「な、なんだこれは!?」
突然の銀世界に焦りだす大男、バンベルト。
一瞬の出来事に、僕とルドルフ以外は驚きを隠せない。
「どうだい、バンベルト。さぞかし驚いたろう?」
「お前の仕業か!まさかお前…魔法使いか!?」
先ほどの余裕が一瞬にして消える。
自分のペースはどうした。
「残念だけど、これは魔法なんていう偉大なものじゃない。生まれつき僕には、魔力というものが宿っていないらしい」
「魔力がないだと!?じゃあ、なんだというんだ!?」
「まあ、細かいことは気にするもんじゃないさ」
数週間前。
このスキルは実にルドルフのスキルの後に発現したものだった。
スキルの枠名は夢と希望の物語。
ホワイトクリスマスはその中の最初のスキルだ。
雪を降らせるしか能のないスキルで数少ない一つ目の枠が埋まってしまったと嘆いていたが、どうやらスキルは派生するようで、この枠の中でスキルが増えるらしい。
その証拠に、いくつかのスキルが発現している。
スキルの発言は条件があると思っていたため、スライムばかり倒していた僕はスライムキラーとかがつくと思っていたが、全然そんなことは無かったようだ。
因みにMPの消費はないが、代わりに僕の体力が減るみたいだ。
SPという緑色のゲージが、スマホを見たときに減っていて、使いすぎたときは息切れをおこしたことがある。
一応、疲れない身体のはずなのに。
「とにかく、これだけあればお前は倒せる」
雪を丸めて袋に入れる作業を始める。
どれだけ詰めても重くならない袋は、限界というものを知らず、3つ、4つと、雪玉を難なく受け入れる。
「動かないならなおのこと、お前のペースにも付き合ってやるから、僕のペースにも付き合ってくれよ」
「雪玉を投げる作戦か。ふん、面白いが、そんなものではこの俺の鎧を貫くどころか、傷一つつけられんぞ?」
雪景色にも十分慣れたのか、目の前の男の顔には余裕の表情が戻っていた。
相変わらず動く気配が見られないが。
『おっとお、サンタクロース選手、雪玉を丸めている!いつまでこの作業を続けるのか!そして、バンベルト選手はいつ仕掛けるのかぁ!』
そしてそれから、大体5分がたったころ。
実況のお姉さんもこの変わらない戦況を実況し続けるという苦行をし続けて、息を切らしているのが伝わってくる。
会場からも、早くしろといわんばかりに食べ物やら飲みかけの瓶が飛んでくる。
「おーい、サンタ、何やってんだよ!早くしろよ!」
「もう待ちくたびれましたよ~」
後ろでも二人がつまらなそうに僕の雪玉製造を眺めては口々に不満をぶつけてくる。
「…わかったよ。もう準備もできたし、終わらせるよ」
白い袋に手を入れて、目の前の男を見やる。
男はやっと来たかという表情で、剣を構えなおす。
「待たせたね。良い子にして待っていた子には、サンタクロースからのプレゼントだよ!」
雪玉を投げつける。
「馬鹿にしやがって。そんな雪玉では俺は倒せないと言っているだるがぁっ!?」
顔面にクリーンヒット。
いやもうちょっと避けるそぶり見せてよ。
「なんだあ、避けないのかあ!?そうか、足りないってことかあ!なら、もっとくれてやるよ!」
そのまま休めることなくストックしていた雪玉を投げまくる。
素手の熟練度の補正もかかって、雪玉は野球選手の放つ野球ボールに近いスピードで男に吸い込まれるようにして向かっていく。
『バンベルト選手!雪玉を避けようとしません!これは、お前の雪玉なんて屁でもないといった、挑発なのでしょうかあ!?』
「ぐ、があ!何故だ!何故ただの雪玉が、これほどの威力を!しかも速い!ぐああ、やめろ、顔面ばかり、狙うなあ!っぐあぁ!」
お姉さん、間違ってるよ。さっきからだけど。
「どれだけ硬い鎧を着ていたって、伝説を語りたがるその自己主張の強い顔は、何も覆うものがないからなあ!一番効果的な場所だな!」
ばれないように、雪玉で目くらましをしつつ徐々にバンベルトに近づく。
どうやら雪玉に集中しすぎて、僕の位置にまでは気が向いていないようだ。
そのまま雪玉を剛速球で投げまくり、気づくと男の目の前にまでたどり着く。
「ぐお!いつの間に!?」
「雪玉が敵じゃないんすよね。対戦相手は僕だってことを、忘れちゃいけないでしょう」
「く、この!」
大剣を振り上げるが、先ほどから食らい続けた雪の冷たさと、足元を覆う雪のせいで冷えたのか、動きが鈍い。
「遅い、前にやったやつの方が、もっと良い動きをしたよ」
振り上げようとする両手を思いっきり右手の裏側で打つと、大剣を持つ手は力を失って、滑り落ちた大剣は雪の上に寝そべる。
「何!?ぐああ、があ!」
そのまま大男を押し倒してマウントポジションをとり、鎧に覆われていない左肩のあたりを数発殴り痛めつける。
「これでもう片手は上がらない。自慢の大剣も、片手じゃ使いこなせないんじゃないかな?」
後ろの二人には見せられないほどのゲスい笑いを見せてやると、バンベルトの表情が強張る。
「ぐ、くそ、この俺が、一回戦で、こんなふざけた格好の奴なんかに…!」
「さあ、そろそろ頃合いだ!良い子は寝る時間、サンタクロースのプレゼントは、起きたら枕元に転がっているだろう!」
大きく深呼吸して、右手を引く。
直後、ボクシングのアッパーのように、顎を殴り上げる。
顎は殴れば脳が揺れる。
どれだけ良い鎧を着ていようが、大柄だろうが、脳をやられてしまえば意味がない。
「がっ!!はあ…」
「ふ、こいつも傑作だな!」
パシャ!
目を開けたまま気絶する男の顔を笑いを抑えてスマホで写真をとると、僕は立ち上がって客席の二人の元へ歩みを進める。
「お前は伝説を語るには弱すぎる。枕元に敗北という名のプレゼントをおいといたから、それで満足してな」
『・・・っは!思わず見入ってしまいました!第一回戦!勝者は、武器も使わずに、自分より大きい屈強なバンベルト選手を見事打ち破った、サンタクロース選手です!』
「「わあああああああああ!!」」
僕の勝利を、会場の人々すべてが叫び祝福してくれる。
実況のお姉さんも、ラストも、マイも、ルドルフも。
「サンキューな!また明日!」
右手を上げてそれに答える。
大会に出る側も、こういった楽しみがあるのかと、つい思ってしまい、伝説を語りたがったバンベルトの気持ちが、今になってわかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。