転生したけど、海賊でも海軍でもなく賞金稼ぎになります   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第7話更新です。
意外とサクサク書けたので、ホットなうちにアップします。

お気に入り登録&感想ありがとうございます!

今回、あの人と初対面の主人公です。


第7話 実はこれが初対面でした

 ターニャは予想を超えてきた事態に、内心頭を抱えていた。

 あれから嵐の中、船を走らせる事約1時間。無事に“白ひげ”の縄張りに辿(たど)り着き、以前ちょっとした事で世話(せわ)になった島で唯一の診療所(しんりょうじょ)を訪ねて医者を叩き起こし、助けた男を()せた。

 結果的に言えば男は助かった。海に落ちた事で体温は下がってはいたものの、すぐに引き上げて止血したのが良かったらしく、島に着いた時には出血もほとんど止まっており、朝には目を覚ますだろうとも言われている。

 しかし、そこからの騒ぎは大変なものだった。

 (あか)りの一切無い深夜の海、良く見知った相手ならばともかく、初めて会った他人の顔の判別(はんべつ)などほぼ不可能である。

 だからこそ気が付かなかったのだ。

 ――――――――――助けた相手が、“白ひげ海賊団”の4番隊隊長だった事に。

 

 “白ひげ海賊団”4番隊隊長‐サッチ。“原作”において()()()り変えた戦争、“頂上戦争”の引鉄(ひきがね)となった男。

 “原作”の大まかな知識はまだ記憶に残っている。流石(さすが)に17年も前の事である為、細かい事は忘れてしまっているし、主要人物以外の顔も曖昧(あいまい)だが、名前位はまだ覚えていた。

 その為、この男‐サッチの事もその存在は覚えていたし、手配書で顔を確認する位の事はしていた。しかし、それは別にこの男を助けて戦争を止めよう、という殊勝(しゅしょう)なものでは無く、戦争のきっかけとなった男の顔位は確認しておこうという単なる知的好奇心(こうきしん)によるものである。

 “頂上戦争”に介入する(すき)はほぼ無い。いくら英雄(ガープ)の孫で、現在の海軍将校(しょうこう)たちの中には懇意(こんい)にしている者たちも多いとは言え、ターニャ自身は海兵でも何でも無く賞金稼ぎ。言わばただの一般人である。仮に忍び込めたとしても、祖父(ガープ)義兄(ロー)見聞色(けんぶんしょく)までは誤魔化(ごまか)せない。間違い無く5分と経たずに見付かって説教コースである。

 しかし、黙って何もしないつもりも無かった。

 ターニャと“火拳(ひけん)のエース”には直接の接点も交流も無い。エースが義兄弟の(ちぎ)りを交わしたのはターニャでなくルフィであり、ターニャとは顔を合わせた事も無いのだ。

 ターニャは幼い頃からフーシャ村とマリンフォードを行き来しており、ルフィも7歳からはほぼコルボ山で過ごしていた。お(たが)い、祖父によって時折フーシャ村に戻されて一緒に過ごす事もあったし、手紙のやり取りもしていたが、双子とは言え生活環境はまるで違った為である。

 ターニャは“原作知識”の他に、ルフィの口から直接エースともう1人の義兄(あに)の事を聞いていたし、恐らくはエースもターニャの存在位は知っている(はず)だ。

 ターニャ自身はエースに対して何の感情も(いだ)いてはいないし、それは向こう(エース)も同じだろう。

 だが、ルフィは違う。

 エースが死ねばルフィは悲しむ。消えない心の傷を負う事になるだろう。

 離れていた期間が長かったが、ルフィはターニャの大切な兄である。義兄(ロー)に向ける信頼と尊敬とはまた違う、どこまでも対等な相棒のような存在。

 ルフィの為に、エースを見殺しにする訳にはいかなかった。

 エースを(うしな)えばルフィは更に強くなるかもしれない。でも、その代わりに心の一部を失うだろう。そんなルフィは見たく無い。

 どこまでも自分本位な考えである事は理解しているが、ターニャも()()を曲げるつもりは無かった。

 エースを確実に助ける為には、戦争を起こさせない事が1番確実である。

 その為にターニャが考えていたのは、“黒ひげ”がエースを捕える前に、ターニャが“黒ひげ”を()()事。インペルダウンに送っただけでは、“原作”のような脱獄(だつごく)事件を起こすかもしれない。悪運だけは強い様子だったから。

 1度“海賊”を自称し、髑髏(どくろ)(かか)げたからには、情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)の余地は無い。例え正式に手配書が発行されていなかったとしても“DEAD OR ALIVE(生死問わず)”が適用される。仮にターニャが“黒ひげ海賊団”を全員手にかけたとしても、罪に問われる事は無い。

 ―――――――――エースよりも先に“黒ひげ”を見付けて、確実に殺す。

 それが、ここ数年の間にターニャが考え付いた“対策”だった。

 だからこそ、自身が17歳を迎えたこの数ヵ月の間、新聞を隅々(すみずみ)までチェックし、()()

 見極めていたのだ。

 

 しかし、まさかそこまでして回避(かいひ)したいと考えていた戦争の引鉄(ひきがね)となった男を助ける事になるとは、夢にも思っていなかった。

 てっきり(した)()とばかり思っていた相手がまさかの幹部(かんぶ)、それも隊長だったとは…。

 当然、診療所(しんりょうじょ)の医者も気付き、(あわ)てふためいて島長(しまおさ)の所へ連絡が行った。

 島長(しまおさ)から“白ひげ海賊団”の本船へと連絡が行き(万が一海賊の襲来などの非常事態が起こった時の為に、縄張りの(ちょう)には直通の電伝虫(でんでんむし)が渡されているらしい)、“白ひげ海賊団”がこの島に戻って来る事になったのはまだ想定内(そうていない)だったのだが…。

(あたしの事を覚えている島民がいたのは計算外だったな…。)

 以前、この島で補給した際に、“白ひげ”にケンカを売ろうとしたルーキーが暴れているのにたまたまかち合い、ぶちのめして海軍に引き渡した事があった。

 1年程前の事になるが、その時の事を覚えていた島民がいたらしい。海賊を助けた事が海軍に知られるとマズい、という事は島民も充分に理解していた為、そこは心配していないが“白ひげ海賊団”への口止めはまず不可能だろう。というより、既に連絡が行っているようだった。

 幸い、この島では名乗っていない為、“英雄(ガープ)の孫”である事を知っている者はいない。しかし、ターニャも“新世界”では名の知られた賞金稼ぎである為、外見的特徴などから素性(すじょう)が知られる可能性は充分にある。

 既に嵐は過ぎ去り、空は晴れている。明るくなってきた為、直に夜が明けるだろう。

 “白ひげ海賊団”にサッチを保護した賞金稼ぎの情報がもたらされたのが3時間程前。そして治療が終わったのはつい10分前。

 ちゃんと助かったのを見届けた以上、これ以上この島に用は無い。“白ひげ海賊団”が島に戻ってくるまでにさっさとこの島を出るべきだった。恐らく早ければ後1~2時間程で戻ってくるだろう。ぐずぐずしていれば、かち合う可能性が高い。面倒臭い事になるのはゴメンだった。

(…さっさと行こう。)

 そうと決まれば長居(ながい)は無用。

「じゃ、後はよろしく。行くよ、ドゥーイ。」

「ガウッ!」

 サッチの容態(ようだい)が説明されたところで、話は終わり、とばかりにターニャがドゥーイを従え、立ち上がる。

「え?!あ、あんた一体どこに?」

 突然の行動にぎょっとしている医者‐頭頂部が涼しそうな髪型の中年男に構う事なく、「あ、これ治療費。」と治療中に用意していたベリー札を押し付ける。

「治療費って…。」

「“白ひげ海賊団”から出るんだろうけど、まぁ、真夜中に叩き起こした迷惑(めいわく)料って事で。」

 “億越え”も()()まくっている為、金に困っていないどころか、常に(ふところ)(うるお)っている。理由はどうあれ夜中に無理を言った事は事実なので、最初から治療費は置いていくつもりだった。

「ちょ、ちょっと…!!!」

 目を白黒させている医者を尻目(しりめ)に、足早に診療所(しんりょうじょ)を出る。

「急ごう、ドゥーイ。お兄ちゃんとお祖父ちゃんが待ってるし。」

「ガウ。」

 港に()めて置いた自身の船に飛び乗り、沖に()ぎ出した時だった。

「!あれは…。」

 前方から、かなりのスピードで近付いてくる()を見付ける。

(まさか…!)

「グルル…!」

 ドゥーイも同様に気付き、警戒を始めた。

 徐々(じょじょ)に夜が明け、朝日がターニャを後ろから照らす。

 ()()()もターニャに気付いたらしく、距離が近付くにつれて減速する。足元を(おおい)尽くすようにして噴射(ふんしゃ)されていた炎が消え、5m程の間隔(かんかく)を空けて完全に船が止まる。

「チビの(とら)を連れた若い女って事は…。お前がサッチを助けてくれた奴か?!」

 水平線から姿を現し始めた太陽を背にしている為、そちら側からはターニャの顔が見えないのだろう。(まぶ)しそうに目を細めながら、愛用の小型船“ストライカー”で一足先にサッチの無事を確かめに来た“火拳(ひけん)のエース”が叫ぶ。

(何でこのタイミングで会うんだか…。)

 軽く溜息を()きながら、ターニャが無言で頷きを返した。

「!あいつは…?!」

「生きてるよ。間も無く目を覚ますって言ってたから、早く会いに行ってあげたら?」

「っ良かった……!!!」

 サッチの生存を告げた途端(とたん)、エースが気が抜けたように“ストライカー”に座り込んだ。

 その様子を見て、ドゥーイも敵じゃない事を悟ったらしく、警戒を解いた。

 そんなエースに構う事無く、ターニャがゆっくりと()を張る。

 ゆっくりと進み始めるターニャに気付いたエースが顔を上げ、声を張り上げた。

「!待てよ!!礼がしたい!もうすぐオヤジが来る!それまで待っててくれ…!!!」

「別にお礼が欲しくて助けた訳じゃないし…。急いでるから遠慮(えんりょ)する。」

 ターニャの船が“ストライカー”に近付き、横並びになろうとした瞬間、()を調整する為のロープを思いっ切り引いた。

 グンッ!と船が加速する。

「待てって!!」

 “ストライカー”を抜き去る瞬間、ターニャがエースの顔を見詰め、告げた。

「じゃあね。いつか会う日が来るかもしれないけど…。」

「!お前、まさか……?!」

 ゴォオッ……!!!

 その瞬間、激しく吹いた追い風によって、一気にターニャの船が“ストライカー”を振り切った。

 ザザザザザザザ…!!!

(どうなるかな、これから…。)

 サッチを助けた事がどんな影響を生むか。

 しかし、どんな状況になろうとも…。

「ルフィの義兄弟(きょうだい)は死なせない…!!!」

「グルルル…?」

 不思議そうに見上げてくるドゥーイに軽く微笑(ほほえ)みを返しながらも、ターニャの瞳には殺気さえ込められたような決意が宿っていた。

 

 




意外と有名なターニャの二つ名についてはおいおい。

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