ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第17話:祝勝会と忘れ物

「かんぱーいっ!」

「かんぱい!」

「乾杯!」

 

何度目かの光景。

僕たちは祝勝を記念して、飲みに来ている。

本当はただ飲みたいだけの気がするが、まあ接客業も楽じゃないしな。お疲れ様会とでも思って楽しもう。

 

「忘れてたけど、サンキューな、サンタ!お前のおかげで、王立研究所とかいう、ブラックなところで働かなくて済んだぜ!礼だと思って、今夜は好きなもの好きなだけ頼んでくれよな!」

「じゃあいっぱい頼みましょうっ!すいませーん!このページのメニュー、全部もって来てくださーい!」

「お、おい!マイ、お前は関係ないだろ!」

 

思い切った注文にラストがあからさまに動揺する。

しかしマイはそんなラストを気遣うことなく、ただいたずらに満ちた笑顔でこう告げる。

 

「今日の主役である、サンタさんの武器を用意したのは私ですけど?何か問題でも?」

「・・・ほどほどにしといてくれよな」

「まあ、男に二言はないもんな?ラスト?」

 

目の前のイケメンにあおってやると、そいつは一気にドリンクを飲み干しだして、自棄になる。

 

「だああ!もう、好きなだけ飲めよ!今日は朝まで飲み明かすぞお!」

「おー♪」

「ごちでーす」

 

こうして、楽しい宴が始まった。

 

―――――1時間後。

 

「でもまあ、この調子なら、店もリフォームできそうだよな!」

「もっとオシャレに、かわいくしましょうっ!」

「ああ、そうだよな。でも、なんか忘れてるような…」

 

時間も経って、盛り上がりもそこそこになってきたころ。

この後、話の本題は、こちらに向かってくる男によって、いきなり切り替わることになる。

 

「探したぞ。やはりここにいたか」

「あっ!るう、んん!昼間の人!」

「ん?ごほっ、ごほっ!てめえ、何の用だ!もう決闘は終わっただろ!どっかいけ!」

 

二人の反応で見なくても誰が来たのかがわかった。

特に嫌な顔もすることなく、知り合いに話しかけるように普通の調子で僕も反応する。

 

「ん、あー、オールバックじゃん。どうした?」

 

目の前のオールバックは前にここで会ったときと同じくらい落ち着いているが、前のようなとげとげしさは感じられない。

 

「それで、何の用?」

「今日の決闘で負けたからな。なんでもいうことを2つ聞く、この要求を聞いていない」

「ああー、そのことか、まあ、座れよ。ラストの隣あいてるからさ。なんか頼めよ」

 

そういえばそんな約束してたような。

とりあえず立たせるのも悪いので、向かいのラストの隣に座るように促すが、途端に二人が露骨に嫌そうな顔をする。

 

「はあ!?お前何言ってんだよ!こいつと飲むだって?ありえない!」

「私もいやですっ」

「まあまあ、お願いごと2つ聞いてくれるって言うんだからさ。なんでも聞いてくれるかもよ?」

 

そういって笑うと、2人は何かを思ったみたいで、ニヤニヤ笑いだす。

その笑いを良いと了承ととって、席に座るように促す。

 

「いいってさ。ほら、座りなよ」

「…それでは、失礼する」

 

ラストが横に移動して、僕の向かいにオールバックが来るようにして座った。

 

「それじゃあ、なんでもお願いを聞いてくれるって話だが…何にしようかなあ?」

「もうこの街歩けないくらいの、恥ずかしい思い出でも作っちゃいますかあ?」

「…」

 

ラストとマイが悪い大人の顔をしている。お前ら、こいつのこと嫌いすぎだろ。

黙ってはいるが、オールバックは最初に会った時ほど健康的な顔色はしておらず、むしろこれから出される2つの命令を恐れるかのように青ざめている。

 

「まあまあ落ち着けよ。1個はもう決まってるだろ。もううちの店の連中に手を出さないこと。いいな?」

「…ああ、約束しよう」

 

とりあえず1個目はすぐに決まった。

あと、もう1個は僕の中では決まっているんだが、どうしようか。

 

「なあ、マイ。ラスト。このもう1個も、僕が決めちゃっていいかな?」

「まあ、勝ったのはお前だし、任せるぜ」

「思い出作りもしたかったけど、決闘したのはサンタさんですからね。お好きにどうぞ」

 

そういって微笑むが、こいつは割と黒いことを言っているな。

今後はできるだけ怒らせないようにしよう。

 

「ええと、んじゃあ。お前、見た目からして、たぶん金持ってるよな?」

「俺は冒険者の中でもレベルは上の方だ。金ならお前らの店の売り上げよりも高い報酬をもらっている」

「んだとこの野郎!」

 

ラスト、前から思っていたが、お前割と気性が荒いな。でも義理とか人情が感じられるし、なんか江戸っ子って感じがする。頭白いけど。

 

「まあ落ち着けよ。冒険者ならそんなもんだろ。じゃあ、その経済力で、用意してもらいたいものがある」

「なんでも言ってみろ。何なら家だって建ててやる」

「ええ、まじでそんな稼いでるのかよ!?」

「正直引きました…痛い!」

 

マイを軽いデコピンで黙らせる。

嫌いなのはわかるが、僕が言われる立場だったら、もう今すぐ泣きながら腹切っちゃうよ。

まあ陰でこそこそ言わないあたりは素直に好きだが。

 

「んん!それじゃあ、もう一つのお願いは、4人は乗れそうなそりを作りたい。だから、そのために必要な素材を、お前が用意できる限りの最高級の物を取り寄せてくれないか?」

「…そんなものでいいのか?」

 

目の前の男にとっては悪い話ではないのに、いかにも納得がいかないような返事をする。

まあ、家でも建てられるだけの財力があると言ったのに、そり一個分の材料なんて小さいことを言われたら、そりゃ拍子抜けだよな。

 

「この街案外広いからな。足が欲しいんだよ」

「そうなのか?では3日後には必ず届けに行く。待っていろ」

「サンキューな!」

 

そのやりとりが終わると同時に、ウェイターが追加の料理と飲み物を持ってきた。

マイは受け取った赤い液体をぐっと飲むと、ふと疑問に思ったのか、僕に尋ねてきた。

 

「サンタさん。足なんて言っても、そりじゃあこの街は滑れませんよ?この町は雪もあまり降らないし、それどころかもう冬も終わっちゃいますよ?」

「まあ、そのうちわかると思うよ。僕には優秀なパートナーがいるからな」

 

そういいながら、あの小さなトナカイ、ルドルフのことをついに思い出す。

そういえば昼から何も食べさせてなかったような。

 

「あ!やべ!ルドルフ忘れてた!飯食わせてない!腹減ってるかも!ちょっと連れてくる!」

「おい!待て!」

 

立ち去ろうとする瞬間、オールバックに呼び止められる。

 

「なんだ?まだ用か?」

「お前は決闘で、4つプレゼントがあると言っていたな。だが、俺は3つ目のプレゼントしか受けていない。4つ目は一体何だったんだ?」

「ああ、そのことか。忘れてたよ。今日は忘れ物ばっかだな」

 

再び戻ってきて、オールバックの正面にたって袋に手を入れる。

 

「まさか貴様!また何か残して…!もういい、決闘は終わったんだ!だから暴力のプレゼントは…!」

 

「はい」

 

そういって差し出した右手には、小ぶりの緑色の果実がのっている。

ポカンとして、オールバックはその手の上の果実を見つめている。

 

「・・・なんだ、これは?」

「待ち合わせに1時間も待たせちゃったからな。お詫びの気持ちとして、途中で果物を買ったんだよ。そういえば渡さなきゃなあと思ってたけど、忘れてた。店の人おすすめしてたから、きっとうまいと思うぞ」

 

手渡して、再び走り出す。

 

「お前との決闘楽しかったよ、ルウシェル。あとお前、よく見ると幼い顔してるし、前髪おろした方が似合うと思うぞ。それじゃ、ルドルフ連れてくる!」

「いってらっしゃーい♪」

「あいつなんであんな全力で走ってばっかなのに息一つ切らさないんだ…?」

 

魔法、ですから。

まあメカニズムはサンタのじいさんにでも聞いてくれよ。

家への道を全力で飛ばしながら、独り言をつぶやく。

 

「ルドルフ、怒ってないかなあ」

 

 

 

「…」

 

ルウシェルは渡された果実を見ながら、物思いにふける。

あいつ、俺との決闘が楽しかっただと?

そして、さっき、俺の名前を―――

 

「なにぼーっとしてるんですかあ?」

「え、な、なんでもない!」

「もしかして、あいつに惚れたか?男を惚れさせるとか、サンタ、お前ってやつはすげえよ…」

「だから、違うといっているだろう!」

 

ルウシェルは声を荒げて否定するが、それでもあの赤い帽子の後ろ姿を想像して黙り込んでしまう。

そしてマイとラストによって、話題はサンタクロースに。

 

「でも好きになるのもわかるなあ。あいつ、なんか見てて飽きないんだよなあ」

「そうですよねー。人をひきつける何かがあるような。まるでこの世界の人じゃないような」

 

マイは少しだけ間をあけて、小さくつぶやく。

 

「でも私たちのために一生懸命で、そこがかっこよくて」

「ん、なんだって?」

「な、なんでもないですっ!さ、オールバックの人も、飲みましょうよ!」

 

しばらく黙って考え事をしていたルウシェルは、マイの一言で我に返る。

 

「ん、そうだな。俺もあいつと話がしたい。俺も飲もう」

「よっしゃ、お前、今日は潰してやるからな!覚悟しろよ!」

「俺は17だ。酒は飲まない」

「年下かよ!んじゃあ、水っ腹にさせてやる!」

「やれるものならやってみろ」

 

赤帽子、もう少しだけ、やつとかかわってみるか。

負けたのに何故かさわやかな気分なルウシェルは、気分に任せて勢いよく3人のものと同じ赤い液体を飲み出す。

にぎやかな雰囲気に逆らって、夜はますます更けていき、月は窓から3人をうらやましそうに覗いていた。

 

「悪かったなー。ルドルフ。ほら、これ、今日の留守番のご褒美だ」

 

それと同じ頃、3人だけでなく、大きな月は路地裏を歩く赤い帽子も、一匹のトナカイにも平等に照らしていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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