転生したけど、海賊でも海軍でもなく賞金稼ぎになります 作:ミカヅキ
今回の副題はガープ中将は良いお祖父ちゃん、です。
―――――――――それを知ったのは、“グレイスリーナ島”を
祖父や
時刻は午前5時40分。普段より多少早いが、寝直すのも微妙な時間帯なので起きてしまう事にした。
ターニャがマリンフォードで寝泊まりしているのは、祖父がマリンフォードに建てた家の1室。海が一望出来る大きな窓を開け放ち、潮を含んだ風を浴びる。既に外は明るくなり、後10数分もすれば太陽が昇るだろう。
「ふぁ……。」
「ガゥ………?」
軽くベッドが
「ゴメンゴメン、まだ寝てて良いよ。」
「グルル………。」
背中をゆっくりと撫でてやるうちに、ドゥーイは再び眠り始める。
ふふっとそれに微笑み、今度こそドゥーイを起こさないように出来るだけ音を立てずに
トントントン…!
静かなキッチンに、包丁の音が小気味良く響く。事前に火にかけておいた鍋が沸騰したのを確認し、じゃがいもに完全に火が通った事を確認する。それから1口大に切ったキャベツとベーコン、
その間にサラダも作ってしまおうと、酒蒸しした後で
「
まだ少し熱いが、完全に冷めてしまうと綺麗に裂けない為、これは我慢するしかない。あまり太くしてしまうとサラダの中で存在を主張し過ぎて鶏肉が主体となってしまうので、面倒だが出来る限り細くする。包丁で切ってしまうと形が崩れ易い上に味も抜けてしまう為、手で行う必要があった。
鶏肉を全て裂き終え、手を洗ってから鍋の
「こんなものかな…。」
時刻は6時20分を過ぎたあたり。間も無く祖父も起きてくるだろうから、それまでには食べ頃に冷めるだろうと再び
手早くレタスときゅうり、トマトを洗ってサラダボウルを用意し、レタスを手で千切ってボウルに入れていく。きゅうりを斜めに薄切りし、トマトはくし形に切ってからヘタを切り落とす。ボウルの中にきゅうりとトマト、さっき裂いた蒸した鶏肉を
それから小さいボウルに醤油と砂糖、みりん、黒酢、オリーブオイル、白ごまを適量入れてスプーンでかき混ぜ、ドレッシングを作った。
野菜嫌いの祖父の為に、何とか野菜を食べさせようと色々
ターニャ本人が好むのは肉よりも魚だが、祖父と一緒に食事をする時には祖父に合わせて必然的に肉類が多くなる。
やれやれ、とターニャが軽く溜息を
「ジャストタイミング。」
オーブンを開くと、香ばしい匂いをさせたバターロールが綺麗に焼きあがっている。それをバスケットに1つずつ移し、出来上がったサラダやドレッシングと一緒にダイニングテーブルへと置いた。
因みに、この家にはガスレンジとガスオーブンが完備されている。Dr.ベガパンクの発明の1つで、マリンフォードの住人や一部の上流階級の人間はその
さて、後は祖父が起きてからオムレツでも焼こうかと冷蔵庫から卵と牛乳を取り出した時だった。
「おお、今日も良い匂いじゃな。」
まだネクタイやジャケットを身に付けていない為、普段よりラフに見えるが
「おはよう、お祖父ちゃん。」
「おお、おはよう。」
「コーヒーと紅茶と緑茶、どれにする?」
「今日はコーヒーにしようかの。」
「分かった。ちょっと待っててね。」
今朝
「何か面白い記事でもあった?」
「いや、今日も海賊共の記事がほとんどじゃわい。」
コポコポとフィルターにお湯を注ぎ入れながら尋ねるターニャに、苦々しい表情で返しつつ、ガープは新聞を
「いくら減らしても次々ルーキーたちが出て来るしね~。」
ガープにコーヒーを差し出しつつ、ターニャももう1つのカップを自身の席に置く。
「オムレツで良いよね?」
「おお。」
コーヒーが冷めないうちに、とボウルに卵を割り入れてほんの少し牛乳を入れてかき混ぜる。熱したフライパンにバターを溶かし、溶いた卵を流し入れた。慣れたもので、すぐにオムレツを2つ終えるとスープをよそってガープの前へ置く。
「お祖父ちゃん、新聞は朝ご飯の後にしてよ。冷めちゃう。」
「分かった分かった。」
「おお!今日もうまそうじゃの!!」
「どうぞ、召し上がれ。」
「うむ。」
いただきます!と勢い良く手を合わせたガープにサラダと取り分けてやりながら、ターニャが何の気無しにガープが置いた新聞に目を向けた。
「えっ…………!?」
ガタン!
「どうしたんじゃ、ターニャ?」
珍しい失敗に、ガープがオムレツを頬張ったまま驚いたようにターニャに目をやる。
「これ…、この記事……。」
わずかに震える手で新聞を掴み、一面の記事を広げるターニャにガープもまた表情を引き締める。
“グレイスリーナ島壊滅!!ルーキーの
そんな見出しと共に記された記事は、ターニャを絶望に叩き落すには充分だった。
【新世界の中でも穏やかな海域に囲まれた静かな島“グレイスリーナ島”。人口700人程の小さな島であり、目立った観光名所は無いが、穏やかな気候と綺麗な湧き水に恵まれた事で酒造りが盛んであり、知る人ぞ知る島である。
しかし、もうその
そこまで読んだところで、ターニャの感情が爆発する。
「“黒ひげ”ェ………………!!!」
ズゥンッ!!!!!
ターニャの叫びと同時に、その身から“覇王色”の覇気が溢れ出す。
「うおっ?!」
いきなりの覇気に、ガープでさえ一瞬気圧される。そして、怒りによって極限にまで引き上げられたその覇気が半径1km圏内にまで影響しているのを感じ、焦る。
“見聞色”を発動させれば、その影響範囲内の人間がバタバタと倒れていくのが分かる。
「落ち着かんかターニャ!!!」
ズォッ!!!
「っ!!!?」
叱責するかのように向けられたガープの覇気に、ビクン!と反応したターニャはそれをきっかけに我に返った。
「あ…。」
「落ち着かんか、今ここでお前が
「ゴメン、お祖父ちゃん…。」
ガープの厳しい言葉に、ターニャが
「ガウ!!!」
そこに、
「グルル…?」
肩を落としたターニャに駆け寄ったドゥーイが心配そうに擦り寄る。それを抱き締めながら、ターニャは怒りと悲しみに揺れる心を何とか落ち着けようとしていた。
プルプルプルプル…!
そこに、隣のリビングから電伝虫の声が鳴り響く。
プルプルプルプル…!
ガチャッ……!
『ガープ!!!一体何があった?!!今のはターニャの覇気だろう?!』
「センゴクか。」
泡を食った様子で連絡をしてきたのは海軍の現元帥‐センゴク。彼の家はここから500m程しか離れていない為、当然先程のターニャの覇気も感じたのだろう。
「すまんが後でかけ直す。」
ターニャがこの状態では彼女にも聞こえる距離で事情を説明するのも酷だろう、とガープはセンゴクの返答を待たずに電伝虫を切った。
まずは