転生したけど、海賊でも海軍でもなく賞金稼ぎになります   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第5話です。
過去編第2弾。ローとの出逢いです。
取り敢えず、次回は一旦現代に話が戻ります。

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第5話 それは1つの始まりでした

 ━11年前、マリンフォード━

「コラさん、この家が…?」

「ああ。センゴクさんの家だ。ロー、ここが今日からお前の家になる。」

 中心街からはやや離れた場所にある、一兵卒(いっぺいそつ)やその家族らが住む区間とは一線(いっせん)(かく)する閑静(かんせい)な住宅街。ここは、将校(しょうこう)たちの中でも中将以上の者とその家族らが住む区間である。

 そこの中でも一際(ひときわ)大きな門構(もんがま)えの、ワの国風の木造平屋(もくぞうひらや)一軒建(いっけんだ)て。

 その門の前に、2人の人影が立っていた。1人は白いモコモコのファーで出来た帽子(ぼうし)を被った少年、もう1人はシンプルな白いシャツと黒のパンツ姿だが、体中包帯だらけで松葉杖(まつばづえ)を付いた、身長3mは超えるだろう大男。

 少年の名は、トラファルガー・ロー。

 かつては大切な者たちを失った事への絶望と、世界政府への(にく)しみから世界を滅ぼしたいとさえ願っていたが、(かたわ)らの青年へと心を開き、また自身を(むしば)む不治の病“白鉛(はくえん)病”を完治させられるかもしれない、という希望を得てからは少しずつ年相応(そうおう)の姿を取り戻しつつあった。

 そして、その隣にいるのが、“コラさん”こそ“コラソン”としてドンキホーテ・ファミリーへと潜入していた海兵、ドンキホーテ・ロシナンテ。

 ドンキホーテ・ファミリーボス、ドンキホーテ・ドフラミンゴの実弟だが、幼い頃に実の父を殺した兄への恐怖で逃げ出したところを当時海軍本部の中将であったセンゴクに拾われ、養子として育てられた。やがて自身も海兵となった彼は、海軍本部の中佐に登り詰め、そして生き別れになった兄‐ドフラミンゴの暴挙(ぼうきょ)を止めるべくドンキホーテ・ファミリーへと潜入。そこで海軍に情報を流していたが、ローと出会い、紆余曲折(うよきょくせつ)の末に彼の(やまい)を治す為にローを連れてファミリーを出奔(しゅっぽん)。その過程でローと親子のような(きずな)を得た。

 ロシナンテは、生きて帰って来れた、という感慨(かんがい)深いような顔をしているが、ローの顔色は()えない。

 “オペオペの実”を食べ、海軍に“保護”された事でローの未来は決まってしまった。自身の能力で“白鉛(はくえん)病”を完治させた後は、15歳になるのを待って強制的に海軍に入隊する事となったのである。

 本来は完治次第入隊させられる(はず)だったが、ローの後見人(こうけんにん)となったセンゴクが世界政府の上層部に“待った”をかけたのだ。これまでの闘病(とうびょう)によって(けず)られたローの体力等を考慮(こうりょ)し、ある程度体が成長して鍛えられるまで待つべきだ、と。

 ロシナンテの一件で多少立場が悪くなった時期もあったセンゴクだが、さすがの世界政府も海軍本部の中でも指折りの実力者であり“大将”への昇格は確実、まして未来の“元帥(げんすい)”候補であるセンゴクを降格させるような真似(まね)は出来なかった。結果的に、ガープやクザンらの同意と、何よりも現元帥(げんすい)コングの後押しもあってセンゴクの意見が通り、ローの正式入隊は15歳の誕生日を待つ事となり、そのままセンゴクが後見人(こうけんにん)となったのである。

 後見人(こうけんにん)となり、また実際に顔を合わせた時に自身の故郷であるフレバンスへの仕打ちについてローに向かって頭を下げ、全面的に世界政府側の否を認めたセンゴクの事は嫌いではない。ロシナンテを育てただけあり、その真っ直ぐさにも好感が持てた。

 ロシナンテとセンゴクのような海兵を知った事で、全ての海兵が腐っているとは、()()ローはもう思わなかった。本当に(にく)いのは世界政府の上層部とフレバンスを捨てて自分たちだけで逃亡を(はか)った王族の人間である。

 しかし、これまで嫌悪(けんお)していた組織に強制的に入隊させられると知り、はいそうですか、と納得出来る程大人でも無かった。

「?どうした、ロー。」

 微妙な顔をしていたローに気付いたロシナンテがローを見下ろすが、首を振って誤魔化(ごまか)す。

「いや、何でもねェよコラさん。」

 目の前の恩人(ロシナンテ)にだけは言う訳にはいかなかった。

 ロシナンテはローの為に任務を一時放棄(ほうき)し、“オペオペの実”を盗んだ。最終的に“オペオペの実の能力者”であるローを無事に“保護”という名目(めいもく)(ふところ)に入れる事が出来たからこそ懲戒(ちょうかい)免職(めんしょく)(まぬが)れたものの、全くのお(とが)め無しという訳にはいかず、3ヵ月の謹慎(きんしん)処分と三等兵への降格(こうかく)。これまで築き上げた実績は完全に“無”となってしまったのである。

 まして、(ようや)く退院出来たとは言え今日まで入院していた重傷者である。無用な心配をかけるのは本意では無い。そんな彼に、海軍に入りたくないとは言えなかった。

 ロシナンテに悟られない程度に軽く溜息を()きつつ、ローが(うなが)す。

「さっさと中に入ろうぜ、コラさん。いつまでもここに突っ立ってたって仕方()ェんだし。」

 そう言い置いてスタスタと門を(くぐ)ってしまうローに、首を傾げながらもロシナンテも続いた。

 

 ガラガラガラ…

「おお!やっと来たか!!」

 玄関の引き戸を開けた途端(とたん)に響いた声に、ロシナンテが一瞬呆気(あっけ)に取られる。

「ガ、ガープ中将!?何故(なぜ)ここに??!」

 目の前に立っていたのは、自身の養父であるセンゴクの新兵時代からの(くさ)れ縁、“英雄”と名高いモンキー・D・ガープ中将だった。ローも1度顔を合わせた為、見知った相手ではある。センゴク同様、“フレバンス”の一件について謝ってくれた。

「何じゃ、センゴクから聞いとらんのか?」

「な、何をですか?」

 ガープの方が意外そうな顔を見せた事に驚きつつ、否定する。

「わしもこれから遠征(えんせい)に行かねばならなくての。その間お前たちにターニャを預かってもらおうとした訳じゃ。センゴクの奴は自分からロシナンテに言っておく、と言っておったが、本当に聞いとらんのか?」

「そう言われれば、センゴクさんが演習に出かける前に“大事な預かりもの”があるから早く家に帰れ、と言っていたような…。」

 出がけにトラブルが起こったらしく、(めずら)しくバタバタと出かけて行ったので肝心(かんじん)な事を言い忘れていたのだろう。

「たぶん()()じゃろうな。あいつももっと分かりやすく言ってやれば良いものを…。」

「ははは…。それよりターニャはどこに?」

 (あき)れたように呟くガープに苦笑しつつ、ロシナンテが肝心(かんじん)のターニャの居場所を尋ねる。

「うむ。実は今病院におっての…。」

「病院に?風邪でも引いたんですか?」

 (めずら)しい、と言いたげなロシナンテの言葉に、ガープが一瞬言葉に詰まった。

「いや、そういう訳でも無いんじゃが…。お前が任務に出とる間に色々あっての…。実は今、ターニャは定期的に病院でカウンセリングを受け取るんじゃよ。」

「カウンセリング?」

(くわ)しい事は言えんが、3ヵ月程前に大怪我をしてな…。その時の事がきっかけで、今男の海兵の姿を見ると(おび)えるようになってしまってな…。幸い、わしやセンゴク、クザンは平気じゃからロシナンテ、お前も大丈夫じゃろう。」

「大怪我って、もう大丈夫何ですか?!そんなトラウマが残る程の!?」

「怪我はすっかり良いんじゃが、問題はな…。ともかく、わしもそろそろ行かねばならん。お前たちでターニャを迎えに行っとくれ。ターニャには既にロシナンテたちが行くと言ってある。じゃあ、頼んだぞ!」

 そう言い置いて足早に靴を()いて出て行ってしまったガープを、黙って見送ってしまったローが呟く。

「相変わらずスゲェ勢いのあるじーさんだな。…なぁコラさん、…コラさん?」

「あ、あァ。何だロー。」

「そのターニャってのは一体誰だ?」

 ボケっとしていたロシナンテを(あお)ぎ見ながら尋ねる。

「ターニャはガープさんの孫娘でな。確か…、今6歳になったトコだったかな?」

「…だったら、早いトコ迎えに行かねェといけねェんじゃねェのか?」

 そんな子どもこれからしばらく一緒に暮らさなくてはいけないのは憂鬱(ゆううつ)だが、そんな年齢では放置する訳にもいかない。一般的に見れば、まだ充分に庇護(ひご)が必要な年齢である事は明白であるし、それとローの個人的な感情は別物である。

 それだけの分別はローとて心得ていた。

「…そうだな。()ェトコ迎えに行ってやんねェとな。行こうぜ、ローってイッテェ!!!」

 まずは自身の疑問よりもターニャの迎えを優先したらしいロシナンテが(きびす)を返そうとし、見事に松葉杖(まつばづえ)を滑らせてビタンッ!と勢い良くスッ転ぶ。相変わらずなロシナンテに溜息を()きつつ、ローは黙って手を貸した。

 

 何とか病院に辿(たど)り着くと(ロシナンテはそれまでに3回転んだ)、目的の子ども‐ターニャは待合室で行儀(ぎょうぎ)良く座っていた。

 この時の事を、ローは11年経った今も、嫌に鮮明に覚えている。

 ロシナンテを見付け、こちらに駆け寄ってくる子どもの顔には、全く()()()()()()()()()()()()

 そんな人間をローは以前にも見た事があったのだ。ローの父親は国1番の医者であったから、毎日様々な患者が父を頼ってきた。

 その中に、精神的なショックがきっかけで表情を変えられなくなってしまった少年がいた。表情筋が麻痺(まひ)しているという訳では無く、何も感じていない訳でも無い。ただ、感情が表に出なくなってしまったというケースだった。

 目の前に立つ子ども‐ターニャはその時の少年を連想(れんそう)させる。

 恐らくは、元々感情豊かな子どもだったのだろう。ロシナンテは子どもの予想を超えた様子にショックを受けているらしく、ローの隣で固まってしまっていた。

「ロシナンテさん…?」

 そんなロシナンテに、ターニャも困惑(こんわく)している様子だった。表情は変わらないが声に()()が表れており、目にも微妙な感情の変化が見て取れた。

 “心”まで閉ざしてしまった訳では無い。ただ表に出てこないだけ。これならばまだ間に合う。

 ローが1歩前に出る。

「おれはロー。トラファルガー・ローだ。お前は?」

 そんなローに目を向け、1つ(またた)いたターニャは、表情は動かないものの()だけはその感情を如実(にょじつ)に表していた。困惑(こんわく)したような様子から、どこか安堵(あんど)したような光がその目に宿っている。

「モンキー・D・ターニャです。初めまして。」

 それが、(のち)に義兄弟としての(ちぎ)りを結び、無二(むに)(きずな)を得る2人の出逢いだった。

 


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