ようこそ、ファンタジー世界へ。   作:zienN

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第1章:始まりの地
プロローグ:回想


「くそ、なんでこんなことに、、、」

 

見慣れた青い空、白い雲。

しかし、見慣れぬ西洋風の建物。

鎧をきて、武器を担いだ男や女ども。

 

「あのじいさん、ふざけた真似しやがって、、、!」

 

空を見上げながら、今までの経緯を振り返ってみる。

どうしてこうなったのか。

 

それは数分前のこと。

 

「ただいまー」

 

深夜だからか家族からの呼び声は帰ってこない。兄貴の部屋の電気はついているが、まあネットサーフィンでもしてるんだろうな。

 

眠いし、風呂もいいからさっさと寝よう。

しかし、自室に入って目に入ったものにより、僕の眠気は一気に飛ぶ。

 

赤い帽子に赤い服、長すぎるほどの白いあご髭、手には大きな白い袋。昔読んだ絵本にそっくりだが、少しだけ痩せた、今日という日にふさわしい、サンタクロースのまさにその恰好をした老人が、僕の部屋のベッドに腰かけていた。

 

「だ、誰だ!?」

 

ふぉっふぉっふぉ、という笑い声を上げながら、僕を見る。

 

「やあ、青年。私の名前はサンタクロース」

「サンタ、クロース?」

「知ってるだろう?年に一度、良い子にプレゼントをもってやってくる。あのサンタクロースだ」

 

ほれ、というと、二階にある僕の部屋の窓からトナカイが顔を除いて、首を振ってりんりんと鈴の音を鳴らす。

その異様な光景に、目の前の老人はサンタクロース本人なんだと、いやでも思い知らされる。

 

「今日は君に、お願いがあってきた」

「お願い、、、?」

「ああ、いきなりかもしれないが、君にはこことは違う世界にとんでもらいたい」

「違う世界?」

 

突然のことで整理が追いつかないが、目の前のご老体は真面目な顔で頷いた。

 

「そうじゃ。その世界はここと違いすべてが平和ではなく、人間だけがすむ世界ではない。魔法も存在し、魔物といわれる連中や、火を噴くドラゴンや、魔界を統べる王も存在する君たちの言葉でいうならファンタジーな世界じゃ」

「なんでそんな世界に、、?」

 

老人は赤い帽子を外して、その彫りの深い顔を月明かりの下で顕著にさせる。

その次の言葉は、意外なものだった。

 

「君にはその世界の、サンタクロースになってほしいのじゃ」

「はあ、なんだって?」

 

老人は続ける。

 

「実はな、私はいろんな世界を飛び回り、トナカイたちとともに、一人でクリスマスに仕事をしているんじゃが、最近は年を取ってしまってのう、体が思い通りに動かん。そういうことで、危ない世界はおいぼれのじじぃに行くには危険すぎる。そこで、サンタクロース代行として、君には私に代わって人々に夢と希望を与えてほしい」

「いや、意味わかんないっすよ。異世界?サンタクロースの代理?それよりも、どうして僕なんだ?」

 

異世界のサンタクロース代行という話も気になるが、それよりも、僕が選ばれたという理由の方が気になる。

大して優れてもいない、ただ時間を浪費し続ける大学生であるこの僕が、その大役に選ばれた所以を。

 

「それは、今の君をみて、きっと君なら私に代わってやってくれると思ったからじゃ」

 

目の前の老人は自分の頭を、まるでピストルを当てているかのように指差し、僕を頭から足の先までなめるように見る。

部屋の姿見を見ると、頭には赤い帽子、そして赤いパーカー、背中に背負った白い袋が視界に入る。

クリスマスに彼女がいないもの同士慰めあうという名目の友人のパーティで、かわいそうだしプレゼントでもと思い、サンタクロースに近い格好をしていた僕は、どうやらサンタのじいさんに目を付けられたようだ。

 

「待ってくれよ!そんないきなりやってくれ、なんて言われても、僕だって簡単には受けられない!」

 

こんな非日常は憧れるものも多いだろうが、僕には荷が重いので必死で説得する。後、怖いもん、行きたくないよ。

 

「そういうだろうと思ったよ。では、君が私のお願いを聞いてくれるように、魔法をかけてあげよう」

「魔法?」

「ああ、この世界という名の物語から、君という存在だけが飛び出してしまう、そんな魔法だよ」

 

パチンッ!

サンタクロースを名乗る老人が指を鳴らすと、部屋の中から僕の私物は一切消え、部屋は物置のように様々なものであふれかえった。

 

「この世界から、君への記憶をすべて消した」

 

ベッドではなく壊れかけの椅子に座ったサンタクロースは、僕にこう告げる。

 

「え…?」

「この家には、君は生まれていない。そして、君の友人たちは、今日のパーティを、君なしで楽しんだことになった」

「ちょっとまてよ…」

 

慌てて腰につけたウエストバッグからスマホを取り出し、今日のパーティでとった集合写真を見つめる。

肩を組む友人たちの後ろで赤い帽子をかぶってピースをしていた僕の姿は、初めから何もなかったかのように、きれいさっぱり無くなっていた。

 

「嘘、だろ、、?」

 

「本当じゃ。どうだい、これで行く気になったじゃろ?」

 

世界から隔離されたという実感をその身で受け止め、僕は跪く。

 

「こんなの…やるしかないじゃん」

「すまないのう。その詫びとして、君が向こうの世界で戦えるように、色々と手伝わせてもらおう。まずは、サンタクロースである証を、君にプレゼントしよう」

 

パチンッ!

再び軽快な破裂音が鳴り響く。

僕の周りを光がつつみ、やがて消える。

 

「さっきの帽子は、偽物の帽子じゃ。そんなものをかぶって仕事をされては、私も黙っていられない。」

 

頭の帽子は、さっきまでと同じ帽子だが、質感や触り心地がちがう。

かぶっていると不思議と癒されるような。落ち着くような。

 

「それと、君が望むものを、1つだけプレゼントしよう。クリスマスプレゼントじゃ。たいそうなものは用意できないが、好きなものをいうといい」

 

落ち着いてきたので、気持ちの整理ができた。

立ち上がって、少し考えてから僕は言う。

 

「それじゃあ、昼も夜も寝なくても大丈夫なくらい、何があっても絶対に疲れることがない体にしてくれないか」

「よかろう」

 

パチンッ!

僕の体は光に包まれ、そして消える。

 

「最後に。向こうの世界の言葉が、すべて日本語に聞こえ、見えるように、君に魔法をかけておいたよ。書くことはできないがね。では、私からいうことは何もない。私に代わって、向こうの人々に、夢と希望を与えてきてくれ。期待しているよ」

「わかった…ところでどうやって行くんだ?」

「こうするんじゃ」

 

サンタクロースは手に持った袋を開くと、僕に向けて、見せるように開いた。

覗き込もうとした瞬間、ものすごい勢いで袋に体が吸い込まれ始める。

 

「な、なんだ!?うわああああああああ!!」

 

 

頼んだぞ、青年。メリー、クリスマス。

 

 

袋の中に吸い込まれながら、老人がそういったように聞こえて、僕の意識は途切れた。

 

 

 

そして、目が覚めて、今に至る。

思い出した途端に、一気に怒りがこみ上げて来る。

 

「くそ、くそおおおおおおおおおおおおおお!」

 

こうして、僕の新しい人生が、幕を開けた。


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