ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第46話:鬼ごっこ

「ルドルフ、サンキューな。ちょっとここでマイと待ってな」

 

小刻みに震えるルドルフの頭をなでて、マイの隣の席に座らせる。

それから、対戦相手の方へ向き直る。

 

「おい、少年。勝手に人の作ったもんぶっ壊して、タダで済むと思ってないよな?」

「ノオオオ…」

「っ!」

 

怒りのオーラをむき出しにしながら、目の前のガキを睨む。

そして横に列をなして歩み寄ると、向こうも少しだけ後ずさる。

 

「へ、なんだよ!そんなににらんだって、おいらは全然こわかねーぞ!」

 

氷をまとった両手を構える目の前のガキ。

まだ気力はあるようで、僕の威圧に怖気づいてない様だ。

 

「とりあえず、鬼ごっこでもしようか。みんな。僕たちが鬼で、あいつが逃げるやつ、オーケー?」

「ノオオオオ!」

 

 

 

『…えー、サンタクロース選手、少しずつモーブス選手に歩みよります』

『これは、あいつ、やっちまったな』

 

 

 

 

 

 

気の毒そうな実況の中、観客席でも、誰1人として音を発さない。

 

「は、なんだよ、馬鹿か!普通にあるいてくるなんて、やる気あるのかよ!これでくたばりな!ラピッド・アイス!」

 

無数の氷が無防備で歩くサンタクロースと雪だるまに飛んでくる。

そのまま防ぐ素振りも見せず、直撃し、あたりを白い煙が包む。

 

「どうだ、さっきよりも魔力は込めた!これでくたばる、はず…」

 

自信にあふれた表情は、一瞬で崩れる。

 

「うそ…だろ?」

「おい、鬼ごっこのルールわかってんのか?早く逃げないと、つかまっちゃうぞ?」

 

彼らは立ち止まる様子を見せず、ゆっくりと近づく。

 

「くそお、これなら…!プリズム・アロウ!」

 

今度は大きな結晶が赤い帽子をめがけて飛んでいく。

それも直撃して、結晶は彼の姿を隠す。

 

「あれが直撃したんだ!もう無事なはずがねえ!」

『サンタクロース選手、直撃です!これは、試合終了でしょうか?』

 

 

観客もざわつきだし、彼を心配する声が上がる。

 

 

『…こんなんじゃだめだ。』

『え?』

 

バギイン、と、結晶体が爽快な音を立てて砕け散る。

その後、赤い帽子がゆらゆらと浮かび上がる。

 

『怒ったあいつを止めるんなら、せめてこの闘技場はぶっ壊すくらいの威力じゃねえと』

「おい…直撃だぞ!?なんでやられねえ!プリズム・アロウ!」

 

今度はより大きな結晶体が飛び、またも赤い帽子をとらえる。

しかし今度は直撃する音も、砕け散る音もしない。

 

「な…受け止めた…だと?」

 

見ると男はその体の3回りほどはあるような結晶体を、素手で捕らえていた。

そして、それを後ろに捨てて、またも歩き出す。

 

「くそお、なんで、なんで止まらねえんだよ!」

 

その後も呪文を連発するモーブス。

しかしすべてを着弾させても、赤い帽子が歩みを止めることは無い。

 

ついにその異変に恐れを抱いたのか、泣きそうな顔になり、後ずさり、距離を取り出す。

 

「う、うわああああああ!プリズム・アロウ!プリズム・アロウ!プリズム・アロウ!」

「見苦しいな」

 

今度は雪だるまたちが一丸になって、飛んでくる結晶を受け止め、その場に落下させる。

 

 

「うう、なんで、なんで…」

「んなもん、言わなくてもわかるだろ」

 

 

気づくとサンタクロースは、モーブスの目の前まで迫っていた。

後ずさる少年。しかし、後ろには壁が。

そして彼を追い詰めるように、二頭身の雪だるまたちが半円を描く。

 

「あ…ああ…くっそおおおおおお!」

 

追い詰められ、やけくそになった少年。

氷をまとった拳が、赤い帽子めがけて飛んでいく。

しかし、それはいとも容易く片手で抑えられてしまう。

 

「ガキのくせに、こんな小細工で、よく2回も勝てたな」

 

ぐっと、右手に力と籠める。

少年の手を覆っていた氷は、がちがちと音を立てて、そしてすぐに砕け散った。

 

「ああ…嘘だろ…?」

「さあ、捕まえた」

 

胸倉をつかまれて、少年の体が持ち上げられる。

 

「つかまった子には、罰ゲームをプレゼントだ」

「うわあ!」

 

そして投げ出され、壁に背を預ける少年。

そして彼に、雪だるまたちが近づく。

 

「ノ――」

「なんだ…お前ら…!?や、やめろ…!」

 

少年を包むかのように、雪だるまたちは少年に覆いかぶさる。

10体もの雪だるまに覆われて、少年の小さな体は見えなくなる。

 

「さ、さむ、い…や、やめ、て…く…れ…」

 

抵抗するもむなしく、少年は雪だるまに包まれて、身動きが取れなくなる。

 

「罰ゲーム、名付けて、真冬の抱擁」

 

数分後、雪だるまたちが少年から離れると、顔を真っ青にした少年が、その場に座り込んで、動かなくなっていた。

 

「職業柄、流石に子どもは、殴れねえからな…」

 

 

 

 

 

「よーしみんな!さっきのやつ、作り直すぞー!」

「ノオオオオ!!」

 

先ほどと気分を入れ替えて、再び雪をかき集める。

 

『えーと、試合終了。勝者は、サンタクロース選手です…』

 

僕のテンションと裏腹に、静まり返った会場。

そんなことは気にせずに、僕は雪だるまたちと共に、先ほど壊された雪像の復旧作業を行う。

 

『あっという間でしたね…サンタクロース選手が本気を出してからは…』

『あーあ、あいつ、普段は大したことじゃ怒らないんだけどよ…なんつうか、飯の邪魔されるか、身内のことになると、あんな風に切れだすんだよな…』

『そうなんですか…』

『ああ、うちの家訓の一つに、サンタクロースの飯の邪魔はするなっていうのがあってな。この前それを破って飯時に邪魔した自称王国騎士がいてさあ…そいつ、一発でやられて、挙句の果てに剣まで没収されてさー』

『へ、へえ…』

 

若干困った様子のお姉さん。

 

「おーい、そんな家訓、初めて聞いたぞー!」

 

叫んで笑うと、ラストが続ける。

 

『ま、あんなふうに、終わったらすぐに普通に戻るんだけどなー』

「さあ、完成!」

「ノ――――!!」

 

再びできた雪のぼろ屋を背にして、観客に向かってVサインをする。

そんな僕を見て、観客は少しずつ先ほどの賑わいを取り戻し、拍手やら歓声やらが起こる。

 

 

 

『まあ、というわけで!勝者、サンタクロース!明日の準決勝進出、おめでとう!あ、救護班は、モーブスの救助に当たるように!』

「わあああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「よし、帰ろうぜ」

 

ルドルフのそりに乗って、マイにそういう。

 

「そうですね。帰りましょうか。…やっぱり、サンタさんを怒らせちゃいけないですね」

「ん、なんだって?」

「なんでもないですよー♪」

 

勢いよくそりに乗ったのを見届けて、雪だるま達を見る。

 

「みんな、今日はさんきゅーな。また明日、会おうぜ!」

「の―――!」

「ユキちゃんたち…また、明日ですっ!」

 

マイも小さく手を振る。

ぴょんぴょんはねる雪だるまは、僕の右手の合図で体から光が抜け、動かなくなる。

そのまま上昇して上から帰ろうとすると、実況席からラストが声をかけてくる。

 

『ちょっとまて、サンタ!俺ものせてけよ!』

「あー、わかったよ、ほれ、乗りな」

「サンキュな!」

 

一番上の実況席まで向かって、そりを寄せると、ラストが飛び乗ってくる。

その時、実況のお姉さんと目が合ったので、声をかける。

 

「あー、お姉さん」

「え、私!?なんでしょう?」

「あれ、できれば壊さないでもらえると助かるなあ。それじゃあ、残りの試合も、これ飲んで頑張ってください!」

 

袋に入った小瓶を投げて手渡して、闘技場を後にする。

 

 

 

 

 

 

「え、ちょっと…この後も試合あるのに、壊しちゃダメなんですかあ…?どうしましょうか…」

「でも、まあ、いいでしょう!試合のオブジェクトとして、こういうのも!」

 

そして、グイッと、渡された小瓶を口に含む。

 

『んうぅ!にっがあああああああああああ!!』

 

その悲痛な叫びがマイクを通して、僕たちの耳にも届く。

 

「あ、みすった。こっちだった」

 

赤い小瓶と間違えていたようで、その叫びで理解する。

 

「あのお姉さん、飛んだとばっちりですね…同情しますよ…」

「はっはっは、俺の薬は万人受けするみたいだな!」

 

同情するマイと、爽やかに笑うラスト。

 

「まあ、良薬は口に苦しっていうしいいだろー。さあ、明日は準決勝だし、頑張っていこうぜー」

「おおー!」

 

話題をそらして、適当にごまかす。

そして僕たちは勝ち分をとるべく、おっさんのところへ向かった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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