「とりあえず離れてくれ…」
青ざめた顔で振り向いてそういうと女の子も僕の顔を見てはっとする。
「あ、ご、ごめんなさい!私みたいな女に抱き着かれたら嫌だったよね…本当にごめん…」
パッと腕を話して申し訳なさそうにうつむく。
見かねたラストが僕に言う。
「サンタ〜、さすがに女に抱き着かれてその顔はないと思うぜ?」
しまった。
勘違いさせてしまったようだ。
慌ててフォローに回る。
「いや、違うんだ。ちょっとすげー昔のこと思い出して今すごくセンチメンタルな気持ちというか、ネガティブというかファンタスティックな状態で!」
「何言ってんだ?」
自分でもわからない。
今のは急に頭がいかれたとしか言えない。
「…とにかく、こんなかわいい子に抱き着かれるなんて、めったにないことだし、むしろ嬉しいくらいだから変な勘違いはしないでくれ」
日本なら滅多どころか人生で一回あるかないかレベルだ。
「か、かわいい!?そんな…」
顔に手を当てて急に真っ赤になる少女。
その反応をみて、自分がいかに恥ずかしいことを言ったのかを痛感する。
「わー、やっちまった…黒歴史だ…」
ぼそりとつぶやいて頭を抱えて、赤い帽子を深くかぶる。
「へー、こいつはおもしれえ」
ニヤニヤ笑うラスト。
「ああ、もう、ついてねえなあ」
微妙な空気が、しばらくその場を漂った。
「んん、さっきはごめん。私はリィナ。見ての通り魔法使いだよ」
少し時間が経って落ち着いてから、自己紹介をされる。
「俺はラスト!んでこっちがサンタクロース。よろしくな!」
「よろしく」
「うん、よろしく!」
にこっと笑うリィナの顔に思わず心臓が脈打つ。
勘違いするな。
社交辞令だ。
営業スマイルだ。
自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせる。
「そういえばあなたたちは、今日は闘技場に行く予定だったの?」
「ああ。一稼ぎしようと思ってな!賭けで一発、儲けようってな!」
普通に屑のセリフなのだが、こいつが言うと何故か様になる。
「賭け?ああ、あのおじさんのね」
「へえ、結構有名なのか」
「そりゃもう。あの人、賭けだけじゃなくて、選手の情報も相当のものよ。私も、あの人に教えてもらってるもの」
おっさん、あんた褒められてるぞ。
昨日、僕とラストにまた賭けで負けて、地団駄踏んでたのに。
…ん?ちょっと待てよ。
「ちょっと待ってくれリィナさん」
「さんはいいよ。多分、あなたの方が年上でしょ?」
「ああ、それじゃ遠慮なく。それで、あのおっさんに情報を聞いてるって?そんなこと聞いてどうするんだ」
そう尋ねるとリィナは自信ありげに笑って腰に手を当てる。
「あなたたち、賭けをやっていたのに気付かなかったの?その大会、私も出てるの!そして、今日の最初の試合に、私、出場するの!」
「…」
「…」
ラストも僕も言葉を失う。
まさか。
まさかこんな女の子が。
僕の次の対戦相手だなんて。
「おい、それって次の試合サンんん!?んん!」
慌ててラストの口をふさぐ。
「ラスト、やめろ!今は流石にまずい!ここでばれるのは、なんかまずい気がする!」
口を押えながら耳元でささやく。
ラストも納得したようで、すぐにおとなしくなる。
「どうしたの?」
首をかしげるリィナ。
「い、いやあ、こいつさ、次の試合超楽しみにしててさ!しゃべりだすと止まらないから、ちょっと落ち着かせたんだ!」
「ああ、超楽しみ。俺、次の試合、絶対見る」
「へえー」
勢いと、ラストの片言の言い訳でごまかすことに成功した。
兎に角、この子と一緒にいるのは危険だ。
このまま逃げよう。
「それじゃあ、僕たちはおっさんのところに行くから…この辺で…」
「あ、待って!それならおじさんのところまで、一緒に行こうよ!それでおじさんから情報を聞いたら、どっちが勝つかわかるかもしれないよ?」
「え」
地雷を踏んだ。
全くの悪意のない純粋な、優しい笑顔。
騙してはいないのだが、何故かとてつもない罪悪感を覚える。
「あ、そうだな。それじゃあ、行こうか…」
断る理由もなく、その提案を飲む。
「決まりね!」
そして僕たちはリィナを先頭にして、闘技場への道を行く。
面倒なことになった。
まさか対戦相手がこんな女の子だなんて。
「大会はすでに始まっているんだよ。サンタ」
隣でラストがこっそりささやく。
「…うへえ」
無意識に口から出たうめき声にも近いそれは、今頃留守番しているであろう、カラアレオンのコメットが脳裏によぎるほどに似ていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。