転生したけど、海賊でも海軍でもなく賞金稼ぎになります   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第9話更新です。
今回の副題はガープ中将は良いお祖父ちゃん、です。


第9話 怒りで眩暈を覚えました

 ―――――――――それを知ったのは、“グレイスリーナ島”を()って3日後、マリンフォードに辿(たど)り着いた翌日の事だった。

 

 祖父や義兄(あに)と無事に再会した事で、ドフラミンゴの一報を聞いてからそれまでどこか張り詰めていた気が完全に緩んだのか、普段よりも格段に眠りが深かった為か、その朝は珍しくドゥーイに起こされる事無く、自然と目が覚めていた。

 時刻は午前5時40分。普段より多少早いが、寝直すのも微妙な時間帯なので起きてしまう事にした。

 ターニャがマリンフォードで寝泊まりしているのは、祖父がマリンフォードに建てた家の1室。海が一望出来る大きな窓を開け放ち、潮を含んだ風を浴びる。既に外は明るくなり、後10数分もすれば太陽が昇るだろう。

「ふぁ……。」

 欠伸(あくび)と共に大きく伸びをし、ターニャがベッドから下りる。

「ガゥ………?」

 軽くベッドが(きし)み、その音と揺れで枕元で丸くなっていたドゥーイが寝惚(ねぼ)(まなこ)でターニャに目をやる。

「ゴメンゴメン、まだ寝てて良いよ。」

「グルル………。」

 背中をゆっくりと撫でてやるうちに、ドゥーイは再び眠り始める。

 ふふっとそれに微笑み、今度こそドゥーイを起こさないように出来るだけ音を立てずに身支度(みじたく)を整えたターニャは、祖父が起きる前に朝食の支度(したく)を済ませておくべく、階下へと下りていった。

 

 トントントン…!

 静かなキッチンに、包丁の音が小気味良く響く。事前に火にかけておいた鍋が沸騰したのを確認し、じゃがいもに完全に火が通った事を確認する。それから1口大に切ったキャベツとベーコン、(さい)の目状に切ったトマトを入れ、顆粒(かりゅう)のコンソメを適量振り入れた。軽くかき混ぜた後で火を弱火にし、(ふた)をする。沸騰させないように10分程煮込めばスープの完成である。

 その間にサラダも作ってしまおうと、酒蒸しした後で粗熱(あらねつ)を取っていた鶏肉を手で細く裂いていく。

(あち)ちちち……!」

 まだ少し熱いが、完全に冷めてしまうと綺麗に裂けない為、これは我慢するしかない。あまり太くしてしまうとサラダの中で存在を主張し過ぎて鶏肉が主体となってしまうので、面倒だが出来る限り細くする。包丁で切ってしまうと形が崩れ易い上に味も抜けてしまう為、手で行う必要があった。

 鶏肉を全て裂き終え、手を洗ってから鍋の(ふた)を開けてスープの味を見る。

「こんなものかな…。」

 時刻は6時20分を過ぎたあたり。間も無く祖父も起きてくるだろうから、それまでには食べ頃に冷めるだろうと再び(ふた)をした。

 手早くレタスときゅうり、トマトを洗ってサラダボウルを用意し、レタスを手で千切ってボウルに入れていく。きゅうりを斜めに薄切りし、トマトはくし形に切ってからヘタを切り落とす。ボウルの中にきゅうりとトマト、さっき裂いた蒸した鶏肉を見栄(みば)え良く盛り付ければサラダの完成である。

 それから小さいボウルに醤油と砂糖、みりん、黒酢、オリーブオイル、白ごまを適量入れてスプーンでかき混ぜ、ドレッシングを作った。

 野菜嫌いの祖父の為に、何とか野菜を食べさせようと色々試行錯誤(しこうさくご)していたターニャだったが、長年の経験で学んだのは肉類と一緒ならば進みが良いという事だった。特にターニャお手製のドレッシングをかけた蒸した鶏肉のサラダは、食べごたえがあると祖父も好んでいる。

 祖父(ガープ)(ルフィ)同様に肉類を好み、野菜を自分から食べようとしない為、放っておくと食事も肉オンリーとなる。若い頃ならばそれでも良かったのだろうが、祖父(ガープ)も既に良い年であり、出来る限りヘルシーな食生活を送って欲しい、とターニャは考えていた(実際に義兄(あに)のローからも、高血圧気味の為ある程度節制(せっせい)させろとのお達しを受けている)。

 ターニャ本人が好むのは肉よりも魚だが、祖父と一緒に食事をする時には祖父に合わせて必然的に肉類が多くなる。

 やれやれ、とターニャが軽く溜息を()いた直後、チーン!と軽快な音が響く。

「ジャストタイミング。」

 オーブンを開くと、香ばしい匂いをさせたバターロールが綺麗に焼きあがっている。それをバスケットに1つずつ移し、出来上がったサラダやドレッシングと一緒にダイニングテーブルへと置いた。

 因みに、この家にはガスレンジとガスオーブンが完備されている。Dr.ベガパンクの発明の1つで、マリンフォードの住人や一部の上流階級の人間はその恩恵(おんけい)に預かっていた。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 さて、後は祖父が起きてからオムレツでも焼こうかと冷蔵庫から卵と牛乳を取り出した時だった。

「おお、今日も良い匂いじゃな。」

 まだネクタイやジャケットを身に付けていない為、普段よりラフに見えるが身支度(みじたく)を整えた祖父が、新聞を片手にキッチンへと入ってくる。

「おはよう、お祖父ちゃん。」

「おお、おはよう。」

 孫娘(ターニャ)に挨拶を返したガープは、ダイニングテーブルの自身の指定席に座るなりガサリと新聞を広げた。

「コーヒーと紅茶と緑茶、どれにする?」

「今日はコーヒーにしようかの。」

「分かった。ちょっと待っててね。」

 今朝()いておいた豆を使ってコーヒーを2人分用意する。

「何か面白い記事でもあった?」

「いや、今日も海賊共の記事がほとんどじゃわい。」

 コポコポとフィルターにお湯を注ぎ入れながら尋ねるターニャに、苦々しい表情で返しつつ、ガープは新聞を(めく)る。

「いくら減らしても次々ルーキーたちが出て来るしね~。」

 ガープにコーヒーを差し出しつつ、ターニャももう1つのカップを自身の席に置く。

「オムレツで良いよね?」

「おお。」

 コーヒーが冷めないうちに、とボウルに卵を割り入れてほんの少し牛乳を入れてかき混ぜる。熱したフライパンにバターを溶かし、溶いた卵を流し入れた。慣れたもので、すぐにオムレツを2つ終えるとスープをよそってガープの前へ置く。

「お祖父ちゃん、新聞は朝ご飯の後にしてよ。冷めちゃう。」

「分かった分かった。」

 傍若無人(ぼうじゃくぶじん)にも思えるガープだが、目に入れても痛く無い程に溺愛(できあい)している孫娘(ターニャ)には弱い。これがルフィなら、男である為か可愛がり方が(いささ)か雑になるのだが。

 孫娘(ターニャ)の心尽くしの朝食が冷める事も本意では無い為、ガープも大人しく新聞をテーブルに置く。

「おお!今日もうまそうじゃの!!」

「どうぞ、召し上がれ。」

「うむ。」

 いただきます!と勢い良く手を合わせたガープにサラダと取り分けてやりながら、ターニャが何の気無しにガープが置いた新聞に目を向けた。

「えっ…………!?」

 ガタン!

 ()()を目にしたターニャの手から、サラダを取り分けていたガラスの小鉢(こばち)が滑り落ち、テーブルに落下する。

「どうしたんじゃ、ターニャ?」

 珍しい失敗に、ガープがオムレツを頬張ったまま驚いたようにターニャに目をやる。

「これ…、この記事……。」

 わずかに震える手で新聞を掴み、一面の記事を広げるターニャにガープもまた表情を引き締める。

 “グレイスリーナ島壊滅!!ルーキーの仕業(しわざ)か?!”

 そんな見出しと共に記された記事は、ターニャを絶望に叩き落すには充分だった。

【新世界の中でも穏やかな海域に囲まれた静かな島“グレイスリーナ島”。人口700人程の小さな島であり、目立った観光名所は無いが、穏やかな気候と綺麗な湧き水に恵まれた事で酒造りが盛んであり、知る人ぞ知る島である。

 しかし、もうその銘酒(めいしゅ)は幻となった。2日前の未明、何者かによって島が襲撃を受け、緊急信号を受信した海軍の巡回船が到着した際には、既に島の大半の人間が事切れていた。生き残った人間はわずか10数人であり、生き残った者の中から「“黒ひげ”を名乗る海賊に襲われた」との証言が聞かれているものの、詳細は未だ不明。海軍が引き続きの調査を………。】

 そこまで読んだところで、ターニャの感情が爆発する。

「“黒ひげ”ェ………………!!!」

 ズゥンッ!!!!!

 ターニャの叫びと同時に、その身から“覇王色”の覇気が溢れ出す。

「うおっ?!」

 いきなりの覇気に、ガープでさえ一瞬気圧される。そして、怒りによって極限にまで引き上げられたその覇気が半径1km圏内にまで影響しているのを感じ、焦る。

 “見聞色”を発動させれば、その影響範囲内の人間がバタバタと倒れていくのが分かる。

「落ち着かんかターニャ!!!」

 ズォッ!!!

 一喝(いっかつ)するのと同時に自身も“覇王色”の覇気をターニャに向けて放つ。

「っ!!!?」

 叱責するかのように向けられたガープの覇気に、ビクン!と反応したターニャはそれをきっかけに我に返った。

「あ…。」

「落ち着かんか、今ここでお前が(いか)ってももう遅いんじゃぞ。」

「ゴメン、お祖父ちゃん…。」

 ガープの厳しい言葉に、ターニャが悄然(しょうぜん)として床に座り込む。

「ガウ!!!」

 そこに、主人(ターニャ)の怒りに満ちた覇気を感じ取ったドゥーイがキッチンに駆け込んで来た。

「グルル…?」

 肩を落としたターニャに駆け寄ったドゥーイが心配そうに擦り寄る。それを抱き締めながら、ターニャは怒りと悲しみに揺れる心を何とか落ち着けようとしていた。

 プルプルプルプル…!

 そこに、隣のリビングから電伝虫の声が鳴り響く。

 プルプルプルプル…!

 ガチャッ……!

『ガープ!!!一体何があった?!!今のはターニャの覇気だろう?!』

「センゴクか。」

 泡を食った様子で連絡をしてきたのは海軍の現元帥‐センゴク。彼の家はここから500m程しか離れていない為、当然先程のターニャの覇気も感じたのだろう。

「すまんが後でかけ直す。」

 ターニャがこの状態では彼女にも聞こえる距離で事情を説明するのも酷だろう、とガープはセンゴクの返答を待たずに電伝虫を切った。

 まずは孫娘(ターニャ)を落ち着けるのが先だと、海軍本部中将ではなく1人の祖父として判断したのだ。

 

 


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