数分後。
マイたちのお祭り騒ぎも終わり、緑色の雪だるまも復活させ、気絶者はラストを残すのみ。
「それじゃあ、そろそろラストを起こしてやりたいんだが。マイ、僕さあ、ちょっとやりたい起こし方があるんだけど、いいかな?」
ニヤリと笑ってマイを見上げると、マイも察したようで、すぐに笑顔になる。
「奇遇ですね~。私もやりたい起こし方があったんですよ~。多分サンタさんと同じだと思いますよ?」
貸していた袋から緑の小瓶を取り出して、フラスコのかき混ぜる時のように手でくるくると回す。
「よし、それなら、一応多数決はとらないとな。みんな、反対の意見はあるか?」
「ノオオオオオオオ!」
雪だるまたちに尋ねると、彼らはそろって同じことばを叫ぶ。
「ぷ、ははは!全員ノー。満場一致だな!」
「ふふふ、あはは!もう!サンタさん、私の真似しましたねっ!」
「いやあ、僕もついやりたくなってね。…ということで」
ラストの口を掴んで無理矢理口を開く。
「いけえ、マイ!」
「はいっ!この苦しみ、ラストも味わいなさい!」
マイがラストに小瓶を突っ込む。
「んん。んぐ…んぐ…」
のどを鳴らして緑色の液体を飲むラスト。
良い飲みっぷりだ。
そしてすぐ、その閉じた目はカッと見開かれる。
「んぐ…んが!?にっが!え、にが、にっげえええええええええ!」
そして飛び上がり、悶絶。
「おはようラスト。どうだ?自分の薬の出来は?最高か?」
「ううおおおおぉぉぉ…!最高だが最悪だよ!」
「どういうことだよ…」
横ではマイが、空になった瓶を投げ、腹を抱えて笑っている。
「ぷ、あはは、あはははは!やっと仕返しできました!やりましたね、サンタさん!」
「ああ、やったな!」
お互いに手を合わせて、ハイタッチをする。
僕たちは2人とも被害者だからな。
この仕返しがうれしくないはずがない。
「身内同士の足の引っ張り合いとか…お前ら、最悪だな…」
「まあまあ、今日は楽しかったし、いいじゃん」
「そうだけどよ…はあ、もういいよ…」
これでみんなあの劇薬の味を味わった。
もうしばらくは、目覚ましで飲ませるなんて暴挙には出ないだろう。
「それじゃあそろそろ帰ろうか。もう日も暮れる」
気づくといつの間にか、夕方になっていて、日が沈み始めていた。
近くで走り回って遊んでいたルドルフを呼んで、そりに乗りこむ。
3人乗り込んだところで、マイがふと疑問を口にする。
「サンタさん、この子たちはどうするんですか?」
「ああ、こいつらは雪に帰るよ」
「雪に?」
僕たちを見送るようにそりの外から列をなす雪だるま達に手を挙げる。
「じゃあねみんな、今日は楽しかったよ。また遊ぼうな」
「ヌ――!」
パチン!
指を鳴らすと、雪だるまたちの体から白い光が抜けていき、空へと昇って行く。
光が抜けた雪だるまは動かなくなり、その場に鎮座する。
「まあ、こんな感じだ」
「なるほど…なんだか、さみしいですね…」
寂しそうな顔で雪だるまを見つめる。
まあ、友達だったやつらがいきなりいなくなるのは、さみしいよな。
フォローくらいは入れといてやるか。
「一つ、昔話をしてやる」
「え?」
「それは雪の積もる白い日、子どもが一人、空地にたたずんでいた。彼は寂しさを紛らわすために、雪だるまを作って友達として遊んだんだ。そして次の日、空地に行くと、昨日作った雪だるまが動きだして一緒に遊んでくれたんだ」
思い出して語る唐突な昔話に、マイは目を輝かせる。
「へえ、素敵な話ですね…!」
「でもな、その次の晴れた日、公園に行くと、雪だるまは溶けかけていて、もう動かなくなっていたんだ。その子は、たった一人の友人に別れの挨拶もできずに、友人を失ってしまったんだ」
「…」
「まあ、この話は真冬の思い出の一つに過ぎない。この話を参考にすると、次の日になったら、あいつらの体は溶けて動けなくなっちゃうだろ?だから、そうしないために、今帰してあげた方がいいんだ」
「・・・そう考えたら、そんな気もしますね…」
「だからさっき、あいつらに言ったろ。また今度、遊ぼうなって。僕は、ここで別れの挨拶をしたんだ。そうすれば、これが最後で、明日から会えなくなったとしても、後悔はない。別れの挨拶もできるし、友人が去るところを、見送れるんだからな」
ぽん、と、マイの頭に手をのせて、励ますように言う。
「大丈夫、また会えるさ。それこそ、明日にでも、な?」
「・・・そうですよね。また、会えますよね」
顔を上げて、いつものやさしい笑顔を浮かべる。
「・・・よっし!湿っぽい話も終わったし、そろそろ行こうぜ、サンタ!」
ラストが空気を呼んで場を収める。
「ああ。ルドルフー、帰るぞー」
僕のパートナーは元気よく駆け出すと、そりが空を滑り、宿へと向かう。
その途中、ふと、昔を思い出して、マイに言う。
「そういえばな」
「はい?」
「さっきの話で出てきた子どもなんだけど、今はもう一人じゃないんだ。友達もいて、血はつながっていないが、家族もいる。冬の出来事は、今、そいつにとって一つの思い出として、大切に記憶に刻み込まれているんだ」
「それって、もしかして…」
マイは少しうつむいてから、はっとしたように顔を上げる。
「そう、ハッピーエンド、ってやつだな」
ニヤリと笑って、横目で見やる。
その様子をみて、マイは僕に微笑みながら、優しく語り掛ける。
「・・・良かったです。本当に良かったですね、サンタさん!」
「ああ、そうだな」
その出来事は、僕の記憶の中の1ページに、真冬の思い出として、鮮明に刻み込まれている。
誰に言っても信じてもらえなかったが、今はわかる。
―――あの雪だるま、あんたの仕業だよな。じいさん。
胸の中でそう呟いて、夕日を眺める。
赤く輝く夕日は、そりについた雪をきらきらとイルミネーションのように輝かせて、僕の赤い帽子を、さらに真っ赤に染め上げていた。
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