転生したけど、海賊でも海軍でもなく賞金稼ぎになります   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第4話更新です。
筆が乗っているうちにアップしてしまおう、という自分的更新強化月間に入りつつあります。一先ず展開が落ち着くまでは、ルフィ妹を優先して更新する予定です。

※今回、主人公が痛めつけられるシーンがあります。そこまで細かい描写では無いと思いますが、暴力表現苦手な方はご注意ください。


第4話 バタフライ・エフェクトの恐ろしさを知りました

 ━海軍本部━

 カッ!コッ!カッ……!

 海軍本部の廊下を足早に歩くのは1人の海軍将校(しょうこう)。スラリと伸びた肢体(したい)を仕立ての良いスーツに包み、肩にかけるのは“正義”が記す白いコート。

 眉間(みけん)には深い(しわ)が刻まれ、目の下には濃い(くま)が浮き出ているが、その秀麗(しゅうれい)面差(おもざ)しは全く損なわれていない。

 モンキー・D・ターニャの義兄弟にして海軍本部・准将(じゅんしょう)、トラファルガー・ロー。彼は今、彼自身とも関わりの深いとある人物の(もと)へと向かっていた。

 コンコンコンッ!

 ガチャッ……!

 ある扉の前で立ち止まり、ノックをするなり返事も待たずに扉を開ける。

「なんじゃ、ローか。ノックをしたなら返事するまで待たんかい。」

 何事かと奥のデスクで書類から顔を上げたのは“海軍の英雄”とも(うた)われる老将(ろうしょう)、モンキー・D・ガープ。

 それに構わず、ガープの(もと)へと歩み寄ったローがガープに(ささや)く。

「ターニャと連絡が取れた。」

「!無事じゃったか!!」

 謝罪も前置きも一切(はぶ)いて簡潔(かんけつ)に告げたローだったが、その知らせは何よりもガープが待ち望んでいたものだった。

「こっちの気も知らずに呑気(のんき)に寝ていたらしい。まぁ、ターニャ(あいつ)は一旦海に出ればほぼ不眠不休(ふみんふきゅう)での航海だから、仕方()ェと言えばその通りだがな。」

「そうか…。それで、伝えたのか?」

「何も知らなきゃ、自衛(じえい)も出来ねェだろう?伝えたさ。驚いちゃいたが冷静だったぜ。まぁ、ショックはでかかったようだが…。一旦マリンフォード(こっち)に戻ってきて、しばらく滞在するとさ。おれかあんたが本部にいるかどうかを確認してきた。」

「そうか…。到着はいつ(ごろ)になる?」

「早くて5日。ターニャ(あいつ)の船ならもっと早いかもしれねェが、こればっかりは海次第だな…。7日以上かかるようなら連絡を寄越(よこ)せと念を押しておいた。」

「そうか。そうか……。」

 大きく息を()きながら、革張りの椅子(いす)に背を預けたガープにローが尋ねる。

「…話には聞いていたが、ヴェルゴってのはターニャ(あいつ)にとってそんなにトラウマなのか?」

「トラウマにもなるわい。一歩間違ったら殺されとった。…助かったのは運が良かっただけじゃ。」

「?!…一体何があったってんだ?」

 ガープの言葉に一瞬息を()んだローだったが、下手に義妹(ターニャ)のトラウマを押さない為にも把握(はあく)しておくべく尋ねた。

 そして、ガープは語る。11年前の、あの日の事を―――――――。

 

 ━11年前、マリンフォード━

 その日、ターニャはいつもの(ごと)く鍛錬場で素振りを終えた後、持参(じさん)した弁当を食べた後で強烈な眠気(ねむけ)と戦っていた。前日の夜にうっかり本に夢中(むちゅう)になって夜更(よふ)かししてしまい、満腹(まんぷく)になった途端(とたん)(まぶた)が重くなってきたのである。

「…ダメだ、眠い……。」

 普段よりも2時間足りない睡眠では、子どもの体力などすぐに尽きてしまう。マリンフォードの祖父の家は中心街からは若干(じゃっかん)距離があり、今の状態で無事に帰り着ける気はしなかった。

 生憎(あいにく)祖父は今朝早くから遠征(えんせい)に出ており、帰るのは明日の夕方。今日はつる中将の家に世話になる予定だったが、1人で勝手にお邪魔する訳にもいかず、肝心(かんじん)のつるも現在は仕事中。まさか執務室(しつむしつ)を訪ねて昼寝させて欲しいとも頼めない。

 いや、つるならば子どもが遠慮(えんりょ)するんじゃない、とすんなり寝かせてくれるだろうが、仕事の邪魔をするのは本意(ほんい)では無かった。

 どこか邪魔にならないような所は無いか、と辺りを見回したところで、鍛錬場の(すみ)に植えられた枝振(えだぶ)りの良い樹が目に入る。

「あの上なら、まぁ邪魔にはならないかな…?」

 (ひと)()ちて愛用の木刀(ぼくとう)をベルトに差し、スルスルと樹に登る。ちょうど良さそうな太い枝を(また)ぐようにして座り、(みき)にもたれて眠気(ねむけ)に身を任せる。

 ―――――――それからどれくらい経ったのか。

 ターニャは誰かの話し声で目を()ました。

「……?」

 まだぼんやりとしている意識の中、ぐしぐしと目を(こす)り耳を()ます。辺りを(はばか)るような会話だったが、周囲に他に人気(ひとけ)は無い為、意外にも会話が正確に聞こえてくる。

 ちょうど昼過ぎから夕方までの間は、訓練時間からはズレており、鍛錬場を使う者はおらず、ターニャ自身もこの時間ならば、と祖父が特別に使用許可を取ってくれたからこそこの場にいるのである。

(誰だろう。サボり…?)

 寝起きでぼんやりとした頭では分からなかったが、徐々(じょじょ)に頭がはっきりしていくにつれてターニャの顔が青褪(あおざ)めていく。

「ああ。問題無いよドフィ。“潜入”して間も無く1年…。そろそろ次の手を打っても良い頃だ。」

『フッフッフ!!!それは何よりだ。ヴェルゴ、やっぱりお前に任せて正解だったよ、“相棒”。』

 “ドフィ”、“潜入”、“ヴェルゴ”。

 マズい。状況を理解して、最初に思った事がそれだった。

 聞いてはいけない会話を聞いてしまった。見つかったら間違い無く殺されるだろう。

「取り()えず、“異動(いどう)願い”を出しておく。G5(ジーファイブ)ならばちょうど良いだろう。」

『フフフ、フッフッフ!!!この件はお前に一任してるんだ。お前のやり(やす)いようにやってくれ!』

 口を両手で(ふさ)ぎ、ターニャが樹の上に隠れたまま必死に息を殺すが、結果的にそれが裏目(うらめ)に出てしまった。

 それまでターニャが見付からなかったのは、眠っていた為に気配(けはい)がほとんど消されていた事にある。

 しかし、状況を理解してしまったが為に緊張のあまりに体が強張(こわば)り、呼吸も乱れて気配(けはい)察知(さっち)されてしまったのである。

「!すまない、ドフィ。また改めて連絡しよう。」

『?どうした、ヴェルゴ。』

「おれとした事が、ネズミが1(ぴき)(まぎ)れていた事に気付かなかったようだ。」

(ヤバイ………!!!!)

 ガサササッ!!

 その瞬間、ターニャを突き動かしたのは、圧倒的強者に対する恐怖から来る生存本能だった。

 考えるよりも先に、樹から飛び降りて全力で走る。伊達(だて)物心(ものごころ)付く前から祖父に鍛えらえてきた訳では無い。その身の軽さを最大限に生かした瞬発力(しゅんぱつりょく)(あなど)れず、状況によっては鍛えられた海兵相手であっても振り切る事が出来る。

 だが、今回ばかりは相手が悪かった。

 ドゴンッ!!

「っ!!!?」

 激しい衝撃と共にメキャリ、と嫌な音が響いたと思った瞬間には、地面に叩き付けられていた。

「あ‶っぐぅ……!!」

 叩き付けられた衝撃で声が()れるが、(さら)一拍(いっぱく)置いて激痛がターニャを襲う。顔の左半分は、既に痛み以外の感覚が無い。

 信じられない程の力で(なぐ)られたと気付いたのは、ヴェルゴの言葉を聞いた後だった。

「子ども…?ああ、君がガープ中将の孫か。全く、運が無いな。」

「っ………!!!」

 感じた事の無い激痛に声も出せなかったが、直後に右足に衝撃が走る。

「ぎっぃ……!!!」

 (のど)に引っかかるようにした“音”が()れ出るが、間髪(かんぱつ)入れずに腹部を蹴り飛ばされた。

「がふっ………!!!ゲホッゲホッガハッ!!!」

 蹴られた瞬間に、ターニャが嘔吐(おうと)し、血の混じった吐瀉(としゃ)(ぶつ)が周囲を汚した。

「っち…!掃除が面倒だな。君も、こんな場面に居合わせなければ、死なずに済んだものを。悪いが、このまま“消えて”もらう。」

 一片(いっぺん)慈悲(じひ)も無い言葉に、既に身動きすら(まま)ならないターニャが辛うじて目でヴェルゴを(あお)ぎ見た瞬間、ターニャ(自分)に向かって振り下ろされる拳が目に入った。

(あぁ、しんだ……。)

 ターニャが一瞬、自身の生を(あきら)めた瞬間だった。

 パキキキキキ…!

 パキイィィイイン………!!!

 ヴェルゴの体が、一瞬にして()()()()

「オイオイオイ、こりゃぁ一体どういう事だ?」

 不意に訪れた静寂(せいじゃく)の中、1人の男の声とザリッ、と靴底(くつぞこ)で砂が(こす)れる音が響いた。

「ターニャ、大丈夫か?まだ生きてるな?」

 自身が凍らせた下手人(げしゅにん)一先(ひとま)ず放置し、顔見知りでもある被害者(ターニャ)をそっと抱き上げる。

「く、ざ…、じさ……?」

「ああ、“クザンおじさん”だ。良く頑張(がんば)ったな。今、救護室(きゅうごしつ)に連れていってやる。」

 ターニャの途切(とぎ)途切(とぎ)れの声を正確に聴き取ったクザンが、安心させるように告げる。

「そ、かいへ…。」

「ああ、大丈夫だ。殺しちゃいない。」

 その海兵、と安否(あんぴ)を気にするように(うった)えるターニャに伝えるが、否定するようにほとんど動かせない体を酷使(こくし)するかのように、(わず)かに(かぶり)を振った。

「ん?どうした?」

「かいぞ、…パイ…。」

 (しぼ)り出すようにクザンに伝え、ふっと意識を失ったターニャを負担がかからないように抱え直し、極力(きょくりょく)()れないように救護室(きゅうごしつ)に走りながら、クザンがターニャの言葉を反芻(はんすう)する。

(海賊、スパイ、だと……?)

 こんな洒落(しゃれ)にならないような(うそ)()くような子どもでは無い。何よりも、あの海兵が本当に海賊のスパイだと言うならばそれを知ってしまったターニャを口封じに殺そうとしたのだ、とあの異様な状況にも納得する事が出来る。

(コング元帥(げんすい)に報告しなきゃならねェな。)

 真夏という訳でも無い現在の気候なら、氷が解けるまでには時間がかかる。逃げられる心配は無いだろうが、長時間放置してしまえば死ぬだろう。せいぜい()って10数分。ターニャを救護室(きゅうごしつ)に預けた後、元帥(げんすい)に報告する前に()()()()を回収して解凍せねばならなかった。

 ――――――――それからの騒ぎは、筆舌(ひつぜつ)に尽くし(がた)いものだった。海軍本部内に海賊からのスパイが入り込み、一般人の子どもを虐殺(ぎゃくさつ)しかけたのである。

 この事件は、その衝撃性から世界政府幹部や一定以上の海軍将校(しょうこう)以外には完全に隠匿(いんとく)される事となった。もし、外部に()れてしまえば、海軍の信用は地に()ちる。海軍本部史上(しじょう)、最悪のスキャンダルになりかねず、公表するにはリスクしか無かった為である。

 

 ―――――――ガープから伝えられた、秘められていた“真実”にローの驚愕は大きかった。

「……たまたまクザンが居合わせとらんかったら、そのままターニャ(あの子)は殺されて海にでも投げ込まれて“行方不明”として処理されておっただろう。クザンがターニャ(あのこ)を見付けた時、既にターニャ(あの子)は虫の息だったらしい。顔の形が変わる程(なぐ)られ、折れた肋骨(ろっこつ)が胃や腸に刺さってぐちゃぐちゃになっておったそうだ……。」

「…当時、ターニャ(あいつ)はまだ6歳かそこらだろう?!大の大人、それも海賊ならそこまでする必要はねェ(はず)だ!!!」

 何よりも、義妹(いもうと)に降りかかった、想像していたよりも(はる)かに凄惨(せいさん)行為(こうい)に、思わずローが叫ぶ。

「ああ、その通りだとも!!センゴクの奴に力()くで止められなかったら、わしがあの男を殺していたところじゃった!!!」

 ズンッ!!!

「……!」

 当時を思い出し激昂(げっこう)するあまりに覇気すら()れ出ているガープに、ローが息を詰めた。

 執務室(しつむしつ)の床や壁、天井や扉がミシミシと(きし)む音がする。

「ぐっ…!おい、落ち着け(じい)さん!!」

 全く制御される事なく放たれる覇王色の覇気を間近で浴びせられ、(たま)らずに膝を付いたローがガープに声を張り上げる。

「……幸い、虫の息ではあったもののターニャは生きていた。もう殉職(じゅんしょく)してしまったが、当時海軍に所属していた“チユチユの実”の能力者によって傷も完全に()えたが、心の方はそうはいかん…。」

 数回深呼吸を繰り返して何とか自身を落ち着かせたガープが続けた。

「それ以来、男の海兵を異常に怖がるようになっての…。既に克服(こくふく)してはいるが、当時は酷いものじゃった。わしやセンゴク、クザンやロシナンテなど付き合いの長い海兵は大丈夫だったが、他の者は全くダメでな…。顔を合わせたら最後、過呼吸を引き起こす程じゃった。…その辺りの事はお前も良く知っとるじゃろう?」

「ああ…。」

 自身(ロー)が初めて()った頃の義妹(ターニャ)を思い出し、納得する。それだけの事が身に起こっていたのなら、無理も無いと言えた。

 11年前、恐らくその()()から3ヵ月程経った頃だろう。その頃のターニャは、今と比べ物にならない程に表情が無く、唯一表に出す感情は“(おび)え”だけだったのだ。

 

 




徐々に主人公とローが義兄弟になったきっかけが明らかになっていきます。

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