転生したけど、海賊でも海軍でもなく賞金稼ぎになります   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第10話更新です。
ちょっと他ジャンルに浮気してまして、不定期更新となっております(汗)


第10話 それぞれの怒り

 ―――――――――――ターニャが怒りを(あら)わにしていたのと同じ頃。

 

 ━“新世界”のとある海域‐モビーディック号━

「オヤジ!オヤジ!」

 バンッ!

 泡を食った様子で船長室に駆け込んできた“息子”の姿に、船長‐エドワード・ニューゲートは酒を(あお)っていた手を止めた。周りにいたナースたちも、点滴を打とうとしていた手やカルテを書き込んでいた手を止めて何事かと声の方を振り返る。

「どうしたってんだ、一体。」

「これ!これを見てくれ!!」

 バサリと広げられたのは、今朝ニュース・クーによって届けられたばかりの新聞。その一面に記されていたのは、見覚えのある島の名前。

「“グレイスリーナ島”が壊滅だと……?」

 その島は、銘酒(めいしゅ)が多く作り出される事で“白ひげ海賊団”もたびたび寄港(きこう)していた、馴染みの島だった。職人気質(かたぎ)の人間も多く、“四皇”相手でも怯える事も(へりくだ)る事も()びる事も無い、縄張り以外では珍しい程に居心地の良い島だったのだが…。

 “壊滅”。険しい顔で新聞を見詰める白ひげに、“息子”が続ける。

「それだけじゃねェ!これ、ここを見てくれ…!」

 その指が示していた1文。

「“黒ひげ”って(こた)ァ………。」

 “黒ひげ”。その2つ名には覚えがあった。

「間違いねェ!ティーチの奴だ……!!!」

 5日程前にこの海賊団においての最大のタブー“仲間殺し”を行いかけ、船を出奔(しゅっぽん)した裏切り者である。

 裏切り者‐マーシャル・D・ティーチ。“黒ひげ”とは正式に世界政府によって付けられた2つ名では無い。まだ“黒ひげ”が仲間だった頃、(いな)仲間だと思っていた頃に「オヤジが“白ひげ”なら、おれは“黒ひげ”だ」と宴の席で(たわむ)れに話していた名だった。

 その“黒ひげ”が、“白ひげ海賊団”の懇意(こんい)にしていた島を襲った。直接の縄張りへの攻撃では無いが、これは“白ひげ海賊団”への挑発、宣戦布告ともとれる。

 現在、“白ひげ海賊団”内ではティーチがしでかした今回の事件を明確な裏切り行為と断じる者と、サッチが助かった事もありこのまま“追放”という形で恩情(おんじょう)を訴える者で真っ二つに割れていた。

 白ひげ自身、ティーチがサッチから奪い去った“悪魔の実”の事もあり、今回の事は“追放”処分のみで終わらせようとしていたのだ。

 しかし、

堅気(カタギ)に手ェ出しやがって、あのアホンダラがァ……!!!」

 海賊同士の交戦ならばいざ知らず、何の罪も無い一般人への虐殺行為(こうい)など流石(さすが)に見過ごす訳にはいかなかった。

 怒りの言葉と共にビリビリと放たれる覇気に、傍らの“息子”とナースたちが思わず息を呑む。

 直接自分たちに向けられたものでは無い為、非戦闘員であるナースたちも立っていられるものの。老いても尚凄まじいその覇気は船長室のみならず、モビーディック号全体に伝わった。

 コンコンコンッ…!

「オヤジ、入るよい。」

 ノックをしたものの、返事を待たずに入室したのは、一番隊隊長‐マルコ。敬愛する“オヤジ”の覇気に当然気付いたものの、周囲数kmに渡って船影は無く、特に船内に異常も無かった為、隊長たちを代表して彼が来たのである。

「マルコか…。」

「一体、どうしたんだよい?(わけ)(もん)がすっかりビビっちまったよい。」

 気遣(きづか)わし気に尋ねてくるマルコに、白ひげが新聞を放る。

「今日の新聞…?」

「その様子じゃァ、まだ知らねェようだな…。ティーチの馬鹿がやりやがった…!!!」

「!」

 その言葉に、マルコがバサバサと新聞を広げる。

「!これか…!“グレイスリーナ島”が壊滅…?!」

堅気(カタギ)に手ェ出すたァ許しちゃおけねェ…!サッチの件もある。マルコ!“息子”たち全員に伝えろ。“黒ひげ”を探し出せ!おれがケジメを付ける!!!!」

「ああ、分かったよい…!」

 “息子”たち全員。その言葉が指し示すのは、“白ひげ海賊団”とその傘下全て。

 “四皇”を敵に回せば、“新世界”に逃げ場は無い。

 固唾(かたず)()んでそれを見守っていたナースたちも、事態は既に収束したも同然とどこか安堵(あんど)にも似た思いを抱いていたが、それは数日後に裏切られる事となる。

 

 ━“マリンフォード”海軍本部━

 白ひげが傘下たちをも加えて“黒ひげ”の捜索に全力で打って出た頃。

 ターニャは一先(ひとま)ず落ち着きを取り戻し、相棒であるドゥーイさえ置いて、朝食にも手を付けず知己(ちき)の仲であるドンキホーテ・ロシナンテの元を訪ねていた。

 ロシナンテ少将(1度は三等兵からのやり直しとなったロシナンテだったが、11年の間にこれまでの経験を活かし出世した)は“前半の海(パラダイス)”と“新世界”を含めた海賊たちの情報を収集及び管理する、諜報(ちょうほう)部隊のトップであり、“四皇”といった大海賊は勿論、所謂(いわゆる)“ルーキー”たちの情報も1度はここに集められる。

 因みに、手配書の発行や懸賞金の増減も統括しているのも全てロシナンテである。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 この諜報(ちょうほう)部隊には、“新世界”や前半の海のみならず“東の海(イーストブルー)”、“西の海(ウェストブルー)”、“北の海(ノースブルー)”、“南の海(サウスブルー)”、全ての海の海賊たちの情報が入る。“黒ひげ”の情報も当然入っている筈だった。

 勝手知ったる海軍本部。幼い頃から幾度と無くここに出入りしているターニャは最早顔パスである。しかし、普段のターニャならば余程急ぎの用でも無い限り、本部内まで足を踏み入れる事は少ない。

 “海軍の英雄”である祖父の身内としての特権を最大限利用していた幼い頃ならばいざ知らず、既に賞金稼ぎとして独立している身では流石にそうホイホイと入り込んでは機密保持の問題も出て来る。

 それを理解しているからこそ、祖父が孫可愛さに許可を出しても固辞(こじ)してきたのだ。

 しかし、現在のターニャにそんな事に気を使っている余裕は無い。

 コツコツと鬼気迫る様子で廊下を足早に歩くターニャの姿に、彼女を幼い頃から知る海兵たちは目を丸くし、彼女を知らない若い海兵たちはぎょっとしたように目を向けてくるのが分かるが、ターニャはそれに目もくれない。

 コンコンコン…!

 ガチャッ…!

 とある扉の前で立ち止まり、ノックするも返事を待たずにそれを開く。

「おい!勝手に入るな…って、ターニャか?」

 扉の開く音に振り返り、怒鳴り付けようとしたロシナンテが、そこにいたターニャの姿に目を丸くする。幼い頃ならばともかく、幼少期から良く知るこの少女が最近では本部内に足を踏み入れないように気を使っているのを良く知っていた為だ。

 早朝である為、執務室にはまだロシナンテしかいない。後30分もすれば部下たちが出勤してくるだろうが、諜報(ちょうほう)部隊という性質上、部外者が入り込むのは好ましく無い。ロシナンテしかいないのは幸いだった。だからこそターニャもこの時間に尋ねて来たのだろうが、この少女がこんな強硬手段に出る事など滅多に無いのだ。

「ロシーさん、お願いがあるんだけど。」

 怪訝(けげん)そうなロシナンテに構う事なく、挨拶(あいさつ)すら省いて単刀直入に切り出したターニャに、ロシナンテが呆気に取られる。

「へ?!あ、あぁ…。何だ?」

「海賊“黒ひげ”の情報をありったけ教えて。」

 机で何やら書類を片付けていたらしいロシナンテにつかつかと歩み寄り、ターニャがロシナンテに迫る。

「“黒ひげ”?」

「ここなら、全ての海の海賊の情報が揃ってるでしょ?早く。」

 ズイッとさらに迫るターニャの目は完全に()わっている。

 訳が全く分からないものの、今彼女に逆らってはいけない、というある種の生存本能のみでロシナンテは先程報告されたばかりの“黒ひげ”の動向について纏めた書類をターニャに差し出した。

「ありがと。」

 受け取った書類に目を通すターニャだったが、徐々にその表情は険しくなっていく。

「“グレイスリーナ島”が襲撃されて丸2日経ったが、その後の足取りはほとんど(つか)めてねェ。辛うじて、生き残った島民の証言から“アカガレ島”の方向に向かったらしい、という事は分かったが…。」

「“アカガレ島”、ね…。」

 “グレイスリーナ島”から船で半日程度の“アカガレ島”は商人の島である。世界政府から公認された数多くの商船が“前半の海(パラダイス)”とシャボンディ諸島、そして“新世界”を行き来している。

 これで“黒ひげ”の目的の目星が付いた。

 “アカガレ島”にはコーティング職人がいる。そこから海底を進んで“前半の海(パラダイス)”へと逃れるつもりなのだろう。“新世界”は言わば“四皇(よんこう)”のお膝元。その包囲網から逃げ続ける事は難しい。

 しかし、“前半の海(パラダイス)”ならばその威光も完全には届かない。言わば、どこにも所属していない海賊にとってはまさに“楽園(パラダイス)”。だからこそ、“原作”の“黒ひげ”も“前半の海(パラダイス)”へと逃れたのだろう。

 “アカガレ島”からシャボンディ諸島は約2日。“グレイスリーナ島”の襲撃から既に2日経っている為、“黒ひげ”も既にシャボンディ諸島に着いていてもおかしくは無い。マリンフォードからターニャの船でおよそ1時間弱。今から急いで出立すればギリギリ間に合う可能性もある。

 ターニャが書類から顔を上げた時だった。

 コンコン…。

 再び扉がノックされる。

「入って良いぞ。」

 ガチャッ…!

 ロシナンテの入室許可と同時に扉が開き、そこから滑り込むように入ってきたのは

「お兄ちゃん…。」

「ローか。」

 ターニャの義兄、海軍本部准将のトラファルガー・ローだった。

「やっぱりここにいたか、ターニャ。…“黒ひげ”を追う気だな?」

 チラッと、ターニャの持つ書類に目を走らせたローが溜息混じりにターニャに問う。

「…何で知ってるの?」

「ガープの(じい)さんから粗方(あらかた)の事情は聞いた。お前ならまずは情報を集める為に()()に来るだろうと思ったからな…。止めても無駄だろうから、突っ走る前に釘だけ刺しに来たんだよ。」

「釘?」

「…まァ、お前よりも先に刺さなきゃいけねェ人がここにいるみてェだがな…。」

 ジトッとした目で見てくるローに、ロシナンテが気まず気に目を逸らす。

「コラさん。あんた、諜報(ちょうほう)部隊のトップだろ?民間人にホイホイ機密情報見せてんじゃねェよ。」

「うっ…。(わり)ィ、つい…。」

「あたしが見せてって言ったの。センゴクのおじさんには内緒にしてて…。」

 しょんぼりするロシナンテに、若干頭の冷えたターニャが申し訳無さそうにローに弁解する。

「…今回は見逃してやるが、次があったらきっちり報告してやるからな。ターニャ、お前もだ。提供出来る情報は提供してやる。あんまり本部内をうろつくな。」

「…ごめんなさい。」

 流石に今回は全面的にターニャが悪い。素直に謝る。

 その姿を見て、ローも今回はそれで良しとしたらしい。溜息を1つ()いた後にターニャの頭をぐしゃぐしゃとかき撫でた。

「“黒ひげ”を追うなとは言わねェ。だが、冷静になれ。憎しみに身を任せるな。…(ろく)な事にならねェぞ。」

「…うん。」

「行くならちゃんとメシを食ってからにしろ。…ガープの(じい)さんも心配してた。」

「うん。」

 いつも通り、とまではいかないが微かに笑みを浮かべたターニャに、ローもほっとしたように微かに頬を緩ませる。

「なら行くぞ。」

「どこに?」

 そう言って(きびす)を返すローにターニャが尋ねる。

「朝飯だ。…たまには兄妹(きょうだい)水入らずってのも悪くねェだろ?」

 チラリと首だけ振り返り、ニヤリと笑みを浮かべる義兄(ロー)に、ターニャも今度こそ笑顔で頷いた。

 

 

 




因みにローがガープを屋号で呼んでいないのは、半分身内扱いになっている為です。上司というより義妹の祖父、という認識が強い為。センゴクもロシナンテの養父、という扱いから屋号呼びではありません。

※誤字訂正しました。
※ちょっと今後の展開に対して矛盾点を発見しましたので、加筆修正しました。

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