ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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※注意 原作への著しい改変があります。 



今回の後半はほとんどスキットです。


dai nana wa black crystal

 

「サムサラ姐さん……アンタ、副長がロウライネに向かってること、知ってたんじゃないのか?」

 

 ベンウィックが問い詰める様な口調で……いや、実際に鬼気迫る顔つきで話しかけてくる。

 

 ――うん。 知ってた。

「だったらなんで! なんで止めなかったんだ!? メルキオルって対魔士が、大掛かりな罠を張ってるって、そんなとこに副長が飛び込んだら……!」

 ――そのために、私は出かけてきたの。

「え? どういう……」

 ――私には私の流儀がある。 海賊団としての流儀も持っているけど、私が私たる流儀もあるの。 船員は勿論、アイゼンやアイフリードにも話していない流儀が。

「だから、話せないって事ですか……?」

 ――大丈夫。 私はアイフリード海賊団のサムサラだから。

「……わかりました。 聞かないでおきます」

 ――うん。

 

 少しだけ。 少しだけ、未来を変えさせてもらおう。

 

 

 

 

 

★★★★

 

 

 

 

『素晴らしい……ジークフリート……(まさ)に求めていた力だ!!』

 

 レジェンドワイバーンを撃ち、活力を与えたかのように見えたザビーダの持つ銃、ジークフリート。 

 メルキオルはザビーダの背後に現出し、その力を解析・複写しようと術を発動させて――。

 

 足元を侵食(・・)するモノに気付き、その場を飛び退いた。

 

「ぐっ!?」

「何ッ!」

 

 同時、ザビーダもメルキオルに気が付き振り返る。

 そこには、黒水晶の樹が聳え立っていた。

 

 黒水晶の樹はまるで根を伸ばすかのように中広間を侵食する。 伴い、樹の幹も太く、大きくなっていく。

 

「え……黒水晶病……!?」

「んだ、こりゃあ……ッ!?」

 

 それに心当たりがあるライフィセットと、それの異質さを目の当たりにしたザビーダが驚きの声を上げる。

 黒水晶の樹はある程度まで大きくなると、その成長を止めた。

 

『いたしかたあるまい……だが、その力こそ探し求めていた物……在り処がわかっただけでも、よしとしよう……』

 

 メルキオルの声が響く。

 その声には、はっきりとした悔の色が乗っていた。

 

 

 

 

★★★★

 

 

 

 

 これがどのような結果を齎すか。 少なくとも、ジークフリートが拡散するのは防げたと思いたい。 アレは、1丁だけでいいのだから。

 やったことは簡単だ。 メルキオル程の術師が踏めば、飽和した霊力が一気に黒水晶化するように1点集中で霊力を溜めこんでおいた。 それだけ。

 黒水晶で行う地雷のようなものだ。

 これで、私の流儀の1つは果たせた……か、どうかは未来の導師の行方によるだろう。

 

 今はこれでいい。 どうせ後でアイゼンに問い詰められるだろうけど。

 

 あ、来た。

 

 

 

「副長! 船長の件は……」

「やはり偽物だった。 だが、アイフリードはまだ生きている」

「あったりまえですよ!」

「だが、残された時間はそう多くはないがのぅ……」

「どういうことだよ……!」

「焦るな。 事情は後で話す」

「アイゼンも! アイゼンも、焦らないでね……」

 

「全員サレトーマは飲んだな」

「勿論!」

「副長の死神の呪いに比べれば、どうってことないっす!」

「出航準備を急げ!」

「とっくに終わってますよ!」

「いつでも出られるっての!」

「ふっ……」

 

「海賊の流儀、か……」

「悪くはないのぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ベンウィック……」

「ん? どうしたー?」

「サムサラと話してみたいんだけど……ダメ、かな?」

「いや俺に聴かれても……。 おーい、サムサラ姐さーん」

 ――今行くよ。

「お、来てくれるってさ」

 

 なんだろう。 イズルトへはまだまだ時間があるが、できればアイゼンのオハナシの前に睡眠を確保しておきたいのだけれど。

 ふわりとライフィセットの前に着地する。 目が輝いているな。

 

「あ、えと……寝てたのなら、ごめんなさい。 だけど……どうしても聞きたいことがあって」

 ――答えられる事なら。

「えっと、2つあるんだけど……。 サムサラはこの虫、カブトとクワガタ、どっちだと思う?」

 ――カブガタとか、クワブトとか、カブトクワガタとか、クワガブトとか、なんでもいいんじゃない?

「きょ、興味無さそうだね……。 やっぱり保留にしておくよ。

 それで、もう1つなんだけど……サムサラは、オメガエリクシールの原材料って、知らないかな」

 ――……。

 

 なるほど。 それを聞きたかったのか。

 確かに、知っている知っていないで言えば、知っている。

 十二歳病の真相も、知っている。 何故オメガエリクシールが全てを治せるのかも。

 だが、それは話すことのできなモノの1つだ。

 何故(なにゆえ)、世界がそんな便利なものを継承していないのか。

 製法が失われた、と文字にするのは簡単だが、何故そうなったのか。

 それを理解していない内に教えるのは、編み出した者への侮辱となるだろう。

 失わせた者への、貶しとなるだろう。

 

 だから、教えない。 読み解きたくば、己で探してみるといい。

 

 ――言わない。

「えぇ!? そんな……大事な事なんだ!」

 ――違った。 言えない。

「言え……ない? 何か理由があるの?」

 ――それが、長く生きている者の務め。

「サムサラの流儀……みたいなもの?」

 ――違うけど、似ている。 だから私から聞き出すのは諦めて。 でも、1つだけヒントをあげる。

「う、うん」

 ――オメガエリクシールは、確かに存在した。

「……うん!」

 

 助けになったようで、何よりだ。 

 

 ――ベンウィック。 投げて。

「はいはい。 行きますよー」

 

 ふわーり。 ぽん。

 なんだかすごく睨んでくるベルベットとアイゼンの視線は無視して、しばしの微睡に意識を浮かそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ロクロウ。 蒼翔魚のヒレ、手に入ったよ。

「む、仕事が速いな……。 残念だが、ルカレラチーズはまだ手に入ってないんだ。 もう少し待ってくれ」

 ――うん。 待ってる。

「そういえば、保存はどうしてるんだ? 共用の氷室に入れるわけにもいかないだろ?」

 ――私も聖隷。 その程度の聖隷術は使える。

「なるほど、便利だな。 そういえばサムサラの属性はなんなんだ?」

 ――無。 属性聖隷術も使えるけどね。

「アイゼンが拠点防衛に特化していると言ってたが……戦闘は出来るのか?」

 ――滅多にしないけど、出来るよ。 流石に肉弾戦は無理だけど。

「そりゃあわかってるさ。 ノルミンの身体に近接攻撃は向かんだろう?」

 ――私の最も苦手とするノルミンは近接攻撃してくるよ。

「何? そんなノルミンがいるのか。 それは……斬り甲斐がありそうだな」

 ――フェニックスって名前。 多分だけど……今のロクロウ達じゃ、束になっても勝てないんじゃないかな。

「ほほう? それは……面白そうだな」

 ――あのノルミンに関しては感知するのもヤだから、自分たちで探してね。

「おう! 良い事を聞いた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 ――……。

「聴かれることは、わかっているな?」

 ――答えられることと、答えられない事がある。

「……まず1つ。 今回の対魔士……メルキオルの張った罠の事、どの時点で気付いていた?」

 ――レニード港に着いた時点で、聖隷の集まり方と対魔士の位置で把握してた。

「……次だ。 アイフリードの件……本当に交信は通じないんだな?」

 ――通じない。 四六時中繋げようとしているわけじゃないけど、結構な頻度で試してる。 そして、全部ダメ。

「……いいだろう。 次だ。 ロウライネに生えた黒水晶の樹……アレはお前だな、サムサラ」

 ――うん。 意図的に起こした黒水晶病。 あそこを対魔士が訓練所として使わなくなるか、四聖主が目覚めるまであの樹は消えないよ。

「結果、メルキオルに術式を掠め取られなかったからそれは良しとしてやる。 最後だ」

 ――……。

「アイフリードとザビーダの関係……知っていたな?」

 

 使役聖隷だったザビーダとアイフリードの決闘。 アイフリードがザビーダを解放し、機転を利かせたアイフリードがザビーダにジークフリートを渡したこと。

 勿論、知っていた。

 

「何故言わなかった? サムサラ。 アイフリードの居場所……知っているんじゃないのか?」

 ――場所は知らない。 でも、どういう状況にあるのかは想像がついている。 でも、それは言えない。 言わないんじゃなくて言えない。 

「……」

 ――それは、アイフリードに‘頼まれた’事だから。

「……。 そうか。 なら、いい」

 

 アイフリードは決闘に行く前、私と話していた。

 そこで頼まれた。 だから、言えない。

 言わなくても大丈夫だと、信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 船はイズルトへ向かう。

 




サムサラはグリモワールより年上です。

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