「それじゃあ、かんぱーいっ!」
「かんぱーい!」
「乾杯!」
冒険者ギルドの中にある酒屋で、僕たちの、僕の歓迎会が始まった。
僕だけでなく二人とも酒は嫌いなようで、なんかよくわからない、なぞの赤色の飲み物を飲んでいる。
僕も酒は死ぬまで飲まないと決めているので、気が合いそうだ。
この赤色の飲み物はアセロラに近い味がした。
「うちの店もここくらい活気が欲しいよなあ」
ラストが小言を言う。
「そういえば、店を始めてどれくらい経つんだ?」
「もうすぐ1か月だな。」
僕がここに飛ばされた時とほぼ同じ時期か。
「それで、客はくるの?」
「いや、一人も」
「だって土地が悪いんですもんっ。誰もきてくれませんよ!」
「へ、へえ…」
始めからいやなことを聞いたな。
一か月客ゼロって、、なんて店だ。
メンタルが持たないだろ。
「少しは蓄えがあったから食う分には困らなかったけどな。ま、今はいいだろ!今日はお前の歓迎会だからな、楽しんでくれよ!」
「すいませ〜ん、もう一杯お代わりお願いしま〜す!」
「ほら、こいつ見たく頼みまくれ!」
「…ああ」
その歓迎会は、今までの飲み会では体験できないほど、楽しい時間だった。
この世界で初めて、人とかかわったからだろうか。
この世界、ね。
サンタクロースの仕事もあるけどさ。
今くらいは、楽しませてくれよ。じいさん。
横で眠るルドルフを撫でながら、胸のなかで、サンタのじいさんに語り掛けた。
翌日。
「それじゃあ、ファミリア、開店です!」
初日は見ていてくれていいということで、カウンターにラスト、僕、マイの順番で座っていたが、客が来ないので、見ているというか何もしないに等しかった。
「なあ、本当に何もしなくていいのか?」
「いいって。いつもこんな感じだしな。」
「金はあるのかよ。生活費持たないんじゃないの?」
「ああ、昨日、全部使っちまった」
「まじかよ!」
「ああ、まあ。なんとかなるだろ。適当に時間つぶしてすごそうぜ」
計画性がなさすぎる。いや、僕のせいだが。
「そういえば、お前のその袋、なに入ってるんだ?」
足元においてある袋をみて、ラストがきく。
「ああ、これか?これにはね―――」
その時、店の扉が開かれる。
「お、いらっしゃ――ってなんだ、トナカイか」
「ルドルフだ。どうした?なにかあったか?」
「・・・」
すごく悲しそうな目で見てくる。そういえば、昨日、何も食わせてなかったな。
「あ!ごめんな!今飯用意するから!」
そういって、ルドルフに駆け寄り、袋の中から、青いゼリーを取り出す。
嬉しそうに、必死で食べるルドルフの頭を撫でていると、ラストが声をかけてきた。
「な、なあ。お前、それって」
「ん?これか?外のスライムのゼリーだけど」
「まじか!それまだもってるか?ちょっとくれよ!」
3つほど取り出して、ラストに渡す。少し裏の方に行ったかと思うと、すぐに戻ってきて、青い液体が入った小瓶を3つカウンターの上において、ドヤ顔をした。
「どうだ、これがラスト特製!イカすポーションブルーだ!」
なんという名前のセンス。
普通のポーションにしか見えないのだが、何が違うんだろうか。
「そんな疑わしい目で見るなよ。わかるやつから見れば、このポーションは、冒険者ギルドにあるどのポーションよりも、遥かに性能がいいんだぜ?」
まあよくわからないが、とにかくすごいんだろう。
とりあえず信じておくことにする。
「なあ、それって、赤とか緑とかでも、いいの作れるのか?」
それぞれ袋から取り出して、ラストに渡す。
「んな、これは…!」
再び裏にいって、戻ってくる。
緑の液体と、赤の液体が入った瓶をもって。
どんな速さで作ってるんだよ。
「こっちはヤバいポーションレッド!もう一つはオシャレポーショングリーンだ!」
本当に、そのネーミングはなんとかならねえのかよ。
「青、赤、緑の順番に、性能がどんどん良くなっていくぞ」
「へえー、すごいな」
「それにしても、よく持ってたな。これ、スライム倒さないと落ちないぜ?相当無茶しただろ?」
何言ってるんだこいつは。
スライムなんてゲームの最序盤のザコだろ…?
「スライムなんて攻撃される前にワンパンすればいいだろ。そんな苦労しないよ?」
「・・・お前、冒険者のセンスあるな」
いや、スライム倒せないやつの方がすごいだろ。
あ、そうだ。
「なあラスト。ちょっとこれ借りるよ」
「いいけど、どうするんだ?」
ラストの許可を得たのでポーションをポケットにしまう。
「まあ、ちょっとね。それより、僕が戻るまでにこれで、もっと作っといてくれよ。」
「ん、なんだよ。まだあるのか―――うわああああああ!!」
「こ、これは、すごいですっ!」
袋を逆さにして、手をいれて念じると、カウンターの上に3色のゼリーがぼとぼとと落ちてきて、ラストの前でぷるぷると踊る。
驚いたラストは椅子から転げ落ちる。
「それじゃあ、ちょっとだけ出てくるから、店番よろしく」
「待ってください!どこ行くんですか?」
「サンタクロースの初仕事だ。ちょっと大きなクリスマスプレゼントを、この店に連れてくるよ」
「クリスマス、プレゼント?」
首をかしげるマイに見送られながら、ルドルフをつれ、僕は店を後にした。