ベルセリア・ゼスティリア転生(仮題)   作:飯妃旅立

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捏造設定・独自解釈オンリーともとれる回です。

※サブタイトルの通り、彼女の番です。


dai ni jur hachi wa 『Magilou』 soshite 『Dezel』

 

 あれから更に200年程経った。

 基本的にザビーダの腰に括り付けられているだけの私は、余程の事が無ければ自ら動いたりしない。 だから時間と言うか、日数・年数の感覚が消えていく。 もしかしたら200年じゃないかもしれない。

 

 でも、彼女の寿命に気付く事は出来た。 

 吟遊詩人にして大魔法使い……そして、親愛なるマギラニカ・ルゥ・メーヴィンの寿命に。

 

 ――ザビーダ。 ザマル鍾洞に行ってほしい。 

「ン? あぁ、それは別に構わねンだが……。 あぁ」

 ――うん。 誓約で伸ばせる寿命にも、限界があるんだよ。

「……最後は同じ場所で、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー? なんじゃぁ……? どこぞのノルミンお墨付きの結界を張っておいたはずなんじゃがのぅ……。 アレを破れるのは、それこそどこぞのノルミンくらいなもんじゃて……。 うん?」

 ――やっほー、マギルゥ。 死に目に会いに来たよ。

「……お主、もうちっとくらい言葉を選んだりせんのかえ? はぁ……久しぶりじゃの、サムサラ。 あとザビーダも」

「やっぱり俺はついでかよ」

「仕方ないじゃろ。 一度は神依した仲とはいえ、そもそもお主と一緒に旅をしていた時間は短いんじゃし」

「ひでェ! 一度は神依した仲を重視しようぜ」

「乙女の初めてを奪ったと思えば殺意くらいは湧いてくるかの~。 ま、既に乙女という年齢でもないがのぅ……」

 ――マギルゥはいつまでも少女だよ。

「面と向かって少女とか言われるとこっ恥ずかしいんじゃが……。 はぁ。 お主らは変わらんのぅ……」

「聖隷にとっちゃ200年や300年程度はそこまで大した時間じゃねェしなぁ……」

「ふん、古いのぅ。 ナウなヤングはお主たちの事を聖隷ではなく天族と呼んでいるぞ? なんでもローグレスの元対魔士達が、お主らを天からの遣いであると吹聴してるらしいわい。 人間と同じように意思があり、人間に力を貸してくれていた存在、とな」

「ンだそりゃ……。 都合の良い話すぎねェか?」

 ――多分、パーシバル王子……あぁ、パーシバル王とかエレノア辺りも噂を広める事に協力したんじゃない? あの2人、なんだかんだいってノリ良かったし。

「エレノアは……あぁ、言ってる姿が浮かぶぜ……。 王の方はあンま面識ねェんだけどよ」

「儂の努力が一番大きいんじゃよ~。 お主らの事、面白おかしく世界に伝えておいたでのぅ。 サムサラ、お主は世間では」

 ――マギルゥ。 それは、後世のメーヴィンに聴くよ。 楽しみにしてるから。

「……それもそうじゃな。 ま、ここまでの儂にはどーでもいいことじゃぁ」

「……神器はどうしたンよ。 まさか」

「この大魔女マギルゥ様を嘗めるでないわい! ちゃんと全部創り上げて……意味深な場所と伝承と文言を残して各地に散らばらせたのじゃよ。 災禍の顕主だろうと導師だろうと、儂の掌の上で踊ると思うと笑いが止まらんわい」

 

 

 くつくつと楽しそうにマギルゥは笑う。

 横たわった(・・・・・)その身体は、もう動かないのだろう。

 

 

「そうじゃ……サムサラ、ザビーダ。 お主ら、儂と一つ賭けをせんか?」

 ――乗った。

「……良いぜ」

「カッ。 内容も聞かずに乗るなど、お主らは馬鹿の極みじゃわい……」

 ――マギルゥ程じゃないよ。

「マギルゥ程じゃないぜ?」

「ふん……。 儂は、儂の作り上げた神器が悪用され、人間も天族も全滅する道に……儂の大切な10ガルドを賭ける。 ベルベットとの賭けは負け、ロクロウやアイゼンとの賭けでも大損しているでな。 おっと、サムサラ。 お主との賭けは無効じゃぞ。 ベルベットは折れなかったが、死んだわけじゃないしのぅ」

 ――じゃあ私は、マギルゥの言った通りにならない世界に……私の本当の名前を賭ける。 もし、全てが穢れに飲み込まれたら、その時にもう一度会おうね。 私なら会いに行ける。

「そンじゃ、俺は人間のカワイコちゃんも聖隷……っと、天族のカワイコちゃんも俺にメロメロになる道に俺の真名を賭けるぜ」

「なンじゃぁ? お主の真名は神依の時に教えてくれたじゃろ?」

「アレはメルキオルのジジイに無理矢理押し付けられた名前と混ぜて使ってンのよ。 俺の本当の名前は別にある……ってな。 俺達の真名を異性に告げんのは、愛してますって言ってるようなモンだからよ……。 300歳じゃ、まだ若いぜ。 マギルゥ」

「こっちからお断り……じゃ……。 時間のようじゃ……のぅ……。 最後に……サムサラ、こっちに寄れぃ……」

 ――? 何?

 

 

 段々と生気が失われていくマギルゥが来い来いと手招きをしてきた。 そんな気力すら絞り出さなければ出ないだろうに。

 元の大きさへ戻りつつザビーダの腰から降りる。 

 久しぶりに歩く感触を確かめながら、マギルゥの近くへ行った。

 

 そして、囁くような声色で、

 

 

「お主……実は全部知ってたんじゃろ。 じゃから……それを見込んで、コレを……預ける……わい」

 

 

 ――大切な相棒でしょ? いいの?

「ふん……。 ソレはあ奴じゃない……じゃろ。 なら、そんなものは……どーでも、いいわ…………い……」

 ――そう。 じゃあ、これは預かっておくよ。 さようなら、マギルゥ。

「じゃあ……の……」

 

 

 そう言って。

 莫大な霊力の拡散と共に……300年を生きた大魔法使いにして最高の吟遊詩人は、その生を終えた。

 

 彼女の誓約は……言わぬが花か。

 

 

 ――ザビーダ。 ここ崩しちゃおうか。

「は? 墓とか作ってやンねぇの?」

 ――うん。 初代は謎に包まれるのが華だよ。 それに……。

「?」

 ――お墓を作って、それを暴かれたりしたら……私は赦せる気がしないから。

「……」

 ――もうマギル(・・・・・)()の身体も無いし(・・・・・・)、思いっきりやっちゃおう。

「そォだな……。 んじゃ、いっちょ派手に行きますか!」

 ――風の聖隷術……ううん、天響(てんきょう)術の最上位……ザビーダはホライゾンストーム?

「俺が使えンのはソレだな」

 ――じゃあ、ザビーダはソレで。 私がタイミング合わせるから……本気でやろうか。

「んじゃ、外に出るか。 俺達まで埋まっちまったら世話無ェからよ」

 ――うん。

 

 

 

「瞬迅、旋風、業嵐.……来なよ! ホライゾンストーム!」

 ――葬送の制裁、蹂躙せしは怒涛の暴風、テンペスト。

 

 

 ザマル鍾洞の一画に向けて直上から放たれた暴虐と言って差し支えない威力の風。

 それは狙い通り彼女が死に行った場所を砕き、崩落させた。

 

 その余波はザマル鍾洞だけに収まらず、アルディナ草原に置かれた使用済み(・・・・)の楔をも斬裂した。

 ソレが自らの影響だと知るのは、700年後の話になるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こりゃ……風の天響術……か?」

 ――ここも随分と変わったね。 今はなんて呼ばれてるんだろう。

 

 

 アレから更に200年程経ったある日。

 つまりベルベット達が居なくなってから500年の時が過ぎた、そんなある日。

 

 私達は(正確にはザビーダは)元ブリギット渓谷、未来ではウェストロンホルドの裂け目に来ていた。 今の名前は知らない。

 

 

「いやいや、もっと言う事あるでしょうよ? 確かに地形も気候も変わったンだろうが……明らかに風が抉り取った痕跡だと思うよォ?」

 ――私は違うと思うけど、風のザビーダが言うなら間違いないね。 ところでザビーダ。 この周りのモノ全てに死を振りまくような気配……感じた覚えはない?

「……あるぜ。 アイゼンのと一緒だ。 つまり、ここには……」

 ――死神の力を持つ天族がいる。 しかも、恐らくまだ子供。

「何ッ!? 子供だと……? なら、放っておけねぇな……」

 ――しかも生贄として死んだ人間が……憑魔化してるみたいね。 霊力の薄い今だと、憑魔にとって聖隷は美味しそうな餌に見えるんじゃない?

「俊足流転軽快、爆ぜろ! クイックネス! 場所は!」

 ――真下の慰霊碑。 種別はゴブリンロード。 弱点無し、耐性は無、火、水。

「なら風が通るな! 風槍走れ、ウィンドランス!!」

 

 

 風の初級天響術。 しかし、仮にも1000年近くを生きるザビーダの、それも戦い続けてきた彼の術だ。 凄まじい速度と威力で放たれたソレは、吸い込まれるようにしてゴブリンロードへと突き刺さる。

 

 

「え……」

「間に合ったか! っと、坊主! ちょっと退いてな! 先にコイツを片付けてやるからよ! 破門者(キャンドル)!」

 

 

 交差されたペンデュラムから衝撃波が生じ、起き上がろうとしていたゴブリンロードを吹っ飛ばす。 

 

 

 ――この子に外傷は無いみたいだよ。 余波は防いであげるから、ソイツの処断は任せた。

「おう! 憤怒(ラース)! からのォ、詐欺師(フラウド)! 嫉妬者(ジェラス)!」

 

 

 巧みにペンデュラムを操りゴブリンロードを追いやっていくザビーダ。

 しかし、人派生の憑魔というべきだろうか。

 

 

 敵わないと判断したゴブリンロードが、逃走を始めた。

 

 

「……逃がすかよ。 サムサラァ!」

 ――自ら進んで生贄となった人間だよ? それでもいいの?

「そいつだって、いっぱしのプライドが在ったはずだろ!」

 ――じゃ、はい。

 

 

 ジークフリートの結界術(セーフティ)を外し、意思の弾丸を装填する。

 それを引き抜くザビーダ。

 

 

「憑魔は一緒に地獄へ連れて行ってやる……。 それが俺の流儀だ!」

 

 

 引き金が引かれる。

 放たれたその弾丸は、ジークフリートとブリュンヒルデの伝承を再現したかのようにゴブリンロードの「身体」と「心」を分断する。

 

 すると穢れは拡散し、後には死体が残された。

 

 

 

 

 

「ふぅ……。 っと! そうだ、坊主。 どこに……って、ん?」

「……ソレは……なんだ……?」

「コレかい? これはペンデュラムつって風を操る道具――」

「そっちじゃなくて……ソレ」

「ドレだよ。 ん……? もしかしてコレか?」

 

 ぐい、と首根を持ち上げられる。

 どうも、コレです。

 

「そうだ……。 それは人形、か?」

「ンだよ。 男が人形付けてちゃダメか?」

「いや……良い。 それと……礼を、言う」

「良いって良いって! 子供が余計な事気にすんな。 それよりお前、なんでこんな所にいたンだ? それとも、ここで生まれたのか?」

「あぁ……。 そう、らしいな。 だから、あまり状況を理解していないんだが……さっきのは何だ?」

「さっきのは憑魔っつー……まぁ俺みたいな強い奴じゃないと倒せない生き物だな。 間違っても近づいたりすんじゃねェぞ?」

「……わかった。 そうだ。 あんた……名前を教えてくれ。 命の恩人の名前くらい、知っておきたい」

「俺はザビーダってんだ。 そんで、この人形っぽい奴がサムサラだ」

 ――初めまして。 私はサムサラ。 人形じゃないよ。

「!? ……声が……」

「お前は? 名前とか、あんの?」

「……幻聴か? 俺は、デゼルだ。 改めて礼を言う。 助かった、ザビーダ」

「だから気にすンなってのに……。 そんで? お前、これから行くアテでもあんの? ないんだったら俺と一緒に、」

「とりあえず……世界を周ってみようと思う。 もし、次に会えたら……その時にまた、誘ってくれ」

「あらら……フラれちゃったよ。 そンじゃ、これを餞別にやるよ」

「……良いのか? ザビーダの……武器だろう?」

「丸腰で子供を放り出すほうが寝覚めが悪いって! そんじゃあな、デゼル」

「……あぁ。 助かった。 この事は忘れない」

「そんな気負わなくてもいいってのに……」

 

 

 ザビーダが風を纏う。

 忘れない、か……。

 

 

 ――じゃあね、デセル。

「……! ……幻聴じゃ、無かったのか……?」

 

 

 

 

 忘れない。

 果たして――。

 




主要メンバーの現状おさらい。

ベルベット  →ウロボロスの封印状態
ライフィセット→五大神
ロクロウ   →満足して死。
マギルゥ   →満足して死。
アイゼン   →???
エレノア   →とある誰かと結婚して天寿を全う。
ビエンフー  →???
ザビーダ   →生き続ける。
サムサラ   →???
グリモワール →ゆったりまったりサウスガンド領で読書中。
ダイル    →天寿。
モアナ    →天寿。
メディサ   →天寿。
オルとトロス →???
グリフォン  →???
パーシバル  →とある誰かと結婚して天寿を全う。
クワブト   →元の森で天寿。
ベンウィック →天寿。
他海賊    →業魔化以外のなんらかの死因で死亡・天寿。
血翅蝶    →???

こんな感じです。


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