「食らえ」
反撃とばかりに飛び上がって右手の相棒を振り下ろす。
しかしオールバックの剣にさえぎられ相棒は途中で動きを止める。
「なかなかの威力だ。やるな。だが――」
剣ではじかれて後ろに飛ばされ、そのまましりもちをつく。
「いって!っと、うわ!」
「そこだ!死ね!死ね!死ねえ!」
しりもちをついた僕の隙をついて無駄なく斬撃を放ってくる。
僕は座ったまま、両手で相棒をもって防御の姿勢に入る。
相棒は魔力をまとっているために耐久力はなかなかのもので、容赦なく放たれる剣の嵐をすべて受け止める。
立ち上がる余裕もないまま数えきれないほどの斬撃を受ける僕に、追い打ちをかけるようにヤジが飛ぶ。
「いいぞお!やっちまえ!」
「なんだよあいつ、しりもちついて攻撃されてやんの!」
「あははははは!」
舐められてんな僕も。
今日のガヤはアンチが多いみたいだ。
「うるっさいなあ!」
ガキインッ!
勢いよく立ち上がって相棒を目の前で振り回して、剣の猛攻から逃れる。
「お返しだ!」
再び駆け出して攻撃をするが、簡単に受け止められて無効化され、再び反撃されてしまう。
「なんだ、この程度かあ!」
こいつ、剣を持つと、見た目通り騎士としてのパフォーマンスはできるみたいだな。ただのかませ犬かと思ってたぜ。
こいつに僕の相棒の攻撃は通用しないようだ。
「くそ、危ねえ!お前、殺す気でやってるだろ!」
「もとよりそのつもりだ!俺と決闘をするからには、降参なぞする暇は与えないからな!」
やばいやばいやばい!
何故かよくわからないけど、いつもより力が出ない!
なんで!?これじゃあこいつ倒せない!
それに、このまま攻撃され続けたら、いつかは相棒が折れて攻撃を食らっちまう。
なんとかしなければ。
しかし逆転のチャンスはなかなか現れず、僕はオールバックの剣の前に防戦を続けるほかなかった。
―――――――のだが、それは突然に訪れる。
剣を受け続け、たまに一発反撃するという行為を6、7回ほど繰り返したころだった。
目の前の男の剣速が鈍り始める。
もしかして、こいつ。
「はあ、く、粘るな…」
「なんだ?もしかして、飛ばしすぎて疲れたのか?」
「うるさい!」
連撃を放ってくるが、明らかにスピードが落ちている。
やはり剣を持ちなれていても、ずっと攻撃してばかりでは、身が持たないんだろうな。
これはチャンスだ。
遅くなった攻撃を受け流しながら、僕は左手の袋に集中して中身を確認する。
ゼリーばっかりだが、その中には、僕がここに来る前に用意してきたあるものがある。
数分後、ついにオールバックは僕から距離をとって攻撃を中断する。
額には汗がにじんでいて、剣をついて息を荒くしている。
冬なのに、ずいぶんと暑そうだな。
「はあ、はあ、本当に、ずいぶん粘るな…」
「おう、休憩か?まあそりゃずっとたたき続けてれば、そりゃ疲れるよな」
「うるさい、少し距離をとっただけだ」
肩で息をしながら、よく言うぜ。こいつ、本当に噛ませ犬としては、一流なのにな。後、一応剣も扱いはうまい。認めたくないが。
「へー、それじゃあ、このチャンス、ものにしないとね」
白い袋に相棒をしまって、右手をフリーにする。
そして僕も、この攻防の間に、どうしてか力を出し切れていないことの原因がわかった。
それがあっていれば、この相棒は真剣な戦いの時は、2度と使うことはできないだろう。
「なぜ武器をしまう?まだ勝負はついていないぞ。まさか、降参するつもりか?」
「なんでそうなるんだよ。残念ながら僕の相棒の攻撃は全部防がれちゃうからね。こっからは、サンタクロースの名に恥じない、夢と希望にあふれた戦い方をしようと思う」
「どういうことだ?」
肩で息をしながら、オールバックが問う。
「これは僕の推測だが、最初のお前の武器を持たない相手には攻撃しないという礼儀から、剣や魔法が存在するこの世界には、素手で戦う、いわゆる武闘家なるものの存在はない。あってるか?」
「素手で剣と戦うだと?ありえない!」
「その反応だとあってるようだな。だから僕はここにいるみんなに、夢と希望、すなわち、素手での剣への勝利をプレゼントしよう!」
「なんだと?」
周囲騒然、ざわざわとギャラリーがざわめきだす。
「おいおい嘘だろ?」
「あいつバカかよ。素手で戦うなんて、自殺行為だ」
「はは、底抜けの馬鹿だぜ!おい騎士の兄ちゃん!この赤帽子の頭を、こいつの血でさらに真っ赤に染めてやれ!」
いいぞ、そのまま騒げ、僕を馬鹿にしろ。そうすればそうするほど、周囲を味方につけた目の前の男が僕に油断するはずだ。
オールバックに向き直り、4本指を立てる。
「今日、お前には、4つのプレゼントを用意した。せっかくのプレゼントだ、その身に存分に、心ゆくまで味わってくれ!」
そう宣言すると、オールバックは僕を鼻で笑って、余裕の表情を見せる。
「ふっ、武器を捨てたものなど、俺の敵ではない。一気に決着を付けてやる!」
作戦どおり、調子に乗っている。
こいつ、ちょろいな。
「悪いが攻撃は一切させない。こっから先は、僕のターンだ!」
ファンサービスとばかりに演出に時間をかけすぎてしまった。
しまった。長く話しすぎたな。いつの間に、こいつ体力取り戻してる。
まあ、これからは、攻撃の暇なんて与えさせなければいいだけだ。
決闘が始まってからもうすぐ1時間がたとうとしているこの戦いにも、ついに終わりが見え始めていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。