そして大会。
回を重ねるごとに大きくなる歓声と声援の中、実況が叫ぶ。
『先ほどの戦いが終わって出場者は残り7名です。この試合に勝ちぬいた方々は準決勝への進出が決定します!それでは本日第2回戦、いってみましょう!』
『今回の対戦カードはどちらも大会初出場者!紹介していきましょう。まずは一人目!武器を持たない破天荒。でもなめてたら一発KO!彼を止められるものはいるのか!喧嘩屋モーブス選手です!』
「わあああああああああ!」
「そんなあ、照れるぜぇ」
目の前に立つ少年漫画に出てきそうな風貌のバンダナを頭に巻いた男の子はそういって頭をかく。
見たところ小学生くらいだろうか。
青いバンダナにどこぞの配管工のような青色のつなぎ、そして頭に付けたゴーグルがなかなかに決まっている。
『二人目はこいつ!赤い帽子がトレードマーク。白い袋に夢と希望をつめて、相棒とともに駆け回る!その名は、サンタクロース!』
「わあああああああああ!」
僕も先ほどに負けないぐらいの歓声をもらう。
そして今の紹介はラストによるものだ。
どうして運営側から追い出されないのかが不思議でならないが、気にしないことにする。
『実況はわたくし、セイ、解説はラストさんでお送りしていきます!』
『よろしくう!』
妙にラジオ番組のノリのようなラスト。客の受けはいい。
何やら拍手やら笑いやらが、所々から湧き上がる。
その和やかな雰囲気のせいか、目の前の喧嘩屋を名乗る男の子は僕に話しかけてきた。
「やあ、あんた、武器はないのか?」
「ああ、僕はこれさえあればいいさ」
そういって袋を見せる。
「へえ、面白いねえ!ま、おいらは強いやつとやれればそれでいいんだけどさ!」
少年漫画の主人公のようなそいつはそういうとボクシングのように構えて腰を低くする。
なるほど、本当に殴りでくるらしいな。
『さて、選手も準備ができたところで、本日の第二回戦、開始です!』
試合の合図が鳴り響く。
「いくぜ!アイス・グロウ!」
先に動いたのは男の子の方。
氷をまとった拳を僕に当てるべく一気に駆け出して接近する。
「やっぱり近距離か!ルドルフ、きてくれ」
指を鳴らしてあたりを雪で埋め尽くすと同時に、客席で待っていたルドルフが僕の前に飛んできて、乗れと言わんばかりに初めから引いていたそりに首を向ける。
「頼むぜ」
僕は早速空へ飛び攻撃の回避を試みる。
「なんだあ、ずりいぞぉ!降りてこーい!」
ぴょんぴょん跳ねて幼さを醸し出すモーブス。
その様をみて、魔法の射程範囲を確認する。
『おおっと、モーブス選手が先手をうって攻撃しようと思った矢先、サンタクロース選手は空に飛びあがったあ!これではその氷の拳が当たらない!』
『おそらく魔法が使えるモーブスの射程範囲を知りたいんだろうな。近距離だと思って戦ってたら、後になって実は遠距離もいけますなんて展開になったら、後々厄介だしな』
ラストの解説に思わず心を読まれたような錯覚を覚える。
あいつ、案外実況の才能あるかもな。
「なんだよ、降りてこないのかよ!だったらおいらからいっちゃうぞ!」
「おう、来いよ!うちのルドルフは、生半可な魔法じゃあたらないぜ」
煽ってやると、モーブスは顔を真っ赤にして怒る。
「言ったな!?それならこいつを、避けてみろよ!プリズム・アロウ!」
大きな結晶の塊みたいなものが飛んでくる。
それもうアロウとかそういうレベルじゃないだろ。
しかし速度は遅いので、ルドルフは難なく避ける。
「おっそいなあ、もうちょっとよく狙えよー」
少し煽るとすぐにむきになりだした。
さすが小学生。
その様、激おこぷんぷん丸の如し。
「だあ、くっそお!今度はこれだ!ラピッド・アイス!」
呪文を唱えると、彼の周りに小さなつららのような物がちらほらと現れ出す。
なんだ、今度はさっきよりも、余裕だな。
「どうせそんなの避けれ…っておい、弾がおおいぞ!なんだそのチート魔法!」
避ける気満々で余裕をこいていた僕だったが、現れ続けるつららは止むことが無く、次々と現れ出す。その量は目では数えきれないほどだった。
そして、それらすべての無数のつららのような氷が飛んでくる。
僕は思わず避けられずに、全身で攻撃を浴びる。
「ぐあああああああああ」
つららはルドルフにも当たってしまい、そりが揺れ、僕はそりから落ちて地面に落下する。
そこへ急接近してきた男の子が僕に向かって拳を振り上げる。
「なんだ、すぐに落ちちまったな!これでやられちまいな!うらあ!」
「まじかよ…っぐう!」
鈍く響く打撃音。
氷で腹を殴られ、マイのいる後方の観客席側に飛ばされる。
僕の体は闘技場の壁に激突し、その衝撃で、僕を隠すかのように辺りを雪が舞う。
僕を心配するかのように、マイの叫び声がすぐそこに聞こえる。
「サンタさん!」
そして、攻撃が決まったと思ったモーブスは勝利を確信して、声を張り上げる。
「へ、おいらの勝ちだ!楽勝だぜ!」
白い雪の煙の中、サンタクロースの姿が見えることは無い。
実況のセイが興奮して語りだす。
『でたあ、モーブス選手の得意技、ラピッド・アイス!この攻撃で、前回の対戦相手はなすすべなくやられてしまいました!その攻撃をうけ、さらに追い打ちの攻撃が決まった今、サンタクロース選手は果たして無事なのでしょうか!?』
それにたいして、ラストが静かに答える。
『この勝負、もう決まったな』
『え、ラストさん。やはり、今ので決まってしまったのでしょうか!?』
『そうだな、今ので決まっただろう。この試合、勝者は――――』
雪が収まってその姿が見えたのを確認して、ラストは笑う。
『サンタ、だろうな』
「いってて…いいもん持ってるじゃねえか…」
『あ!なんとサンタクロース選手、生きてます!あれだけの攻撃を食らって、なんともなさそうです!』
「わあああああああああ!」
立ち上がったサンタクロースに対して、大きな歓声が上がる。
間近でサンタクロースを見ていたマイも、声をかける。
「サンタさん!大丈夫なんですか?」
「ああ、全然大丈夫。僕、こう見えて頑丈だから」
その場で跳ねて、全然問題がないといったように見せるサンタ。
それをみて安堵するマイに、今度はサンタクロースが話す。
「安心しろ、こっからはみんなで遊びの時間だ。まあ、楽しんでってくれよ」
「え?みんな?」
「昨日言ったろ。また会える、それこそ、明日にでも、ってな」
赤い帽子が指差した足元には、彼を支える、小さな白い雪の精。
「ああ…ユキちゃん!」
「ノーウ!」
「ヌー!」
「ノ―ノ―!」
雪の煙が完全に収まった時、彼らの姿は見えるようになる。
小さな彼の友達の、3体の雪だるまが、赤い帽子の青年の前を囲っていた。
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