくれよ。」

「ん、なんだよ。まだあるのか―――うわああああああ!!」

「こ、これは、すごいですっ!」

 

袋を逆さにして、手をいれて念じると、カウンターの上に3色のゼリーがぼとぼとと落ちてきて、ラストの前でぷるぷると踊る。

驚いたラストは椅子から転げ落ちる。

 

「それじゃあ、ちょっとだけ出てくるから、店番よろしく」

「待ってください!どこ行くんですか?」

「サンタクロースの初仕事だ。ちょっと大きなクリスマスプレゼントを、この店に連れてくるよ」

 

「クリスマス、プレゼント?」

 

首をかしげるマイに見送られながら、ルドルフをつれ、僕は店を後にした。


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