ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第22話:出発

「か、完成です…」

 

朝、6時ころ目が覚めてそこらにあった荷物を袋に突っこんで外に出ると、マイが肩で息をしながら出来上がったそりの前に立っている。

 

「おはよう、本当に寝てなかったのか…」

「サンタさん…どうですかこの出来っ!我ながら傑作だと思うんですけどぉ!」

 

徹夜明けのテンションからか目つきが怖い。かわいい顔が台無しだ。

 

「あ、ああ!最高だな!サンキューな!」

「そうですよね…!よか…った…」

「うわ、おい!」

 

パタリ。

倒れるマイを抱きかかえて出来上がったそりに寝かせる。

 

「本当に作っちゃうなんてな。お前やっぱすげえよ」

 

少しの間頭をなでて、パーカーを布団代わりにかけて、再びラストのいる二階へと向かった。

 

 

 

「おーい、ラスト、起きてるかー?」

 

部屋の扉を開けると、机の上に頭をのせて突っ伏すラストが眠っていた。

こいつは寝落ちか。

 

「起きろ、ラスト。朝だぞー」

「んー…」

 

起きる気配はない。

少し酷だが、目覚ましをしてあげよう。

ラストの首根っこを右手で掴んで、少しずつ力を入れる。

線の細い男のそれは、本気で力を入れればすぐにでも折れそうで、まるでスチール缶のような――――

 

「ぐが!いだだだだいってええええああああ!!」

「あ、起きたか。おはようラスト」

「サンタてめえなんのつもりだ!?」

 

充血した目を血走らせて僕に詰め寄るラストに、僕はただ、

 

「目覚まし」

 

とだけ、短く答えた。

 

「普通にゆすって起こしてくれよ!危うく一生朝日を浴びられなくなるところだったぞ!」

「はっはっは!面白いジョークだな!」

「ジョークじゃねえ!」

 

ラストの目も覚めたところで、本題に入る。

 

「まあとりあえずそれは置いといて。マイが本当にそり作ったっぽいぞ」

「置くなよ…まあ、あいつなら作るだろうよ」

 

あまり驚かない。こいつはマイのことは信頼してるんだな。

僕とは過ごしてきた時間が違うか。

 

「それで、どこに行くかは決めたのか?」

 

机の上に散らばった地図や本などを見ながら尋ねる。

 

「いろいろ考えたんだけどな。徹夜したのに全然決まらなかったぜ」

 

いや寝てただろ。お前、起こされたこと忘れんなよ。

 

「サンタ、お前なんかしたいことないのか?観光とか山登りだったり海だったり」

「そうだな…あ、最近寒いから温泉に行きたいかな。うちはシャワーしかないからなかなか湯船につかることもないし」

 

一応浴槽はついているのだがぼろいこの家の浴槽にはひびが入っていて、湯を沸かそうものなら下の階に雨が降ってしまうために、シャワーしか使うことができない。

女のマイには辛そうだ。いつか真っ先にリフォームしよう。

 

「温泉!いいな!それじゃあここにしよう!」

 

地図を取り出して指をさし、僕に見せてきたその街の名は、ユーエン街という名前。

 

「ここら辺でも有名な温泉街だ。王国に住んでるやつらも観光に来るほど、人気の街なんだぜ!」

「へえー、そうなのか」

「闘技場もあってな。見世物もあって退屈はしないと思うぞ!」

「闘技場?まあそこはいいや。んじゃ準備できたら教えてくれ。外で待ってるから」

「おう!待ってな!」

 

計画性も全くない旅行になりそうだ。

まあそういうのって、若いうちの醍醐味だと思うけどさ。

 

 

再び外へ出ると、カラアレオンのコメットとルドルフが仲良さそうに遊んでいる。

もう仲良くなれたのか。よかったな。

でも起きるの早くねえか。

 

「おはよう。さあ、朝ごはんの時間だぞ」

「グエエァァ」

 

いつもと同じゼリーをルドルフに渡すと、いつものようにおいしそうに食べ始める。

そういえば、カラアレオンの主食って何なんだろうな。

ゼリーを3色手にのせて考えていると、コメットが舌を伸ばしてきてゼリーをすべてかっさらう。

あ、こいつもこれ好きなんだ。

 

二匹の食事を眺めていると、店からラストが出てきた。

 

「準備できたぜ!早速出発すんぞ!」

「早いね。でもマイがまだ準備してないんだよ。徹夜明けで寝ちゃったんだ」

「ぇへへ。さんたさんとふたりでりょこう〜…」

 

そりの中でマイはもそもそと寝言を呟きながら、先ほど掛けた僕のパーカーにくるまって幸せそうな寝顔を見せている。

 

「んだよだらしねえなあ。おい、ちょっと緑と青のゼリーくれ」

「ん?いいけど何に使うんだ?」

「待ってな」

 

もう一度店に入ると、すぐ戻ってきて液体のはいった小瓶を持ってくる。

苔のような色をしていて、なんともおいしくなさそうだ。

 

「おい、マイ。起きろよ」

「ん~、ね~む~い~」

 

寝返りをうって抵抗する。

 

「おい、サンタ。こいつの口開けろ」

「お前、それ飲ませるのかよ…マイ、ちょっと失礼」

 

言われるがまま無理矢理口を開く。

その瞬間、ラストが小瓶をマイの口の中に突っこんだ。

 

「んん、んっ…」

「何だよそれ」

 

マイが飲まされている液体が気になったので、ラストに訊ねると、目の前のイケメンは口角を吊り上げて悪い大人の顔をした。

 

「いい質問だぜサンタ。こいつはラスト特製、死ねるポーションビリジアンだ。青と緑のゼリーは混ぜるととても苦くなるんだ。回復効果はその分高いが、その苦さゆえに、一度飲んだら二度と飲もうとは思わない」

 

「鬼畜だな…」

「眠気も吹っ飛ぶぜ?」

「ん、ぐっ!んんん!」

 

その時、先ほどまで静かに寝ていたマイの容態が急変した。

 

「んん!まずい!まずいですっ!うええええぇぇぇ!」

 

苦しそうにマイが飛び起きる。

船酔いした船員のように、そりにもたれて飲んだものを吐き出そうとえずく。

 

「よし、目が覚めたな。準備しろ。さっさと行くぞ」

 

情も何もないマッドサイエンティスト、ラスト博士がマイに短く告げる。

 

「ラストぉ…許しませんからねえ…」

 

準備のために店の中に飛び込むマイを見送って、僕は放られたパーカーを着てそりに乗り込んだ。

そりの出来は先ほども見たが完璧だった。ルドルフの体の大きさに合わせているものの、4人乗るには十分すぎるスペースがあり、足元も窮屈ではなく広々としていて、車の運転席にいるような気分になる。色はまだ塗られていないがそのままでも味を出しているために、色を塗るべきか悩んでしまう。

 

「流石としか言いようがないな。一日で作ったとは思えない」

「そうだろう。全くいつからあそこまでできるようになったんだか…」

「そういえば、二人はいつから一緒に暮らしてたんだ?」

 

しみじみと言うラストに、僕はふと抱いた疑問をラストに言った。

 

「小さい時からずっと一緒さ。俺たち、孤児院で育ったからさ」

「そうだったのか。この街にあるのか?」

「ああ、この居住区の、奥の方に、今でもかわらずに俺みたいな子どもがいる」

 

遠い目をしながら空を見上げるラストを見て、その思い出に浸っているのを見ると、僕も行ってみたい衝動に駆られる。

 

「へえー、今度連れていってくれよ。育ての親に孝行しにいこうぜ?」

「へへ、名案だな。まあ、帰ってきたら、そのうちな」

「お待たせしましたー!」

 

ちょうど、店から大きな荷物をもってマイが出てきた。

 

「よっし、んじゃあ店閉めて出発だ!」

 

ラストが看板を立てて、店のカギを閉めた。

看板には、「ユーエン街に旅行に行ってきます」と書かれていて、右下に小さく赤い帽子の落書きが書いてある。

 

「留守番はコメットに頼むか。大きいから連れて行けそうにないしな」

「グエエエアアア」

 

コメットは表情を変えずにこちらを見る。

そして子どものように、二人が後ろの席ではしゃぐ。

何も言わなくてもルドルフはそりの前に立って、準備ができてるとでも言うように鈴を鳴らす。

よし、準備は整った。

 

「行こう!」

 

僕たちの少し長い旅行が、始まる。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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