ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第50話:顔合わせ

「えーっと、確かこの辺に…あ、いた!おーい、おじさーん!」

 

手を振ってかけていくリィナ。

闘技場の入り口でリィナが探し求めていたのは、いつもお世話になってる賭けのおっさん。

金を詰めた袋をもって入り口で商売をしているようだ。

いつもと違うのは、少し人だかりができていて、割と商売が繁盛しているというところか。

 

「おお、嬢ちゃん。ちょっと待っててくれ。準決勝だから客が多くてな!へい、サンタクロースに5万ユインね。まいど!」

 

今までは暇そうにしていて僕たち以外に客がいるのかというほど接客をしているところを見なかったので、新鮮に見える。

 

待つこと5分。

 

客がいなくなったところでおっさんがこちらに歩いてくる。

 

「待たせたね、嬢ちゃん」

「お疲れ様、おじさん。今日はお客さんを連れてきたの。サンタとラストっていうの」

 

リィナが僕たちを紹介する。

当然ながらおじさんは僕たちを見て表情を変えることなく、普通の様子で、

 

「ああ、知ってる」

 

と短く答えた。

 

「いつもの常連だからな。それにしても、珍しい組み合わせじゃないか。嬢ちゃんと赤い帽子の兄ちゃんが一緒に来るなんてな」

 

ニヤリとしながら聞いてくるおっさん。

そりゃ対戦相手がそろってきたら、面白い絵にはなっているだろうな。

 

「ま、成り行きでね」

「?」

 

首をかしげるリィナ。

そろそろ気づいてもいいと思うのだが、気づく様子もない。

 

「実はまだサンタが対戦相手だって知らないんだよ」

「なんだって!そいつは傑作だ!」

 

ラストがこっそり耳打ちすると、おっさんは声を上げて大笑いする。

ひとしきり笑ってから、相変わらず首をかしげるリィナに、おっさんが語りかける。

 

「がっはっは、へへ、ひぃ!ああ、笑った!わりいな嬢ちゃん。いつものように対戦相手の情報が知りたいんだろ?」

「ええ、そうなの。今回はこの二人にも教えてあげてほしいの」

「こいつらにもか?ま、いいだろう。聞かせてやる」

 

笑いすぎて目に涙を浮かべたおっさんも共犯者になって、この女の子を騙すことに加担しだした。

おかげでどんどん自分から名乗り上げることが難しくなってくる。

 

「まずは嬢ちゃんのことを説明しようか。生きる炎リィナ。その名の通り炎を使う魔法が得意で、炎魔法にかけては使えないものがないほどのレパートリーを持つ。だがその反面、他の魔法はからっきしダメみたいだけどな」

「もう、そこは仕方がないでしょ。どうしてか、それ以外は使えないんだから!」

「だってよサンタ。どうだ?」

「二つ名がめちゃくちゃかっこいい」

「もう、恥ずかしいからやめてよ…!」

 

僕なんか最初のころ赤い帽子とか道楽野郎みたいな感じの二つ名だったのに、この子の二つ名がカッコよすぎて少しだけうらやましくなる。

 

「ま、他にも体力がないからできるだけ短い戦闘でここまできたからな。炎のように勢いのあるということでこの二つ名がついたんじゃないか?」

「なるほどねー」

 

前回のあらすじのようにざっとリィナの話をしたが、僕たちに説明をしてくれたんだろう。

ニヤついてるから、きっとそうだ。

 

「それで、私のことはわかったかしらね。それじゃあ、私の対戦相手について、教えてくれる?」

「そうだな。それじゃあ、そいつの話をしようか」

 

このおっさん、一体僕のことをどう説明するのだろうか。

急に真面目な顔をして、語りだす。

 

「まずはやつの職業から。そいつの職業はビーストテイマーでな。一匹の小さなトナカイを従えているが、小さいからって騙されちゃいけない。これが意外に強い」

「ビーストテイマー…。それならそのトナカイを倒せば、後は楽勝ね」

 

毎回思うがビーストテイマーっていう職業はやはり従える方は非力なのだろうか。

ゲームみたいだな。

いけ、ルドルフ!的な。

 

「それがな、そいつは変わってて、トナカイと一緒に戦うんだ」

「一緒に?」

「ああ、あくまでトナカイはおまけみたいな感じでな。今までの戦いは、そいつ一人でかたがついた。ビーストテイマーとの戦いもあったんだけどな。相手はオルトロスだったんだが、そいつを倒したのは、トナカイじゃなくて、そいつ自信の拳だったんだ」

「拳…オルトロスを生身で…?」

 

リィナは杖をぎゅっと握りしめ、小さな体を体を一層小さくする。

 

「ああ、そしてやつは雪を降らせることもできる。そして雪が降っている間は、いろいろと想像のつかないような攻撃を思いついたかのように仕掛けてくる。俺も毎回驚かされるから、今回もなんか仕込んでくるんじゃないか?」

 

おっさんが僕を見て、片目を瞑る。

いやそんな無茶ぶりされても。

 

「雪、ね…」

「もう一つ、昨日の戦いで氷の魔法を使うやつが相手だったんだけどな。どんな魔法を受けても止まることなく、追い詰めるようにして相手を氷漬けにしたらしい」

「そんな…魔法も効かないって言うの…?」

 

青ざめるリィナ。

青ざめる僕。

笑いをこらえるラスト。

 

間違っていないんだけどさ。なんかこれって、僕がラスボスみたいな言い方じゃん…?

 

「ビーストテイマーなのに戦えて、オルトロスを生身で倒して、魔法が効かない、一体どんなやつなの!?魔王のしもべ!?」

「魔王のしもべ…」

 

あ、ラスボスではないのね。

 

「ぷぷ…」

 

ラストと僕を見ながら、おっさんも少しにやついて話し出す。

 

「そういえばやつの姿について説明していなかったな。赤い帽子に白い袋。そして降らせる雪景色。そいつの名は――――」

 

リィナが息をのむ。

そしておっさんが、力なく指をさし、その名を口にする。

 

「―――赤と白を纏いし雪の使者。サンタクロースだ」

「サンタクロース、その人が私の…って…え?」

 

さされた指の先にいる僕を見て、少女は絶句する。

 

「え…?」

 

頭から足の先まで、見つめられる。

そして、赤い帽子と白い袋を視認して、再びおっさんを見る。

 

「だから、珍しいと言ったじゃないか。対戦相手がそろってくるなんて、なかなかないことだぞって意味で」

「え?え?」

 

混乱する少女に向かって、僕は静かに自己紹介をする。

 

「ども。サンタクロースです。改めて、今日はよろしく」

「えええええええええ!?」

「ぶふっ!はは、はっはっはっは!」

 

赤い髪の少女の叫びと白金の髪の男の大爆笑が、鳴り響いた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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