転生したけど、海賊でも海軍でもなく賞金稼ぎになります   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第6話更新です。
今回、現代に話が戻ります。
ターニャ、人助けの為に寄り道するの巻です。


第6話 運命のレールがズレたようです

 ザザザザザザザ…………!!!

 夜の海を1(そう)の小型船が走る。

 煌々(こうこう)と輝く月と、空一面に(きら)めく星の光を頼りに、ターニャが海を渡る。もし、その光景を見る者がいたならば驚愕しただろう。

 ターニャの船は、一言で言うならば()(かじ)の付いたカヌー。船体を安定させる為に、船本体の横に“アウトリガー”と呼ばれる特殊な(うき)が固定されており、その(うき)と船体を(いかだ)のように組まれた木材が繋いでいる。

 居住(きょじゅう)性を一切無視しているが(ゆえ)に、扱いが酷く難しい代わりに機動性を重視したこの船は、使い(こな)す事さえ出来れば通常なら1日かかる航路でも数時間で走破(そうは)する事が出来る程に船脚(ふなあし)が速い。扱いの難しさ(ゆえ)に数は少なくなったものの、未だにこうしたカヌーを使用している漁村(ぎょそん)も存在し、“南の海(サウスブルー)”の1部の島や、“偉大なる航路(グランドライン)”でも時折見る事が出来る。

 しかし、それはあくまでも短期間の航海の話である。居住(きょじゅう)性が全く無い為、はっきり言って、長期間の航海には全く向かない上に船が小さい為に波や風の影響を受け(やす)い。

 まして“新世界”を単身航海するなど、正気の沙汰(さた)では無かったが、ターニャは15歳の時に旅立って2年、この船で“新世界”を渡っていた。

 その並外れた航海術、並びに操船(そうせん)技術がそれを可能としていたのである。

 ザザザザザザザザザザザ……………!!!!!!

 時刻は既に深夜と言っても良い時間帯だったが、1度海に出ればターニャは何があっても眠らない。24時間、風と波を読み(かじ)を取り続ける。今も、星と“ビブルカード”を道標(みちしるべ)にマリンフォードを目指していた。

 (かたわ)らには、相棒の小虎(ことら)‐ドゥーイが眠っている。

 その寝顔を見下ろしてクスリ、と笑みを1つ(こぼ)し、星の位置を(はか)っていた時だった。

 不意に前方に巨大な船影(ふなかげ)を見付ける。

「あれは…、“白ひげ”?」

 距離にしてまだ数km離れているが、その船は遠目(とおめ)に見ても目立つ。(くじら)()した巨大な本船に先行するように進む、3(せき)の船。旗印(はたじるし)は同様に“白ひげ海賊団”のもの。

「そう言えば、この辺に“白ひげ”の縄張りがあったっけ?」

 職業柄“四皇(よんこう)”の縄張りにはあまり近付かないようにしてはいたものの、補給(ほきゅう)の為にそう言っていられない事もある。そうした際には、出来るだけ“白ひげ”か“赤髪”の縄張りを利用するようにしていた。実際に縄張りしている者の性格によるのか、はたまたそういった所を選んで縄張りにしているのか、“白ひげ”や“赤髪”の縄張りの人間は基本的に大らかで(ふところ)の広い者が多く、実際に島で悪さをしない限りは他の海賊や賞金稼ぎの入島を(こば)みはしない。

 彼らの船の進んできた方向は、ちょうど以前ターニャ自身も寄った事のある縄張りの方向である。

 大きな船の近くでは波に()まれる危険もある。何よりも下手に警戒されるのはゴメンだった。“白ひげ海賊団”は()()にかまける程喧嘩(けんか)(ぱや)くは無いが、何しろ1000人を優に超える大所帯である。中には例外もいるだろう。

 白ひげ海賊団(あちら)がターニャを見付けるより先に迂回(うかい)するに限る。

 そんな思いの(もと)、手早く方向を変えた。10分程走らせれば、ターニャの船はちょうど“白ひげ”の本船‐“モビーディック号”の後方を横切るように回り込む形となる。

 間も無く“モビーディック号”と平行に並ぶだろう、という頃。

 ターニャが()()()()()()のを(はだ)で感じ取る。

「…嵐が来る。」

 “新世界”の海にしては(めずら)しくも(おだ)やかな夜だったが、ここへきて空が(かげ)り始める。

 波も徐々(じょじょ)に高くなり、風も強くなるがターニャは(いた)って冷静だった。“サイクロン”が吹き荒れる真横をギリギリで回避(かいひ)した経験も数え切れない。それに比べれば何と()()()事か。

 “モビーディック号”の後方2km程を横切る頃には波風は激しさを増し、ぐっすりと眠っていたドゥーイも目を覚ましていた。

「ドゥーイ!今のうちに“中”に入って!!」

「ガウッ!」

 ターニャの指示にドゥーイが即座(そくざ)に従い、船体の前方の“(ふた)”を外す。ターニャの船は居住(きょじゅう)スペースが無い代わりに、船体の1部が空洞(くうどう)になっており、食料や荷物が収納出来るようになっている。普段は海賊などに襲われても分からないように“仕込み(ふた)”で隠されているが、こうした嵐の時などにはドゥーイの避難先としても重宝(ちょうほう)していた。

 器用に爪を引っかけてドゥーイが再び(ふた)を閉めた事を確認し、風を受けて加速するべく()を調整しようとした時だった。

 波と風の音しか聞こえなかった真夜中の海の中、突然()()()()を聴き取った。

「!今のは…。」

 ゴォオオオオオオ………!!

 ザァアアアアアア……!!

 吹き荒れる風と荒れ狂う波の音の中で耳を()ます。

「っ…!!!」

 微かに聞こえる、人の声と必死に波の中で(もが)く音。

「!誰か落ちた……?!」

 周囲を見渡す限り、他に船影(ふなかげ)は無い。何よりもこのタイミング、間違い無く“白ひげ海賊団”の誰かだろう。

 だが、“白ひげ”の船が止まる様子は無い。巨大な帆船(はんせん)は嵐の大風を追い風に速度を増している。もう人の身では追い付けまい。このまま真夜中の海を泳ぎ続ける事はまず不可能。この海域は“秋島”が近く、水温も低い。ましてここは“新世界”で今まさに嵐の()只中(ただなか)。このまま放置すれば1時間どころか10分と()たずに沈んでもおかしく無い。

「気付いていない…?!見張りは何をしてるの!?」

 どうする?相手は海賊。助ける義理も無い、しかし……。

 (まよ)ったのは一瞬。

「っしょうがない!!」

 海賊相手とは言え、見殺しにするのは寝覚(ねざ)めが悪い。

 海軍に引き渡したところで、“白ひげ”が黙っていない事は分かりきっており、気絶(きぜつ)させるなりしてこの近くの縄張りに送り届けた方が無難(ぶなん)だろう。

 とんだ寄り道だと内心舌打ちながらも、船首(せんしゅ)目がけてジャンプする事で船の方向を変える。

 ザザザザァ……!!

 2分と経たないうちに声がした付近へ辿(たど)り着くが、辺りに人影は既に見当たらなかった。

「全く……!!」

 手早く飾りベルトから帯刀(たいとう)していた鬼徹(きてつ)を抜き、ドゥーイが隠れている収納スペースからロープを取り出す。

「ガウ?」

 中に入ったまま、何事かと見上げてくるドゥーイに「ちょっと寄り道するね。」とだけ告げ、再び(ふた)を閉めた。

「良し。」

 取り出したロープをマストに結び付け、逆側を自分の腰に結ぶ。

 そして呼吸を整えると同時に海へと飛び込んだ。

 バッシャアァンッ!!!

 漆黒(しっこく)の海の中、(しお)の流れに流されないように水をかき分け、見聞色(けんぶんしょく)の覇気を駆使(くし)して沈んだ相手を探す。

(!いた……!)

 肉眼(にくがん)では全く(とら)えられないが、10m程潜ったところに(ただよ)う人間がいる。

(まだ生きてる…!)

 思い切り水を蹴り、腕を伸ばした。

(もう少し…!良し、届いた!!)

 海中を(ただよ)っていた男の腕を(つか)み、一気に海面を目指す。自身の腰に結び付けたロープを辿(たど)り、浮上する。

「ぶはっ!!!」

 (つか)んだ腕を離さないように船へと()い上がり、男を引き上げる。

「せぇのっ!!!」

 激しい風と波に翻弄(ほんろう)されながらも、何とか引き上げる事に成功した。

「やれやれ…。」

 引き上げた男を見れば完全に意識が()ち、腹部から出血しているのが分かる。幸い急所(きゅうしょ)からは外れているようだが、海に落ちたのが悪かったのか体温が下がり、出血も止まらない。

 このまま揺れる船の上での手当ては難しい。何よりもこれ以上(かじ)を放っておけば、完全に方向を見失ってしまう。

 取り()えず収納スペースからタオルを取り出し、服の上から傷口に当てて(ほど)いたロープをその上に巻き付けて圧迫(あっぱく)した。

「ガルル…。」

「さ、もっかい“中”に入って、ドゥーイ。ちょっと強硬(きょうこう)突破するから揺れるよ。」

 胡散臭(くさんくさ)そうな目で男を見るドゥーイに、声をかけ再び船の方向を変えた。

 手元の“ビブルカード”を見て、方向を確かめる。

「マリンフォードがこっち、って事はこの方向で合ってるね。さぁ、行くよドゥーイ。早く入って!!」

 言うや(いな)や、()を張り風を受ける。

 ザザザザザザザ………!!!

 一気に船が加速し、“白ひげ”の縄張りを目指して走り出す。

 ターニャが、自身が助けた海賊の()()を知り、驚愕するのはそのわずか1時間後の事である。

 ――――――――――――再び運命が動きだそうとしていた。

 




さて、ターニャが拾ったのは誰でしょう?

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