「はあ…」
対戦相手と一緒に会場に向かうという、謎の構図。
僕が次の対戦相手だということは黙ったまま、闘技場への道を3人で歩く。
どうしたらいいか、素直に言うべきか、悩んでいると、ラストがリィナに質問する。
「リィナ。お前は次の対戦相手のことは知ってるのか?」
探りを入れた質問。
知ってたら僕ばれてんだろ。
「んー。名前とかは知らないかな。ただ、大会初参加で準決勝まで難なく駆け上がってきた新人だって言うのは、おじさんから聞いたよ」
「なーるほどね…」
そういうとラストは口笛を吹きながら頭に手を回して暇そうに歩く。
次に、入れ替わるように、僕が口を開く。
「女の子でも大会に出れるんだな」
「当たり前でしょ。冒険者だって女の人いっぱいいるじゃない」
「そうなのか」
「そうなの」
確かに店に来る客は女もいたな。
男と戦いすぎて、ちょっと感覚が麻痺してたか。
「ついでにもう一つ。なんで大会に出たんだ?今までの試合を見た感じだと、この大会、すごく危ないけど」
そう尋ねると、前を歩いていたリィナは足を止める。
それにつられて、僕たちも足を止める。
「あー、なんか聞いちゃまずかったかな?」
「…ううん。そうじゃないの」
そういってまた歩き出す。
そして、付け足すようにこう言った。
「どうしても、叶えたいお願いがあるんだ」
「お願い?それと大会の何が関係あるんだ?」
頭をかきながら、少し気まずそうにラストが僕を見る。
「あー、そういや言ってなかったな。この大会の賞品について」
「賞品か。やっぱそういうのあったのか」
聞かなかったが、こいつが僕の優勝を目指していろいろと頑張っているのはそれが目的だったのだろう。
ばれちゃったなという顔をして、肩をすくめる。
「それで、優勝するとなんかもらえるのか?」
「ああ、準優勝は500万ユイン。そして優勝は―――」
「この街の権限を持てるだけ使って、できる限りの願いを叶えてくれる」
「…ん。ま、そういうことだ」
リィナがラストを遮って言った。
ラストもその通りと同調する。
「できる限りの願いなんでも、ね。それで、何がしたいんだ?」
そう聞くと、リィナは前を歩きながら、
「大したことじゃないけど、店が欲しいんだ」
と言った。
「へえ、なんの店?」
「魔法商店。私、魔法については結構自信あるんだ。でも、やっぱりそういうのって、結構お金がかかっちゃって。私の家、貧乏でお金あまりないからさ。大会で優勝するしか、その夢叶えられそうにないから」
こちらに振り向いて、少し寂しそうに笑う。
諦めに近い笑顔。
いつか、最初に会ったときのマイもこんな風に笑ってたっけ。
「…いいね。その夢。絶対に叶えようぜ」
「うん!」
意気込んで歩き出したリィナ。
先ほどのような寂しい笑顔をしていた彼女の表情は後ろからはもう見えない。
今のセリフは、少し、なかったか。
全く。対戦相手に、何を同情してるんだか。
横を歩くラストが、僕に囁いてくる。
「サンタ」
「ん」
「お前、どうするんだ?まさか、棄権するつもりか?」
「ま、こいつが優勝できるんなら、それもありかもな」
流石にこんなこと知ってしまったら、目的もない僕が勝つべきじゃないと思えてくる。
ラストも、欲深い奴だが、僕の答えを聞いても喚いたりはしない。
「…まあ、お前がそういうなら止めないけどよ。でも、ちょっと考えてといた方が良いぜ」
「ん?何を?」
いつになく真面目な顔のラスト。
「この大会、決勝戦はな、参加前の棄権はできても、試合が始まったら、勝負がつくまで棄権は許されないんだよ」
「え?」
初めて聞いた決勝戦のルールに、僕は戸惑いを隠せなかった。
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