ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第36話:大人数でやる遊び

「・・・」

 

目は閉じたまま、ふと意識が戻る。

気を失っていたようだ。

確かスノウマンたちに抱き着かれて…寒くて気絶したのか。

 

ん?

 

頭に何か柔らかい感触がある。

枕でもあるのだろうか。

 

「なかなか起きませんね~」

 

真上で女の子の声がする。

マイの声だ。

ん、真上…?ということは、これは、もしかして―――

 

膝枕、というやつか…!

 

まずい、恥ずかしい。

どうしよう、起きるタイミングが分からない。

 

「まだ5分も経ってねえじゃねえか」

 

ラストの声がする。

こいつなら何とかしてくれるだろうか。

 

「早く起きないかなあ」

 

お前のせいで起きられないんだよ!

何恥ずかしいことやってんだ。

雪の上でスカートなのに膝枕とかよくやったな!

 

「仕方がねえなあ。じゃあ起こしてやるか」

 

おお、ラスト!

お前ならこの状況でも、膝枕の恥ずかしさを覚えない起こし方をしてくれるはずだ!

 

…しかしだ、なぜだろうか。

この頼もしい口調に少し嫌な予感がする。

 

「そ、それは…!」

 

マイの驚いた声がする。

 

「マイ、こいつの口を開けてくれ」

「…サンタさん、ごめんなさいっ!」

 

小さなひんやりした手が僕の口を優しく開く。

あれ?なんかどこかで僕も同じようなことをしたような気が…

あれは確か…

 

「ほら、起きな」

 

グイッと、口の中に小瓶が突っ込まれる。

その後、そこから液体が口の中に流れ込む。

一瞬、何を飲まされたのか分からなかったが、すぐにその液体の正体に気づく。

 

レディオ戦で一度飲んだだけでも忘れられないトラウマの味、これは―――

 

思い出した!これはあの…って。

 

「ぐああああああ!!死ねるポーションビリジアン!!!」

「お、起きたな」

 

呑気に声をかけるラスト。

こっちはそれどころじゃない。

 

「オオオオオオオ!まずい!なんてもん飲ませやがる!」

「まあまあ、それで、気分はどうだ?」

「口の中以外は最高だ!」

「だろ?」

 

自分のポーションのクオリティを自慢したいのか、ものすごいドヤ顔で僕を見る。

こいつ、イケメンじゃなかったらその顔潰れるまでぶん殴ってたぞ。

まあ、イケメンでも殴る時は殴るが。

 

でも、飛び起きたおかげで膝枕は気にしないで起きることができた。

それについてはグッジョブだ。

 

「起きたところ悪いんですけど、ユキちゃんたちは何をやっているんでしょうか?」

「ん?」

 

見ると、雪の子どもたちはそれぞれ二手に分かれて雪で大きな壁を作っている。

5分しか気を失っていないという割には、高さ2メートルほどあるその壁は、なかなかに厚く、丈夫そうに見える。

 

「ああ、あれは壁を作っているんだよ」

「壁?なんでですか?」

 

マイが首をかしげる。

 

「多分、これからやる遊びの準備だ。あいつらが最も大好きな遊び、雪合戦だ」

「雪合戦かあ!腕がなるぜえ!」

「小さい頃みんなとやったなあ。懐かしいです…」

 

どこか懐かしそうに眺めるマイ。

そういえば孤児院だったか。

 

「ま、今の歳でも十分楽しめると思うぜ。あいつらの雪合戦は、はっきり言って子どものそれとは比較にならないほどハイレベルだからな」

「ふふっ、それは楽しみです!」

「へ、それなら、俺の腕の見せ所だな」

 

ラストも張り切って腕をまくる。

丁度スノウマンたちも、準備ができたのか、こちらに駆け寄ってきて列をなす。

 

「よし、じゃあ、早速チームわけするぞー。一列に並べ―」

 

凸凹な連中が一列に並ぶ。

 

「んじゃ、いくよ。ちくたくちくたく…」

 

交互に右と左に分けて、公平にチームを分ける。

別にこいつらにスペックの差があるわけじゃないが、懐かしさもあってこういうことをしてしまう。

 

「よし、これでオッケーだな」

 

7人と8人に分けたところで最後に7人のところに僕が加わる。

 

「サンタさん、同じチームですねっ!」

「おう、頑張ろうな」

「はいっ!」

 

僕とマイは同じチームになった。他の6体のスノウマンも僕と一緒でうれしいのか、僕を囲って飛び跳ねる。

 

そして僕たちに対抗するのはラスト率いる雪ん子チーム。

 

「へ、冬将軍と呼ばれた俺の実力を、お前らに見せてやる!」

「負けませんからねえ…!」

 

二人が火花を散らす。

よかった。一応は楽しんでいるようだ。

 

「それじゃあ、こいつらの見分けを付けられるように、これを飲ませようか」

 

 

袋から取り出したのは6本の赤い小瓶。

スノウマンに渡して飲ませると、彼らの体は僕の頭の帽子と同じような赤色に染まる。

 

「僕たちは赤でいいな。ラストはまあ、そのままでいいだろ」

「何言ってやがる!俺も色を付けるぞ!貸してくれ!」

 

そういって袋から取り出したのは先ほどのビリジアン。

スノウマンたちは一斉に飲むと、そのまずさに苦しみだす。

 

「ノーウ!ノ――――ウ!!」

「いいか、これをもう二度と飲みたくないと思ったなら、絶対勝てよ」

 

何かを吹き込んでいる。

立ち上がった緑色の戦士たちは、何やら目つきが先ほどと違う。

大丈夫だろうか…

ふと隣のマイを見ると、やってやりましょうという風に、目を輝かせてこちらを見てきた。

 

 

「それじゃあ5分後、これがなったら対戦開始だ。ルールはリーダーが気絶か、降参するまでだ」

 

スマホのタイマーをセットして、ラストに見せる。

 

「おうよ!今のうちに教えてやる。リーダーは俺だ!行くぞお前らあ!」

「ノーウ!」

 

ラストのチームは片方の壁の方に走って行った。

 

「私たちも行きましょうか」

「そうだな、因みにリーダーはマイに頼んだぞ」

「ええ、サンタさんじゃないんですか!?」

「女の子相手ならやつらも少しはためらうだろう。因みに僕は守る方が得意だから、お前には雪玉は当てさせないから安心しな」

 

面食らったように目を見開くマイ。

 

「…!それじゃあ、よろしくお願いしますね!」

 

ぎゅっと、服をつかむ。

少しだけ赤くなったその顔を見て、自分が恥ずかしいことを言ってしまったことに気づく。

 

「…ああ、任せてくれ。それじゃあみんな。今のうちに攻撃の準備だ」

「ヌー!」

 

赤い戦士たちはみんな、ものすごいスピードで雪玉を作り始める。

あっという間に雪玉は積まれていき、戦う準備は万端だ。

 

「よし、それじゃあ準備はいいな?みんなで助け合って、やられないように!」

「ヌ――!」

 

赤い二頭身が雄たけびを上げる。

それが終わると同時に、最大音量のスマホのタイマーがなり、5分がたったことと、戦いの始まりを告げる。

 

「よし、行くぞお!」

「お前らぁ!狙うはあの赤い帽子だあ!ガンガン突っ込めええ!」

 

その声とともに、赤と緑が混ざり合い、あたりは戦場と化した。


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