転生したけど、海賊でも海軍でもなく賞金稼ぎになります   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第2話更新です。
ちょこっと師弟の過去話とゲストを1人…。
ゲストさんは今後も何らかの形で登場予定です。


第2話 たまには師弟で語らいましょう

 ━12年前、海軍本部━

「116、117、118……!」

 海軍本部の鍛錬場に、その場に似つかわしくない幼い少女、(いな)幼女の姿があった。

 精々(せいぜい)4~5歳位だろう幼女が、たった1人で一心不乱(いっしんふらん)木刀(ぼくとう)を振る姿はどこかシュールである。

 しかし、と(はか)らずも()()遭遇(そうぐう)する事となった“鷹の目”ミホークはその太刀筋(たちすじ)に思わず興味を()かれた。

 まだまだ(つたな)いものの、才能を感じさせる。むしろ、年齢を考えれば驚異(きょうい)的と言えるだろう。惜しむらくは、振っている木刀(ぼくとう)そのもののサイズが幼女に合っていない事で、どうしても剣先(けんさき)がブレてしまう事だろう。あのまま振り続けていれば(みょう)(くせ)が付いてしまうかもしれない。

 それは惜しい。

 そう考えたミホークの行動は早かった。

「待て。」

「え?!」

 足早(あしばや)に幼女に近付き、その木刀(ぼくとう)(つか)んで素振りを制止する。

 一方、急に現れた男に幼女が驚いている。目を大きく見開き、固まっていた。

 しかし、それに全く構う事無く自身の思う通りに行動するのが、“鷹の目”ミホークという男である。幼女から完全に木刀(ぼくとう)を取り上げてしまうと、それを検分(けんぶん)し始めた。

「ふむ…。腕を伸ばせ。」

「へ?」

 いきなり現れて木刀(ぼくとう)を取り上げたかと思うと、急に意味の分からない事を言い出した男に面食らった幼女だったが、「早くしろ。」と()かされてしまえば(さか)らうような度胸(どきょう)はまだ無かった。

「こ、こうですか?」

 訳も分からず両手を前に伸ばして見せた幼女に再び木刀(ぼくとう)を握らせ、構えさせる。

「…この辺りか。」

 そう言うなり、ベルトに()いていた大振りのナイフを抜いて幼女が構えていた木刀(ぼくとう)剣先(けんさき)を斬り落とす。

「え!?」

「貸せ。」

「え、あ、はい。」

 見知らぬ男の急な行動に驚愕したのも(つか)の間、マイペースに木刀(ぼくとう)を渡すように要求してきた男に従う。

「ナ、ナイフで木刀(ぼくとう)ってそう簡単(かんたん)に斬れるもの何ですか?」

「優れた剣士ならばこの程度造作(ぞうさ)も無い。」

 恐る恐る、といったように尋ねてくる幼女に答えてやりながら、剣先(けんさき)を斬り落とした木刀(ぼくとう)をナイフで整えてやる。

 ものの数分で、剣先(けんさき)が斬り落とされて不格好(ぶかっこう)になってしまっていた木刀(ぼくとう)が新たに(よみがえ)った。長さは先程に比べ、2/3程短くなっており、大人にとっては短く使い物にならないが、目の前の幼女にとってはちょうど良いだろう。

「こんなところか…。振ってみろ。」

「は、はい!」

 ずいっと目の前に突き出された木刀(ぼくとう)を受け取り、構える。

「1、2、3…!」

「止めろ。」

「えっ?!」

 振れと言ったり止めろと言ったり、どうすれば良いのか?そんな顔をして見上げて来る幼女に、助言する。

「ただ振るのでは無く、打ち下ろす瞬間に左手の小指を意識しろ。右手の力は抜け。」

「は、はい!」

「もう1度やってみろ。」

「はい!1、2、3…!」

 ビュッ!ビュッ!

 明らかに先程までとは鋭さが違う。先程まではブンブンとどこか間の抜けた音だったのに比べ、今は一刀一刀が空気を斬り裂くように鋭い。

「良いだろう。」

 しばらく幼女の素振りの様子を黙って見ていたミホークだったが、(おもむろ)に頷く。

「今の感覚を忘れるな。」

「はい!」

 いつしか、幼女も何の疑問も無く教えを受けている。そこに、乱入(らんにゅう)する者がいた。

「お―――――い!ターニャ、待たせて悪かっ、ぶふぅっ!!!」

 駆け寄って来たは良いものの、足元にあった小石にものの見事(みごと)(つまづ)き、ヘッドスライディングの(ごと)き勢いでズッサァアア―――――!!と(すべ)ってきた海兵に、ミホークが冷めた視線を送る。

「大丈夫ですか?ロシナンテ少佐。」

 ちょうど目の前で止まった海兵を見下ろしながら尋ねる幼女は、どうやらこういった事態に慣れているようだ。

「イッテェ―――…。ドジった…。」

 のっそりと立ち上がった海兵の、(ほこり)(まみ)れの膝をはたいてやっている幼女がいっそシュールだった。

「悪いなターニャ。待っただろ?って、お前は“鷹の目”ミホークか?!」

 そこで(ようや)く海兵が幼女の(かたわ)らに立っていたミホークに気付く。

「え?」

 そこで何故かぎょっとしたようにミホークを振り(あお)いできた幼女に、ミホークが怪訝(けげん)そうな顔をする。

「おれを知っているのか?」

「当たり前だ!新しい“七武海”を知らない海兵がいるか!!だいたい、“七武海”とは言え海賊が何でこんな所をウロウロしてんだよ!?」

 幼女への問いかけを自分に対してだと思ったらしい海兵ががなる。

「お前に言ったのでは無い。第一、本部内を見て回る権限は与えられている(はず)だ。」

 しれっと返すミホークに、海兵が言葉に詰まる。その間に、ミホークは改めて幼女へ問いかけた。

「お前はおれを知っているようだが、何者だ?ただの子どもがこんな所には()れまい。」

「え、あ、おじいちゃんから新しい“七武海”が入ったって聞いたので…。」

「?お前の祖父は海兵か。」

「はい。えっと、あらためまして、モンキー・D・ターニャといいます。」

 幼女、ターニャが名乗った姓に驚く。

「モンキー、という事はお前の祖父はガープか。」

「はい。」

 まじまじと幼女を観察するミホークは知らなかった。幼女‐ターニャの方こそミホークの姿に驚いていた事を。

(げ、原作と全然恰好(かっこう)が違うから分かんなかった…。)

 そう、今のミホークは()()特徴的な黒いコートも帽子も顎髭(あごひげ)も、何よりも“黒刀”すら無い。清潔感のあるシャツとパンツ、そして腰に細身の剣と大振りのナイフを()いただけのその姿は、“原作”時の姿からは連想出来ないものだった。

(イ、イケメンだ……!!!)

 ――――――これが、(のち)師弟(してい)関係となる2人の出逢(であ)いである。

 

 ━12年後、“新世界”━

「そう言えば先生。あたし以外に弟子はお取りになられないんですか?」

 酒場兼飯屋で、この島の名物料理らしい、甘辛く煮た挽肉(ひきにく)を皿に盛った白米の上に乗せた料理(イメージ的にガパオライスに近い)をスプーンで(すく)いながら、ターニャが対面に座るミホークに問う。

「急にどうした?」

 いきなり(みょう)な事を言い出した弟子(ターニャ)に、琥珀(こはく)色の酒が満たされたグラスを傾けていたミホークが怪訝(けげん)そうに手を止めた。

「ガルゥ?」

 ターニャの足元で生肉を味わっていたドゥーイでさえ、そんな主人(ターニャ)を振り(あお)ぐ。

(何か似てるな、この2人(?)……。)

 そんな事を思いながら言葉を続ける。

「いえ。前から疑問ではあったんですが…。確かあたしを鍛えてくださるようになったきっかけが、()(しろ)があったからだと聞いていたので…。他に弟子がいても不思議は無いんじゃないかと思いまして。」

 そう言って料理を頬張(ほおば)るターニャだったが、怪訝(けげん)そうな顔を崩さないミホークに、目を(またた)く。

「おれは剣士だ。」

「それは勿論、知ってますけども。」

 急に何を言い出すのか、という顔をしている弟子(ターニャ)にミホークが続ける。

「より強い剣士と“()合う”事こそ心躍(こころおど)るが、“育てる”事には興味が()かんな。」

 そのミホークの言葉に、ターニャが一瞬きょとんとした。

「え?じゃあ、何故あたしを弟子(でし)に?」

気紛(きまぐ)れだ。“強き者”となり得る者がつまらぬ癖を付けては惜しいと思っただけの事。」

「そ、そうですか…。」

 ミホークの(めずら)しい率直(そっちょく)()め言葉に、ターニャが(ほお)を赤らめる。

「そ、それじゃあ、最近戦った剣士で最も強かったのはどんな剣士ですか?」

 何となく気恥(きは)ずかしくなり、やや強引に話題を変えたターニャを気にする事も無く、ミホークがグラスを(あお)った。

「ふむ…。先達(でんだっ)て、東の海(イーストブルー)にて(ひさ)しく見ない“強き者”に出逢(であ)った。」

東の海(イーストブルー)で、ですか?」

 その言葉に、ターニャの“古い記憶”がもしやと刺激される。

「どんな剣士ですか?」

「確か名は…、“ロロノア”。“ロロノア・ゾロ”と言ったな。」

「“ロロノア・ゾロ”…。」

 やはり、という思いと共にその名を反芻(はんすう)するターニャに、ミホークが言葉を続けた。

「その男はお前の兄の船に乗っているらしい。」

「…先生に認められた男を乗せている、という事はルフィの航海も順調みたいですね。」

 ふふふっ、と(うれ)しそうに微笑(ほほえ)弟子(ターニャ)の姿に、ミホークもまた(めずら)しく(ほお)(ゆる)める。

 2年振りに再会した師弟(してい)(かた)らいは、その後深夜まで続いた――――――――。




因みに、コラさんはまだドンキホーテ・ファミリー潜入前で、午後から非番だったのでガープさんから子守を頼まれていました。
※後からこの段階では既に潜入していないとおかしい事に気付きましたが、バタフライ・エフェクト的な色々でズレたという事で…(汗)

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