ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第54話:サンタクロースの提案

「リィナ、ちょっと目瞑ってて」

「え?うん」

 

実況に向け、僕は大きな声で叫ぶ。

 

「おい、この子、もう魔力がないし、気絶してるぞ!勝負はついたんじゃないか?」

 

ラストに目配せすると、そうか、とわかったように微笑んだ。

 

『よし、リィナ選手の戦闘不能により、試合終了!勝者、サンタクロース選手!!』

「わあああああああああ」

「ふう、やっと終わった」

「ノ―!」

「ははは、お前ら、まだ遊びたりないのか?」

 

雪だるまどもは雪玉を作って、雪合戦を始めている。

その様子を眺めていると、僕の腕に乗ったリィナが口を開く。

 

「…ねえ、とりあえず、降ろしてもらっていい?」

「ん?ああ、ごめん。これって、今気づいたけどお姫様だっこってやつじゃん」

 

初めてやったということに感動を覚えてしばらくそのままでいると、リィナが真っ赤になってぽかぽかとこちらを叩いてくる。

 

「だから!恥ずかしいんだって!早く!降ろしてってばあ!」

「あ、ごめん」

『ん、なんだ?もう起きたのか?やるじゃん!まあ、もう負けだけどな!』

「うるさいなあ!わかってるよ!」

ラストの茶番に怒り僕から降りようとじたばたと暴れた。

 

「まったく…決勝、応援してるから。頑張ってね」

 

降りたリィナは一度だけ僕を見てそういってから、落ちた杖を拾って出口へと歩き出す。

 

「あ、待って」

 

思わず呼びとめて手を握る。

 

「何?」

 

悲しそうな顔をして、今にも泣きだしそうだ。

 

「その、ごめん。絶対に叶えようって言った夢を、僕がつぶすようなことになって」

「…仕方がないよ。だって私たち、対戦相手だもん」

 

目に涙を浮かべて、泣き笑いのような顔。

ぐさりと、胸に鋭いものが刺さるような感覚を覚える。

 

「それだけ?じゃあ、私、帰るよ」

 

振りほどこうとする手を、握って離さないでいると、不思議そうな顔をして僕を見つめる。

 

「まだ何かあるの?」

「ああ、僕は、君の夢を潰してしまった」

「そんな、何回も言わなくても分かるよ」

「だからさ、僕、考えたんだ」

「…何を?」

「それは…」

 

その次の言葉が言い出せない。

心臓がバクバクと鳴りやまない。

つい勢いで考えたことだし、後でマイとラストが何と言うか。

そして、もしかしたら断られるかもしれないという不安が、次の言葉を言うのをためらわせる。

 

 

 

 

ええい、どうせこの世界、僕のこと知ってるやつはほとんどいないんだ!

黒歴史の一つや二つ、作ってやれ!

 

「リィナ、僕と…」

 

 

 

そこまで言って、言葉が詰まる。

 

しまった。

 

 

 

 

緊張しすぎてなんていうのかを忘れてしまった。

 

何だっけ…あ、そうだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…僕と、家族になりませんか?」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

「……ん?」

 

言ってしまってから、何か違和感を覚える。

今、僕はなんて言ったんだ?

 

リィナが目を見開いて、僕を見つめる。

そして少し間を空けて、いきなり赤くなって黙ってうつむく。

 

「それって…もしかして…」

 

 

 

『おおっとお!こぉれはこれはあ!?サンタクロース選手、リィナ選手にまさかのプロポーォズ!?なんだあ、この大会、そしてこの試合の間に、我々の気づかないうちに愛が芽生えていたんでしょうか!』

『サンタそういえばかわいいとか言ってたもんなー。それにしてもこんなところで告白なんて、あいつ結構男らしいんだなあ』

 

「え、告白?違う違う、そんなんじゃ…」

 

何て?告白?プロポーズ?

そんな話じゃないんだって。

精一杯否定するが、その声が実況側に届くことはない。

 

『くうー!私も大会に出ていれば…あんな風に手を握ってくれる殿方が現れるのでしょうか…!うらやましい…!』

 

会場もざわつき、やがてヤジが飛び始める。

それは祝福の声だったり、うらやましいという怨念がこもったものであったり、普通に僕の勝利を祝うものだったり。

 

「ちょ、ちょっと待てって!」

 

説得しようと声を張り上げるが、どうにもならない。

 

「幸せになー!」

「男だなサンタクロース!」

「お似合いだぜー!」

 

観客の暴走で、いつの間にか結婚式場のような雰囲気になりつつある。

なんだこれ。

 

 

「サンタ…」

 

リィナが僕の名前を呼ぶ。

 

「り、リィナ…?」

「そ、その…いきなり家族、だなんて…」

 

恥ずかしそうに体をくねらせて赤くなっているリィナ。

おい…なんでこいつ、まんざらじゃないような雰囲気出してるんだよ。

否定しろよ!

 

とにかくこの場は逃げなければ…!

 

「リィナ、乗れ!」

「え?きゃあ!」

「ルドルフ!頼む!急いでくれ!」

 

リィナの手を引っ張ってそりの助手席に押し込み、ルドルフが上昇を始めると同時に僕もそりへとよじ登る。

 

『おおっと、これはまさか駆け落ち!?サンタ、自己満足なプレゼントをリィナにしてあげるとか言ってたけど、まさかこれだったのかあ?』

 

さらっと恥ずかしいことを言ってくるラスト。

 

「ぐあああああ!らすとおおおおお!」

 

実況席まで飛ばして、ラストを掴んで、無理矢理引っ張り上げる。

 

『お、おい!サンタ、そんな引っ張るなっつの!さあさあ、今日の試合はここいらで幕切れだ!赤い帽子と赤い髪の女の子。その二人の恋の行方はいかに!?それではまたお会いしましょう!じゃーな!』

『余計なこと言わなくていいから!帰るぞ!』

 

最後の最後まで次回予告のような置き土産を残していったラストを乗せて僕たち3人は逃げるように空へと飛び出した。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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