ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第45話:演出

雪だるまの急な参戦に、全員がざわつく。

 

『なんだなんだあ!立ち上がったサンタクロース選手の周りに、いつの間にか、かわいらしい雪だるまたちがいます!そして動いています!ラストさん、これはどういうことなのでしょうか?』

『ああ、あれはサンタの技の一つだ。あいつは魔力がないらしいから原理はよくわからないが、レディオのオルトロスと同じようなものだろうな。ただ、あいつと違ってすごいのは、一匹だけじゃないってとこにある」

『あの子たち、いっぱい出せるんですか!?それは…見てみたいですね!』

 

実況のお姉さんが興奮している。

そして観客席でも色々とざわつきがあった。

 

「おいおい、なんだよあれ…」

「雪だるまのモンスターなんていたか…?」

「わー、ママ―!雪だるまさんが動いてるよー!」

「本当ね。かわいいわねえ」

 

不思議がるところもあれば、興味深そうに見るところもある。

まあ、雪だるまが動くなんて、普通びっくりするよな。

 

「おい!あれって反則じゃないのかよ!?」

 

観客のざわめきの中、対戦相手のモーブスが実況の方へ向けて叫ぶ。

 

『どういうことだ?』

「あんなのいくら何でもずるいだろ!おいらが戦うのはあの赤い帽子のやつだけだろ!雪だるまの乱入なんて反則じゃねえのか!?」

 

どうやら僕の反則を訴えているようだ。

もしかして、僕、反則負けしちゃうんですかね?

 

『あー、あいつは一応ビーストテイマーだからな。いいんじゃないか?』

 

適当に返すラスト。

 

「適当だなおい!」

『それにさあ、面白ければいいだろ?やっぱり試合は何が起こるかわからないから面白いんだろ?みんなあ、そうだろ!』

 

そう振ると観客もみんな乗り気で、拍手やら歓声が上がる。

もはやライブ会場かなんかなのかここは。

 

「ちくしょう、おいらが勝ったと思ってたのに!」

「まあ、落ち着けよ。さっきはわざと食らってやったんだよ。武器なしの威力がどれほどなのか、確かめたいじゃん?」

 

「さっきのはわざとだったのかよ…!へ、へん!ならおいらも本気で…っておい!なんかさっきより増えてるぞ!」

「ノーウ!」

 

先ほどの物言いの時に黙って召喚を繰り返して、今やその数は10体。

モーブス君はそれをみて大いに驚いている。

 

「ふう、ああ、あれだけじゃサービスプレイができないからな。よし、みんな!ここにいる人たちを笑わせてやろうぜ!」

「ノーウ!」

 

雪だるまたちはマイのいる観客席側を向いて一列に並ぶと、その場で一礼をした。

 

「さあさあ、みなさん!今から彼らの、サーカスの始まりです!」

『お、サンタが何か始めるみたいだな。これは面白いことになりそうだな』

「まずは彼らの団結力をお見せしましょう!」

「ノーウ!」

 

左手で合図をすると、4体を下に立たせて、そこへ3体がのり、さらにその上に2体がのる。

そして最後に、一匹が僕の頭に乗ってジャンプして、その頂点へと着地する。

 

これぞとっさの判断で思いつくアドリブ芸、人間ピラミッド。

 

その芸をした瞬間、あたりがしーんとする。

あれ、これって、いわゆる滑ったってやつ…?

しかしその不安はすぐにかき消される。

 

「か、かわいい…!」

「すげえ、なんて愛らしいんだ!」

「ママ―、ぼくもあのこほしいよー!」

 

『かわいいです!あの小さな子たちが協力してひとつの山を形成しています!なんてかわいいんでしょう!ああ、かわいい、かわいい…!』

 

みんなその愛らしさに惚れたのか、黄色い歓声が飛んでくる。

それにしても実況のお姉さん、あんたはしゃぎすぎだろ。

そんなにかわいいものが好きなのか?

 

「サンタさん、みんなおおうけみたいですよっ!もうちょっとやってみたらどうですか!?」

 

間近で見ていたマイが声をかけてくる。

その目は輝いていて、もっと見せろと言っているようにも見える。

 

「それ、お前が見たいだけだろ?」

 

「そんなこと…ないですよ?」

 

実際、このサーカスに意味はない。

ラストの言った面白ければいいという言葉が印象的だから、面白くしようと思っただけだ。

だからやれと言われればこちらも、やらざるを得ない。

目を泳がせるマイを見て笑いながらも、僕は再びサーカスを続行する。

 

「それじゃあ次のお題目!彼らは雪の精!そんな彼らは、雪でならなんだって作れるんです!ご覧ください」

 

彼らを集めて、こっそりという。

 

「よし、ここにいる雪を使って、お前らが好きなもの、なんでも作っていいぞ」

「ノ――――!」

 

嬉しそうに叫びながら雪だるまたちは中央へ行くと雪をかき集めて山を作る。

そして一斉にその山に飛びかかると、ものすごいスピードで山を削り、またある所には雪を付け足して加工していく。

こいつら、雪だけだったら、マイにも負けない技術があるかもな。

 

「何を作っているんですか?」

「さあ、あいつらが好きなもん作っていいぞって言ったけど、なに作るんだろうね」

 

壁に寄りかかって客席のマイと話しながら数分間見守っていると、何やら見覚えのあるシルエットが浮かび上がり、さらに数分後、それは姿をあらわにする。

 

『なんでしょうか…これは…古い家のように見えますが…』

『こ、これは…』

 

ラストがそれを見て驚きの声を上げる。

マイもそれに続いて、目を見開く。

 

 

「サンタさん…もしかしてこれって…!」

 

 

僕たちの経営する店でもあり、帰るべき我が家でもある、ファミリアが、そこにそびえたっていた。

そしてさらに、そこに見たことのある2人の男女の雪像と、留守番をしてるカラアレオンのコメットの像も入り口の前に建てられた。

 

それをみて、実況席でラストが一人盛り上がって語りだす。

 

『あれは、スタナ街にある、俺たちの家だ…ぼろくて人に見せるほどのものじゃないのに、なんであんなもの作ったんだ…でも、なかなかに粋なことしてくれるじゃねえか…!』

「スタナ街っていうんだねーあの街。全然知らなかったよ。って、おい…」

「うう、ゆぎちゃん…!うれしいです…うぅ!」

 

マイが僕の後ろで、ラストがマイクにすすり泣く声を響かせる。

何そんなに感動してるんだよ。

笑わせるためにやってんのによ。

僕とルドルフが歩いて雪像と並ぶと、スノウマンの作品が完成する。

作品名は、そうだな。名前の通り、ファミリアで。

 

「ちょっとサプライズで、僕の大好きな家族に見せてやろうと思って作ってみました!実物が見たい方は、ぜひスタナ街の、我が店へお越しください!イケメンと美少女店員が、なんでもあなたの望みをかなえてくれますよ!」

 

機転を利かせてそう言って一礼すると、周りから暖かい拍手が起こる。

その出来に関してか、それとも家族へのサプライズというところが評価を受けたのかはわからないが、とりあえず受けがいいので、気にしない。

 

『ぐす、いいもの見せてもらいましたねえ…サンタクロース選手は、家族思いの、好青年のようですねえ…』

『…ああ、俺の自慢の、家族だよ…!』

 

「うええん、サンタさあああん!ありがどうございまずううう!」

「みなさん、最後まで見てくれてありがとう!これにて、今日の演目は、すべて終了です!本当に、ありがとう!」

 

雪だるまと並んでもう一度頭をさげると、観客は大きな拍手と歓声を送って、僕と雪だるま達を賞賛する。

 

『サンタクロース選手…ありがとうございました!』

 

なんだかよくわからないが、こうして僕と雪だるまたちの、小さなサーカスは、幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおい!おいらを忘れるんじゃねえやい!」

 

一人満足して帰ろうと出口へ向かう途中、後ろで声がしたので振り返ると、そこには対戦相手の少年がいた。

 

「あ、忘れてた。今一応大会中だったんだな」

 

観客も実況も同じように「あ」と声を漏らす。

雪だるまのサーカスに夢中になって、そっちの方忘れてたよ。

 

「ごめん、ちょっとみんなにサービスしようと思ってただけなんだ」

「何がサービスだ!何がサーカスだ!おいらを無視しやがって、こんなもの…!こうしてやる!プリズム・アロウ!」

「ちょ、おい!」

 

 

巨大な結晶が生み出す爆発音。

先ほどまで真ん中でそびえたっていた白い我が家は、少年によって放たれた結晶の塊によって音を立てて崩れ去った。

 

それを見て泣く子どもや、驚く観客、上がる悲鳴。

 

「へーん、おいらを無視するからこうなったんだ!ざまあみろ!」

 

音が止み、そして会場が静まる。

すべての人が、壊された雪の我が家を、静かに見つめる。

 

その中で、一人だけ、元気に叫ぶモーブス。

 

「へっへーん!どうだ!お前もこのもろい雪の家みたいに、ズタボロに…」

「調子くれてんじゃねえぞ」

「…え?」

 

自分でも予想しなかった低い声。

その声に、モーブスも静かになる。

 

「何言って…うぉ!」

 

そして僕と雪だるまたちを見て、びくっとして少しだけ後ずさる少年。

 

「やってくれるじゃんか」

「ノオオオオ…」

 

そう。壊された建物を前に、僕と雪だるまたちは大人げなく、目の前の子どもに向かって、怒っていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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