ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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独自解釈捏造設定出てきます。
サブイベントは深くかかわる物だけ描写します。 瞳石集めの大半はカットの方向でお送りします(裏でしっかりやってると言う事で)


dai san jur Q wa saikai to taimen

 

「今の声は!?」

「うるさいわよミクリオ」

 

 静けさに包まれた夜中のペンドラゴに、吠え声が響き渡った。

 濁音混じる、肉食獣の唸り声だ。

 

「僕じゃない!」

「とにかく外だよ!」

 

「今の唸り声は……まさか、かの者!?」

「わからない……あの領域は感じないけど……」

「まさか、奴か?」

 

 眠りに就いた古都を駆け抜ける。 スレイとロゼが。

 ちなみにミクリオがスレイの身体に入っている間、私はスレイの肩に『いつでもサムサラ』として乗っかっている。 重くないし回復もできる優れものである。

 

 城や教会のある区域……ペンドラゴ南にある広場まで辿り着くと、そのステージの上に彼女は居た。

 虎。

 虎の憑魔。

 

「サムサラ?」

 ――……。

 

 彼女は、この強い穢れの中で……契約する事も、器を持つ事も無く、ドラゴンパピーやドラゴニュートになる前の段階で踏みとどまっていた。

 そして、憑魔化してなお今の今までは自身を律していたのだろう。

 それがこうして咆哮を上げるに至った理由は……フォートン枢機卿、か。

 

「来るよ、スレイ!」

「あ、あぁ!」

 

 枢機卿が殺されたという事実が民に広まった。

 上が居なくなれば、民は捌け口を見失う。

 見失った捌け口は、そのまま強い穢れとして放出される。

 

 つまり――

 

「サムサラ、手を貸してくれ!」

 ――大地、魂に無上なる祝福を与えたまえ。 ソウルオブアース。

 

 いや、史実だったのだろう。

 なら、一刻も早く彼女を解放してやるべきか。

 誓約に触れない、彼女を。

 

「チッ、こいつ、全属性に耐性を持ってやがる……」

「『火神招来』!」

「『ハクディム=ユーバ』!」

 

 見た目通り高火力なその攻撃に加え、無以外の全ての耐性持ち。

 流石高位天族。

 その見た目が武人なのは、長年あの男を見ていたせいだろうか。

 ……長年、じゃあないか。

 いや、そうだった。

 彼女の真名は……Loyin(リューディン)=mquer(メキュア)=cepelli(セプ)

 虎の姿を取るのは当たり前じゃないか。

 

「数多の流水、敵を潰せ!」

詐欺師(フラウド)!」

 

 この多勢に無勢な状況であっても強い。

 強靭な身体を削りきるのは中々に難しいかもしれない。

 まぁ、大太刀とか使ってこなくて良かったけど。

 

「『燃ゆる弧月』!」

「『驚天動地! グランドシェイカー!』」

 ――死の顎門(あぎと)、全てを喰らいて闇へと返さん。 ブラッディハウリング。

 

 だがしかし、こちらは1人でさえ強力な神依が2人。

 そして、体術ならば到底かなわないだろうが術に関して言えばそれなりに強いと自負できる私。

 加え、天族2人。

 

 負ける道理は、無かった。

 

「片付ける! 阿頼耶に果てよ!」

「!」

 

 虎武人の動きが止まる。

 それは、驚き。

 

「嵐月流・翡翠!!」

 

 その手にある武器は――二刀小太刀クロガネ+4。

 憑魔・虎武人はその身を倒した。

 

 

 

 

 

「トラネコがデブネコに!」

「まぁ、失礼なお嬢さんね。 せめてポッチャリさんと呼んで」

 

 体系も、その首に巻くスカーフの色も、何も変わっていない。

 

「ご、ごめん」

「もしやムルジム様?」

「えぇ、そうよ」

 

 吠える者。 予告する者。

 ムルジム。

 

「有名人?」

「一匹オオカミ……いえ、一匹ネコの高位天族で、強い加護の力を持つと聞いています」

「へぇ」

 

 ……気のせいか、いや心成しか。

 何も変わっていないように見えて……ちょっと痩せた?

 ミクリオの肩にいるから視点が上がってるのかな?

 キララウス火山で出会った時は、もっとぽっちゃーりしていたような。

 

 さて、ちょっと私は姿を……こそこそっと。

 

 特に意味のある行為ではないけれど……遊び心、という奴なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ムルジム。 久しぶりだね。

「あなた、会うたびに同じ言葉で話しかけてくるわね」

 ――そうだっけ?

 

 ただ、このやり取りをしたかっただけだ。

 

「前は災禍の顕主一行と共にいて……今回は導師一行なのね。 あなた、そんなに人間の歴史に関わる天族だったかしら?」

 ――ううん。 この数千年だけだよ。 本来の私は人里離れた所でゆったり眠っている存在だから。

「しかも、あなたがノルミン・フェニックスと旅をしているなんて……。 この数万年でも初めての事じゃない?」

 ――ううん。 一番最初は一緒にいたよ。 100年くらいで別れたけど。

「へぇ。 それは初耳ね。 ま、いいわ。 それより……驚いたわ。 まさか、憑魔化したとはいえこの私が……嵐月流を、相手取るなんて」

 ――正統な後継者、というわけじゃないけどね。 でも、技術は受け継がれているよ。

「……それは良かった……のか、わからないわね。 けど、少しだけ……本当に少しだけ、シグレを思い出したわ」

 ――嬉しい?

「さぁねぇ。 でも、少なくとも……嫌な気分でないのは、確かよ」

 ――それはよかった。

「それで? 今度会うのはいつになるのかしら?」

 ――いつか、とだけ言っておくよ。 そろそろリセットが来るし……。

「リセット?」

 ――あぁ、こっちの話かな。

「……そう。 そう、なら……あなたの真名、教えてくれないかしら。 私のばかり知っているのはずるいでしょう?」

 ――エヌエス=ジャーニー。 リューディン=メキュア=セプに、親愛を込めて。

「……なるほど。 らしい名前ね」

 ――いいらしい名前(・・・・・・・)でしょ?

「自分でいっちゃ、世話無いわよ。 でも、いいらしい名前ね」

 ――ありがと。

 

「ねぇ、サムサラ」

 ――何? ムルジム。

「あの導師さんは……あなたから見て、どうなのかしら」

 ――……少なくとも、最後にはなり得ない。 けれど……閉じられた輪に、微かな罅を入れられる存在ではあると思う。

「人間と天族の共存は?」

 ――私の目的ではない。

「……ノルミンの、ではなく……私の、か。 じゃ、また会いましょ」

 ――うん。 ばいばい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリーシャ!」

 

 ヴァーグラン樹林とラモラック洞穴、更にボールス遺跡を抜けてフォルクエン丘陵まではるばるやってきた一行。 ここに関して言えば、私がいようがいまいが地脈間ワープは使えなかったので妨害にはなっていないだろう。

 フォルクエン丘陵を楽々と抜け、レイクピロー高地の橋へと差し掛かった辺りでスレイが声を上げた。

 

「スレイ! こんなところで! ライラ様たちも?」

「うん」

 

 既に彼女とのパスは無い故に、天族(わたしたち)の姿は見えない。

 ……見えないが、私の声は届くだろう。

 見れば見るほど……懐かしい。

 

「ども」

「ロゼ……だったね。 王宮に出入りしていた、セキレイの羽の」

「あはは……ちゃんと話すのは初めてですね、アリーシャ姫」

「アリーシャで構わないよ」

 

 特に、その瞳がそっくりだ。

 ロゼも緑と言えば緑だが、その色味には青が混じっている。

 だが、目の前の姫騎士の……その翡翠色は、彼女の瞳によく似ていた。

 

「ロゼは俺を助けてくれているんだ。 大丈夫、どこも悪くないよ」

「そうか。 スレイの成長もあるだろうが……きっとロゼの力が優れているのだろうな」

「なんかすごい褒められた!」

「ふふっ……スレイに似ているからかな」

 

 ……こちらの姫騎士の方が、いささか……うーん、かなり? 落ち着いているようだが。

 こう、なんていうんだろう。

 お淑やかさ?

 

「それは……褒められたのかビミョー……」

「確かに! これはすまない!」

「ちょ、そこで謝る!?」

「ふふ」

「あはは」

 

 ノリの良さは、受け継がれているようにも見えるが。

 

 水の試練神殿に纏わる情報を聞き出した所で、姫騎士が恐らく部下であろう男に呼ばれた。

 ま、このくらいなら……いいかな。

 

 ――加護を受けし衣よ名を示せ。 ホーリィヴェイル。

 

「!?」

「サムサラ?」

 ――お守り。 頑張ってね、貴き子孫(アリーシャ)2つ目の星(ディフダ)

 

「頭の中に声が……。 天族様?」

「あはは……サムサラの声は聞こえるんだ。 うん。 一緒に旅してるサムサラって天族だよ」

「お守り……ありがとうございます、サムサラ様」

 ――うん。

 

 去っていく姫騎士を見送る。

 もう一つ。

 これは、誰かさん(わたし)から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがイズチ……」

「そう! ここが俺達の生まれ育った場所!」

 

 瞳石集めの傍ら、ふと思い立ったらしいスレイとミクリオの里帰り。

 つまるところ、イズチへと一行はやってきた。

 アロダイトの森へ入った瞬間、私の隠蔽術式の上を撫でる様にして通り過ぎたパチパチとした感覚。

 ゼンライの領域だ。

 

 適う事ならミスリルをエクステンションして少し持って行こうかと思ったのだが、やめておいた。

 この場に私の霊力を混ぜると、ちょっと大変な事になりそうだったから。

 

「穢れの無い、とても穏やかな場所ですわね……」

「良い風が吹いている」

 

 アロダイトの森を抜け、一気に視界が開ける。

 大気中の霊力が多すぎて少し見辛い程だが、なるほど。

 行った事の無い天界という場所も、このような感じなのだろうかと思ってしまう。

 

「良い日差しね。 それに、霊力も潤沢」

「あぁ、なんだか懐かしいよ。 ここを出たのは、ついこの間の事なのに」

 

 ――……。

 

 繋がらないか。

 ここならあるいは……と思ったのだけれど。

 ズイフウへの交信は出来ないようだ。

 

 勝手知ったる……いや、そもそも彼らの家なのだから当たり前だが、周囲の天族の視線を集めながらも頂上の家……つまり、ゼンライの家を目指す一行。

 

 そしてドアを開けるなり、朗らかな声をスレイが発した。

 

「ジイジ、元気だった?」

「バッカも――ん!!」

 

 その声を雷のような怒鳴り声が叩き落した。

 

「なんだよ、いきなり!」

「まずは挨拶じゃろ! そんな無礼者に育てた覚えはないぞ!」

「黙って出て行って、ごめんなさい!」

「ただいま戻りました!」

 

 流石、雷の天族と謳われるだけあるな、うん。

 私に耳は無いけど、思わず誰かさん(わたし)の経験から側頭部を抑えそうになった程だ。

 

「はじめましてロゼです! お邪魔します!」

「うむ。 無事で何よりじゃ。 従士の娘御も、歓迎しよう」

「わかるの? 私が従士って」

「わからいでか。 スレイを導師として、ミクリオは陪神になったのじゃろう。 そして主神は……湖の乙女か」

 

 2代目だけどね。

 

「お久しぶりです。 ゼンライ様。 私は――」

「何も言わずとも良い。 因縁は巡る。 避けられぬ世の(ことわり)じゃ」

 

 因縁は巡る、の所で私を見るゼンライ。

 おっとこれはバレてますね。 流石、聖主に成り得る天族。

 

「はい。 それでも私は信じたいと思います。 必ず正しい未来に至れると」

「スレイ達は良い主神を持ったようじゃの。 そういえば、キセルは役に立ったか」

 

 彼がどちらを選んだのか……私は知らないなぁ。

 史実において、この時点でキセルの有無はいくつかの可能性があったし。

 

「キセルの事はもういいんじゃ。 お前たちの役に立ったなら」

「でも、返すよ。 もう大丈夫だから」

 

 そう言ってキセルを取り出すスレイ。

 あぁ、持ってたのか。

 

「遠慮せずに持っておれ」

「ほんとに大丈夫なんだよ。 オレも、ちょっとは成長したから」

「生意気言いおって」

 

 嬉しそうに言うゼンライ。

 孫の成長を喜ぶ祖父、といった所だろうが……歳の差は云万だろうなぁ。

 

「なら、代わりにこれを持って行け」

「ありがとう、ジイジ」

「なんの。 礼を言うのはこっちじゃ」

 

 絆と言う物を形にするのならば……ここに見える、それがそうなのだろう。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、しばらく自由行動で!」

 

 というロゼの声と共に、一行は一度休憩に入った。

 

 ――誘惑の罠張り巡らせ、我が懐中に。 トラクタービーム。

 

 トラクタービームで宙を行く。

 目指すはゼンライの家の上。 良い風に撫でられながら、良い睡眠が期待できそうだから。

 

 ちょこんとそこへ降り立てば、やはり絶景。 そして心地よい風。

 よきかなよきかな。

 アルディナ草原のねじまき岩よりも、霊峰レイフォルクよりも高いここは……最高の昼寝場所かもしれない。

 

 それでは、おやすみな――

 

「これ、人の家の上で眠るでないわい。 挨拶も無しに……」

 ――初めまして、天族ゼンライ。 私はサムサラ。 屋根、借りて良い?

「……降神術か。 憑代も無しに、よくやる」

 ――あるよ、ここに。

 

 帽子を指差す。

 あ、指ないや。 腕差す?

 

「……なるほどのぅ。 それで、お前さん……いばら姫持っとるじゃろう。 宿代じゃ」

 ――緋髪の魔王は?

「ほぅ、それもあるのか。 とはいえ、若い頃ならば行けたんじゃろうが……今は、いばら姫でちょうどいいわい」

 ――ちょうどいいって……一応最高級品なんだけどなぁ……。

「じゃから、宿代じゃ。 下にいる者達は……湖の乙女含めて、儂にとっては孫同然。 じゃが、お主は違うじゃろう」

 ――流石に天界天族よりは年下だと思うなぁ。 天台のズイフウの話から察するに、あなた達は十万百万と生きているんでしょ?

 

 言いながらいばら姫を帽子から出す。 猪口も一緒に。

 そして、注いで渡す。

 

「儂とて天界の造られた当初から生きていたわけではないわい。 そして、ズイフウとは……また、懐かしい名前じゃの」

 ――天への階梯で地上を憂いでいたよ。 けど、1100年前の災禍の顕主を見て……少しだけ、改心したみたい?

「あ奴の目指す理想と、儂の目指す理想は違う。 それはお主もそうであろうがのぅ」

 ――永遠に変わらない幸福を……それは、人間には我慢できない苦しみだよ。

「そうじゃ。 じゃから、それに早期に気付いた儂はここを隔離した……。 残された天族が、その悲しみに溺れぬように」

 ――共存は私の目的じゃないからどっちでもいいけれど……周りの存在は、特に今代の災禍の顕主はそれを善しとしないよ。

「わかっておるわい。 それでも……あの子達なら、乗り越えてくれると信じておる」

 ――騒ぎて奉る者(スレイ)と、神の如き獅子(ミクリオ)

「あの子らの魂が見えているお主ならば、わかるじゃろう。 あの子らに渦巻く因縁と、巡るモノを」

 ――特にミクリオは凄いね。 神の槍と、獅子の島、そして神の如き者。 その全てを受け継いでいる。

「厄介なのはわかっておる。 じゃからこそ、儂はあの子達の己を信じた」

 ――スレイは、ううん。 スレイの母親は……彼女の魂は、とても高潔なモノだった。 だからこそ、スレイは導師に成り得た。

「それは前の魂の話じゃな?」

 ――うん。 マヒナ……セレンと同じ、月を意味する女性だったよ。 そして、彼女の娘はとても純粋な子だった。

「……因果。 それが皮肉となるか、希望となるかは……」

 ――スレイ達次第、だね。

 

 会話が途切れ、こくこくと心水を煽る音が響く。

 翡翠色に見える液体は陽光に照らされ、輝き、流れる。

 不意に猪口が目の前に差しだされた。

 

「先の地の娘っ子の傘についたノルミン……あ奴も、あの子らを見守ってくれているのじゃろう」

 ――そうだね。

「お主の加護より、あ奴の加護の方が縁起が良い。 願掛けは、緋髪の魔王にしようかの」

 ――……若い頃じゃないとキツイんじゃなかったの?

「何、幸先を……」

 ――赤葡萄心水はダメ。 それこそ縁起が悪いから。 だから、守護の意思を込めて。

「……四つ腕の青鬼じゃな。 現物を見るのは2000年ぶりか……」

 ――あと、私の加護は別に縁起悪くない。 フェニックスのは『死なない』だけど、私のは『死んでも――

「乾杯じゃな」

 ――……乾杯。

 

 食わせ物、という表現の似合いそうな天族だった。

 ジジイ言葉の使い手は飄々とした奴が多いのかな……マギルゥとか。

 

















天族は強い穢れに晒されると、一度何らかの憑魔になります。
その後、穢れに晒され続ける事でドラゴンパピーやドラゴニュートという存在になるので、ムルジムが虎武人だったのは別に特例とかじゃないです。

ちなみにムルジムの真名リューディン=メキュア=セプですが、
Loyin=mquer=cepelli
虎 =祝福 =毛/眉毛

トラマユゲですね。

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