昨日の露天風呂でのこと。
「それでその金策方法なんだが―――」
ラストが続ける。
「俺たちに宿が無いって言って断った宿屋の店主たちの話じゃあ、なんでも近いうちに大会なるものがあるらしい」
「ああ、さっき受付のお姉さんたちが話してたのを聞いたけど明日からやるらしいな。それで?」
「このユーエン街では娯楽として賭け事が流行っててな。その中でも大会とかがあるたびに、毎回の戦いの勝者を予想してみんなで金を賭けるというのが一番人気らしい。金が集まる分、もしそれに勝てば一気に大儲けできるってわけよ」
「へえ、面白そうじゃん。それで勝てると思ったやつに賭けて、宿代を取り戻すって寸法だな」
闘技場の勝者予想ね。昔やったRPGの寄り道要素にあったな。
まさか実際に体験することになるとは思わなかった。
「その通り!だから明日、3人で大会観戦という名目で、マイに金がないってばれないように金策しようぜ!」
「まあそれならマイにもばれないし楽しめそうだからいいけどさ。それで、お前今回の参加者の情報知ってんの?」
競馬でもそうだが、有力なやつを知らなければ、賭け事には勝つことはできない。やったことは無いが聞いた話じゃパチンコでも出る台と出ない台があるというし、馬だって一頭一頭のスペックをわかっていなければならない。
賭け事は情報戦だ。素人が何も知らずにやるのでは、福引券一枚で一等賞の玉をガラポンで当てるのと等しい。
しかしラストは余程の自信があるのか、僕の顔を誇らしげに見つめる。
「ああ、全員は知らないが、一人だけ、誰も知らないダークホースがいるんだよ。そいつが俺の、切り札さ」
そして今日、闘技場に出向いてみればいつの間にか参加登録が済んでいて、早速第一回戦からこの目の前のバンベルトとかいう王国在住の騎士と戦わされる羽目になったのである。
「サンタぁ!勝てよお!」
「話が違うぞぉ!ラスト!」
観客席の一番下に座る二人と一匹を見て、僕は叫ぶ。
「仕方がないだろー!こうでもしないと他に方法がないんだよー!」
「?なんですか、方法って?」
「へっ!?い、いやあ、温泉ばっかりじゃ退屈だろうから、サンタがマイを何か楽しませてやりたいって言っててさ!」
「そうだったんですか!?サンタさーん、ありがとうございます~!絶対勝ってくださいね~!」
そんな顔で見るなよ。
頑張らなきゃいけないじゃんか。
「ああ、はいはい、楽しんでね。ったく、後で覚えとけよ」
振り向かずに後ろに手を振る。
目の前の男は剣をもたずに、こちらのやり取りをただ見ていたが、終わったのを確認してから声をかけてきた。
「おしゃべりは終わりか?」
「ああ、ごめんね。ちょっと手違いがあってね。まさか王国の騎士様と試合をするとは思ってなくて」
目の前の高そうな鎧をきた男はしばらく高らかに笑うと、腕を組んで上から見下すように話してきた。
「はっ!まあそうだろうな。俺は今回、優勝するつもりで参加してるからな。お前、見た限りでは遊び半分、勢いで参加したようなものだろう?さぞかし運の悪いやつだ!」
「ははは…」
賑やかなやつだな。
こいつも、なかなかに自分に自信があるようだ。ルウシェルといい、全く王国の騎士というやつらは、どうしてこうも態度がでかいのか。
王国に住んでて、良い鎧と剣を持っていれば、そんなに偉くなれるのか?
「まあ決まったことは仕方がない。さっさと始めよう。僕もすぐ終わらせて帰りたいし、観客も怒っちゃうよ」
『両者一歩も動きません!慎重に、お互いの探り合いをしているのかあ!?』
実況のお姉さんごめんね、そんなんじゃないよ。
白い袋を左手にもって戦闘態勢に入る。
「ほう、降参をするつもりはないのか。面白い、この俺の華やかな勝利を観衆に見せつけて、お前を今これから始まる、俺の伝説の礎にしてやろう」
僕よりも大柄なバンベルトは背負っていた僕の背丈ほどはある大きな剣を両手で構えて、僕をにらみつける。
「どうした、来い」
「へえ、動かないスタイルか。でかい図体して大剣持ちのくせに、見た目と違ってずいぶん慎重なやつなんだな。」
少し噛み付いてみたが、男は眉ひとつ動かさない。
「そんな安い挑発には乗らんぞ。俺は俺のペースで戦う」
「へえ、それじゃあ僕も、僕のペースで戦おうかな」
ここなら、使っても大丈夫だろう。
深呼吸をして、一言。
「お前の伝説の前に、僕の夢物語に付き合ってくれよ。その方が、きっと面白いからさ」
「何?」
「それはそれは遠い昔の話。すべての始まりは、雪の降る夜から始まったんだ。スキル、ホワイトクリスマス」
パチンッ!
指を鳴らすと、僕の足元から闘技場一面が雪で真っ白になり、ひらひらと大粒の雪が空から舞い降りる。
「な、なんだこれは!?」
『なんだこれはあ!いきなりこの会場が、雪で覆われましたあ!』
目の前の景色の変わりように、バンベルトも、観衆もすべてがざわつく。
「さあ、始めよう!サンタクロースの物語の幕開けだ!」
僕の後ろではマイとラストが驚き、ルドルフが、空を嬉しそうに見上げて、前足をばたつかせていた。
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