東方悲恋録〜hopeless&unrequited love〜 作:焼き鯖
1,エロい描写。最悪消されるかも。
2,無駄に長い描写。グッダグダな場面が多々。
3,独自解釈の仕方が酷い。オリジナル描写がクソ。
4,とある吸血鬼小説からの設定の引用。(映画化されてるらしいです。読めば多分分かる。)
以上の事が許せる方のみこの先へお進み下さい。
どうしてこうなってしまったのだろう。
その考えのみが頭の中を支配していた。確かに俺の生き方はあまり全うってわけじゃなかったし、俺自身も多分、これから先ロクな目に会うことはないだろうなってことは分かってた。だからと言って神様、この運命だけはないでしょうよ。もっとましなもの、それこそ何処かで野垂れ死にになるって運命でも良かったのに。
状況を説明する前に軽く自己紹介をしておこう。俺の名はバーンズ。孤児院出身のしがないヴァンパイアハンターだ。でも、今はもう違う。
さて、状況を説明しよう。現在の時刻は大体夜10時。俺は今、とある館のとある一室のベッドの中にいる。
ここで質問だ。ベッドの中でやる事と言えば? 大方の人はナニと答えるだろう。ナニの事もそうだが、それは一人でするものだ。決して誰かがいる所ではしない。一部の嗜好を持つ人を除いては、だけど。
察しがいい人なら気が付いたかも知れない。が、明確な答えは出さないでおく。そうでもしなきゃ何処かから槍と弓矢が飛んでくると思うからね。
そして俺の隣には、一人の少女。それも裸。これで分からない奴は余程の世間知らずか純情な人なんだろう。
そう、俺はこの少女と所謂『昨晩はお楽しみでしたね』的なサムシングを行ったのだ。言い訳はしない。事実だからな。敢えて言うなら俺はそう言う変態的な趣味はない。とだけ言っておこう。
少女は、俺の腕の中で微かに寝息を立てている。彼女の事について、そして今の俺の事については彼女が起きた時に話す事にする。
寝ている彼女を起こさないよう、俺は優しく、ゆっくりと彼女の髪を撫でる。ツヤがあり、ハリが抜群で、少しウェーブのかかっているくすんだ青の髪の毛は、間を抜ける指に触れるとくすぐったく思うが同時に気持ちよく感じる。
端から見れば、可愛らしい「少女」だ。
「……うぅん……」
おっと、彼女が起きるみたいだ。髪から指を抜こうとしたが、彼女の手が俺の腕を掴んだのでそれは許されなかった。
「……誰が許可なく髪を撫でていいって言ったかしら……?」
眠そうな声だが、はっきりとした口調で彼女は尋ねる。何も言わないで指を抜けば腕を折られそうな気配がした。
「……済まなかった。その、お前の髪がとても気持ちよさそうだったもんだから、つい触っちまった」
言葉を選びながら、俺は彼女の質問に答えた。
「そう……まぁいいわ。許してあげる。こうされるのも、悪い気はしないわ」
そう言って彼女は近寄り、俺の胸に顔を埋める。肌と肌が当たり、彼女の体温が直接俺の体に流れて来る。ついでになんか柔らかい二つの何かの感触も感じたが、気のせいだと考える事にしよう。
「でも、許可なく触れた事に変わりはないわ。だから、貴方に罰を与える」
言うなり、彼女は俺の唇を自身の唇で軽く塞いだ。数秒後、唇を離した彼女はとてもいたずらな笑みを浮かべていた。
「随分と可愛らしい罰だな」
「……何よ、もう少しリアクションとったっていいじゃない」
不服そうに彼女は頬を膨らませる。
「こんな軽い罰なんて、今まで何回もされて来たからな。もう慣れた」
「つまらない事を言うのね、貴方は。それが主人に対しての態度なのかしら?」
「では、不肖ながらこのバーンズ、一つ教えて差し上げましょう」
「どういうこ」
そこから先を、彼女は言うことが出来なかった。俺が唇を塞ぎ、その上で彼女の舌に俺の舌を絡ませたからだ。あまりに突然の出来事に彼女は驚いて目を見開いたが、やがて応じるようにした絡ませる。
やがて俺は唇をゆっくりと離し、意地悪そうに笑いながら
「罰って言うのはこういう風にやるんですよ。レミリア・スカーレット様」
と言った。
「……起きるわよ。バーンズ」
「仰せのままに。レミリア様」
鮮血よりも顔を紅くして、レミリアはベッドから抜け出した。その後ろ姿に俺は見惚れた。陶器のように白く、美しい素肌とは対照的な夜の闇のにように黒いコウモリの翼に。
さぁ、改めて自己紹介をしよう。彼女の名はレミリア・スカーレット。この館、紅魔館の主人であり、夜を統べる生き物で俺らヴァンパイアハンターの敵である吸血鬼。
そして俺はバーンズ。孤児院出身の元ヴァンパイアハンター。今はレミリア・スカーレットの執事であり、その彼氏。そして……人間とハンター達の敵で、彼女の仲間であるヴァンパイアだ。
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俺が此処に来た事を、彼女は運命だと言った。
雨の降る晩、宿を求めてこの館に入り込んだ俺は、たまたま入った部屋で眠ろうとした。そしたらそこはレミリアの眠っていた部屋で、お互いに驚いてしまった。さぁそこで戦闘開始……とはならなかった。二人共大笑いしてしまったのだ。まぁ自己紹介を交わして正体が分かった瞬間にドンパチと派手な戦いになったけど。
結論から言うと俺の完全敗北。銀の弾丸も、クロスボウも、聖水も、十字架も効果なしだった。十字架に至ってはレミリアに鼻で笑われた。効果が多少なりともあったのはクロスボウと銀弾くらいなもんだった。
さて、負けた俺はどうなったか? さっきも言った通りレミリアの執事となり、紅魔館の管理を任された。俺が此処に来るまではこの館はレミリアと妹のフランドール・スカーレットを除いて誰も住んでおらず、ある程度は掃除されていたが荒れた部屋が多かった。
俺はなんで吸血鬼なんかにこき使われにゃならんのだと内心不満たらたらだったが、口に出したら殺されるので慎んだ。その他、フランの世話や料理、買い物、洗濯その他諸々何でもやった。あれを一人でこなせる人間は……俺の以外でだと多分あいつしかいないだろう。
半年もするとその生活にも慣れ、余裕が生まれてきた。それと比例してレミリアと過ごす時間も増えた。俺は彼女の事を、いや、吸血鬼全員の事を少し勘違いしてたようだ。
吸血鬼は全員、血を一滴も残さずに飲み干すものと思ってたけど、それをするのはごく一部の吸血鬼だけらしい。大抵は少量の血を吸うだけで十分なようだ。レミリアは特にその傾向が強い。さらに吸血鬼には、血を一滴も残らず飲み干すことで、そのものの魂や思い出を体の中に保存出来るそうだ。その他、吸血鬼にはヴァンパイアと言う人間が吸血鬼に血を流し込まれた者の事を指し、ハンターが追っているのはこいつらだという事、味は劣化するが、ヴァンパイアの血も飲める事、ヴァンパイアは身体が強化される以外は普通の人間と変わらない事等等。色々な事を聞いた。彼女と、フランとの関係も、全て。
話せば話す程、俺はレミリアに心が惹かれていって、そしてある晩のこと、俺は彼女にヴァンパイアにさせて欲しいと頼んだ。彼女はその頼みを受け入れて血を流し込み、俺をヴァンパイアにした。そうしてから俺は一言、
「レミリア様、俺は貴女のことが好きです。貴女のお傍にずっと居させてください」
と告白した。
彼女はなにも言わなかった。ただ俺にキスをしただけだった。それが承諾の合図だと分かったのは、きょとんとした俺にレミリアが紅い顔をしながらもう一度キスして抱きしめた後のことだった。
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「まさか、俺がヴァンパイアになるなんてねぇ……」
食事の準備をしながら俺は呟いた。
「十年前の俺がこの姿みたら、体の至る所にありったけの銀弾とクロスボウぶち込んでるだろうな」
「恨むなら運命を恨むことね」
そう言ったレミリアはまだ顔が紅かった。
「運命ねぇ……俺は運命なんて信じないのさ。運命を恨むことも、運命に恨まれる事もないね。ただその出来事を楽しんだり、終わった後で懐かしく笑いのタネにするだけだ」
その顔に気付かないふりをしながら俺は持論を語る。まぁその運命のおかげで愛しのレミィに会えたんだがな。とも付け足した。それを聞いて、また顔が紅くなる。
「でも、サクだけは絶対に悲しむだろうな」
「サク?」
きょとんとした顔でレミリアが問うた。
「孤児院にいた、俺の妹分みたいな奴だ。サクって名前は俺がつけた。あいつ、いつかバズ兄ちゃんみたいなものかっこいい人になるっていつも言ってたっけなぁ……」
懐かしむように思い出す。俺が孤児院を出た時、あいつは確か七歳位だったから……今は十七歳位か?
「ふーん。そう」
そっけなくレミリアは言った。片手でカップを持ち上げて紅茶の催促をしている。
「あれ、嫉妬ですか? レミリア様?」
「五月蝿い。さっさと注いでくれないかしら?」
「はいはい。分かりましたよ」
空のカップに、淹れたて紅茶が音を立ててそれを満たす。いっぱいまで入れたのをレミリアは確認し、それに口をつける。と、
「不味い!」
そう言い放ち、カップを勢いよくテーブルに叩きつけた。溢れた紅茶が周りを濡らす。
「はぁ。バーンズ、私は貴女の働きに感謝しているわ。作ってくれるご飯もとても美味しいし、掃除や洗濯も完璧にこなしている。贔屓でなく本当に優秀な執事よ。貴方は」
「それはそれは、恐悦至極でございます」
恭しく俺は頭を下げる。
「でも! どうして紅茶だけはこうも不味く作れるのかしら!?」
先程とは違う意味で顔が紅いレミリアが、噛み付くように俺に問う。彼女にとっては朝の紅茶は、新しいパンツを穿いた元旦正月の朝のように清々しくさせるものらしい。しかし、俺がここの執事になった十年前のあの日から今日まで、一度たりとも彼女の朝を清々しくスタートさせたことがなかった。
「さぁ? 俺にもわかんねぇよ」
「ここまで来ると最早才能ね。呆れを通り越して笑えてくるわよ」
「はいはい、好きなだけ笑ってくださいな。さて、支度もできたし『朝ごはん』にするか」
食事の配膳を終えた俺は自分の席に座る。それを見届けたレミリアは、俺に合わせるように『いただきます』と言った。
「……ホント、貴方の作るご飯は美味しいわ」
ぽつりとレミリアはそう言った。
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『運命』英語で言うならdestiny。
解釈次第で明るくも、暗くもなる不思議な言葉。私はこれを自由に見れるし、好きなように変えられる。でも、私はそれをしない。ありのままの運命を進む奴、運命に抗おうとする奴、そいつらを見るのが好きだからだ。
彼が私の館に来たのも、彼が執事になるのも、全て運命通りの事だった。だが、そのうちに私の中の何かが変わっていった。気づいた時には彼に惹かれていた。それは彼も同じだったようで、あの晩の申し出はとても嬉しかった。ずっと一緒に居られるんだ。そう思った。だから、私は初めて運命を弄った。彼をヴァンパイアに変えたのだ。でも、その所為で彼は逃れられない『宿命』を背負ってしまった。
「バーンズ、今日は私に何か予定があったかしら?」
朝食を終えた私はバーンズに尋ねた。
「えーっと……今日はないな。一日フリーだ」
思い出すようにバーンズは答えた。
「そう。なら暇潰しにチェスでもいかがかしら?」
「あー……すまんレミリア。今から少し出掛けるんだ」
申し訳無さそうにバーンズは謝る。
「何処に行くのよ」
「買い物だよ。もうそろそろ食糧庫が空になるからな。後、別件で少しよるところもあるんだ。帰ってから付き合ってやるよ」
「そう。気をつけて行くのよ?」
「勿論」
そう答えると、私はキスをして彼を送り出した。
その瞬間、妙にいやな予感がした。能力を使って彼の運命を見ると、私にとっては最悪の未来が見えた。すぐにそれを変えようとしたが、出来ない。まるで、固定されたコースを猛スピードで走るジェットコースターのようだ。しかも、終着点は……崖。
私は半ばパニックになっていた。今までこんな事なかった。どうして? なんで? その事ばかりが私の頭を占領する。
動転した意識の中、私は一つの答えを見つけた。いや、見つけてしまった。『運命』が『宿命』に変わったのだ、と。
『宿命』英語で言うならfate。
『運命』よりも暗く、悲劇的な『運命』。
そこで初めて気付いた。私の能力を使って他人の運命を弄ると、後に最悪の『宿命』として固定される事を。
ドンドンドン!
扉を強く叩く音が聞こえた。いつの間にか、結構な時間が経っていた。
慌てて扉を開けると、全身傷だらけのバーンズが倒れるように部屋に入ってきた。
「バーンズ! どうしたのよその傷!」
倒れたバーンズを抱き上げながら尋ねた
「……因果応報ってこの事を言うんだな。
しかも、と彼はその言葉を継ぐ。
「刺した奴は、サクだった」
それを口にしたバーンズは悔しそうに笑った。
「皮肉なもんだねぇ。あれだけ慕われてた奴に殺される事になるなんてよ」
「何弱気な事言ってんのよ! 待ってて、すぐに解毒剤を」
「レミリア、もう無理だ。刺されてから結構時間が経った。血も相当量流れた。じきに俺は死ぬよ」
諦めたように彼は言った。
「どうしてこうなったんだろうな。確かに俺はロクな生き方してこなかったけど、これはあんまりだろ、神様。野垂れ死にの方がまだマシだぜ」
「……私の所為だ。私が、貴方の申し出を断れば……」
私の胸は、後悔で埋め尽くされた。
「……おい、レミィ」
弱々しくそう呟き、彼は震える手で私の頬を触った。
「時間がないから、言いたい事だけ言わせてもらう。多分、レミィが申し出を断ったら俺はあそこから身を投げてたね。だって、俺はお前が寿命になるまでずっと一緒に居たかったんだ。人間の状態だと、先に俺が死ぬだろ? 死ぬならお前の寿命に合わせたかったんだ。残念ながらそれは叶わなかったけど、ヴァンパイアになれたおかげで色々と便利な事も多かった。俺はヴァンパイアになっても決して後悔はしてなかったぞ。だから、お前が責任を感じる事はない」
途切れ途切れながらも彼は続けた。
「それから、頼みがある。お前が良ければだが、この毒の回った不味い血を、一滴残らず吸い取ってくれないか? 吸血鬼が毒に弱いって言うなら話は別だけど」
「飲むわ! 大好きな貴方の血だもの! 毒が入ってようが全部飲むわ! だから」
「これが最後だ。レミィ。用事っていうのはこれを取りに行ってたんだよ」
そう言って取り出したのは、小さな箱だった。震える手でバーンズが箱を開けると、大きくて血のように紅いルビーをあしらった指輪がそこにあった。
「本当はこれをお前に贈って、プロポーズしたかったんだけどな。こんな形になってしまって申し訳ないよ」
「プロポーズって……」
「あぁそうだよ。レミィ。俺はお前と結婚して、一緒に過ごして、一緒に死にたかった。ごめんな。俺はやっぱり駄目な執事だよ。本当に」
「そんな事ない! 貴方は誇れる執事よ! 自信を持って言えるわ! だから死ぬなんて言わないで! 一緒に、ずっと一緒に暮らしましょう!」
涙が溢れて止まらない。彼が死ぬのは分かってるのに、心の何処かで奇跡が起こるのを期待していた自分がいた。でも、そんな都合良い奇跡なんて、ない。
「レミリア・スカーレット様、どうかこの死にゆく執事めになんなりと罰をお与えください。罰なら先程、貴方に教えた筈ですよ?」
もう殆ど閉じられたバーンズの目には、微かだが涙で潤んでいた。が、それに気付かせないように、彼は笑顔でそう言った。
「……えぇ。私は貴方に罰を与えるわ」
そう言って、私は唇を合わせた。弱々しく動くバーンズの舌に、一方的に絡ませる。
どのくらいそうしていただろう。名残惜しむように唇を離すと、私は彼の首筋に噛み付き、血を吸った。毒の味が強い。でも、そんなの関係ない。毒が回って死んだって構うものか。大好きな、大好きな彼の血を、一滴たりとも飲みこぼすものか。普段は小食な私だが、この時ばかりは彼の血全てを飲み込んだ。最後の一滴を飲み終えた瞬間、彼の体は冷たくなった。
階段を上がる足音が聞こえた。用心しているような足取りは、腕の立つものだと感じさせる。
程なくして綺麗な銀髪を靡かせ、手には銀のナイフ、ピストルを持った少女が現れた。
「……此処かしら、血の跡を追って来たから間違いない筈……」
凛としたその声からは、仕事を卒なくこなせるような性格だと感じた。
「貴女が、サクかしら?」
「……貴様は誰だ? あの吸血鬼の仲間か?」
完全に警戒した状態で、こちらを見た。明確な殺意が体じゅうに伝わって来る。
「私はレミリア・スカーレット。此処の主人よ。そして、貴女の獲物は……私の執事バーンズは、ついさっき死んだわ」
「ちょっと待て、バーンズだと? 何故貴様がその名を知っている? 執事? 獲物? どう言う事だ説明しろ!」
何がなんだか分からないと言った感じでサクはわたしに詰め寄る。
「私に詰問するよりも、自分で見た方が早いんじゃないかしら?」
私はバーンズの亡骸を彼女に見せる。瞬間、彼女は何かとんでもない間違いを犯してしまったと言った表情をした。
「嘘だ……嘘だ! これは貴様の見せている幻覚だ!」
「いいえ、現実よ。よく見なさい。触ってもらっても構わないわ」
言い終わる前に、彼女は彼の骸に触り始めた。全身の至る所を、舐めるように、見落としがないように。
全てを確認し終えると、彼女の目から大量の涙が溢れ出した。
「嘘よ……バズ兄さんがヴァンパイアになる筈がない……嘘よ……」
「ごめんなさい。ヴァンパイアになりたいと言ったのは彼なの。その申し出を受け入れてしまった私の所為だわ」
「バズ兄さんはそんな事を言わない! それこそお前の戯言だ! 妄言だ! 私は騙されないぞ!」
「そう……なら貴女はどうするのかしら? 私を殺す? 出来る事ならそうして貰いたいわ。バーンズのいない世界なんてつまらないもの。フランの事は少し気がかりだけれども」
「言われなくても!」
「だけど、バーンズが死んだ事には変わりないわ。それに、私を殺してその後はどうするの? またあてもなくヴァンパイアを殺すの? 仮にそうなったとして、また同じ状況になったらどうするの?」
「…………」
「私を殺すか殺さないか、それは貴女の気持ち次第。だから私は何も言わないわ。でも、どちらに転んでも変わらないものは変わらない。貴女がバーンズを殺した事も、私がバーンズを死なせてしまった事も。起きてしまった事は、どんなにゴネようとひっくり返す事は出来ないのよ……サク」
いつの間にか、治っていた涙が再び溢れ出した。サクは何も言わず、只々泣いている。
やがて、サクの手からはナイフが零れ落ちた。
──────────
カチャリ、と食器同士が当たる音がした。
紅茶で満たされたカップにレミリアは口をつける。完璧な温度、味、甘さ。咲夜の淹れる紅茶は絶品だ。
ただ、彼女は時折恋しくなるのだ。かつて、自分を愛してくれた執事の淹れる、世界一不味い紅茶を。
「……ねぇ、咲夜」
傍にいるメイドに、彼女は問いかける。
「なんでしょうか? お嬢様」
「貴女がメイドになってから長い時間が経ったけど、本当に後悔してないのかしら?」
「なにを……でしょうか?」
「何って、実の兄のように慕っていた人をヴァンパイアにした吸血鬼に仕えているのよ? 恨みはないの?」
「恨みも何も、私の意志で貴女に仕えているのですから。それよりも、お嬢様も良いのですか? 愛していた人を殺した者をメイドにするなんて。こっそり毒を仕込むかも知れませんよ?」
「そうねぇ、それはお互い様じゃないかしら? それに、そうなったらなったでバーンズに会えるから良いわ」
「左様でございますか」
咲夜は肩をすくめる。
「ねぇ咲夜いえ、サク、貴女は寿命まで一緒に居てくれるかしら?」
「勿論でございます。でなきゃあの世でバズ兄さんに怒られてしまいますから」
「ふふっ確かにそうね」
お互いに顔を見せてクスクスと笑う。指にはめたルビーの指輪が、それに呼応するかのようにキラリと光った。