ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

16 / 93
第15話:サンタの宣言

「食らえ」

 

反撃とばかりに飛び上がって右手の相棒を振り下ろす。

しかしオールバックの剣にさえぎられ相棒は途中で動きを止める。

 

「なかなかの威力だ。やるな。だが――」

 

剣ではじかれて後ろに飛ばされ、そのまましりもちをつく。

 

「いって!っと、うわ!」

「そこだ!死ね!死ね!死ねえ!」

 

しりもちをついた僕の隙をついて無駄なく斬撃を放ってくる。

僕は座ったまま、両手で相棒をもって防御の姿勢に入る。

相棒は魔力をまとっているために耐久力はなかなかのもので、容赦なく放たれる剣の嵐をすべて受け止める。

立ち上がる余裕もないまま数えきれないほどの斬撃を受ける僕に、追い打ちをかけるようにヤジが飛ぶ。

 

「いいぞお!やっちまえ!」

「なんだよあいつ、しりもちついて攻撃されてやんの!」

「あははははは!」

 

舐められてんな僕も。

今日のガヤはアンチが多いみたいだ。

 

「うるっさいなあ!」

 

ガキインッ!

 

勢いよく立ち上がって相棒を目の前で振り回して、剣の猛攻から逃れる。

 

「お返しだ!」

 

再び駆け出して攻撃をするが、簡単に受け止められて無効化され、再び反撃されてしまう。

 

「なんだ、この程度かあ!」

 

こいつ、剣を持つと、見た目通り騎士としてのパフォーマンスはできるみたいだな。ただのかませ犬かと思ってたぜ。

こいつに僕の相棒の攻撃は通用しないようだ。

 

「くそ、危ねえ!お前、殺す気でやってるだろ!」

「もとよりそのつもりだ!俺と決闘をするからには、降参なぞする暇は与えないからな!」

 

やばいやばいやばい!

何故かよくわからないけど、いつもより力が出ない!

なんで!?これじゃあこいつ倒せない!

それに、このまま攻撃され続けたら、いつかは相棒が折れて攻撃を食らっちまう。

なんとかしなければ。

 

しかし逆転のチャンスはなかなか現れず、僕はオールバックの剣の前に防戦を続けるほかなかった。

 

 

 

 

―――――――のだが、それは突然に訪れる。

 

 

 

 

剣を受け続け、たまに一発反撃するという行為を6、7回ほど繰り返したころだった。

目の前の男の剣速が鈍り始める。

 

もしかして、こいつ。

 

「はあ、く、粘るな…」

「なんだ?もしかして、飛ばしすぎて疲れたのか?」

「うるさい!」

 

連撃を放ってくるが、明らかにスピードが落ちている。

やはり剣を持ちなれていても、ずっと攻撃してばかりでは、身が持たないんだろうな。

これはチャンスだ。

遅くなった攻撃を受け流しながら、僕は左手の袋に集中して中身を確認する。

ゼリーばっかりだが、その中には、僕がここに来る前に用意してきたあるものがある。

 

 

数分後、ついにオールバックは僕から距離をとって攻撃を中断する。

額には汗がにじんでいて、剣をついて息を荒くしている。

冬なのに、ずいぶんと暑そうだな。

 

「はあ、はあ、本当に、ずいぶん粘るな…」

「おう、休憩か?まあそりゃずっとたたき続けてれば、そりゃ疲れるよな」

「うるさい、少し距離をとっただけだ」

 

肩で息をしながら、よく言うぜ。こいつ、本当に噛ませ犬としては、一流なのにな。後、一応剣も扱いはうまい。認めたくないが。

 

「へー、それじゃあ、このチャンス、ものにしないとね」

 

白い袋に相棒をしまって、右手をフリーにする。

そして僕も、この攻防の間に、どうしてか力を出し切れていないことの原因がわかった。

それがあっていれば、この相棒は真剣な戦いの時は、2度と使うことはできないだろう。

 

「なぜ武器をしまう?まだ勝負はついていないぞ。まさか、降参するつもりか?」

「なんでそうなるんだよ。残念ながら僕の相棒の攻撃は全部防がれちゃうからね。こっからは、サンタクロースの名に恥じない、夢と希望にあふれた戦い方をしようと思う」

「どういうことだ?」

 

肩で息をしながら、オールバックが問う。

 

「これは僕の推測だが、最初のお前の武器を持たない相手には攻撃しないという礼儀から、剣や魔法が存在するこの世界には、素手で戦う、いわゆる武闘家なるものの存在はない。あってるか?」

「素手で剣と戦うだと?ありえない!」

「その反応だとあってるようだな。だから僕はここにいるみんなに、夢と希望、すなわち、素手での剣への勝利をプレゼントしよう!」

「なんだと?」

 

周囲騒然、ざわざわとギャラリーがざわめきだす。

 

「おいおい嘘だろ?」

「あいつバカかよ。素手で戦うなんて、自殺行為だ」

「はは、底抜けの馬鹿だぜ!おい騎士の兄ちゃん!この赤帽子の頭を、こいつの血でさらに真っ赤に染めてやれ!」

 

いいぞ、そのまま騒げ、僕を馬鹿にしろ。そうすればそうするほど、周囲を味方につけた目の前の男が僕に油断するはずだ。

オールバックに向き直り、4本指を立てる。

 

「今日、お前には、4つのプレゼントを用意した。せっかくのプレゼントだ、その身に存分に、心ゆくまで味わってくれ!」

 

そう宣言すると、オールバックは僕を鼻で笑って、余裕の表情を見せる。

 

「ふっ、武器を捨てたものなど、俺の敵ではない。一気に決着を付けてやる!」

 

作戦どおり、調子に乗っている。

こいつ、ちょろいな。

 

「悪いが攻撃は一切させない。こっから先は、僕のターンだ!」

 

ファンサービスとばかりに演出に時間をかけすぎてしまった。

しまった。長く話しすぎたな。いつの間に、こいつ体力取り戻してる。

まあ、これからは、攻撃の暇なんて与えさせなければいいだけだ。

 

決闘が始まってからもうすぐ1時間がたとうとしているこの戦いにも、ついに終わりが見え始めていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。