ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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スキット多目


dai go jur yon wa curse land island I&II

 

 カースランド島の紋章によるワープは、この閉じられた空間と目印使って行われるもの。

 言うなれば天の階梯でズイフウが行ったモノの劣化版だ。

 故に一緒に跳ぶのは無理でも、同じカースに霊的接続をすれば私もワープができるのである。

 

「なんだこりゃー!?」

「術で隔離された空間だこりゃー!」

「はは……ザビーダのボケで冷静になれた」

 ――私は冷製スープが食べたい。

「そりゃよかった。 ボケボケしてると死んじまうからな……」

「……サムサラ、シリアスになりきれないからボケにボケ重ねるの止めて」

 ――はーい。

 

 最近、私の外の人ことサムサラが出てきているせいで交信内容がシリアスになっていたからこそのボケだったのに……。

 

 さて、気を取り直してカリスIである。

 といっても私は然程やることはない。 初めの頃のように回復はするけれど、その頃とは見違えるように成長し強くなったスレイ達を前に攻撃天響術を使う必要が無いのだ。

 まぁエドナの「アンタもっと働きなさいよ」という視線はひしひしと感じているのだけれど。

 

 逐一回復のついでとしてイノセントガーデンを使用したり、最近ではあまり使う事の無かったアタックスレイブやスピードスレイブで補佐したりはしているから働いていないわけではないのだが。

 高低差の激しい浮島を走るスレイ達。 私はいつも通りミクリオの肩に乗っているのだが、階段を駆け下りる時の振動をザビーダの腰についていた時より強く感じるなぁって。

 

「それにしても……ここはどこなんだ?」

 

 ミクリオがポツりと呟く。

 見渡す限りの雲海と蒼穹。 術によって浮かされた島と、現代のものではない意匠の階段や門。 スレイと同じくらいの遺跡好きであるミクリオが気にならないはずもない。

 

 ――カースランド島であって、カースランド島ではない場所……かな。

「……もう少し分かりやすく教えてくれ」

 ――座標という意味ではさっきの島のはるか上空に位置するのは間違いないけど、私が称賛するレベルの術者によって隔離されていて、さっきの石碑に触れるか直接ここに繋がる地脈を通らなければ侵入できない美しいまでの閉鎖空間。 ここを造った術者の思想は私の使命と食い違う、唾棄すべきものだけれど……この術単体の完成度で言えば、人の身で辿り着く事が出来るのは彼だけだろうって断言できる程に凄い。

「君は……ここを造った人間を知っているのか?」

 ――うん。 ある意味で、全ての元凶となった……一切の穢れを生まなかった高尚な人間だよ。

 

 アバルを沈めた幻術。 あれはメルキオルに使役されていたサイモンによるもの。 サイモンが抱く「人を不幸にする」という苦しみの助長になった事だろう。

 ヘルダルフの神依。 ローランドにあったメルキオルの神依研究がヘルダルフに知識を与えた。

 勿論他の大多数の要因が現状を作っているのは確かだけど、メルキオルの徹底的なソレが現状に繋がっていることも確かだ。

 

 穢れなき世界を願ったメルキオルの所業が、今の世界を穢れに沈めようとしている。

 なんて、皮肉。

 

「階段も門も凄く丁寧な造りだな……。 その高尚な人間とやらの性格が窺い知れるようだ」

 ――流石ミクリオ。 そんな所に目を付けるとは思わなかった。 

「え? あぁ……。 けど、意匠から製作者の性格を想像するのは基本だからね。 この場所、今まで潜ってきた遺跡と比べても遥かに分かれ道が少ないし、見通しも良い。 効率を最も重視し、目的の為なら手段は厭わない……そんな、製作者の強い信念の様な物を感じるよ」

 ――……。 すごいのね、あなた。

 

 サムサラ(わたし)が称賛するほどに。

 遺跡好き、というのも侮れないなぁ。

 

 ――ほら、ミクリオ。 遺跡を調べるのも良いけど、スレイ達が呼んでいるよ。 炎纏いし不死なる者、水の天響術の出番だよ。

 

 鎮静化を終えて地上から穢れがなくなれば眠ってしまうカノヌシへの穢れの供給源として造られたここ。 唯一神の娘の名を冠するここはもう、本来の目的を失っている。 カノヌシは災禍の顕主(ベルベット)によって閉じた輪に封じ込まれ、外部の干渉を受け付けないが故に。

 それによってこの閉鎖空間は供給先を失い穢れが飽和し、閉じられているが故に唯一の出口であるあの石碑に逃げ場を求めた。 石碑を通じてカースランド島へと出てきた穢れは近くにあったシルバの死体――穢れと親和性の良いそれに集い、結果地脈を歪めている。

 地脈の歪みは大地の歪み。 大地を器とするマオテラスはそれによって弱体化しているけれど、その結果ここに彼らが落ちてきてしまった。

 

 それは、事実。

 だけど……。

 あのクロガネのように。

 もしもシルバが、穢れ狂うライフィセットを助けるために、その全てを一身に引き受けていると考えるなら――。

 

 魂だけがその存在を形作るわけではないと、サムサラ(わたし)に突き付けているような、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザ・カリスIIの最奥。

 そこに、長いツインテールを垂らす女の子がいた。

 

「お、女の子? なんでこんなところに……」

「気を付けなさい、スレイ。 この子、私達が見えてる!」

 

 ……これ、戦う必要あるんだろうか。

 今更ながらにそう思ったのだけれど、まぁ拳で通じる想いもある。

 剣だけど。

 

 ――無垢な魂よ。 癒しの庭に集え。 煌け、イノセント・ガーデン。

 

 いわゆるぶっぱ、である。

 今までの道中の戦いの疲れを癒し、且つ相手にダメージを与える素晴らしい回復術。

 スレイ達にはもう見慣れた天響術だっただろうが、その子には違ったようで。

 

「ッ!? シェリアの……」

 ――神聖なる雫よ、この名を以ちて悪しきを散らせ。 ライトニングブラスター。

「また……!」

 

 目に見えて動揺し、術の出所を探る少女。

 ライトニングブラスターは術者から放射状に雷撃を放つ術だ。 その要にいるのは――、

 

「あの青い光……ッ!」

「へ?」

 

 ミクリオだ。

 少女には光球としか見えていないだろうが、その青い光球が彼女のよく知る人間の術を使った。 事情を知っていると、そう勘違いするのも無理はないだろう。

 青い光球をよく見てみれば、小さな藤色がひっついているのもわかるのだが、天族の見えぬ少女にそれを要求するのは酷だろう。

 

 結果、ミクリオを執拗に狙うインファイターが誕生する。

 

「くっ、強いっ!」

「なんでミクリオばっか!? ミクリオ、あんたこの子になんかしたんじゃないの!?」

「してない! 初対面だ!」

 

 少女は両腕のガントレットによる殴打と光の粒子による術……輝術で戦う、ハイスピードインファイターだ。 杖術が得意とはいえ、純粋な戦士ではないミクリオには荷が重い。

 その速度についていけるロゼがフォローをするが、その一切合財を無視してミクリオに突っ込んでいく少女を止めきれない。

 

 ――光よ集え、全治の輝きを持ちて、彼の者を救え。 

「今度は私の……ッ!?」

 

 少女の身体から溢れ出る光子を使い、覚えているその「形」を倣って術を構成する。

 真っ当な天響術とも聖隷術とも言い難いそれは、少女が動揺するくらいには高い再現度を維持できているらしい。

 

「助かった、サムサラ!」

「……つーか、その子が反応してンのってどう考えてもサムサラの術なんじゃね?」

「君が原因か! サムサラ!!」

 

 おっこらーれたー。

 しかしザビーダとミクリオの会話は少女には聞こえていない。

 

「くっ、スレイ! ロゼ! 術者は僕じゃないって教えてやってくれ!」

 ――腐食。 其は希望の終焉。 サイフォンタングル!

「教官の術まで……?」

 

 サイフォンタングルに足を取られる少女。だが、その小さな体躯からは想像もできない跳躍力でそこを脱し、そのまま、

 

「必中必倒! クリティカルブレード!!」

「嘘だろう!?」

 

 変則的な秘奥義発動。

 って、あ。

 これ巻き込まれる奴だ。

 

 ――ごめんミクリオ。 とらくたーびーむ。

「そう言うと思っていたけど! 逃がさないぞ!」

 ――うぇっ。

 

 ミクリオはガシっと私の身体を掴む。

 逃げるだけだからと出力を弱めにしていたことが仇になった。

 そうして、私とミクリオは、仲良くガントレットの餌になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが落ち着いて。

 

 ――紡ぎしは蘇生、訪れぬ終焉、永劫たりえる光の奇跡に名を与え、いま希望を宿せ。 レイズデッド。

 

「……それ……何? あなたの周りの、五つの光」

「仲間だよ。 見えないだろうけど、友達なんだ」

 

 ミクリオを蘇生させつつ、少女とスレイの話を聞く。

 少女の目線は完全に私を捉えつづけていて、実は見えているのではないかと思うくらい目が合っている……気がする。

 

「ともだち……。 ごめんね、それ、なんて言って……」

「いいんだ。 それより、教えてくれる? なんで急に襲ってきたのか。 あ、その前に名前を聞かなきゃね」

「私は……ソフィ・ラント」

 

 そこから語られるのは、この空間、そしてソフィ達の境遇。

 力の源を断たなければ帰る事が出来ない。 故に力を持つスレイ達を襲ってきた。

 

「それに……その、紫色の光の……人? が使う術が、私の知っているみんなの使う術とそっくりで……」

 

 スレイ達の視線が一斉に私を向く。

 やだなぁ、照れちゃうよ。

 

「サムサラ、どういうことか……説明してくれる?」

 ――いいけど、この子霊力持ってないから、口になってくれる? 交信が繋げられない。

「口になるって……どういうこと?」

 ――私の話す言葉を話してくれればいい。 スレイ風に噛み砕いてくれても良いし、そのままでも。

「……うん、わかった。 やってみるよ」

 

 ――ソフィ・ラント。 私はあなた達の世界、エフィネアやフォドラを識っている。

「ソフィ、その紫色の光……サムサラって言うんだけど、サムサラは君の世界の……エフィネアとフォドラを知っているんだって」

「……本当に?」

 ――知っている。 けれど、あの世界に送り返す術がない。 あの世界は閉じているから、術であなた達を排出した場合、よくてフォスリトスにあるゾーオンケイジに、悪くて宇宙空間に放り出されてしまう。

「うん、本当に。 でも、今は送り返す術がないんだって。 ソフィ達の世界は閉じているから、サムサラの術で送り出すとよくてフォスリトス? って所のゾーオンケイジに、悪いとウチュー空間に放り出されてしまうんだって」

「それは……困る」

 ――私はこの遺跡の仕組みを知っている。 あなた達がどうしてここにきてしまったのかも知っている。 だけど、それを解決する方法はスレイにしか行えない。

「ええ!? あ、ごめん。 えっと……サムサラはこの遺跡の仕組みを知っていて、ソフィ達がどうしてここに来ちゃったのかも知っていて……でも、現状を解決する方法は俺にしか使えない……って」

「そう……なんだ」

 ――ジェイドは信用には足るかもしれないけど、信頼してはダメ。 特に眼鏡とか渡されても、特に効果は無いからね。 騙されてるだけだからね。

「えーっと……、ジェイドって人は信用は出来るかもしれないけど、信頼は出来ないって。 眼鏡にも何の効果も無い、ってさ」

「……」

「えっとさ、スレイ。しょーじき今の説明、知り過ぎててなんか怪しいっていうか、私でもちょっと引っかかったくらいなんだけど……」

「俺に言わないでくれ! サムサラが言った事だよ、全部!」

「……一度、フォニマーのおじさんのトコに行ってみる」

「あ、ちょっと……行っちゃった」

「変な子」

 

 ソフィは考えながら去っていく。

 えぇー、的確な説明だったと思うんだけどなぁ。

 

「だってサムサラ、なんで術を使えるのかー、とか全く答えずに話題すり替えたし。詐欺の常套手段だよ? それ」

「サムサラの常套手段でもあるよなァ。 俺様も何度誤魔化された事か」

「サムサラさんは、ちょっと言葉足らずなだけですわ。 人を騙したりする方ではありません」

「言葉足らずっていうか、認識不足じゃない? 自分の胡散臭さに対して」

「……確かに、異世界の知識なんてなんで持っているんだ? 知識の源泉が不明瞭すぎて怪し過ぎる……」

「ハハ……。 でも、解決法を知っているならいいじゃないか。 サムサラ、どうすればいいのか教えてくれる?」

 

 スレイだけが優しい。

 

 ――カースランド島にあるカリスの全てにいる強い穢れの原因……ドラゴンや憑魔を倒していけばいい。 その後の事はその後に教えるよ。

「ん、わかった。 みんな、やることはいつも通り、穢れの浄化だって。 気合入れて行こう!」

 

 優しいなぁ、ホント。

 なんでこう、優しい子が……犠牲になる世界なんだろうなぁ。

 

 

 













ユベルティ! スカラーガンナー! 鷹の爪! こうよく! てんしょう!!

っていう流れがしみついている。

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